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No.Ex 第七章余話/Let's go AMMⅢ with LOWAA&ラノ姉 ❷


「(よしよし、ウォーミングアップはこれぐらいでいいかな)」


 特典装備を使ってタイムアタックの勢いで1章を走り抜けたノート。多少の癖はあったが、使いこなせば皆強力な装備だ。癖があると言ってもALLFOの初期限定特典よりもかなり真面であり、強さもシナリオ崩壊レベルのチート性能ではなかった。


「(時間も丁度いい)」

  

 さて、もう一度をビルドを見直そうとノートがカタログとにらめっこしていると、SNSの通知が来た。


「はいはい。はよ来いよ」


 ノートが適当にその長文メッセージに返すと、すぐにVR内の音声通話が繋がった。


『もしもしノラくん?レスポがなげやりすぎな件について?』

『どうせ通話繋げんだからいいだろうが』


 通話越しに聞こえるのは最初から湿度高めな声。声音に少々恨みが混ざったゴロワーズ、もといキアラである。

 ノートの日々のスケジュールはアサイラムの女性陣に全て公開されている。プライベートで何をするかも含めてだ。どう見ても褒められた交際関係を持っていないノートにとって、プライベートはほぼない。1対1の付き合いでない以上、女性陣がノートを独占できる時間は限られる。それなのにノートが好き勝手に動けば女性陣がノートともに過ごせる時間はさらに減る。ノートも不義理な関係であると分かっているからプライベートの殆どを女性陣に預けていた。

 ただ、稀に誰も予定の付かないタイミングが存在する。ノートなら単騎でもALLFOで素材集めもできるが、その様な気分でも無し。タイミングも良かったのでノートはAMMⅢを遊んでみる事にした。ノートはそれも女性陣に話していたが、それを聞いて「私もやる!」とキアラが手を挙げた。

 もちろんその裏には「ノラくんと一緒にゲームできるやったー!」という副音声があったためトン2達にコンニャロめと関節技をかけられていたが、キアラはノートに一緒に遊ぶことを約束させることに成功していた。

 トン2たちとキアラの関係性は非常に複雑だ。他人とも言えないが、友人というには首をかしげる。かといって友人未満の人間かというと、付き合いの長さも深さも単なる他人や友人で片づけられないレベルだ。むしろ家族より長い時間を共にしていると言っても過言ではない。

 同じ外道を好きになり、同じような時をゲームで過ごしてきた。人間嫌いのユリンや、そもそも興味の薄いトン2や鎌鼬が、相撲部屋的な可愛がり方といってもなんだかんだふざけて絡んだりするのもキアラぐらいである。同時にギャーギャーいいつつもキアラがプロレス技を受けているのもユリン達相手ぐらいだ。あまり身体的な接触を好まないというよりアレルギー気味なキアラが気軽に触れる事を許しているのも、深層心理では心を許しているからに他ならない。

 そんなキアラの事をユリン達はわざわざ応援もしないが、極端な邪魔もしない。ムカついたらプロレス技をかけるぐらいだ。むしろ人の彼氏を全力でたぶらかそうとしている女相手にユリン達がプロレス技をかけるぐらいで済ませている方が特例と言える。その上、プロレス技をかけていると言っても痛みなど大して感じないVR空間である。罰らしい罰にもなっていない。


『のーらくんとげーむ、のーらくんとげーむ』


 嬉しそうにウキウキで変な歌を唄うキアラ。VR固有のフレンド機能を使ってAMMⅢ内のフレンドコードをノートから貰い、ノートをフレンド登録する。


『実際AMMⅢちゃんにはきょうみあったんですよね~』 

「ゴロ助、割とロボット系好きだよな」


『特にロボット同士がドカドカ殴り合う系はラブリーちゃんですよ。力こそパワー!』

「脳筋ビルド好きよなぁ。どうせゴリラ型かクマ型だろう?」


『ピンポーン!ゴリラ・ゴリラ・ゴリラちゃーん!キアラちゃんポイント3万点あげちゃう』

「たぶん10億点くらい溜まっているぞそのポイント。そろそろ用途を教えてくれ」


 ゴリラタイプはシンプルイズベストな脳筋パワー人型系。元の骨格が人に近いので操作割り当ても簡単で、手が使えるので大きな近接武器を作り出して装備をすることができる。装甲も大量に積んで防御を高めながら高火力で敵を殴り倒す。 

 

『ノラくんおねがいしたとおりアバターは『ラノ姉』ちゃんなんですねぇ。よくできてますよ~。7世代でも結構綺麗に再現できるもんですねぇ。ラノ姉ちゃん復活と聞いてコメ欄も大盛り上がりですよ~。最近は出演してくれなかったので絶縁説まででてましたからねぇ。待機だけで5000人集まってますよ~』

『誰か一人くらい男って気づけよな。あるいは俺の知名度が低いおかげなのか。声変えて少しフィルターかけただけで女だと思い込みよって』

『ノラくん目つき鋭いだけで目を隠してしまえば顔付を優しくすることぐらいらくちんちんでしょ?目元を隠すお面つけると雰囲気かわりますし、演技も上手すぎて気づく方が異常よん。そんじゃ、配信はじめるよん、ラノ姉ちん』

『はいはい、さっさとはじめてくれLOWAA』


 ノートの独占権を獲得したゴロワーズだが、実はそこには単純に一緒に遊びたいが90%の本音だったが、10%は別の要件があった。それはキアラが行っている仕事に関わる。


 本名はキアラ、プライベートネームはゴロワーズ、そして表の名はLOWAA子。ゲーム配信から雑談、演奏、ASMR、骨董鑑定など色々な事を行う雑食系配信者だ。その特徴的なボディと萌え声に属する甘い声、ネットストレス値耐性の高さと肝の据わり方、オタサー姫適性などの要素を併せ持ったキアラにとって配信業は天職だった。

 そんなゴロワーズのゲーム実況にノートが女装して出たのは気まぐれに近い。大学生になり、ノートともサシで話せるようになったころ。酒の席で、視聴者の伸びが最近少し落ち込んでいるとキアラはノートに愚痴った。

 キアラは基本的にコラボを徹底してやらないスタイルを取っているので他から視聴者を引っ張ってくることができない。しかしソロだけだと飽きがくる。そのため手を変え品を変え、と色々とやっていた。

 それでも中だるみをし始めたために、ノートが一計を案じた。


『リアルの知り合いをレアキャラとして出せばメリハリつくんじゃね?しかも急に呼んだ知り合いって感じじゃなくて、姉妹みたいな感じで。偶に出演する家族って妙に人気でるじゃん』

『あ~…………でもノラくん、あたちのファミリー関係がいんふぇるのってしってますよね?』

『別にリアル姉妹である必要はないだろ?完全に身バレしなきゃ分かりっこない。女性声優や女性配信者に仲のいい兄弟がよく生えるのと一緒だよ。受け手はそれが嘘だと判断できない。その上、偽の家族関係を作れば身バレからも更に遠ざかる。だろ?』

『お~…………!でぇ?』 

『え?』

『そんなヒューマンないないなんですけど』 

『それこそ炬燵ムリとかパンツ皇子あたりに頼めばいいじゃんよ』

『…………いやぁ、それはムリみちゃんでは?それこそ、完璧に演技ができて、視聴者ともあたちともうまい距離感で、姉妹感出せる程度にはあたちのことしってて、簡単に身バレしないネットリテラシーのある人で、視聴者がストレス感じないレベルでトークもゲームも上手いヒューマンが…………あっ』

『ぁん?』


 言い出しっぺの法則という物がある。

 言い出した人が責任をもってやるという古き良きネットのテンプレだ。


 キアラはゴネた。泣いてゴネた。こんなこと頼めるのノラくんしかいないんです!と。自分の事情に全て理解があって、長時間話してても全然苦にならなくて、自分のサポートもできるのにゲームもトークもできる知り合いなんてノラくんしかあたち知らない!と。

 対してノートは当然全力拒否の姿勢を取ったが、キアラが尋常じゃない感じで縋りついてきたので口が重くなっていった。ノートにはキアラに対して精神的な負い目があった。高校もそろそろ卒業に近づいてきたところで告白してきたキアラをノートはフった。キアラはそこからガタガタになり、滑り止め未満の適当な短大に進んで暫く抜け殻のようになっていた。

 そんなキアラに動画配信者を勧めたのもノートだ。なんとなく放置できなくて、なんだかんだノートはキアラの面倒を見ていた。だんだんとカウンセラーを将来の道に見据え始めていた当時のノートにとって、余計にキアラは投げ出しにくかった。

 

 結局、ノートはキアラの泣き落としに負けた。配信者として生きる事で抜け殻みたいになりかけていたキアラが気力を取り戻していたので、ここでその配信業でマイナスのイメージを付けてはいけないと考えた。

 ノートはビジュアルを簡単に弄れるゲーム内に限り出演する約束をし、髪を変え、声を変え、オペラマスクを付けて、フィルターをかけて女性っぽい見た目を作った。設定はキアラの従姉。絶妙なラインの関係だ。最近キアラ(LOWAA)の近くに引っ越してきて遊びに来るようになった、という筋書きである。


 結果は上々。最初はリアル配信の方でノートが作ったアバターに近い形で変装した鎌鼬が軽く後ろの方で偶然映り込んだようにし(ノートが頼んだ)、視聴者に女性が近くにいることを刷り込む。更には別撮りした女性声加工済みのノートの声を流し、映った女性とその声が同一人物のモノとして刷り込む。

 これにて架空の従姉がリアルに存在すると強くイメージ付ける。


 その後は声だけが配信に乗ってしまったようにみせて、LOWAAの配信の中で時たま遊びに来ている従姉の声が乗ることを自然な状態にする。

 人間とは面白い物で、常にある物には慣れてしまうが、ランダムでたまに出てくるものにはレアだと感じて価値を置く。従姉に反応したコメに合わせてLOWAAが偽りの従姉のエピソードを語り視聴者に更に刷り込みをする。そのうち「従姉さんも配信でみてみたい」といったコメントが現れ始めたら完璧。完全にノートの術中に視聴者たちがハマった証だ。

 そこでようやく、ゲームの中でLOWAAの従姉『ラノ姉』としてノートが姿を現す。


 その頃は第七世代の登場前。変装やビジュアルフィルター系のツールは腐るほど出回っており、顔も完全に再現していない分、第七世代機器よりビジュアルを少し弄ることができていた。骨格から完全に変える事は難しいが、元の素材が一定以上のクオリティを持っていれば、多少女っぽい姿になることくらいは難しいことではなかった。


 ラノ姉としてキャラを確立したノートは、キアラと軽快なトークをし、ゲームでもキアラのサポートを行い配信を大いに盛り上げた。LOWAAを完全に食わず、適度に立てて出しゃばらない。指揮役として自分を殺すことに慣れているノートにとっては大して難しいふるまいではなかった。


 大事なのは乱発しないこと。希少性を保つことが重要だ。

 ラノ姉としてキャラを定着させたが、ノートはそこから暫く焦らし、配信のコメントを見てどう振舞うべきかを再学習。少し間をおいて再度出演。偶にくるレアキャラとして『ラノ姉』を作り上げた。


 そんな幻の存在、ラノ姉も、メインVRデバイスが第七世代に移ったことでごまかしが難しくなり、ゲームもALLFOしかなかったので暫く失踪していた。キアラも『ラノ姉でなくない?』というコメントを上手くいなしながらだましだましやっていたが、半年以上経過し第七世代用のゲームもアバターツールも出そろってきた。

 『ラノ姉』を再現する地盤が整ったのだ。


 失踪から暫し、『ラノ姉』復活の時である。



凄い手の込んだクオリティの高いネカマをやってる人

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― 新着の感想 ―
[一言] >ラノ姉ちん あきゃきゃきゃw だからぁw妙ぉに手馴れてるんだよねぇwアフルさんとかさぁw
[一言] やり始めるまでは物凄い抵抗するけどやるとなれば徹底的にやるのわかりみが深い
[一言] ネカマロールプレイとかなかなか楽しそうだよな
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