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No.313 シリアスブレイク


「全員、ツーマンセルで行動。フレンドリーファイアだけには気を付けて」


 穴の中に居たのはホラータイプと思しき化物達。ホラーの中でも物理的に殴ってくるアメリカンホラーではなく、もっとファンタジー的なホラーの敵だった。


「よい、しょっと!うーん、一応武器を振り回せるサイズではあるけど、小さめの方が良さそうだね~」  


「あたちのメイスだとギリちょん。トンカチ主体でトドメイスって感じがべた~?」


 通路のサイズは横4m。高さは3.5m。人工で掘られたと思われる穴だが、かなり広い。そして上に下にも横にも小部屋や通路が広がっている。特に横の小部屋には決まって何かしら敵がいるので気を付けなくてはいけない。

 決闘後、トン2はメイン武器を刀から薙刀に切り替えたが、それでは少し長すぎて戦いづらいので短槍とトンファーを装備している。


 大きさで言えば少し広めの学校の通路。纏まって動くには少し辛い。

 その為にヌコォはグループに分けて探索を始めた。

 先頭はスピリタスとトン2の武闘派コンビ。現状一番危険な場所だ。

 中衛役はヌコォとカるタ。サポーターでありヒーラーでもあり、探索組の頭脳でもある。

 殿を務めるのはユリンとゴロワーズ。この2人も別のゲームで散々連携はしているのでコンビ相性は問題なし。スピード重視の手数で戦うユリンと大ぶりな一撃でバーサーカースタイル寄りなゴロワーズは相性が良い。この2人は魔法も回復もできるので後ろを支える部隊としては申し分なく、いざという時は先陣を切ることもできる戦闘力を持つ。


「んぎゃ!?隅っこに張り付いてんのやめろや!!」


「カるタ、其れでよく今まで演技できたね」


「いや~まぁここはあんまし隠す必要ないっすし~?あははは……」


 ただ、この閉所の戦闘はかなりストレスが溜まる。

 まず凄く暗い。スキルである程度補正があっても暗いものは暗い。 

 それでいて狭い。自分の攻撃が味方に当たらない様に気を付ける必要がある。

 更にこのフィールドは道が色々と広がったり、横の小部屋がかなりあるので常に警戒していないと道を見失いそうになるし、どんなに警戒していても奇襲を受けたりする。この崖の中の住居跡に巣食う敵性MOBたちは天井の隅にへばりついていたり、壺の中に隠れていたりと、ただでさえ視界が悪いことを生かして奇襲を行い、一度接近されると纏まりついてきてHPとMPを吸われておまけに窒息まで狙ってくる始末である。非生物系特有の自分の命を顧みない攻撃は味方にいる時だとそこまで強さを実感しないが、敵に回ると如何に面倒な特性なのか嫌でも思い知らされる。

 

 と言っても、新参であるカるタとゴロワーズ以外は既に似たような戦闘を経験済みだ。

 まずエリアの大きさが限られるという点では水晶洞窟が似ている。エリア変質後も素材調達の為に何度も入っているが、普段と違い最悪ネオンの火力で全部吹き飛ばすという禁じ手が封じられている状態での戦闘だ。フィールドの中は暗く、魔物達も容赦なく襲いかかってくる。奴らの場合は其処に『硬い』『しぶとい』の要素が入ってくる。決闘前に遭遇したフィールドを自由に破壊して移動している全金属ボディの紅の巨大蠍に轢き殺されたのは一部のメンバーにとって思い出したくない記憶である。その強さは間違いなく黒騎士に匹敵するか、下手すると超えているレベルだった。

 続いてもっと閉所という条件だと『ルジェの屋敷』が候補に入ってくる。屋敷の中の戦闘。使い魔たちがあらゆる場所に潜みノート達の首を的確に刈り取りに来る。中の絡繰りで散々からかわれたノートにとっては思い出したくない記憶だろう。フレンドリーファイアに気を付けつつ、敵だけを狭所で倒すのはなかなか難しい。それを屋敷での鬼ごっこは改めて教えてくれた。

 攻略中、ネオンの魔法で屋敷ごと吹き飛ばしたいとノートはぼやいていたが、それもまた一つの学びである。ルジェがおふざけに回ってくれたからよかったものの、アレが殺傷性のトラップだったらノートが何度死んだかわからない。


 その点、この住居跡はトラップがない分いくらかマシだった。


「この、またテメェかっ!カバー!」


 狭い場所で、非生物的なホラー怪物たちがやってくる。

 スピリタスが大口を広げて突進してきた化物の口を止める。そこにトン2のカバーを待たずにユリンが口の中に魔法を撃ちこむ。本来であればスピリタスが止め、トン2がトドメを刺すパターンが適切なのだが、ことコイツは別。 

 

 見た目は目の無い頭の肥大化した黒いウツボ。腹に赤子のような小さな手が何本も生えてウネウネ動いているのが生理的嫌悪感を催す。赤子の様な泣き声を微かに耳にしたら出現の予兆。空中を泳いで渡り、口を開けて敵を丸呑みにしようとしてくる。狭所でなければいつものスピリタスなら避けて蹴りの一つでも入れてやるのだが、口がデカすぎて避けにくいので無理に一人でどうにかするよりはまず受け止めた方がいい。

 あるいは、下顎でも蹴り上げれば突進はまだしも丸呑みは回避できるだろうと考えるかもしれないが、そうなるとこのこの亡霊ウツボを倒すのに死ぬほど手間がかかる。このウツボの弱点は突進を受け止めた後、口の真っ暗闇から出てくる干からびたような女の亡霊なのだ。この亡霊にダメージを与えないとこの亡霊ウツボは非常にタフで通路を塞ぎ続けるクソ敵になる。いきなり口を開けている最初から攻撃してもダメなのだ。口を封じられ、なにすんだこの野郎!と本体が奥から出てきてそこに攻撃を与えないと駄目。このフォローが遅れると、口を抑えつけていたプレイヤーが亡霊に攻撃されて死ぬ。女亡霊は紙装甲だが攻撃力だけは凄まじいのだ。相手の装甲すらも貫通して生命力を根こそぎ奪ってくる。


 住居跡に出現するホラータイプにある特徴が、ギミック。単純な攻撃でも一応対処はできるが手間がかかるが、特定の手順を取ることで効率よく倒すことが出来る。それこそまるで除霊に特定の手順を踏むかのように。一応、ユリンが使える聖属性や光属性の魔法がガッツリ弱点っぽいのだが、アサイラムは闇に傾きすぎているためにそれ以外の聖・光属性が無く、よしんば攻撃が当たったところで普通の攻撃よりかは多少は目に見えてダメージがある程度で、やはりギミックを無視してゴリ押しするほどでもない。というのが何とも言えない現状だった。


「グレゴリ、金ぴかテクスチャ拡大」


『(。-`ω-)よいぞ』


 さて、この探索組にて役に立ったものが大きく分けて2つある。

 一つは腰に装着できるベルトランタン。光る苔のしぼり汁を更に処理した光る液体を入れる事で、一定時間安定した光源として機能する。ベルトなので動きを阻害せず、戦闘中でも広い範囲を照らしてくれるのだ魅力的だ。胴装備は既にあるし、アクセサリースロットも埋まっているのでベルトそのものに防御力を上げてくれる効果は無いが、道具として装備することはでき、そして光っている機能自体は装備する前から発揮されている効果なので関係なく使うことが出来る。

 火よりも危険性が低く、安定した光はヌコォ達の戦闘に大きく寄与した。

 

 しかし、それでも太陽やリアルの大電灯程の明るさは確保できない。それにより僅かにできる暗所にホラータイプ達は身を潜ませて襲いかかってくる。

 そんな暗さの問題を解決したのがグレゴリのテクスチャ張りつけ。厳密には幻影をフィールドに描いているだけだ。霧の森の中でノート達を殺しに来たアンチ感知技能を持つ透明な暗殺トカゲ対策としてノートが提案した例のアレである。金の縞模様のテクスチャを周囲のフィールドに張り付けると、暗がりに潜んでいるホラータイプ達の姿が場違いなほどクッキリ浮き上がる。

 唯一にして最大の難点は雰囲気が台無しになる事だろう。ほの暗くどこから敵が襲ってくるかわからない探索型ホラーアドベンチャーの空気を無残なまでにぶち壊している。グレゴリによる攻略を見てしまったデザイン担当達は泣いていた。

 雰囲気で言えば、せっかく苦労して雰囲気を作って整えた全てをおふざけMODを導入してぶち壊した感じ。大昔からその様な悪ふざけは綿々と続き、恐ろしいトラウマボスにポップなBGMと青い機関車のボディを与えるなんて悪ふざけは定番中の定番だ。

 超高度な技術を用いて作り上げられた第七世代にはMODが導入できないためにその様なシリアスブレイクはできないはずなのだが、敵はゲームの中にいた。勿論、それを思いついて実行してしまった男の過失も大きいだろう。


 数々の初見殺しを突破し、足を進める探索組。

 細かい探索は最低限に進むと、遂に少し開けた場所に出た。



   

事故は起こるさ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] デザイン担当者がノート被害者の会に追加で〜す
[一言] 普通に考えるならこういうところの開けた場所はボス戦になるけどどうなるかな?
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