No.318 ストーリーテラー
Guerrillllllllll
【悲報】新年度、疲労限界で左目、逝く―――――――――
「JKもこの峡谷に居て、尚且つこの不思議な都市への入り口を発見した、か。着実に近づいてはいる…………のか?」
「うん。けど地名が違った。元々黒塗りの多い地名だったけど、スクショの雰囲気も違う」
「この異界が地続きなら近づいてるんだろうけどな。ネオンの魔法を撃ちあげるのも手だけど、クリーチャーがエグイ勢いで押し寄せてきそうだ」
ノート達が渓谷の調査を始めてから一週間以上が経過したが、合流を目指すJKが同じ峡谷にいる事は判明しても自分たちがどれくらい近い位置にいるのかわからない状態が続いていた。おまけに壁の中の遺跡を幾つか探検している間に、アンデッドの巣の様な場所を発見。そのボスを倒して開通した裏道を進むと、壁の大きな亀裂に不自然に霧が立ち込めている場所を発見。亀裂の間を試しに突き進んでみると。そこには物理的に考えてどうやっても存在しえない大きな都市遺跡が広がっていた。
類似した雰囲気で言えば、まさに赤月の都。
霧がかった通路を通ることで到達可能な、物理的に不自然な座標に広がる都市。
空こそ赤くないが夕焼け間近の様に黄土色がかった雲が広がっており、昼なのか夜なのかよくわからない感じもそっくりだった。そして、アンデッドタイプの敵だらけなのもそっくりだった。
だが、街並みは少し違う。赤月の都は皆の想像するファンタジー然とした中世ヨーロッパの都市が遺跡化したようなフィールドだったが、この都市はどちらかというとアラビアンな感じの遺跡都市。ノートが画像検索で類似した物を検索したところ、ウズベキスタンの世界遺産であるイチャン・カラがヒットした。全体的な雰囲気はエキゾチックで、そして砂漠にある都市を感じさせる。しかし、一方で枯れた水路らしきものも多数通っており、もし水路が生きていたら有名な観光名所で、某鼠の国も再現している世界で一番有名な「水の都」、ヴェネチアに近い雰囲気だったのではないかと感じさせた。
ただ、非常に残念な事だが、その水路はヘドロみたいなクリーチャーを始めとしたアンデッド達の楽園になっていたのだが。
「スクショを見る限りさぁ、空も同じような黄土色だから全く別なエリアってことじゃないんじゃなぁい?こっちの街並みは赤っぽくて、JKのは青っぽい感じだったけどさぁ」
この「黄土雲の都」という都は、赤月の都同様、例の如く通路の先は非常に大きな円形の中立エリアになっていた。よってノート達はここならば他のプレイヤー達もどんなにショートカットしても簡単には到達できないだろうと考え本格的に黄土雲の都に拠点を移し、ミニホームを設置。黄土雲の都に湧くアンデッドを撃退し、とある建造物の中に仮の安全圏を見つけたノート達はスタミナ回復がてら食事をとりつつ皆で情報共有を行っていた。
「アンデット達の湧き方や、強さも、聞く限りでは似ている印象を受けました」
なお、今日のメンバーはノート、ユリン、ヌコォ、ネオンと割と初期のメンバー。ノートがいる場合はどこのポジションでもやってくれるので基本的に探索になる。探索をしながら情報分析も行うので、ノートの脳内は忙しかった。
ネオンの指摘通り、JKから聞くアンデッド達の様子と、ノート達が現在戦闘しているアンデッドは同じような傾向があった。
強さは赤月の都の微生物アンデッド達と同等か、むしろ少し強いか。その代わり、今ノート達が攻略している場所にいるアンデッド達の量は赤月の都に湧くアンデッドに比べたら割と控えめ。
黄土雲の都のアンデッドは個の強さ、或いは数匹単位の集団の強さで攻めてくる。一方で赤月の都はのアンデッドは、アンデッド特有のタフさと微生物らしい機械的な動きで、群衆による数の暴力を以てしてプレイヤーを殺しに来る。
一体一体はパラメータこそ同等に近いが思考能力がお粗末な分微生物アンデッドの方が対処はしやすい。しかし、それが群れると脅威度は一気に逆転する。おまけに出会ったらほぼ即全滅みたいなクソゲーを展開する黒騎士がいない。それだけでもノート達の精神衛生上の負担は段違いであり、エリアこそ赤月の都の方が黄土雲の都より序盤に近いが、攻略順的には裏ルートらしい裏ルートも通らずに到達している分、この黄土雲の都の方が推奨難易度は低いと予想した。
無論、相も変わらずこの不思議な都市も推奨難易度は不明。本来であれば不安なはずなのに、ノート達はこっちに慣れすぎていて逆に妙な安心感すらあった。
「黄土雲の都にはツッキーみたいな物はないのかなぁ?」
「わからん。ツッキーだってショートカットした挙句に遭遇した存在だ。けど、黄土雲の都は今の所それらしいものは無い。黒騎士みたいな物も居ないとなると、このフィールドのゴールが見えないんだよな~。あるいは、この都市が峡谷の色んな場所と繋がっていて、実質的な峡谷のショートカットとしている可能性もあるんだけど」
「えっと、どういうことですか?」
「つまりだな―――――――――」
ノートはあたりを少し見渡し、砂っぽい地面に指で2つの円を描いた。一つはかなり大きく、一つは最初の円の1/6程度の小さめの円。2つの円を並べる様に書いた。
「例えば俺達が黄土雲の都に入るために通った峡谷の通路をA座標、JKが黄土雲の都に入るために通った峡谷をB座標としよう」
ノートは大きな円の中、12時の位置にA、4時の位置にBと書いた。
「で、それぞれの通路を通った先の黄土雲の都の座標をそれぞれC、Dとする」
次に小さい円の中、12時の位置にC、7時の位置にDと書いた。
「もしあの峡谷がグランドキャニオンサイズだとして、AからBの位置へ移動するのは正直凄く怠い。上から偵察した限り峡谷には街らしい街が今のところ見つかってないし、中継点の街無しであのクソデッカイ峡谷を探検するのはちょっとリスキーでもある。けど、CからDへ移動するなら?ほら、割と近いだろ。まだ現実的な距離だ。その上、中立エリア内を動くなら安全に移動ができる。無論、フィールドの全体像が把握できてないから逆パターンの可能性もあるんだが、もし俺の考えの通りならショートカットになるだろう?」
ノートの説明を聞き、ネオンも合点がいったような顔になった。
「ただ、もしこの都市に纏わるストーリーがあるとして、スタートが分からないんだよな。現状推論の域を出ないが、峡谷に存在する転移門が地下帝国やJKのいた洞窟都市に存在していて、二つの都市には一定の類似性がある。この峡谷の様な岩や地下の中に都市を広げる技術。原型に中東系のエッセンスを感じさせる文化。聞くところによると、人種も白人系らしい。教会の人々とは確実に異なるであろう歴史を築いた彼らの源流が気になっていたんだが、もしかすると地下帝国も洞窟都市も、大峡谷で暮らしていた人々が源流にあるんじゃないか?」
遺跡の劣化具合的に、もし同じ民族をベースとしてたとしても別れてから相当の年月が経過していることは間違いない。故に一見は別の文化に見える部分もある。しかしどんな技術も0からいきなり出来上がるわけでもない。なにか始まりがあるのだ。
ノート達は一応、ヤーキッマや首領たちに地下帝国の歴史は訪ねている。赤月の都の存在。腐った森の存在。教会との関係。深霊禁山の関係。アフターパーティー中の時間を使い、ノート達はALLFOの歴史を深堀していた。
ヤーッキマ達は腐った森の事は知っていた。水晶洞窟は知らなかった。赤月の都を知らなかった。教会の事は認識はしているらしいが、実態は理解していない。しかし、天使に連なる存在に関しては詳しくは聞けなかったが明らかに認知していた。
深霊禁山には関しては非常に面白い話が聞けた。地下帝国のあるエリアと、深霊禁山の間に或る霧の森。あの森は大昔は入ると神隠しにあってしまう森として立ち入りを禁じられていた。しかし、ある時を境に霧の森の向こうから猿達がやってくるようになり、地下帝国の民も霧の森の中に入れるようになった。といっても依然として森の中は危険であり、長らくいると姿があいまいになってしまう。その為に、霧の森の中で育ったもので作った服を着る。そうなると環境にいくらか適応できるようになり森を抜けられる程度にはなるらしい。ヤーッキマ達が最初に笹籠の様な服を着ていたのも、あの霧の森で活動するために必要な事だったのだ。
そして彼らは不運な事に猿達と遭遇し、猿達も霧の向こうに渡れるようになったことに気づいた。そこから地下帝国と猿の因縁は始まったという。昨今は霧の影響が更に下がり、時折巨狼や巨猪など、猿以外の生物も渡る様になってしまったらしい。だが、深霊禁山で取れる素材は非常に重要だ。彼らのとってももう深霊禁山の資材を手放すことは考えられないらしく、どうしても霧の森を渡るしかないのだという。地下帝国の民からすると、深霊禁山に渡ることを止めるというのは、極端な事を言えば現代人に「石油素材の商品を一切使わないでください」と言う感じに近いとノートは感じた。電気レベルで致命的ではないが、かといって石油商品無しを強いられたら不便極まりないだろう。人間は贅沢を覚えると、容易く引き返すことはできないのだ。
だが、そんな笹の民たちも、転移門に纏わる言い伝えこそ残れど、その先にある場所や、自分たちが如何に地下帝国に根付いたかなどの歴史が紛失していた。これはJKの洞窟都市も同じ。歴史はある程度残っているのだが、原点に近い位置に関してはノイズでも走ったように曖昧になるのだ。まるで誰かに抹消でもされたかのように。
では、この黄土雲の都のストーリーテラーは誰が務めるのか。赤月の都の様に一切見当が付かないならまだしも、黄土雲の都は地下帝国や洞窟都市などストーリーテラーを務められそうな存在がいる。なのに、彼らはそのストーリーテラーを務めることはできない。何かしら隠しているのかもとは思ったが、ノートは知っていそうな人全てに、そして何度も確認したが、誰も転移門に纏わる深い知識は無く、隠している様子も嘘をついている様子もなかった。自分達の特権を使い古文書まで出させたが、やはり遡れる記録に限界があった。
「…………ん?何か言ったか?」
「え、なんにも聞いてないけどぉ?」
「私もなにも…………」
「心当たりはない」
若干の行き詰まり。このまま何のめども無く動き続けてJKに出会えるのか。自分たちは何を目標に行動するべきなのか。ノートが迷っていると、誰かの泣くような声が微かに聞こえた。
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