No.Ex 第七章余話/Let's go AMMⅢ with LOWAA&ラノ姉 ❸
【LOWAA/ロワー チャンネル】
[概要欄]
ピピタミミーのプーペ、配信に来てくれてムヒヒッィピククンクサ
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フセリンチョするとク・リパースは溜まりますが、無理のない範囲で
ムナンチョッチョ
馬鹿馬鹿しい。ノートはそう思う。
しかし、大人とは幾つもの偽りを演じる者である。
家での姿、友達と過ごす時の姿、恋人と過ごす時の姿、働いている時の姿。ノートもそうだ。ALLFOで暴れている時の姿と、国家公認カウンセラーとして活動している時の姿は異なる。カウンセリングとはどれだけ綺麗な嘘を付けるか、という仕事でもある。自分の考えを元にするのではなく、総合的観点と患者の視点からみた『最良』の為に立ち振る舞いを変える。故に、存在しないキャラクターになり切るのも一種の仕事だと思えばいい。素面で考え出すと羞恥心で頭がおかしくなるので難しいことは考えないのが演技をするコツだ。
『こんちゃーす。LOWAAだよー。配信キャンリッスン?うぃ、おけ。聞こえてるね。ありがとー』
皆が求める姿を演じるのは、ノートにとって得意分野だ。
『今日はね~、そう、予告したとおりあの人がきてくれたよん。ハーフイヤー以上ぶりかな?』
視界の端で映る配信者用の画面には彼女を呼ぶコメントが流れていくのが見える。配信者用モードを起動して、VR空間内のキアラの配信エリアにノートは合流する。
「どうも~ラノでーす。みんなおひさー」
ちょっと気の抜けた感じで挨拶。顔の上半分、目の周りだけを覆うベネチアンマスクを付けてラノ姉が登場すると、コメ欄が爆速になり同接が加速する。なにもしていないのに投げ銭が大量に投下される。
「あーまってまって。投げ銭は無理のない範囲でねー」
「みんなコメント読んで欲しいんですよ。ラノ姉の突発ラジオみんなラブぃし。てかあたしの配信よりラノ姉のファンがいるんだけどね!遺憾の意だよ!」
「配信のっとっちゃうぞ?独自チャンネル開設して爆死しちゃうぞ?」
「やめれ!爆死しないままほんとに視聴者とられそうだからジョークでもノン!」
半年ぶりでも口は自然と動く。キアラもキアラで乱れることなく以前のノリを直ぐに再現する。演じるという事にかけてはキアラも得意分野なのだ。
「ごめんね~最近ちょっといそがしくてさぁ。七世代機の移行をやろうやろうとおもって引き延ばしにしちゃって。不仲になったわけじゃないから安心しろよお前ら~」
幸い、半年という間の空き方が『7世代のせいで簡単に女装できなくなったから』と予想する意見はネットにもなかった。ラノ姉を演じ始めて5年近く。まさか、まさかラノ姉が『男性』だとはもはや考えつかない。5年による刷り込みは非常に強固なのだ。特に初動で実在する女性っぽくしたことが功を奏していた。『ラノ姉』に興味を持ち、仮面の下を暴いてやろうと『ラノ姉 顔バレ』などと検索すれば真っ先にでるのは初期の鎌鼬が変装した姿だ。これによりラノ姉はリアルで存在している女性だと誰もが思い込んでしまう。
ノートはキアラの頭を抱えるようにしてウリウリと撫でまわし、不仲説を一笑に付す。一方でキアラは役得と言わんばかりにハグを返し百合営業という名目で私欲を満たす。
「ウヘヘヘヘ。いやされる~。ラノ姉しゅきぃ」
「LOWAAちゃん?配信中だよ?あー…………LOWAAちゃんが使い物にならないからは私が説明すんね。今日の配信なんだけどぉ、とあるゲームをやりまーす。当然7世代のゲームだよ~。さて、なんのゲームでしょう?」
おい、正気に戻れ、とペチペチとキアラの頬を軽く叩きながら配信を繋げるノート。あわや放送事故だが、ノートが上手くフォローする事で後ろコメントはキアラの甘えっぷりに盛り上がっている。ラノ姉に向けて『ママ~』とおぎゃっているコメントと、ノートの問いかけに対しゲームの名を予想するコメントが流れていく。4割くらいはALLFOか。半年たち色々なゲームが出てきたが、それでもALLFOの人気は異常に根強い。
ノートは一瞬で流れていくコメントの中で一人だけGBHWと答えた優秀な視聴者の名前を目ざとく覚えた。
「正解は~…………AMMⅢでーす!1割ぐらい正解してたかな?そうそう、最近ALLFOとコラボしてたよねぇ。私もALLFOやりたいんだけど抽選がね~」
軽く雑談しながらノートはラノ姉に更に設定を付け加えていく。本物の自分と乖離した虚像を作る。自然とALLFOからAMMⅢの話題にスライドし、キアラが用意していたAMMⅢについて簡単にまとめたスライドを見せる。
そこでようやく私欲を断ち切ったキアラが再起動し、AMMⅢの説明を始めた。
「案件じゃないって。のっと案件。むしろ案件ぷりーずですよ!GoldenPearさん案件ちゃんくださーい!」
「いや、ないって。個人勢ではないにしてもGoldenPearから案件は回ってこないって」
「そんな~」
「よくてブラの案件とか?」
「BANされちゃう!いままでなんどワーニングされたか!」
21世紀の初めから始まった配信業という仕事は、もはや飽和していると言っても過言ではない。AIの発達により配信の敷居は大きく下がり専門的な知識がなくても、専用の機材を少し揃えるだけで簡単に昔のプロが作っていたような動画を作れる。容姿や服装、声でさえも、全てフィルターをかければ簡単に偽れる。ネットに転がっている物に本物などもはやない。配信者そのものでさえAIで全て1から作り出した本物の『ヴァーチャルストリーマー』が存在している時代である。
しかし、それ故に、機械が発達しても簡単に偽れないものに人はより大きな価値を置いた。
確かに、キアラは配信者適性があった。
ストレス耐性が高く、ネットリテラシーもあり、ゲームも幅広いジャンルに適性を持ち、見ていて視聴者がストレスを感じず、それでいて偶にポカをしたりギャーギャーといいリアクションをする見ていて面白いタイプの性格。二胡や骨董品鑑定など意外と多芸なのもプラスになる。
だが、探せばいるのだ、その程度の配信者は。ベーシックインカムのせいで余暇を持つ人間は増え、気軽に配信者が生まれる。母数が増えれば才能を持つ者が混じる確率は増える。簡単には勝てない。なにか強力な武器が必要になる。
ではキアラの武器は。
語るべくもない。強力な万乳引力を発揮するキアラの胸だ。フィルター補正により顔は簡単に変えられても、フィルター補正は魔法ではないので完全に存在しない物まで生み出せない。タピオカチャレンジを余裕で成功させ、シルクのような猫サイズの生き物が余裕で枕にできるダイナマイトが大事なのだ。これだけは今の技術でも、全身整形でもしないかぎり作り出せない。ヴァーチャルストリーマーといえども、そっちは過剰に胸を盛ると各処方面から面倒な連中から文句を言われるので結局サイズにも露出にも限界がある。
そんな武器を露出を増やして更に強力にして男を釣る。幸い、キアラは人の欲を操る術に長けていた。奇しくも母親の才がしっかりと遺伝していた。そこそこの規模で終わりそうなPK団体を巨大な一団にする程度には人の欲を見抜き操り囲う才に長けていた。
しかし、それは諸刃の剣。肌色面積を増やしすぎると『思春期真っ盛りかお前』と突っ込みたくなりそうな管理AIは容赦なくBANしてくる。配信者にとって最も恐れるべくはBAN。最悪チャンネルごと吹き飛ぶ。一度本当にBANされかけたのでキアラにとっては地味なトラウマになっていた。
「それじゃ、やっていきましょーね!ストーリーモードはパート1までやったらグダグダにはならないと思いますよぉ。気になるヒューマンは前のアーカイブみてくださいませ」
「AMMのグループマッチはは3人1グループだから、もし私達とマッチングしたらよろしくね。あ、敵に回ったらゴースティングは控えてくれると嬉しいです。一応ここからコメント遅延かけるけど、ゆるしてね~」
対戦系のゲーム配信に於いて配信者を苦しめる1つが『ゴースティング』である。
対戦ゲームに於いて、相手がどんな手札を持っている、どんな装備をしているか、どこに潜伏しているか、などの情報は大きな価値を持つ。配信をすればそれが全て包抜けになってしまう。なので、その配信者に対してメタを張ったようなビルドを組んで配信者を苦しめる事も可能だ。相手の手の内が見えているのだからそれに対抗する戦術を事前に組めるし、潜伏していても配信を見れば一発で場所などバレる。故に配信者はゴースティングを嫌がる。
それに対する応急処置的な対応の一つが、配信に遅延をかける事。リアルタイムで配信すると手の内がバレるが、例えばリアルタイムから3分遅れた映像を配信すれば例え配信を見ていてもそれは3分前の出来事。対戦系のゲームは3分もあれば大きく状況が変わっていくのでゴースティングしても動きの方針ぐらいしかカンニングできない。
「それじゃビルド組んでる間に遅延かけちゃうね~。第七世代時間内で3分後から再開しまーす」
ラノ姉への禁止ワード①「従姉妹なのに胸囲の格差社会」




