No.307 外道ソウル
「…………倒しきれ、いや、慢心は良くない。しかし」
戦闘開始から3時間以上経過。リアルだとイベント終了まで残り30分目前。
最初こそ異形なる者が出てきた時はどうなる事かと思ったがあまりに超常的な系統に近い存在だったのかデカブツにしか興味がなかったらしく最後までノート達を無視してHeorit達を殴り続け、召喚時間限界であっさり自壊。
超大型級に甚大なダメージを与え、多大な傷跡だけはしっかり残していくという仕事人振りを見せた。
その件の超大型級というと、序盤の3方向のサンドバッグ、イザナミの脳天直撃同時に自傷ダメージのマッチポンプで起きたHPドレインでHPを吸われ、ストーカーの様に自壊するまで纏わりついてきた異形なる者からのダメージが尾を引き続け、残り30分を前に遂にフェーズも終盤に来たのか完全に弱り切っていた。
一方、白銀個体も暴れ過ぎたのかそろそろエネルギー残量が怪しいらしく動きが鈍くなりつつある。
そう、長らく無軌道に暴れ続けていた2柱の機神の底が遂に見えたのだ。
超高層ビルを容易くぺしゃんこにできる、あのイザナミ戦艦の撃墜にすら耐えたHeorit達が。
大型武装の自重なしの使用。度重なる甚大なダメージの修復。彼らは無敵ではない。無限のエネルギーを有する存在でもない。エネルギーが命であり、同時に攻撃の為の火種であり火薬庫でもある。これを失えばHeoritはもはや活動どころか生きることもできない。
命と攻撃を天秤にかける。それがHeorit独特のジレンマであり醍醐味なのだ。
問題は、底が見えてしまったので「撃退ではなく討伐まで行けてしまうのでは?」という好奇心と言う名の恐ろしい悪魔がノートの耳元で邪念を囁き続けていることだ。
残り30分。本気で殴り続けたら一体何が起きるのか。
理性では分かっている。完全に殺しきる意味はない。このイベントは撃退すればいいのだ。ランキングの為に一応頑張ったが、これ以上コストを費やすのは無駄なのだ。イザナミ戦艦の方も落下の際に非常に大きなダメージを受けたので暫くは修復の為に待機させなければならない。
「(加護ガン積みでオリスキ重ねがけ、そして骸獄を最大スペックで起動すれば…………)」
だが、ノートの中には大博打だが完全に殺しきれるかもしれない手立てが頭の中に或る。邪念すら湧かないほど手が出せなければいいが、イザナミ戦艦によるダメージを見たことでどれくらいのダメージ率なら損傷を与えられるか理解できてしまい、なまじ具体的に倒せるかもしれない手段を思いつけるのが逆に問題なのだ。
『そろそろおいだせるよ!これがほんとうにさいご!』
『みなさん、今までありがとうございます!あと、あともう少しです!』
ここで更にノートを揺らがせる一手。リアル残り時間30分の時点で遂に聖女・祭祀達の力が世界に浸透し始めたのか空を覆うように不思議なエフェクトが出現し、Heorit達の弱体化を告げるシステムアナウンスが発生した。
Heorit達はもうこの世界に存在するだけでもエネルギーを激しく消耗する状態になった。彼らが長らく続けていた儀式が身を結ぶ。この世界にとって異常な物を追い出す儀式が完遂されようとしているのだ。
Heorit達は身悶えし、装甲や武装に罅が入り自壊していく。酔ったようにふら付き、遂に地に足を付いた。人型になっていた分、その異常はより分かりやすくなっていた。
白銀個体も同じHeoritなのでもう上手く動けない。最後までコラボキャラ無双かと思われたが、その役割はもう十分果たした。ALLFOの主役はやはりプレイヤーなのだ。最後に引導を渡すのはプレイヤーでなければならない。
「(つまり今なら白銀個体も纏めて…………?)」
しかしここで更なる邪念がチラつく。むしろ白銀個体の方が殺しきれる確率が高い。悪魔の甘いささやきがノートの背中をくすぐる。ノートの勘が白銀個体なら確実に叩き潰せると気づいていた。
ゲームは楽しめてなんぼ。先の事を見据えて貯蓄も大事だが、それはリアルの話。娯楽で安定志向ばかりを採用しても面白くない。だが、骸獄の発動コストは本当に洒落にならないし、今もツッキーを長期使用して大分コスト的には危ないのだ。これ以上更に貯蓄を切り崩すメリットがあるのか。
「(いやだなぁこの神寵故遺器。なーんでホームに置きっぱなしにできず常に誰かしらが分身を所持する縛りがあるのかと思ったけど、使うリスクがクソデカい癖に思わず使いたくなる状況が多いというこの状況でストレスを溜めさせること自体が目的なのか)」
そしてそのストレスはいつか限界に達してしまう。
人は強い武器を持つと使いたくなってしまうものだ。子供が新しいおもちゃを直ぐに使いたがるように、大人も武器を持つと使いたくなる。新兵によくある症状で、特に人殺しの道具だと分かっていてもいざ銃を使える段階になると人はワクワクしてしまうのだ。好奇心と言う魔物は猫を殺し、人の中にある合理性でさえも殺してしまう。
その大きな力は一度使うと病みつきになり、また使いたくなってしまう。大いなる力には呪いのような魅力があるのだ。そして人の中にあるボーダーが下がっていく。強い力を振るうことにためらいが消えていく。
チートを持って異世界に渡航した瞬間に主人公がいきなり暴力でなんでも自分の理屈を押し通してしまうような、容易く「殺し」を許容するような。そしてそれに読者が違和感を持たないような、『大きな力』と『力の解放』には、恐ろしい魅力がある。
「(使ってやんね。お前ツッキーより絶対まともじゃないし)」
だからこそ、ノートはその誘惑を再び蹴った。
ノートの考えに反応したのかいつの間にか勝手にインベントリから這い出て変形した骸獄が実体化しつつあったが、ノートが手を振るとモヤが千切れて怪しい気配が消えた。もはやろくでもない存在という事を隠そうともしていない。
神寵故遺器には意志がある。今は2つしか所持していないが、どっちも意思があるのでノート達の中では神寵故遺器は意思のある物として一応扱っている。
故に、ツッキーと同じようにノートは骸獄と何度も対話を試みた。だが、どこまで行っても骸獄は悪の存在だった。生者を殺せ。もっと悪いことしろ。笹の民皆殺しとかどうですか。お菓子に毒仕込んで撒いたら結構ヤレますよ。遅効性がオオスメです。それやったらこーんなお宝あげちゃうかも。
そんなことばかりしか言わない。クソである。ノート達でも引くような外道ソウルの化身だった。メタ的にも世間一般にバレたら相当怒られそうな事しか言わないヤバい存在だった。バルバリッチャの殺人幇助でもノート的には「ALLFO大分攻めてるなぁ」と思ったが、そのボーダーを容易く骸獄は踏み越えてきた。
掲示板の奥底で煮凝っているような人を叩くことにしか生き甲斐を見いだせない陰湿な外道よりは開き直ってるクズの方がマシという人もいるにはいるだろうが、だからといって開き直ればいいというわけでもない。ノートとしてももう少しいい顔をしてから本性を出すくらいの脳は無いのかと思ったほどだ。
しかし人間とは不思議なもので、こんな危ない力だと分かっていても喜んで使っちゃったりする。むしろ男の子は、オタクは危ない力ほどロマンを感じてワクワクする。ライダーは最終フォームになる前に一旦変身するだけで苦しむような段階がだいたいあるし、現在絶賛コラボ中のAMMのHeoritの主人公機にもリスクはデカいが凄まじいパワーで暴れられる暴走モードがある。
危ないと分かっていても力に身をゆだねる快感。これには多くの人間に備わる本能にも近い感情なのだ。この神寵故遺器はその人間の本質を徹底して刺激する性能をしている。しかも強い悪を謳う者に与えられるという悪質さっぷりだ。力の為に、利益の為に、自己の快楽の為に悪の力を使う者に骸獄のような神寵故遺器を与える。骸獄はALLFOの性格の悪い部分をとことん煮詰めたような存在だった。
設定厨にChatGPTを与えると一晩中架空の生命体に関して議論し続けることが判明した




