No.297 ノミ
侍ジャパンヤッターゲリラ
「はぁ、はぁ、こりゃ本当に白銀個体ありきの戦闘だな」
戦闘開始からALLFO内時間で4時間。アサイラムと超大型個体の戦闘は熾烈を極めていた。
今の所、超大型個体から理不尽なレベルの爆撃を受けたりはしていない。攻撃範囲こそ広いがいきなり地下帝国目掛けて超火力で侵攻するわけでもなく、ノート達に攻撃をしながらも牛歩の進みで侵攻していた。いや、厳密には、ノート達というより強烈な攻撃力を発揮している白銀個体を狙っていた。白銀個体がヘイトを根こそぎ奪うレベルで戦っていたのでなんとか戦闘になっていた。もはや「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」という言葉が出そうなレベルである。それでもなお、超大型個体の完全沈黙には至らない。
「(オリスキ込みでもキッツい戦闘だな。白銀個体がいなきゃどうにもならないレベルだ。白銀個体は完全なお助けキャラか。プレイヤーの頭数が少ない街なら沢山のHeoritが吸収できるし、プレイヤーが邪魔でもしなかいぎり結果的につり合いが取れるわけね。よくできてるなこのイベント。思ったよりALLFOの世界にコラボイベントを落とし込んでいる)」
その代わりハロウィン要素が些か雑なのは、イベント企画部が力尽きたのか。ヤーキッマ達やイベント日誌曰く、異界の物が異界へ渡る際に何らかの影響を受けた結果核がハロウィン状態になっているらしい。その影響はプレイヤーにも伝播しており、ハロウィンコスプレが特攻効果を宿すとの事である。言わば現在のALLFO世界はハロウィン環境と呼べる状態なのだ。意味不明である。なお、ハロウィン環境に巻き込まれているのはHeoritとプレイヤー、NPC達だけで、他は一切影響を受けていない。
外部まで影響が及んでいるとすれば、それは街に纏わる結界程度。イベント期間中はハロウィンの飾りつけで街が強化できるらしく、作った飾りを教会に納品すると自動で街の中に飾りつけされる。料理系以外にも生産系プレイヤーの活躍できる場所が用意されているというわけだ。一応地下帝国でもそれは進んでおり、派遣したゴヴニュ達がアクセサリーや置物の製作に手を貸していることは報告されいている。惜しむらくは忙しすぎてノート達は一度も地下帝国を見ることが出来ない点にあるだろう。仮拠点化したイザナミ戦艦が便利すぎてそこで全てが完結しているのだ。お弁当などのアイテムの受け渡しでさえもグレゴリのギフトで完結してしまっているので防衛戦を放置してまで街に行く理由が一切ない。
「ノートさん、それではお先に失礼します」
「ありがとな、わざわざ夜更かしまでしてくれて。凄い助かった。朝も頼むよ」
「はい!頑張ります!」
さて、推定24時間の戦闘だが、VRには継続ログイン時間限界がある。最初は威力偵察の為に全員が揃っての戦闘だったが、このまま全員で戦えば一斉にログイン時間限界を迎えてプレイヤーが誰もいない時間ができてしまう。なんせこの街はたった9人でしか守っていないのだ。いくら白銀個体無双とはいえ、ノート達の貢献も少なからずある。というより、白銀個体を生かす戦い方を取っているからこそ白銀個体がより無双できているのだ。その為にもノート達はログアウトの時間をずらしていく必要がある。
「あとは任せる。何かあったらメールを送ってほしい。通知はオンにするからいつでも起きられる」
「そうならない様になんとかするわ。情報収集まで含めて本当に色々と助かってる。ゆっくり寝て脳を休めてくれ」
「うん。頑張ってねる」
「シルクも頑張ったな」
『Q゜u』
ネオンに続いてログアウトするのはヌコォ。アサイラムの副参謀だ。指揮役としてゴロワーズとカるタが加わったが、戦略級で物事を考えられるのはノートの他はヌコォのみ。結果的にノートとは別行動の機会が多くなるが、それはノートの信頼の証でもある。
「落ちるでごわす~」
「ゴロ助はちゃんと寝ろよ。健康面でリアルボディがエラー起してログインできませんは洒落にならんからな」
「うぃ」
「頼りにしてるんだからな。ゴロ助が居ないと俺の今のプランは破綻する」
「うぇひひひひひひひひ、もあぷりーず!」
「いいから寝ろ」
「デコピンで発情しそう」
「寝ろ!」
最後に先行でアウトするのはゴロワーズ。ヌコォと一緒に色々と下準備をしていた為に普通にログアウト時間限界。アドレナリンが分泌されてややハイになっている。ノートに構ってもらって満足したのか、幸せそうな顔でイザナミ戦艦に戻っていった。
「カるタ、オリスキのクールタイムは?」
「もうちょっとっすね!あんまし乱用するとみんなもヤバくなるんでちょっと様子見たいっす!」
「そうだな。さて次はどうするか…………」
今の超大型はなかなか愉快な見た目になっていた。端的に言えば、白い群体に集られていた。それはまるで、アリが大きな餌に群がる様子によく似ていた。それでも超大型は少々煩わしそうにするだけでダメージを受けているように見えなかった。飛行型には有効的だったレクイエムの分身寄生攻撃も超大型クラスになるとノミに集られたくらいの感覚でしかないのだろう。分身するとサイズが小さくなるので余計に小さく見える。
「(シルクのバイオ汚染は多少効いたけどそこそこ。オロチの悪魔はただの的。ヘイトを散らすぐらいしか能がない。トン2と鎌鼬のオリスキは倒しきれない確率が高すぎて使えない。スピリタスのオリスキで若干動きが鈍る程度で武装は余裕で使える。この状況だとカるタとゴロワーズのオリスキが一番適しているがその分クールタイムや発動の調整が必要。ツッキーは乱発したくないし、骸獄はコストが高すぎて論外。いや、ワンチャン全部のオリスキ重ねてツッキーまで全開にして攻撃したら超大型すら大ダメージを与えられるかもしれないけど、倒しきれる確信が一切できないからなぁ)」
人生と違ってゲームの魅力はリスクを気軽に取りやすい点にある。ただ、そこで取るべきでないリスクまで調子に乗って取り続けるといずれ痛い目を見る。ノートのバランス感覚では、今回は無理して戦う必要はないと直感が囁いていた。
逆を返せば、猿の王すら瞬殺できるかもしれないと評価を下された白銀個体でも完全に足止めできない超大型でも倒せる可能性があると思わせる程度には、決闘にて入手した神寵故遺器はバランスブレイカーな性能を持っていた。確実に倒せる敵に使うには勿体ないが、倒せるか判断の付かない様な敵にですら沈められると思わせる絶妙なバランス。嫌な誘惑がノートに纏わりついてくるが、ノートはそれを振り払う。それこそこの神寵故遺器の思う壺だと思ったからだ。
ノートが脳内で色んな可能性を探っていると、超大型が出現してから何十回目の黄緑色の爆発が発生する。ユリンの92連撃スキル〔アッライルウラン〕が成功したのだ。薬によるドーピングをしつつ体力限界スレスレでユリンは空を舞う。
超大型は巨大なので攻撃を届かせること自体難しいが、飛行可能なユリンは関係ない。攻撃を避けて翼を使いつつ体を登り、弱そうなおつむ周りを集中的に攻撃する。超大型は的だらけ。連撃は当てるだけでコンボが続く。超大型の敵の宿命なのか動きそのものは鈍重なので、超大型はユリンにとってカモ。連撃系のスキルを鍛えるいい相手になっていた。
「ほっ、よっと、ヨイショ!」
「オラァ!」
一方的に攻撃をしているのはユリンだけではない。普通の近接職なら見上げる事しかできない超大型個体に対し、スキルと魔法をフル活用し、ノートの召喚した死霊を足場にトン2とスピリタスも超大型の体を登り1つ1つジャックオランタンを破壊していた。スピリタスとトン2にとって、超大型の周りに纏わりつくレクイエムの分身は良い足場になっていた。
超大型のもう一つとして、取り込んでいる武装も軒並みビッグなので極端に近寄られると攻撃が大味になる。一応、武装なのかそれとも肉体の構造上の仕様なのかは不明だが、超大型個体は強い熱を持っている。ジャックオランタンが強烈な光を放っているのは単なる演出ではなく、物理的に熱いのだ。よって無策に近づけば熱のスリップダメージが近接職を襲う。
今まではタフで銃器などの兵装を積んだHeorit達に対して高い防御力を持つ近接職たちが圧倒的な活躍を見せ、防御力の低い後衛側が若干不遇な状態になっていたが、ラストは一転して近接の方が攻めあぐね、遠くからでも攻撃できる後衛の方がメインの環境となっていた。だが、アサイラムにはパンドラの箱の自動HPMP回復、自動HPMPドレインの加護がある。近接組は命を削り、その削った命を超大型から奪いながら戦っていた。あまりに無茶苦茶な戦い方である。超大型の苛立ちが一定値を超えると自傷も厭わずに自分諸共ミサイルなどでトン2達を襲うが、それもトン2達の狙い通り。ためらいなく離脱してむしろ超大型の自傷を誘う。
「あと少しね。ポップしてから表面上に露出していたランタンが全て潰れそうよ」
「そうだな。6割白銀、1割自傷だが、ようやくここまできた」
鎌鼬が狙撃し、トン2達の逃避を支援しつつ同時にまた一つランタンを破壊する。
しかし、超大型はしぶとい。まだ弱った感じが一切見えない。ノート達がノミなら白銀個体は大きな蜂くらいにしか思ってないくらいに必死さを感じない。
ダメージはきちんと与えているのに攻めあぐねている。まるでなにかギミックを見落としているのではないかと思うほどに状況に変化がない。それがノートの感じている今の印象だった。




