No.308 アフターパーティー
骸獄の誘惑を振り切り、ツッキーの使用も止めて遂に終盤へ。
残り20分、10分と祭祀達のメッセージが届き、更に段階を踏んで変質していく空と弱体化するHeorit達。超大型級の身体には金のジャックオランタンが出現し、本当に最後の最後である事が公式アナウンスでも通達される。
スクショコンテストやコスプレコンテスト、コスプレNPC人気投票も投票締め切りだ。エントリーはイベント終了2日前までで、イベント終了時間が投票締め切り。もうランキングにはどー頑張ってもランクインしないと諦めたプレイヤー達は「そーいえばそんなもんあったな」と運営のアナウンスを受けて掲示板を観つつ自分の好きな物に投票する。投票しただけでも参加賞が出るのだ。投票して損はない。
一方、ランキングガチ勢は最後まで気が抜けない。死力を尽くして超大型級を殴り続ける。内心そのゴールデンランタンはなんだ!と思いつつ殴っている。このゴールデンランタンで最後にランキングがひっくり返ったら悔やんでも悔やみきれない。どう見てもボーナス点がありそうなランタンを徹底して破壊する。
そして2週間に渡るイベントも遂には幕を閉じる。
『おまたせ!かれらをこのせかいからおいだすよ!』
『いままでありがとうございました!これでおしまいです!』
カウントダウン終了と共に祭祀達の声が響く。空が拍動し、色彩が一瞬変になるとHeorit達は水に落ちた虫の様にもがきながら霞の様に消えていった。
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『全てのHeoritが消滅しました。イベントの進行率、活性率が0になりました』
『超大型ハロウィン級Heoritの撃退に成功しました』
『イベントクエスト『超大型ハロウィン級Heoritを撃退せよ』クリア』
『コラボクエスト『AMMⅢ×Halloween』クリア』
『【特殊環境:強制参加】が解除されます』
『【特殊環境:Halloween】が解除されます』
『エリアの仕様が通常に戻ります』
『イベントの結果は1週間後の発表となります』
『追加イベント『ハロウィンアフターパーティー』を開催します』
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限界状態に来ていたノート達は終了のアナウンスと共にRTAばりの走りで地下帝国に戻りベッドにダイブしながらダイナミックログアウトした。
◆
幸いと言ってはなんだが、ハロウィンアフターパーティーは本当に長閑なイベントだった。Heoritは出てこないけど、一週間追加でハロウィンコスやハロウィン限定商品も売るし、NPC達も追加でコスプレしますよ。慰労会もしますよ。フィールドの魔物のレア個体出現率が上がりますよ。的なイベントだった。
2週間かなり無謀なスケジュールで頑張っていたノート達が再度ALLFOに全員集合したのは1週間後のアフターパーティー終了ぎりぎりだったが、地下帝国を完全防衛した英雄たちを笹の民は非常に暖かい態度で歓待した。元から好感度が高かったが、今回の一件でそれが揺らぎない物となったようだ。NPC達からハロウィン用アレンジ料理などが大量に振舞われ、特殊なアクセサリーの授与もあった。
なお、この行為自体はランキング報酬とは別の話。アフターパーティー中にNPC達が見せる独自の行動で、仲の良いプレイヤーに対して街を守ってくれたお礼にプレゼントをくれるのだ。ノート達の場合は元々名誉首領待遇に加えて街を一つを単一クランで占有して完全防衛したので笹の民全員から贈り物が貰えた。待遇はもはや王侯貴族級である。
「みんなほんとーにありがとー!」
相変わらず怪獣コスプレのままのヤーッキマがもう何度目か分からないお礼を言いながらノートに抱き着き、ノートがヨシヨシと抱き上げる。ヤーッキマとテルットゥも間違いなく防衛戦に於けるMVP級の存在だ。小さい体なのにプレイヤーのリアル時間に合わせて動き続けたのだ。NPCじゃなかったら頼むから休んでくれと懇願するレベルである。
「こちらこそ本当に助かった。俺達もこの街を守り切れて嬉しく思う」
そしてノートも定型文で返す。もう何度もこのやり取りをして語る言葉を言い尽くしているので改めて語ることも無いのだ。
イベントの結果発表に合わせてなのか笹の民が皆で感謝を述べたいとのことで中央広場に皆で集まったが、ヤーキッマ達がノート達に懐いているのはもはやいつもの風景と言う認識らしく仮設ステージ下に集まった民衆達は特に止めもしない。性質極悪超えてるプレイヤーで街に近づくと恐らくミサイルでも接近したかのような大騒ぎになるのに、ここでは皆の英雄扱いだ。果たして性質とは何だろうな、と思いつつノートは笹の民に手を振る。するとノート達に感謝の言葉を送っていた笹の民から大きな歓声が上がる。
「キャップって実はどっかの王家の魂をインストールしてます~とか、御先祖にどっかの王様がいます~とか言われても、あたちびっくりどっきりメカしないかも」
「あー、確かにそっすね~。なんか対大衆スキルが明らかに一般人じゃないんすよねぇ~」
「アイツ、10年以上前からあんな感じだったぜ?だよなっ?」
「兄さんはそういう生物って考えた方が良いと思う」
なにか後ろで失礼な話が為されているが、ノートは今はこれをスルー。良い子のヤーキッマの頭をなでて気を静める。
「ど~なるかな~」
「掲示板を見る限り、ランキングが公表されていた最後の時点ではかなりの部門で1位争い、或いは1位確定状態だったそうですよ」
「けれどやはり結果を見てみないと分からない部分が多いわね。戦闘組も白銀個体、超大型級と大きな変化があったように、生産関係も途中で動きがあったそうよ」
「結局結果を観なきゃわかんないってことだねぇ」
首領及び防衛隊、そしてヤーキッマとテルットゥからの感謝の言葉と笹の民全体としてのプレゼントが授与されていると、同時に運営からアナウンス。先週のAMMⅢハロウィンコラボの集計完了と、各プレイヤーに個別にランキングに結果とそれに紐づいたプレゼント、討伐貢献度に応じた賞金が一斉に送信された。
「シークレットはやっぱり白銀個体と超大型級関連が中心だったか」
「超大型級に与えたダメージは当たり前として、白銀個体に与えたダメージとかまでランキング化してる辺り完全に遊んでいる」
なお、このランキングは国ごとのサーバーで分けられているため同じランキングでも世界にあるサーバーの数だけ1位はいるし、その中でも更に世界1位の数値をマークしても追加報酬は無い。無いのだが、運営は何を考えているのか不明だが世界全体の順位も閲覧可能にしていた。
無論、国家サーバーごとに解放された街の数やプレイヤー数、状況など色んな違いが存在しているために正確に同条件下で行われたイベントのランキングとは言えない。つまりランキングの結果=国力ではないのだが、これより多くのサーバーが国同士の開通を目前にしている現状、このランキングの結果はやはり完全に無視することはできない。
「お~!日本がんばったじゃ~ん!」
「自分たちがそれに大きく貢献したとなると、また一段とこの結果は嬉しいわね」
更に、国だけの括りではなく、プレイヤー単位やパーティー単位、クラン単位でも国籍関係なくランキング化している物もあり、これにて国別の特級戦力の数も浮き彫りになった。
「(この段階でイベントをねじ込んだのはこの為か。世界観のヒントを出すと同時に国の開通前後に合わせて国ごとの戦力差を見せる。オンゲが一番儲かるのは結局対人戦闘って事をALLFOはよーくわかってるみたいだな)」
人と人の争いは金になる。それはコロッセオで奴隷同士を殴りあわせていた時代から、近代化による兵器開発戦争から冷戦と、そして戦争がほぼ完全に過去の言葉となった22世紀でもゲームとして、人と人の争いは金の動きをよくする最強にして最悪の潤滑剤として機能していた。
オンラインゲームというのは、ただただプレイしていると結局行き着く果てはハック&スラッシュ。「敵を倒して」「レベルを上げて」「装備を整え」「次の強敵へ」のこのサイクルを繰り返すことになる。いくら公式が力を入れてストーリーを仕込んでもそもそもプレイヤーがストーリーに興味が無ければそれは足止めにもならない。じゃあ絶対にストーリーが絡むしソロのゲームの方が時間に縛られず好き勝手出来る分、オンゲーよりいいのでは、と言う極論に行き着いてしまう。
無論、友達とやるオンゲーはソロよりも絶対楽しいだの、オンゲーからしか得られない栄養があるというプレイヤーも居るが、ALLFOは抽選式のせいで友達と一緒に始めにくかったのでそうもいかない。
ではオンゲの特性を生かしつつユーザーに更にお金を落とさせるにはどうすればいいのか。プレイヤーの満足する敵をどうやって提供し続けるのか。
そして行き着く発想がプレイヤー同士を争わせるというという悪魔の発想。
運営は絶対安全圏に居る死の商人だ。
プレイヤー達はライバルに勝とうと更に課金をし、ライバルもそれに応えて課金を増やし衝突に備える。プレイヤー達は勝つために結局ウンエイという同じ商人にお金を支払い続ける。プレイヤー達の矛先は物理的に運営には届かない。バカが少し考えてもこの状況で誰が一番儲かるかなんてすぐわかる。
21世紀初期、第一世代VRなんて言葉が出るよりも前、非感覚リンク型のVRが販売されるよりも更に前、既にオンラインゲームの中で多額の金が動くことは証明されている。
2014年、SFベースの宇宙でドンパチするオンラインゲームにて、とあるプレイヤーが単純なミスで戦略上大きな価値を持つ惑星の所有権を確立するためのお金を振り込み忘れた。
賃貸料が振り込まれないと現実の大家さんみたいにどやして請求してくれるわけでもないので、そこで契約は容赦なく打ち切り。するとどうだろう。金持ち達が日々自分たちの新たな領地を求めてしのぎを削っている大都会の一角にポンッと大きな空き地ができた。そして始まったのはゲーム内2大派閥の全面衝突による領地獲得戦。数多の巨大宇宙戦艦が宇宙のチリになり、スクラップになった小型宇宙戦艦は数知れず。21時間にわたり続いた戦闘によって大量の兵器が破壊された。
この双方の兵器の損失を当時の日本円に換算すると、3000万円から3300万円になると言われている。
たった21時間でゲーム内に費やされた3000万円が吹き飛んだのだ。
この事件が凄いのは、たった21時間で3000万円以上が失われた事ではなく、プレイヤー同士の争いに備えてプレイヤー達が3000万円以上の金を費やし、戦争の為ならば惜しげもなく使ったことだ。
スマホのソシャゲともなれば更にその上を行く、対戦型リアルタイム進行ゲームだとライバルと戦うのに課金が必須になり、上位陣の平均課金額が1000万円クラスなどという状況も生まれるのだ。前例の様にマイナスにはなりにくいので金の動きは大きくはないが、対人の魅力に憑りつかれた亡者共は今まで費やした金のせいで引けに引けなくなって更に課金する。
ソシャゲの肝とも言えるサンクコスト効果とコンコルド効果。既に支払って取戻す事の出来ないコストに囚われて合理的な判断が出来なくなる心理。そして対象にお金や気持ち、時間を投資し続けることが大きな損失になるとわかっていても、それまでの投資を惜しんでやめられない心理。
一度課金のボーダーを踏み越えると、人は容易く壊れていく。
今のALLFOの市場規模は過去全てのソーシャルゲームを遥かに超えるレベルだ。ゲームに於けるあらゆる世界記録を日々蹂躙し続けていると言っても過言ではない。そして規模感的にも企業体制的にも非常に息の長いゲームになることは間違いない。
投資をしても無駄にならない。よくある怪しいソシャゲの様にせっかく金を払ったのに直ぐにサービス終了してしまう悪夢は訪れない。
安定があり、更にプレイヤーも多い。そしてVR自体が時間に制限を設ける。2.2倍速で世界が進むため、より時間が大事になる。省ける労力をお金で解決出来たら、非常に大きなアドバンテージになるだろう。
そう考えたプレイヤー達が、ライバルに勝つために金を使い始めたら何が起きるのか。娯楽に人生を大きく依存しているこの時代で人は如何様に狂うのか。ロストモラル決闘事件は前座でしかない。これから世界レベルの激突になればもっと多くの資源が必要になる。更なる課金が行われる。
さあ、戦いに備えろと言わんばかりに、Heorit討伐による教会からの報酬が多額のMONと言う形で全プレイヤーに配られた。これにて世界全体のMON所持数が増えた。ならば物価が変わる。流通が変わる。価値観が変わる。このイベントは先ぶれでしかない。国同士の開通が本格化する前の下準備なのだ。
楽しい楽しいイベントは、一部の者だけが気づく不気味さをにじませながら大成功の裡に幕を閉じた。




