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No.319 毛虫


 何かが聞こえた。

 それは赤月の都を想起させる現象だった。ノート達がツッキーの封印されていた噴水に固執したのも、元を辿ればネオンがツッキーからのメッセージを受信したからだ。


 ノートが明らかに何かの声が聞こえたと再度言うと、ユリン達は素早く立ち上がり戦闘の準備を開始した。


「またお前か」


 しかし黄土雲の都には相変わらずアンデッド達が徘徊している。住居から出るや否や、ノート達はアンデッドに出くわした。


 この都市の攻略が赤月の都の攻略より楽に感じたのは、とある理由があった。


 空からゆっくりと接近したのはノートが枯木蝶と呼ぶアンデッド。

 やせ細った人型にアオスジアゲハの様な黒地に水色の線が入った鮮やかで大きな蝶の羽が生えており、空をパタパタと飛んでいる。しかしその一番の特徴は頭部。頭の部分は人間ではなく、首から上が白っぽい枯れ木になっている。その枯れ木には赤い実が幾つも付いているのだが、その果実はよくよく見ると複眼の赤い目玉なのだ。


『Quuu』


 シルクはどうにもこの地のアンデッドが苦手らしく、怯えたように枯木蝶を睨んでいた。その代わり、いつもは後ろに下がるはずのノートが前に出ていた。


「はいはい効かないんだよお前の能力は。さっさと降りて来い」


 この地のアンデッドは多種多様な状態異常を発生させる能力を使用してくる。

 羽ばたく蝶の羽からは青い鱗粉がキラキラと降り、実の様な目は赤く光る。この鱗粉は毒と麻痺の効果があり、目には混乱と盲目の状態異常を発生させる効果がある。無策で突っ込んできたプレイヤーを何もさせずに殺す初見殺しの塊のような敵で、推奨難易度不明も納得の凶悪さだった。

 だが、ノートには一切効かない。

 ノートの装備するバルバリッチャのギフトにはほぼ全ての状態異常を問答無用で無効化するチートじみた能力がある。2段階目の進化を経て同時に進化したバルバリッチャのギフトを貫通できるほどこの地のアンデッドは強くない。


 ノートが前に出て状態異常にかかった演技をすると、枯木蝶はゆっくりと降りてきた。この地のアンデッドの小癪な所は妙に賢いところ。餌が自分の術中にハマってないと疑って近寄ってこなかったりする。因みに、接近されると木の先端を突き刺され生命力を根こそぎ吸われる。毒と麻痺で弱らせて混乱と盲目で抵抗力を奪い命を吸い上げるあまりに凶悪なコンボだ。

 

「はい、終わり」


 ある程度枯木蝶が接近して、首に枝を刺したところでノートは直ぐ様メギドを召喚。メギドはハルバードを振り下ろし、木こりの様に枯木蝶を一撃で真っ二つにした。

 この枯木蝶は普通に戦うとかなり強い。魔法戦に持ち込むと弾幕を展開し、その騒動で他のアンデッドを呼び寄せてしまう。故に静かに処理するに限る。結果、ノート達が編み出した方法がこの釣りだし戦法だった。枯木蝶は枝の吸収攻撃をすると一瞬近接攻撃に対して無防備になる。その瞬間に攻撃を叩き込めば勝てるのだ。普段であれば枝に付いた多数の複眼のせいで回避能力も高いし、不意打ちすらできない。魔法の弾幕を張れるのに回避力も高い敵だが、敢えて誘い受けをすることで処理しやすくなるのだ。


峡谷に出没するアンデッド達より黄土雲の都のアンデッドは賢いし、実体がある。ノート達のいる峡谷のエリアはどちらかと言えばゴースト。黄土雲の都のアンデッドはクリーチャーっぽさが強かった。だが、ギミック的な倒し方が用意されているのが共通していた。真正面から戦うと面倒だが、倒し方さえ確立すれば処理はしやすいのだ。


 面倒なギミックを武器に多種多様な状態異常を使って攻める黄土雲の都のアンデッドにとって、状態異常に対してほぼ完璧な耐性を持ち冷静にギミックを見抜いてくるノートは相性最悪だったのだ。



「こっちだな。みんなは聞こえてるか?」


「なーんにも」

「聞こえない」

「私も、まだ」


 泣き声に惹かれてノートは歩いていく。もしこれが関係ない敵だとしても、新種には変わりない。この都市に入ってから初めての現象なのでレア敵の可能性もある。どっちに転んでも無駄にはならないとノート達は明るい表情で進んでいた。膠着していた状況が動き出しそうともなれば表情も明るくなるという物である。


「次は私もやる」

「そうだな。手伝ってくれ」


 続いて遭遇したのは体長3m程度のデカイ毛虫。ただし頭の部分には大きな赤子の上半身が3つくっ付いており、毛虫の部分の毛の部分はよく見るとミイラの様な人の腕だった。

 この都市のクリーチャー担当は頭のおかしな性癖を拗らせているのか人に不快感を覚えさせることに並々ならぬ情熱があるようで、気味の悪いクリーチャー博覧会になっていた。その中でも赤子毛虫は屈指の不気味さがあった。


 何が嫌って、この赤子の部分は擬態なこと。 

 

 ヌコォが試作のサイレンサー付き拳銃を構える。スキルも併用し音も極限まで殺している。拳銃の癖に相当狙いを定めないと至近距離ですら外すポンコツだが、威力はある。


 ノートは無謀に近づき闇魔法のラッシュを赤子にぶつける。すると赤子は激怒し高速で這ってくる。同時に、その毛虫に付いたミイラの手が祈る様に組まれ、ノートに各種デバフが降り注ぐ。しかし闇にも呪いにもノートは高い耐性がある。バルバリッチャのギフトで全部レジストできる。

 本来であれば魔法封じをされたり防御力を下げられたりと非常に厄介なデバフを一気にかけてくるのでなまじ普通のボスよりも厄介なのだが、ノートには関係ない。魔法攻撃を止め、棒立ちになったノートが術中にハマったと判断したのか、赤子の体が縦半分に割れて醜悪な本体が出てくる。目のない毛虫の様な頭。その大きな口から腐食液が浴びせられるが、その寸前にくぐもった破裂音が鳴り、口の中を弾丸が射抜いた。

予想外の攻撃にのたうつ赤子毛虫。その本体の頭にノートは容赦なく魔法を浴びせてそのまま倒しきった。


 赤子毛虫は2つの形態がある。一つは通常モード。下半身でデバフをばら撒き、上半身の赤子部分は耐久役。物理はそこそこだが、魔法はあまり効かない。この状態で変に物理で殴るとサイレンかと思うほどの声量で泣き叫ぶ。

 なのでまず赤子部分の擬態を解かせる。敵が無抵抗になったと判断すると、赤子毛虫は接近し本体を出す。本体は強烈な腐食液を出し、その液体は地面すら溶かしてしまう。一方で本体は妙な弾力性があるので打撃には強いが貫通性の強い物理攻撃には弱く、更に魔法にはめっぽう弱い。ただし、いきなり魔法攻撃を仕掛けるとすぐにジッパーを閉じる様に赤子ボディに引きこもって泣き叫ぶので、まず物理で一発ダメージを入れてダウンを取ってから魔法で殴る。属性相性的に闇は等倍なのだが、ノートはとある特性を持っており、更にクールタイム無しで魔法を連発できる。

 ヌコォが銃で撃ち抜き、同時に魔法防御力を剥奪。それからノートが袋叩きにすれば倒すのにさほど苦労しない。


「これはボクの担当だねぇ」

「バフを発動させますね」


 続いて曲がり角をゆっくりと曲がってきたのは1.8mの人型。クリーチャー続きの中でも形状は明確に人型と珍しい。しかし、脚が複数あり、その肌は青斑点の蛞蝓の様になっている。ヌメヌメとした光沢のある体が特徴で、コイツは通った後には暫く潤滑剤の液体を零して引きずったような跡ができる。

 だが、これは非戦闘モードの状態。この蛞蝓人間は敵を認識するや否や体がブクブク膨れ上がり、全身から分泌されるぬめりけのある液体には腐食性が付与される。こいつは時間がたてばたつほど強くなり、膨れた体から分泌される液体の量も加速度的に増加。物理も魔法も殆ど効かないぬめり気の強い腐食液を周囲に垂れ流しまくる歩く公害に変貌する。初めて蛞蝓人間に遭遇した時、様子見をしていたアサイラムはあっという間に中立エリアの結界まで追い込まれた。

 かといって敵を認識してない青斑点状態の時に攻撃してもダメージは通らない。敵を認識し戦闘モードに変わる赤斑点に変化が始まってから初めて攻撃が通るのだ。ただし、赤斑点の時も魔法より物理の方が大きなダメージが狙える。


 この厄介な敵を倒すシンプルにしてたった一つの冴えたやり方は、工夫もクソも無いスピード勝負。ネオンがバフをユリンに与える。ヌコォがユリンから重さを奪った。蛞蝓人間がアサイラムを認識し、斑点が赤色に変化。膨張が始まる。が、その時には既に蛞蝓人間の首はかっ飛ばされていた。

 時間をかけるから問題なのだ。蛞蝓人間は初動は遅い。赤斑点に切り替わっているその時だけは物理攻撃に対して赤子の様に極端に弱くなる。その僅かなタイミングを見逃さず、神速の一撃で仕留めれば大して苦労せず討伐できる。


 ギミックに気づけなければクソゲーレベルの戦闘を強いてくる敵に。ギミックを理解し倒すだけの手段を持っているなら、寧ろ普通の戦闘より楽に立ち回れる。この絶妙な調整が黄土雲の都の特徴だった。


「近い。かなり近づいてきた」


 そんな調子で敵性MOBを処理しつつ街の中央側へ進む事早20分と少し。ノートが微かに聞こえた泣き声は確かに近づいていた。

 



ストップ春ゲリラ

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノート「メギド、やれ」 メギド ブンっ 枯木蝶「」スコーン
[一言] 春のセクシー大根ゲリラ祭り開催決定
[一言] >春ゲリラ 花粉の方々は一旦死んでくださーい(村○のおねーさん感
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