表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

461/880

No.296 ドッグデス


「のっくんおそーい」


「悪い悪い、ちょっと遅れた。何か問題は起きてるか?」


「大丈夫よ。今の所は不気味なくらい静かだわ」


 13日目、ハロウィンイベント最終日前日。イベント終了、教会がHeoritを世界から除外する準備を整えるまであとリアル時刻残り24時間を目前にした所でHeoritの湧き数が急激に低下した。

 それはまるで嵐の前の静けさ。

 ギリギリまでリアルの用事を片付けていたノートがヌコォから呼び出しを受けてログインすると、アサイラムのメンバー全員が久しぶりに揃っていた。今までも揃えようと思えば揃えられたが、イベントの性質上ズラした方が良いので敢えてログイン時間を皆で少しずつズラしていたのだ。最終日終盤にて時間に対する縛りも無くなり全員が集結する。


「白銀個体もかなり育ったみたいだな」


「初期でも十分強かったけど、今は恐らく猿の王とタイマンしても圧倒できるくらいに育った。大きさも20mを超えている。他のプレイヤーも遅れて白銀個体の育成に気付いたみたいだけど、初動が速くて環境も良かった分ウチの個体が圧倒的に大きくて強い」


「掲示板を見る限り、私達と異なりプレイヤー全員が白銀個体の育成に舵を切る事ができなかったのもある様です。方針に関してかなり揉めていました」


「ここら辺は人間の嫌なところをよくついてると思ったっすね〜。ポイントを稼ぎたいプレイヤーは急にポイント稼ぎをやめて白銀個体育成に協力しろって言われても受け入れにくいっすし、一部でもその方針を無視してポイント稼ぎを優先するプレイヤー達がいたら他のプレイヤー達も我慢しにくくなるっすからねぇ〜」


 シークレットのランキングを引き合いに出して白銀個体育成を呼びかけるプレイヤーも居たが、それとて確実では無い。結局白銀個体を育てる事がプラスであるという絶対的なエビデンスが無い。故にプレイヤー達の方針が真っ二つに別れる。掲示板をメインに揉めている日本サーバーは1番人数の多くトップの団体である生産組組合が白銀個体育成を明確に主張して抑えに回っているのでまだマシな方で、国によってはプレイヤー同士の殺し合いにもなっているらしい。日本の様にトップの定まっていない国だと団体間の競争が激しく余計に意見が別れやすいのだ。


「それでも概ね白銀個体育成の方が良いという意見は多い。出来ているかは別として」


「ゲーマーなら育つ特性がある時点でピンとこなきゃダメダメちゃんですよね〜。でもランキングがあるから全員が一気に共闘路線にもレッツゴーできなーい。抜け駆けのジレンマがスキャーリーちゃん。このイベント設計した人性格ワルワルちゃんですね〜。ウキャキャキャキャキャッ」


 自分が損を被る状態を避けるのは人間の本質的な行動。よってこのイベントはある意味人間の汚い部分が露骨に出る様に出来ている。国家間の開通を目前に、プレイヤー達は集団の強さを問われているのだ。


『提督様』

 

 そんな調子でノート達が情報共有しつつタナトスの用意してくれた食事を食べていると、ノート達の居るイザナミ戦艦の操縦室にエインが出現した。イザナミ戦艦内で有れば、イザナミ戦艦の管轄にある死霊は再召喚をする事で幾らでも移動が出来る。実質的なワープが出来るのだ。


「どうした?」


『祭祀達が何やらお話したい事がある様です。私も先程から妙な気配を感じます。恐らく、提督様方がお話ししていた存在の前触れではないかと』


「報告感謝する。いよいよって感じだな。さあいくぞみんな」


 ノート達が甲板に移動すると、そこにはヤーッキマ達をはじめとした笹の民の防衛部隊が揃っていた。


「ノート!あのね、あのね―――――――――」


 今までのHeorit侵攻も乗り越えてきた笹の民が妙に不安そうにしており、ヤーッキマはノートが来ると一瞬表情を明るくしたがすぐに不安そうな表情で自分の感じている事を訴え始めた。


 少し要領を得ない部分もあったが、落ち着いて聞けばノート達もヤーッキマとテルットゥの訴えが理解出来た。

 曰く、世界からHeoritを追い出す準備が出来たが、一方でその儀式を始めると世界に揺らぎが出来る為に今まで世界に侵入出来ていなかった強力な個体がこちらの世界に来てしまうかもしれない。というより、その存在の接近を察知した。その為、ノート達には儀式の遂行中自分達を守って欲しい。

 それがヤーッキマ達の訴えだった。


「ノート兄さん、教会でも動きがあった。掲示板が凄い勢いで動いている」


「確定だな。ヤーッキマ、テルットゥ。一つ確認したい。その強力な存在が現れたとして、完全に倒す必要は無いんだな?」


「うん!ぎしきができれば、みんな追いかえせる!」

「ぎしきが出来てしまえば、戦う必要もなくなります」


 これも概ねノート達の予想の範疇。コラボ元のAMMⅢでも現状撃退する事しか出来ていない超大型をコラボ先で討伐出来てしまったら流石にやり過ぎと言わざるを得ない。飛行型を先行披露しただけでも十分やり過ぎなレベルだ。

 ノート達に求められているのは討伐ではなく防衛。ヤーッキマ達が儀式を完遂するまで守り切ること。イベント最後の戦いだ。


「ぼくたち、ぎしきのためにまちにもどらなきゃいけないの」

「さいごまでいっしょに戦えなくて、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だ。むしろ危険を承知でもここまで一緒に戦ってくれてありがとう。防衛隊のみんなも引き上げてくれ。地上は俺達が死んでも守り切る。儀式を完遂しない限りこの地に平和は無い。俺達が安心して戦う為にも、皆にはヤーッキマ達の側にいて欲しい。この通りだ」


「頭を下げないでくれ。分かった。ただ、必要とあらば私達はいつでも駆け付けるぞ、我らが英雄よ」


「ああ、任せてくれ。私達も貴方達にヤーッキマとテルットゥを任せるぞ」


 ここで引き止めたらイベント進行はどうなるんだろうとか変な邪念が一瞬過るが、ノート達はヤーッキマ達を見送る。それから暫くして、奇妙なほどに世界が静まり返った。獣の声も風の音もない。イベントの残り時間を示すタイマーが時を刻み、遂に残り時間が24時間を切る。ノート達がバフをかけたり防衛陣地に細工を施したりと準備をしていると、その演出は唐突に起きた。


「始まったな」


 一瞬、世界の色彩設定が狂ったような視界になり、拍動するように白い光が空を伝播していった。

 Heoritが完全に消え、沈黙していた白銀個体がピクリと動き、遠くの方に視線を向ける。


—————————————————————

[Warning:超大型級Heoritが出現します]

[Warning:イベントクエスト『超大型ハロウィン級Heoritを撃退せよ』を開始します]

【特殊環境:Halloween】

【特殊環境:強制参加】 

『このクエストは強制参加です』

『現在の位置から撃退すべきHeoritが指定されます。変更は可能です』  

[Warning:強制カウントダウン執行 23:59:59] 

—————————————————————


 

 ノート達にとっては青の民のラスト以来の目を焼くような赤点滅のアナウンス。そのアナウンスが全プレイヤーに問答無用で発生する。 


「おいおいおいおい、こりゃ本家クラスの大型だな」

「自分がHeoritではない分、余計に大きく感じる」

「海で見た怪物よりはまだちっちゃいかなぁ?」

「アレは比べるにしても例外的だろ。ありゃ数㎞レベルだぜっ」

「そうね。それでも、これも十分大きいわね。全長300mくらいかしら」 

「移動する縦長の要塞って感じっすね!というか、ゴツくし過ぎたガ〇ダム?」 

「うーん、登って斬るのが正解かな~?」 

「トントン氏、これはギミック臭がプンプンですよ。どーみてもガチンコバトルはドッグデスちゃんですよ」

「私の魔法でも、まともなダメージになるかどうか…………詠唱、開始します」


 空を走る拍動に割り込むように空間に亀裂が入ると、黒光りする巨体がヌッと現れた。

 一体全体何をどう取り込んでしまったのか。小さな軍事基地を丸ごと飲み込んで、それを強引に人型に整えようとしたような、軍事基地そのものがロボットに変形したような超大型Heoritが出現する。


 脚は数え切れないほど多い極太の多脚式。先端はボール状、あるいはロケットブースターの様になっている。

 その脚の上に戦艦を腰回りに張り付けたような土台があり、その上にも大きな兵器を積み上げたような身体。だが、生物的に色々と無理があるのか、或いは世界を渡ってきたダメージからか、一部の装甲は既に禿げており、内部からオレンジ色の光が漏れ出していた。それによくよく目を凝らすと、装甲の隙間と隙間に沢山のジャックオランタンが埋まっていた。集合体恐怖症には少し辛いぐらいの多さだ。どうやらハロウィンイベントと言う事をALLFOは忘れていなかったらしい。


「どれくらいダメージが通るかしらね」


 栄えある一番乗りは鎌鼬。キサラキ馬車から構えた大型狙撃銃にネオンの魔法を込めた弾丸を装填し、超大型が活動を開始する前に、白銀個体が動き出すよりも先に発砲する。  


「少々誤差はあれど、あれだけ的が大きいと簡単に当たるわね。ジャックオランタン自体の強度は高くないわ。距離による威力減衰込みでもジャックオランタンにはダメージが入る。ただし、完全破壊まではできていないわね」


「表面に見えているランタン全部潰してようやくダウン取れそうな感じなのに、一個壊すだけでもそこそこのダメージが要求されるのか」


 ノート達の予想とは少し異なり、超大型Heoritが出現したのは地下帝国の真上から数㎞ほど離れた地点。少し遠い。サイズ感はコラボ元と大体同じだが、形状がやや異なる。コラボ元の1章の最後に出現した個体は人型よりはもっと非生物的な形状だった。


「恐らく、あの個体が完全にこの場所まで到達するまでに進行を抑えるのが俺達の役割ってところかな」


「多分そう。配信を見るに他の街でも同じような間隔で超大型が出現している」


 ノート達の場合は一つの街だが、これがナンバーズシティの場合だと圧巻。ナンバーズシティを囲むように12の超大型が出現しているのが配信に映っており、青いパンダと緑のひよこの着ぐるみを着たレポーター気取りの配信者が興奮しながら実況をしている。答え合わせがすんだところでノートは配信を閉じた。


「さあ、ラスト24時間だ。概ね予想通りなので従来のプランAを採用。全員、タイムテーブルに気を付けてくれ」


『了解!』


 斯くして、14日目の最後を飾る推奨人数万人級超大型レイドボスに対し、亜祭羅武(アサイラム)連合九人&白銀のHeorit1体が戦闘を開始した。   




ハロウィン級…………?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハロウィン級がいるならクリスマス級とかバレンタイン級とかいるんだろうな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ