No.328ex tasty
あー!もう、また妖怪ブクマはがしがでたの!?
でも、大丈夫。消しゴムマジックで消してやるのさ
頭オークを倒した彼女は、出来るだけ物音を立てないようにしながら頭オークが出てきた家の中に侵入。そこで一先ず休憩することにした。
本日のALLFOでの食事はナッツとチーズをたっぷりと使ったパンと、薄くスライスした果実を挟んだパイをシロップに付け込んだ物、キノコと豆をふんだんに使ったスープである。栄養バランスを気にせず食事できるのはALLFOの一番の利点と言えよう。全て洞窟都市の皆が彼女に餞別として渡してくれた物だ。
「(Mmm, this is freaking tasty!)」
味の程は彼女好み。大満足であり、空腹も満たされていく。
「(この杖、スタミナ回復効果もあるから立て直しが早くなるね)」
傍らに置いた天球儀錫杖の効果は本当に多岐に渡る。祭祀が祭祀であるために、歴々の祭祀達が少しずつ効果を足していったのだろう。効果の一覧を見ていると祭祀達がどんな苦労をしてきたのか垣間見える。
改めて杖の効果を見つつ、彼女がビルドやスキル、魔法の運用の組み合わせについて休憩がてら考えているとメッセージが来る。
「(Hmm,MCからだ。なんだろう?)」
彼女は今でこそ単独行動をしているが、一人で旅立つ前に見送ってくれた友達がいる。その友達とはフレンド登録をしており、今でもメッセージが届いたりする。リアルでも勿論連絡先は知っているが、ゲーム専用のチャットは誤爆のリスクが少ないので当人たちにとっても使いやすい。休憩時にメッセージを送るのはいつもの事だった。そのタイミングがちょうど重なったようだ。
「(イベントが終わって、今はひとまず4章ボス捜索中なんだっけ?ダンジョンを見つけた、とも言ってたけど)」
MCは彼女の親友の一人で、単騎で皆とは逆のルートに旅立った彼女を最後まで気遣っていた。彼女が街の中に入れないことを聞き、街の中で店売りの道具を粗方買い集めて彼女に持たしてくれたのもMCだ。フライパンや鍋が無かったら雑草を炒めたり煮ることもできず、もっと長い間マズイ飯を食っていたことだろう。彼女の愛用している照り焼きソースも流石に生の雑草まではフォロー出来ない。
最後に近況を聞いた際は、友人の所属する団体はかなり方針が割れていると聞いていた。
1つはまっとうに攻略を続けるパターン。今まで通りシナリオボスを進めてできることを増やすべきだ、という意見。一番安定している案だ。
2つ目は他の国へ繰り出すパターン。転移門の開通により他の国にも行けるようになったので、他の国との交流を広げたり探索を進めようという意見。確かに折角探索範囲が広がったのだから、他の国のエリアに顔を出すのもゲーム的には楽しいだろう。
3つ目はダンジョンの攻略。4章エリアは3章エリアよりも更に広大なエリアが探索可能になっており、どこへ向かうのが正解なのかプレイヤー達は大いに惑い、大まかに別々の方向を目指して探索を始めた。そのうちの1つのグループが『ダンジョン』を発見した。
今までのダンジョンと言えばナンバーズシティの周りにある墓地。そのレベルだった。だが、そんなダンジョンとは比較にならないほどの大きさを持っているダンジョンが発見され、様々な不思議な要素が発見されたことでかなり話題になっている。これは他の国のサーバーにも共通していて、4章エリアには間違いなくダンジョンに類する物が配置されているとほぼ確定している。
4つ目は逆ルートの探索。
ナンバーズシティをスタート位置として、シナリオボスのいる方向が一般的には正規ルートと考えられている。しかし、その真反対の方向は全く探索が進んでいなかった。というのも、ALLFOは長距離移動に関しての仕様がハッキリ言えば劣悪で、ALLFOアンチがよく指摘するポイントだった。このせいで正規ルートと逆側に進んでしまうと、いざシナリオボス討伐戦が始まった時にすぐに戻れず参加を逃してしまうことになる。シナリオボス討伐は非常に旨味の多いイベントだ。目標地も判らずにただただ彷徨ってシナリオボス討伐イベントを見送るにはあまりにも損失が大きかった。
だが、ペットと転移門の実装でその問題も解消された。転移門の開通により街と街の遠距離間を即座に移動できるようになり、新しい街にも目的地さえ分かっていればペットをかっとばせば何とかなる。
その上、更に攻略勢を迷わせたのは裏の転移門の発見。色々と世界的にお騒がせな人たちが齎した情報とスクリーンショットは世界中で物議を醸した。これにより裏ルートの価値が跳ね上がったのだ。更に、裏ルートに未発見の街があることはそのお騒がせ者達と彼女自身がイベントによって証明してしまった。明らかに破格のNPC共闘ランキングポイント。普通は殆ど横並びになる数値のはずが、全く別の数値になるという事は、該当する人物は別の街に居たと考える方が現実的だ。
これにより、裏ルートは「なにがあるか分からないリターン不明の地」から「確実に未知の街があり、新たな転移門を使うことが出来る場所」という認識に変わった。明確なリターンが提示された。
裏ルートに関しては彼女に多くの問い合わせが来た。お前は一体何を知っているんだ?と。しかしこれを彼女は殆どスルー。一部の信頼於ける友人のみに協力者たちの了解を得たうえで洞窟都市や転移門の存在を明かした。ただし、何があるかを答えただけで、そこへどうやって辿り着いたか、はぼかした。というのも、彼女自身もまいごになった挙句辿り着いたので、教えたくても自分がどうやって洞窟都市に辿り着いたのかさっぱりわからないのだ。洞窟都市のNPCたちと遭遇するトリガーをどこで引いたのかもわからない。ALLFOには地図が無いし、彼女も一々現在地を記録しながら動かないので、教えたくても教えようが無いのだ。
それを聞いた親友たちは流石に閉口した。彼女が変な嘘を吐くような人物ではないと知っているだけに、本当に現在地が分からないのだと察したのだ。
それでいいのかと流石に苦言を呈したくなるが、彼女の直感頼りで行き当たりばったりな動きは今に始まったことではない。彼女はゲームを始めたばかりの初心者にありがちな思い付きで動くタイプで、本来であればプロゲーマーにとってみれば美味しいカモだ。土壇場で動くプレイなど粗削りであり、徹底して決めたスタイルをキッチリ仕上げてきたプロには敵わない。それが当たり前だ。
だが、彼女の直感とプレイヤースキルは人並外れていた。思いついたことを実現可能な範囲にキッチリ収める事に長けていた。故に彼女のスタイルは自由で、型にとらわれず、多くのプロを欺いてきた。天真爛漫で明るい彼女からは予想もつかない展開で攻められ、相手は自分のペースを崩してしまうのだ。
彼女はプロゲーマーの中でも異質だった。ずっと『ゲーム』という物に触れてからスタイルが変わっていない。ゲームは遊戯として楽しむものであり、自由に、好きなように、自分の試したいことにチャレンジできる。システムと言う鳥籠に囚われているのに、時にリアルよりも遥かに自由な世界。それが彼女にとっての『ゲーム』だった。
だからこそ、その理念に共感してくれた無表情な親友が大好きだった。
彼女は一見他のプロゲーマーと同じように得意なスタイルを極め、定石に則して動くタイプに見えた。むしろその象徴とも言えそうな機械的で精密な動きが得意だった。なのに、まるで別人が乗り移ったかのように時に土壇場で全く意表を突くようなハイリスクハイリターンの策を繰り出してくる。
なんでもデータ化される昨今の競技界隈では、単純なキルスコアなどだけではなく、普段の動きからのスタイルから全て分析され性格や技能が可視化される。研究される。その中でも無表情な親友は強い二面性を持つ人物として解析されていた。同一人物というより、全く別人の思考パターンを取りいれて動いているとしか思えない策が多かったからだ。
そんな無表情な親友とのゲームは彼女にとって非常に楽しかった。
次々と変化する自分のスタイルに合わせて、親友も次々と策を切り替えて対応してきた。何度遊んでもアイデアは尽きることは無く、常に新しい対策を講じてくれた。それに合わせて自分の思考を更にクリアになり、レベルアップしていく気がした。
彼女が合流話に同意したのは、もちろん一番の理由は親友と遊べるから。別のチームに属しているために肩を並べて戦う事は少ないのだが、ALLFOなら肩を並べて戦えるのだ。それは彼女にとって非常に魅力的な提案だった。
だが、それだけではない。彼女は興味があった。
親友から聞いていた師匠の話。親友はその存在について殆ど語ることは無かったが、彼女には語ってくれた。自分が何故対戦型のゲームに入れ込み、今の様なプレイスタイルになったのか。どうしてプロゲーマーに為ろうとしているのか。
長らく一匹オオカミのフリーで活動していた親友は、師匠が判明していないことで有名な人物だった。誰のスタイルを真似たのか不明であり、分析してもどのプロゲーマーとも傾向が一致していなかった。ではまるっきり自己流か考えると、やはり彼女の基本スタイルと性格には不一致な策謀には確実に誰かしらのスタイルがモデルになっているとしか考えられなかったのだ。
その謎めいた存在がプロゲーマーでも何でもない従兄だと聞いた時、彼女は非常に驚いた。あくまで思考プロセスを真似ているだけで直接戦術論について教えられたことは無く、従兄はもっと得体の知れない頭のキレがあると聞いた時、まさかそんなわけがあるまい。と心の中では思っていた。日本人特有の謙遜だと思っていたのだ。日本人らしさの薄い親友にも、日本人らしいところがあるのだな、としみじみ感じていた。
だが、今はそれを単なる謙遜だとは思わなくなった。アレは謙遜ではなかった。親友は本気で言っていたのだ。ただただいつもと同じように事実だけを率直に述べていた。
故に興味が湧いた。是非一度手合わせしたいと思った。恐らく自分と近い思考パターンをするプレイヤーと戦ってみたかった。その指揮下で動いてみるのがどんなものなのか興味があった。親友の策略の基礎となった男の策謀を見てみたいと思った。
彼女はMCのダンジョン攻略の愚痴を聞きつつ、いつになったら親友に合流できるかと思いを馳せるのだった。
あー!もう、また1日の1/4も消費する睡眠をとらなきゃいけないのー!?
でも、大丈夫。消しゴムマジッ




