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No.333 裏口

ユザパ



「ふ~、やっぱ強ぇなっ!ここの敵、変な動きをしてきて面白れぇ!」

「まあ面白くはあるが、全体的にタフでめんどくさいんだよな」

「そうね。アンデッドが敵に回るとここまで厄介なのかと思ったわ」

「それでも赤月の都よりかは戦えてるだけマシじゃなぁい?」


 綿毛の様に空へと一斉に散っていく赤いポリゴン片。大きくひしゃげて壊れた門。半壊した監視塔。砕けた石畳の床。そんな惨状の跡がこの刑務所入口広場で起きた戦闘の苛烈さを物語っていた。


「今回はギミックポイント薄め醤油ちゃんでしたね~」

「真正面バトルなのにギミックだらけだったらあっしら詰んでるっすよ」


 刑務所周りに出現したアンデッド達は皆一様に鉄仮面、あるいはボルトの様な物が刺さっており、少し痛々しい見た目をしていた。同時に今までの感じとは打って変わって倒すのにギミックが必須級という完全ギミック系とは違い、一定の手順を取るとダウンを取りやすくなったり、攻撃力を下げられるという古き良きゲームの敵の様な生態を持っていた。


 特に面倒だったのはフランケン牛に跨った鉄仮面の巨人。この巨人は赤い軍服の様な物を纏っており、周囲に指示を出したり、回復したり、応援を呼んだりと面倒な能力ばかりを持っていた。その癖本体自身も鞭による打擲範囲攻撃、巻き付けによる捕縛、捕縛状態からの槌振り下ろしor槌ブン回しと殺意マシマシの技を次々と繰り出してきた。

 ノート達を何より苦しめたのはアンデッドのタフさ。ALLFOの生物はプレイヤーも含めてどれほどHPを削っても最後は致命判定を取る攻撃、急所への攻撃を与えないと倒すことが出来ない。だが、アンデッドの場合だと既に死んでいるために本来の急所が急所として機能していない。半身を吹っ飛ばして尚動くような敵がザラにいるのだ。その分思考能力が低く、ヘイト誘導系の能力がかなり効きやすかったり罠に嵌めやすいとはいえ、完全にHPを削り切るまで倒れないため戦闘が長引く。更に自分の体をぶっ壊しても攻撃をしてきたり、HPを0まで削っても威力を倍増した最後の一撃を繰り出してきたりと死霊の性質をとことん生かしたような敵だった。


 ただ、その分得た物も多い。死霊術師にとって強力な死霊を作る上で多く要求される死霊の魂は非常に便利で、倒せば倒すほど多くの素材が集まり、最近はあまり増えていなかった死霊のレパートリーも一気に解放された。ノートにとってみれば右も左もアンデッドだらけの黄土雲の都はボーナスステージと言っても過言ではないフィールドだった。

 

「と言ってもいたずらに死霊を増やしてもなぁ」


 死霊のレパートリーが増えれば、本召喚候補の死霊も多く提示される。アサイラムにとってみれば、ノートの戦闘型死霊が増えるというのはプレイヤーが1人増える様な物だ。オツムに関してはちょっとアレだが、そこは自分たちが上手く使えばいい。レクイエム、クロキュウ、アシュラは高度な知能を与える自律権を有しているから例外として、メギドも今の様に運用できるまではかなりの苦労があったのだ。

 

 だが、ノートは既に多くの本召喚死霊を有している。

 キサラギ馬車、タナトス、アテナ、ゴヴニュ、メギド、ネモ、グレゴリ、レクイエム、アシュラ、クロキュウ、そしてイザナミ戦艦。11体。普通に考えて一人のプレイヤーが持つ戦力としてあまり強力な事は先のイベントの結果がしっかりと示していた。

 それに、死霊の数を増やしすぎても流石にノートが捌き切れない。メギドを使いながらレクイエム、アシュラ、クロキュウの3体を同時運用可能なのは自律権があるからだ。そうでもない限りフレンドリーファイアが連発し死霊同士で殴り合いをしかねない。その点で言えばイザナミ戦艦は例外中の例外。ただし、その代償としてサイズが大きいので本当に決戦兵器として運用するしかない状態となっている。


「ノート兄、まだ死霊術師のままだよね。職業進化させれば制御能力とか上がらないのかなぁ?」


「それもそうなんだよな。ただ、まだどれも完全な上位互換って感じじゃないからしっくり来てないんだよ。捌ける死霊の数にも限界がある。だったら無理をするより死霊達を進化させた方が面白そうだろ?」  

  

「そーいやっ、タナトス達を進化させたのっていつだっけか?」


「確か、私とトン2が加入した直ぐ後、グレゴリが召喚された時ね。グレゴリが召喚されたのも、進化した時にもらえたギフトを使ったからだったはずよ」 


「そっか。もうそんなに時間が経っているのか」


『(。◕ω◕。)なになになんのはなし?』 


「そろそろタナトス達を進化させようかなって話」 


『(。◕д◕。)おー!しんか!わくわく!』  


 シルクの様な使い魔と違って、召喚術師の使い魔は成長が微量な分進化した時に蓄積された経験値の分だけ大きく跳ねる。タナトス達初期組は反船後の進化からずっと進化を保留し、経験を積ませ続けた。新しいことに沢山チャレンジさせたし、本人がやりたがった事は積極的に許可した。

 特にメギドは非常にハードな戦闘を積み続けている。パワー型のタイプなので火力面では今なお通用しているが、そろそろ歯が立たなくなりつつある。メギドの進化に適した魂も素材も多く溜まっている。進化させるにはいいころ合いだった。


「ひとまずこの刑務所を攻略してからの話だ。さぁ、全員休憩が終わったら攻略再開だ。ティア、修復ありがとう」


 ノート達はキサラギ馬車の中でお菓子を食べながらスタミナと空腹を満たす。同時に、ティアのケアを受けていた。ティアにはまだ能力があった。どうも装備の耐久値を回復させる能力があるらしい。直近の戦闘ですり減った耐久値のみに限るが非常にありがたい能力だ。

 

 さて、どの方向にタナトス達を進化させようか。そんなことを考えながらノートはキサラギ馬車から降りた。


  




「潜入となると、ヌコっちが欲しいっすよね…………」


「だな。グレゴリはいるが、ヌコォが居ると心強さが段違いだ。」 


 刑務所擬きは普通の遺跡と違い、窓があった。金属の扉も機能していた。いつもなら窓用の穴から侵入できたが、窓ガラスがあると侵入が難しい。おまけに窓ガラスの外に鉄格子まで嵌められている。そもそも、窓自体の大きさが人一人通る事が難しい大きさだ。その窓の奥に何かの影がうろついているように見える。どうやら入口広場の戦闘で刑務所内の全てのアンデッドが出動したわけではないようだ。となれば今度はジャンルが変わる。ここからはパワー攻略かスニーク攻略か選べるようだ。

 この手の建造物侵入於いて無類の強さを発揮するのがヌコォだ。感知探知に長け、ヘイト調整、消音、罠、鍵開けなどなど、探索に必要な能力は一通り揃っている。特にヌコォの第三職業【探索者】。これは堕天使以上のオールラウンドな性能を持つ殆どヌコォの初期特専用の職業であり、探索に於ける補正は強力。ノート達があっさり黄土雲の都に続く門を発見したのもヌコォの力あってこそである。

 

「グレゴリの幻影で正面に釣り出せないかなぁ?どさくさに紛れて侵入とか」

「無理じゃねぇかぁ?入口であんなにドンパチしてたのに出てこなかったんだぜ?」  

「だったらキサラギちゃんをアタックさせてみますぅ?キャップなら直ぐに離脱させられますし」

 

「ん~。偵察をしたいところだが、監視役の亡霊が邪魔だなぁ」 

「キサラギ馬車を隠蔽状態にしてここから狙撃するというのはどうかしら?あるいは、刑務所から見える敵を撃って性能の調査をすることも可能よ」

「悪くない意見だ」 

 

 入口広場でのドンパチは無茶苦茶だったが、ある意味ではヒントと言えた。

 まず、アンデッドには縄張りがある。その縄張りは強固で、幾らドンパチしてても管轄外のアンデッド達は襲ってこなかった。ある意味究極のお役所仕事だ。

 同時に、この入り口の戦闘は侵入者のレベルを測る試金石でもあった。「入り口の段階でもこのレベルの戦闘になりますが、貴方達はこの刑務所に入る覚悟と実力がありますか?」というALLFOからのメッセージとも取れる。

 加えて、この刑務所のアンデッド達がギミックだけでなくパワータイプでの対処も暗示しているとノートは感じた。フランケン牛の鉄門破壊というインパクトはあるが冷静に考えるとおバカな展開にはちゃんと意味があったという事だ。

 

「ここ広いですし、イザナミちゃんサモンして一斉に砲弾掃射すればもっとパニックパーリーになるかもですねぇ。ウヒヒヒヒ」 

「イザナミ戦艦を刑務所の上に召喚すればぶっ壊せるけど、違うものも纏めて吹っ飛びそうっすね」

「いや、それがコラボイベントでまた落下攻撃を行ったからヘソまげちゃたのよ。あれってイザナミ戦艦自体にも凄まじい負荷がかかるからさ。砲弾撃つぐらいならやってくれるかもしれないけど」


 刑務所前広場は広い。門の中もちょっとした運動場の様に広く、門の外の大通りもかなり幅がある。広場でドンパチしても何故かアンデッド達が寄ってこない事を考えると、この大通りにイザナミ戦艦を召喚して一気に刑務所へ向けて掃射するのも一つの手だった。

 

「ところでティア。君は都合よく裏口を知ってたりは…………」


 だが、イザナミ戦艦は度重なる大きなダメージで現在修復中である。あまりリスクのあることはさせられない。既に落下攻撃はやめて欲しいと一度言われた後の超大型級への落下攻撃だ。イザナミ戦艦が怒るのも無理はない。エイン経由で既にイザナミ戦艦から抗議を受けている。

 なので楽な道があるなら其方を選びたいが、ティアの役割は刑務所までへの案内でひとまず止まっているらしく「わからない」との事だった。

 

「とりあえず、正面扉の物っぽい『鍵』はあるんだよな?」


「ああ、牛に跨ってた巨人からドロップしたぜっ」  


 色々な点について考察したのち、ノートはヌコォが居ない状況で本格的な攻略は困難と判断。試しに正面からの突撃を決定した。

 

  

初期限定特典⓳

【The Evilborne of Bbook】

 数ある初期限定特典の中でもトップクラスに頭のおかしな初期限定特典。一応本の初期限定特典だが、本命は固有種族【Evilborne】。ヌコォと同じ様に種族自体も初期限定特典となっている。特徴は何と言ってもイカれたその肉体。通常時は一般人程度の強さしかないが(武器スロットが固定されているので何しても大して強くない)、戦闘モードに切り替わると真価を発揮する。

 まず、戦闘が始まると。右腕からは幅広の鉈に、左手は穴の開いた棍棒の様に変形する。変身には肉体に強い負荷がかかるためにその時点で自傷ダメージが入り、以後、特殊なアイテムでしか回復しなくなる。その代わり敵に対する馬鹿げたHPドレイン能力を持っており、敵にダメージを与えるほどHPをゴリゴリ吸い上げていく。要するに死にたくなきゃ敵を攻撃し続けるしかない狂気のバーサーカーとなって戦うしかないのだ。その代わり肉体が直接武器に変貌しているので判定がバグッており、色々な能力を同時に発動できる。 

 近接攻撃の火力はトップクラスで、振り回しの速い鉈から腕を更にデカいブレード(どう見てもチェーンソー)に変化させると、相手の装甲をズタズタに死ながら圧倒的な火力で敵を粉砕できる。その代わり隙が大きい。

 また、この初期特の特徴として【無属性魔法】を得意としており、左の手の穴から空気弾の様な弾丸を放てる。物理魔法とも言うべき魔法で、その魔法でパリィしたり敵を怯ませることも可能。ジャストなタイミングで敵に当たればスタンor怯みを発生させることができ、硬直したが最後鉈の連撃かチェーンソーでぶった切れられて死ぬ。なお左手も広範囲牽制の散弾モードと、銃身を伸ばしたキャノンモードに切り替える事が可能で、キャノンの方が発生が遅いが威力は抜群。パリィ性能も極めて高い。

 代償として変身中はデフォルトでHPが減っていくので常に戦う必要があり、更に戦っているほど発狂メーターが凄まじい勢いで上昇していくので戦闘中に変な幻覚を見たりする。この幻覚、自分にしか見えていない異形が見えたりするが、完全な幻覚ではないので放置していると普通に攻撃されてダメージが入る。

 言わば、雑魚相手だろうがボス相手だろうがブチ殺せるが、戦闘するほど更に自分だけの敵が湧いてくるというとにかく戦闘させまくるスタイル。回復が魔物の臓腑から作る固有のアイテムか、敵からのドレインでしかできないという点もなかなかハード。強い癖に他のプレイヤーとも共闘できる切り込み隊長的な点があるが、その代わり勝手に発狂して目に見えない敵と戦いだしたりするので傍から見ていると危ない人にしか見えない。

 更に発狂が変な風に進むと右手のチェーンソーが制御不能になり、自分に襲いかかってきたりする。強いけどどこからしら危ない点が多いの初期限定特典なので馬鹿げたネタ初期限定特典に見えて使い手の優れた運用を求めてくるヤツでもある。

 この初期限定特典を持つプレイヤーを保護し、手を結んでいるとあるプレイヤー(何故か姉御と呼ばれちょっと辟易している)曰くとあるゲームと映画がモチーフになっているのではないか、との事である。



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― 新着の感想 ―
[一言] この特典の視点見てみてえ.....
[一言] >>【The Evilborne of Bbook】 “Bbook”の“b”は衍字?
[良い点] 更新されてるー 読もっと [一言] >戦闘モードに切り替わると進化を発揮する 戦闘の度に進化するって強すぎない?そんなもん? 変わっていく種族名が重要な伏線になってたり…そもそも種族名が変…
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