No.343 フォルム
アサイラムメンバー全員とJKの顔合わせがすみ、JKはようやく解放される。
このパーティーにとってJKの紹介はあくまで前座だ。
紹介中に目を付けていた物を大皿に手あたり次第にとって嬉しそうにほおばっているJKを他所に、宴会場のステージにグレゴリ、キサラギ馬車、レクイエム、イザナミ戦艦を除くノートの死霊7体が並ぶ。
「俺達の歩みを語る上で、死霊達の存在は絶対に省けない。戦闘でも生産でも俺達はその多くを死霊に頼っている。直近のハロウィンでもタナトス達に頼った分は本当に大きかった。タナトス達が居なかったら、俺達が多くの分野で表彰されることはなかった。美術室にあるトロフィーの殆どがタナトス達の働きによる物だ」
同じくステージに乗ったノートはシームレスに演説を始めた。
「アンデッドは一回の進化における力の強化が通常の魔物より大きい分、進化した後は殆ど成長しない。成長しない、は誤りか。知識や技術を武具として装備していくことはできる。装備はアップグレードできる。だが、装備している本体は殆ど変わらない。召喚された存在の基本的な特性だが、アンデッドは特にその傾向が強い。最初から配られるカードが多い分、新しいカードを引けない」
故に、アンデッドは扱いが難しい。一度特定の方向に進化すると取り返しがつかない。もうそのまま方向性が完全に固まってしまうのだ。
カードゲームに例えるなら、調教師の使い魔をカードとすると、最初は手札3枚の強さと言ったところか。その手札は毎ターン経過することに新しく引くことができて、要らないカードは捨てていく。そのカードが一定枚数を超えた時、カード同士の効果が合体し整理されまた3枚になる。これが調教師の使い魔の進化だ。どのカードを引くか調整する事で、最初の3枚のカードが望むものではなくても、カードの引き方では望むカードの編成に寄せていくことができる。
一方、召喚に於ける使い魔は殆どドローチャンスがない。その代わり最初の手札が30枚から始まる。持ってる手札の中で相性の良い組み合わせを作って勝負する。なので一度最初にカードが配られると基本方針を変えられない。進化しても30枚のカードの効果が上位互換になるだけで、デッキの傾向はそのまま引き継がれる。その分、進化してもやはり30枚からスタートできる。
手札を育てるか、最初から手札が殆ど揃った状態で始めるか。これが調教師と召喚術師の違いだ。
アンデッドの場合は、本当にドローチャンスがない分、最初からかなり強力にしてピーキーなカードが40枚以上配られる。故に、タナトス達が最後に進化したのがトン2達の加入前後でも、タナトス達はイベントで世界中のプレイヤーと競り合えるほどの成果を出していた。最近になってようやく幾つかの特定の分野では追い抜かれ始めたぐらいだ。
プレイヤー達も育って手札が揃ってきたのだ。
「確かに、アンデッドは努力してもその結果が目に見えて反映されることは殆どない。しかし無駄ではない。カードの組み合わせを吟味するほど、カードを使い込むほど、カードに込められた力は強くなっていく。装備は磨かれ、最適化されていく。これが進化した時、今まで蓄積されていた全てが本体に取り込まれ、カードは一気に進化をする。さて、タナトス達は今までどれほどの『蓄積』をしてきたのか。もはや語るべくもない。彼らの献身のお陰で今の俺達がある。そんな彼らを、俺の死霊術師を上位化するのに合わせて進化したいと思う」
だが、手札が揃ってきたのはそんな死霊達を操るノートも同じ。
ノートはネクロノミコンによってメインの職業の一つを『死霊術師』系統で固定されている。その為、自分の根幹ともいえる『死霊術師』をどのように進化させるかはノートもずっと悩んできた。色々な候補が提示されたが、ノートにとってそれらはどれもしっくりくるものではなかった。本召喚に寄りすぎても、簡易召喚に寄りすぎても違う。呪いや魔法に特化しなくても他が補ってくれる。このまま能力をバランスよく強化したうえで、何か持ってないカードを与えてくれる職業はないか。ノートは色々と試行錯誤して、漸くその職業を見つけた。
死霊術師の完全上位互換であり、尚且つ、周囲を教え導き、神秘に挑む者。死霊術師を極めて、本召喚も簡易召喚も熟達し、多くの超自然的な者と接し、死を説いてきた導師にふさわしい職業。
ノートが選択したのは死霊術師の特殊上位職業『死煉誨師』。
他の『祟澱術師』、『滅魎軍師』、『遙覿司』とも高いシナジーを持つ、寧ろ支え合う能力を多く持つ強力な職業だ。祟り、指揮し、深淵を覗き見る死霊術師。それが『死煉誨師』だ。
解放条件として、まず一番の前提として死霊術師として類まれなる活躍をする必要がある。ランクがSになっても更に育て続けて死霊術師の枠組みで召喚できる物は一通り召喚する。
死霊術師系統で解放される『秘到外道魔法』(この魔法自体も発生条件が極めて特殊)を行使する。
死霊術師という職業でありながら、従える死霊達からの平均好感度の一次限界をオーバーさせる。
一定数以上の存在に教導を行い『信仰』を得る。
一定数以上の存在からの認識属性が『忠誠』『狂信』の何れかになっている。
これらはあくまで前提条件。そこからランクや他の選択職業、パラメータ、所持能力などが多くの条件を満たして初めて解禁される特殊職業が『死煉誨師』だ。
職業が切り替わり、パラメータが変化。職業に因んだ能力がデフォルトで起動する。
「(これで準備は整った)」
大本であるノートが成長すれば、当然傘下の死霊達も強化される。それは進化に於いても例外ではない。
「それではタナトスから進化させていく」
タナトスはノートの中ではオールラウンドな性能を持つ死霊であり、人型の属性を強く保っている。結晶の体を持つ骸骨執事だ。その特性を損なってはならない。
メインで捧げるは当然人の魂。バルバリッチャに徴収こそされたが、まだまだストックはある。加えて、水晶洞窟、海、大峡谷にて採掘した結晶や、結晶化した化石、古代の生物が残る琥珀などのレア素材を一気に突っ込む。そして〆に据えるのは、黄土雲の都、赤銅遺跡の寺院のボスの一人、炎衣の切裂リッチの魂とドロップした頭蓋骨の形に粗く削った赤い大きな宝石、そして触媒には生産技能を強化するHeoritのフィギュアとネクロノミコンを据える。
リッチの見た目は真っ赤な宝石質の髑髏。ワインレッド色の炎をローブの様に纏い、右腕の先は巨大な結晶の刃、左腕は拳が巨大な宝石となった杖となっていた。魔法戦士型に於ける一つのアンサー。とにかくスピードと火力が高い癖に、更に味方を召喚して物量攻撃もして味方諸共殺すという害悪戦術の権化のような敵。ノート達を2度全滅させたボスだった。
「《死霊進化・タナトス》」
タナトスは死霊達の中でも最も長く進化を保留されていた死霊だ。最後に進化したのはネモが加入した直後。その後からタナトスはずっと力を蓄積し続けていた。約半年分のリソースを解放したタナトスはワインレッドの炎と共に新生する。
「お~、カッコいいな」
『不肖タナトス、より一層高き忠誠を持ってお仕え致します』
「凄いな、スペックが3倍以上に跳ね上がった。魔法、調理、錬金、全部成長しているな。一番成長したのは、分身を沢山使役できるようになったことか?」
『これで施設管理も、掃除も、料理も、全て私の手で行う事が可能になります』
「最高だ」
タナトスの水晶の髑髏には薄い赤みが差し、執事の服には微かにワインレッド色の炎をチラつかせる。魔法と解体技能が成長し、そして今まで蓄積された錬金と調理の技能が全て吸収され、タナトスは強力な死霊へと進化した。特にリッチの特性が色濃く反映されており、炎操作と魔術、臣下召喚などの技能が増えていた。
「続いてアテナだ。アラクネの力を強化しよう」
捧げるはアラクネ達の魂。赤月の都に至るまでのアラクネ達の魂だ。ボスであるルーナウラ・ソーラシルの魂も捧げる。それに加えてプレイヤー達の魂、海賊から鹵獲した宝、猿の要塞で鹵獲した宝、赤月の都や黄土雲の都で得た絡繰り機構のあるアイテム群とアテナが今まで作り上げた銃、自由工作で作っていた絡繰りの義手などの作品を生贄に指定する。絡繰りと特化としてアテナを進化させるにはこれぐらい属性を偏らせた方がいい。
「《死霊進化・アテナ》」
進化したアテナは、原型は大きく変わらなかった。ただし、サイボーグ要素がより強くなり、腕は完全に絡繰りの義手へ。纏っていたチャイナドレス系の服は大きく変化し、所々に機械的な要素を持つサイバーパンクに登場しそうなスタイリッシュな服になっていた。
「よりメカに強そうになったな。好きなだけこれからも絡繰りを弄ってくれ。取り急ぎ、JK用の銃器設計を頼みたい」
『畏まりまシタ!与えられた新たな力を以てして、より素晴らしい物を必ずや作り上げてみせマス!』
世界観が明らかにずれている見た目をしているが、実力は折り紙付き。なんだかんだアサイラムの方針に大きな影響を与えてきた存在だ。メカ作りと糸作りの能力に特化した分、持ち合わせていた大工技能に関しては据え置き。だが、大工関係はゴロワーズに投げられるようになった分、技能はとがらせた方が強くなる。
「続いてゴヴニュだ。鍛冶と無機物錬金だな」
ゴヴニュに捧げるのはプレイヤーの魂、アサイラムで多く所持しているレア鉱石、笹の民から提供された金属や錬金陣、黄土雲の都のボス個体である赤レンガのゴーレム擬き(無機物を吸収するゾンビ系のアンデッド)の魂とその核となる紅炎の宝珠を中心に据える。
「《死霊進化・ゴヴニュ》」
元々良かったガタイは更に良くなり、防護服はメカ鎧の様な見た目に。系統としてはアテナに近いメカ系か。工業に多く触れていた効果がしっかりと現れている。何より気になるのは、露出してる部分の肌がまるでレンガの様な見た目になっている事。自分の体自身にゴーレム擬きゾンビの特性を取り込んでいた。
「完璧な鍛冶、機械、無機錬金特化だな。仕上がっている。これならアテナとヌコォのオーダーにも対応しやすくなっただろう」
『そ、そうだな!おで、もっと主人さまのお役にたってみせるだよ!』
「頼むぞゴヴニュ」
ゴヴニュは元々鍛冶特化の死霊だ。その鍛冶技能が更に特化した。今まで装備を扱ってきたノウハウが全て反映され、ライフリングの研究なども行っていた為に見た目に寄らず高い精密性も獲得していた。これでアサイラムの工業関係の発展は約束されたようなものだ。
「さて…………メギドだ。一番方向性がどうなるか分からん」
捧げるはプレイヤーの魂。そして数々の強敵の魂とドロップアイテム、ゴヴニュが大量に作り上げた武器や決闘で巻き上げた武装。戦闘型の為に他の死霊とはタイプが違うので捧げる物の傾向も変わる。その一番の根幹に据えるのは、まずノート達がかなり手こずったケルベロスの魂。希少な多頭型のボスであり、同じく多頭であるメギドとは相性が良い。そのケルベロスの炎とも相性の良い存在。ノートにとっても印象深いボスだった水晶洞窟の女王蟻の魂とドロップした外殻と高熱を放つ心臓も捧げ、最後に耐久お化けのキサラギ馬車が進化した際にノートに授与した蹄鉄を与える。
文句なしの超大盤振る舞い。特に女王蟻は、死霊術師が自らの手で倒した強敵は、死霊術師にとって特別な価値を持つ魂だ。それを捧げる事は単純な数値以上の効果を齎す。
「《死霊進化・メギド》」
メギドの容姿は大きく変わった。それはまさしく女王蟻の第一形態を連想させる結晶を外殻とした鈍重且つ防御に優れたパワータイプ。メインの頭以外についていたハチ、カミキリムシ、リオックの頭はそれぞれ面影を残しつつもケルベロスの様な犬の獣を感じさせる頭へ変化。一番の変化は鎧が完全に癒着したのか、人型頭部の鎧の口の部分がバカリと獣の様に開き、アリの様な顎が露出した。
『GUUAAAAAAAAA!』
「いいぞ、すごくいい。ガチで強くなったなぁ。これなら寺院のボスと単騎でも真正面から殴り合えるじゃないか」
スピードを犠牲にした分、防御力が従来の数倍に跳ね上がった。結晶外殻は見掛け倒しではない。守護戦士としての能力が強く出ており、JKにこそ劣るがタンクとして機能する。だが、これですべてではない。メギドは女王蟻の様にフォルムチェンジの能力を獲得した。
初期がこの守備特化形態。相手の攻撃を耐える守護戦士だ。キサラギ馬車のギフトの効果もある為、悪路だろうと踏ん張ることができ、更にはノックバックに対して尋常ではない耐性を獲得する。
第二は攻撃型。結晶を砕き、元の鎧型へ。守備力を下げる分、スピードと攻撃力を取り戻す。しぶとさと高火力を両立したモードだ。蟻の様に酸を生成する事が可能だが、一方でケルベロスの因子もある為に高い自己回復能力も持ち合わせていて、火炎攻撃や結晶操作の能力も手に入れている。
そして第三形態。ノートを追い詰めた女王蟻が見せた最終形態。守備力を捨て、回復能力も捨て、相手をただ焼き尽くし殺そうとする狂戦士モード。鎧まで破壊し、体を炎上させながら斬りかかってくる怪物へ変貌する。
復讐者の力を持つメギドは多くのダメージを受けた分、それ以上に大きなダメージをカウンターで叩き込むビルドのアンデッドだった。メギドは更にそのビルドを特化させた。
まず、防御型でダメージを蓄積。続いて自己回復能力に頼りながら敵を減らしつつダメージを更に蓄積し、最後に完全狂戦士化して今まで受けた全てのダメージを攻撃に変換する。1と2は可逆の関係にあるが、第三形態だけは不可逆。女王蟻と同じく『コイツだけは仲間の為にも絶対ここで殺す』という捨て身のモード。まさしく狂戦士だ。第三形態に成ったらエネルギーを使いきるまで暴れさせるか、待機モードに戻してクールタイムが終わるまで温存するしかなくなる。
ただし、その分攻撃力は桁外れ。ダメージを蓄積すればするほど更に大きな力を得るために、下手をすると一撃でボスすら屠りかねない。防御を捨てる代わりに女王蟻同様にスピードも超強化するされるのでまさしく赤い彗星の如く『当たらなければどうという事はない!』と言わんばかりのスピードで突撃してくる。直線に限ったスピードで言えば、そのスピードはスピード自慢のユリンにすら迫る。
頭のイカレた主人に付き合わされ、頭のイカレた攻略をしてきた事により積んできた上質な戦闘経験の全てが今ここで花開いたのだ。
【死煉誨師】
・死霊強化
・呪詛強化
・闇魔法強化
・呪怨魔法強化
・呪言強化
・支配強化
・死霊召喚強化
・死霊進化時追加強化
・指揮能力強化
・好感度上率微補整
・隠しパラメータ
信仰/教導/神秘/啓蒙/叡智/奇跡/狂気/指揮/聖者/説得/弁論/誘惑/魅力 等強化
・指揮系技能、召喚技能を有する死霊枠解放
etc…………




