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No.295 最悪のシナジー



 白銀個体はプレイヤー達に敵対的な行動を取らないが、同時に共闘しようという気も無い。射線に割り込めば容赦無くHeorit諸共殺される。白銀個体にとってプレイヤー達はそこら辺に転がっている石と扱いが変わらないらしい。


「一丁上がり。グレゴリ、誘導」


『(〃`ω´〃)よかろう』


 なので基本的に白銀個体に近づかない。適切な距離を保ったままHeoritを弱らせ、そこで白銀個体を引き付けて喰わせる。関心が無いからといって流石にダメージを与えられたら白銀個体も反応する。一度カるタが手加減をミスって白銀個体に矢を当ててしまい蜂の巣になっていた。

 

 ではどうやって白銀個体の気を穏便に引くか。白羽の矢が立ったのはグレゴリだった。

 白銀個体含めて出現したHeoritに共通して言える特徴だが、Heoritにはデバフが殆ど通用しない。ヘイト引き付け系も通じる物と通じない物で分かれていた。検証勢曰くプロセスの違いらしい。

 その点、グレゴリの幻術はHeoritを対象としておらず、フィールドを対象に発動する。派手なエフェクトを白銀個体に見せてノート達が弱体化させたHeoritに意識を向けさせれば、白銀個体は優先的にそのHeoritに飛びかかりエネルギー吸収に勤しむ。


「なんだかデカブツと共闘ってのも変な気分だなっ!」


「いや、普段メギド達と一緒に戦ってるしあんまし変わらんだろ。GBHWでも敵を利用してボス個体を倒す時もあるじゃん」


「そう言われてみればそーだなっ!」


 弱点まで破壊する必要が無いというのは前衛にとってかなり楽な事らしい。スピリタスは戦いながらノートに話しかける余裕もあった。

 Heoritの厄介な点は核を破棄しない限り、エネルギーがある限り回復してしまう点。同じ人型ならまだしもHeoritは軒並み人間より大きく、弱点まで攻撃を届かせるとなると少し工夫が必要がいる。その点、白銀個体にトドメを任せられる様になってからは脚部と兵装にダメージを与えるだけで良いので大して工夫が要らないのだ。

 1番面倒なのに工程上絶対に省けないトドメを刺すプロセスを省略出来るというのは自分が討伐ポイントを稼ぐ気が無い限りプラスでしか無い。

 トン2と違って最初からアサイラムが勝てば良いという思考のスピリタスは、個人的なこだわりが無いので白銀個体の利用に対する躊躇いが無かった。


「しっかし邪魔臭いな飛行型。レクイエムとイザナミでどうにかなっているが」


「ノート兄さんが居るととても楽」


 現在はALLFO時間で深夜。笹の民には休息してもらっているので祭祀のバフによる急激な一転攻勢こそ無いが、その代わりレクイエム達が飛行型に取り憑き、動きが鈍った所をレクイエムの分身諸共イザナミ戦艦の砲撃が処理していた。というより、死霊全体が生き生きしていた。


 笹の民達の援護は便利だが、同時にとある点ではノート達の足枷になっている。それは笹の民が悪いわけでは無く、ノート達が共通して持っている『自動HPMPドレイン』の能力による物。パンドラの箱が進化した事で与えられた加護だ。

 一見あまりにも強力な加護だが、このドレインは加護を受けた側で殆ど制御が出来ない。加護が敵と認識している物から問答無用でエネルギーを奪う。奪ってしまう。この加護は同じパーティーやクランと言ったシステム上の繋がりにある対象は味方と判定するが、システム的な繋がりが無いものは敵と見なす。つまり、共闘している笹の民でさえもパンドラの箱からすれば敵の判定。ドレインの対象に入ってしまう。

 笹の民が防衛拠点にしているイザナミ戦艦が万が一ダメージを負えば、真っ先にドレイン対象になるのは同乗している笹の民達。故に普段のイザナミ戦艦はまず第一に自分が絶対にダメージを負ってはならないとノートから強く命じられている。イザナミ戦艦はタダでさえ陸地で運用している為本来よりも防御性能が落ちている(更に陸上で運用するだけでスリップダメージが起きるが、ここはパンドラの箱の強化された自動HPMP回復でトントン)。その代わりHPの総量は変わってないのでそれなりに攻撃に耐えられるが、それは死なない分ダメージを受けた時にドレインが発動しやすい状態にあるという事でもある。その恐ろしさは猿の要塞でも遺憾無く発揮されていた。

 無論、このリスクは笹の民側にもノートは説明している。祭祀であるヤーッキマとテルットゥはドレインを完全レジストが出来るらしいが、それ以外はドレインに対するレジスト能力を持っていない。その時にはヤーッキマ達が加護を与えてレジストできる様にするとは聞いているが万が一という事もある。そのリスクを承知で笹の民達は防衛戦に参加している。


 この笹の民の参戦によるメリットとデメリットの釣り合いはノートもかなり悩んだ。


 ドレイン能力の影響を受けてしまうのでイザナミ戦艦達がセーブしなければならない事を聞くと笹の民の参戦はマイナスに聞こえるだろう。

 だが、一方でプラスもある。それは笹の民が持つ防衛能力。長年色んな外敵から身を守る為にノウハウを蓄積していた笹の民は結界や防衛陣構築など多種多様な防衛能力を有している。地下にわざわざ拠点を作り上げられるほど、防衛意識及び建築能力に長けているのだ。笹の民がいれば頭数の少ないノート達ではカバーしにくい所までカバーができ、Heoritの侵攻を広く高い精度で防ぐ事ができる。気づかないうちにHeoritが本丸まで突入してしまうというリスクを0に出来るのでノート達も後ろを気にせずに戦う事が出来る。アタッカーばかりなノート達にとっては非常に大きなプラスだ。

 更に、エインの結界術とタッグを組めばイザナミ戦艦は鉄壁の防御力を発揮し一方的にHeoritに弾を撃ち込める様にもなる。

 更に更に、NPCとの共闘は色々なボーナスを発生させ、ランキングにも大きな影響を与えてくる。ここで完全に笹の民を切り捨て、子供であるヤーッキマとテルットゥにだけ助力を求めるというのは色々な点を加味してもプラスとマイナスの釣り合いが難しいのだ。


 そしてノートが最終的に選択したのは共闘。笹の民側からの意見も加味し、ノートは共闘を選択した。笹の民側全員にもリスクを承知してもらった上で、共闘を受け入れた。


 笹の民はNPCなので最悪幾らでも切り捨てられるが、笹の民が抑えているのは転移門を有する場所。関係悪化は今後全体の行動に支障をきたすリスクがある。故にノートは徹底して笹の民側との関係が悪化しない様に手を打っていた。夜に絶対に休ませるのもその為だ。


 そして夜に絶対に休むという前提があるなら、最初から戦略として昼と夜の2つの戦い方を用意すれば良い。その方がスムーズにいつでも戦えるという訳だ。


「(ALLFO内の夜はHeoritの沸きが控えめだからこそ取れる作戦でもあるがな)」


 その戦略も夜だろうが容赦無く攻めてくる後半期だとかなりキツくなっていたが、それも白銀個体の出現でかなり楽になった。防壁の外さえ守っていれば極端に手数が足りないという事態も少なくない。

 飛行型は防壁を簡単に超えてしまうが、本体が特別硬い訳ではないしスピードでもレクイエムを大きく突き放していない。レクイエムが分身して面でカバーすれば大抵はどうにかなる。レクイエムの分身とドレインは最恐のシナジーを生む。

 何せ分身は脆い癖に本体は死なないのだ。分身そのものは簡単に殺せるが、それによるダメージは分身全体にフィードバックされるのでダメージを負っていない分身までドレイン能力を発動する。集にして個の性質とドレイン能力の組み合わせはあまりにも凶悪だ。イザナミ戦艦がHeoritに纏わり付いたレクイエムの分身諸共Heoritに攻撃するのは苦肉の策では無い。レクイエムのドレインを最大限まで活かす戦法なのだ。


 もし、召喚術師や調教師にイベントポイント獲得に纏わる制限を設けていなかったら、討伐系のランキングは間違いなくノートに制圧されていた。そのレベルで強力な戦法なのだ。味方だから良いが、ノートでさえも敵だったらクソ過ぎて嫌になると思う程度には悪魔的なシナジーだった。


(アネ)さん!」


「おうっ!」


 そして戦術が固まってきたのはノートだけでは無い。アサイラムのメンバーも連日イベントに参加して色んな組み合わせで戦闘を行い其々が適切な戦い方を学んだ。


 1番大きく成長したのはカるタだろう。GBHWで慣らしはしていたが、ALLFOだと勝手が大きく異なる。同じゲームをやっていれば根底にある考え方はなんと無くは理解できるかもしれないが、ALLFOはビルドが変わってくるしGBHW自体がゲーム的にキワモノなので参考にならない点が多々ある。

 何が出来て何が出来ないのか。自分の能力と何が噛み合うのか。それを強敵と戦いながら学び続ける。考え続ける。連日ボス級が攻め込んでくるこのイベント期間中はカるタにとって刺激的な毎日だった。久しぶりに本業をほっぽり出してゲームを続けたいと思える時間だった。


「イイね。カるタくん仕上がってきたじゃん」

 

「イベントでランクを上げやすいってのはかなり大きいっすね!」


 カるタの言う通り、今のALLFOはランク上げの最適な期間だった。

 ランクは経験値を貯める事では無く、難行を乗り越える事で上がる。戦闘系プレイヤーで言うなれば、自分にとっての強敵を倒せば良い。

 その点、プレイヤーのランクに応じて強さを調整してくれるシナリオボス(キャンプ地で再戦可能)はALLFOに於ける救済措置となっていたが、同じ敵と繰り返し戦い続けるだけではランク上げの効率が下がっていくので、、シナリオボスで無限にランク上げができるわけでは無い事も確認されていた。

 結局のところ、同じ敵と戦い続けていればいずれは作業になってしまう。それでは難行を乗り越えた、とは言いづらい。そこもALLFOの繊細な調整だった。


 後発は周囲のプレイヤーから効率良く技能を学び、シナリオボスでランク上げ。ある程度ランクの伸びが悪くなったら再び基礎を学んだり新たな戦略を考えて土台を補強し、次のシナリオボスへ移動してまたランク上げ。これが今のALLFOの後発組のトレンドだ。

 他のオンラインゲームと違って『経験値豊富な敵を効率良く倒して楽してレベル上げ』みたいな事が出来ないので、ALLFOでは自然とこのやり方が定着した。抽選式の為友人と揃ってスタートできる確率の低いALLFOに於いて、後発組の効率的なランク上げの研究は急務と言えた。そして色んなプレイヤーが効率的な方法を研究した結果、結局堅実なこのやり方が1番速いという結論になった。このシステムのせいか、ノート達の様な異常なルートへ次々と突撃しない限りランクもある程度収斂していく。ALLFOにレベル(ランク)上限(キャップ)が設けられていないのも、このシステムによる所が大きい。


 その点、このイベントは強敵と言えるボス級が毎日出現する。その上Heoritのバリエーションが豊かなので色んな難行を経験出来る。ランク上げがし易いとなればイベントに強い興味が無くても自然とプレイヤーのログイン率は上昇し、結果的にイベントが盛り上がる。最初こそ急にぶっ込んできたハロウィンイベント、その上コラボイベントという状態に対して批判の声を上げるプレイヤーも少なく無い数居たが、今はその声は殆ど無い。特に批判の声が多かったシナリオボス討伐イベントとブッキングしたサーバーは批判の声を上げる暇もない程の修羅の国となっているらしく、凄い勢いでランクが上がっていると評判だった。

 最終的な決め手は「ロストモラルみたいなのがいないだけマシ」というノートとしてはなんともコメントしづらい話だったが、実際Heoritはキャンプ地周辺にも沸きこそすれどキャンプ地に対して強いヘイトを向けて襲いかかるわけでも無く、スタンピード中に湧くモブとHeoritがぶつかる事でプレイヤー全員がキャンプ地防衛に動かなくてもなんとかイベントは成立しているらしい。


「(世界全体で国家サーバー間の開通が活発になる前にある程度世界全体のランクを揃させようって訳か?やっぱり突発的に見えてこのイベント相当前からしっかり準備していた可能性が高いな)」


 サマーキャンペーンのプレイヤー枠大幅追加で国家間の差は殆ど無くなった。最初こそ日本、アメリカ、中国の枠が多かったが、その後のプレイヤー追加は他の国が優先的に行われたからだ。自然とシナリオ進行度も足並みが揃い始め、このイベントでランクも揃うという感じだろう。更には百数十万単位で新規枠が各大サーバーで追加されたことで新規が一気に流れ込んだのもより活発化を狙っている機運を感じさせた。中には一部を希望に応じて特殊抽選で人数が少ない月面サーバーや火星サーバーに割り振る動きもあり、今回のイベントでユーザーが数千万単位で増えたと言われている。


「(つまり胡座をかいてると俺達も危ないって事だ)」


 今までのアサイラムの無双は初期得やプレイヤースキルの高さなど色んな要因が有ったが、そもそも平均的なプレイヤーに対してランクが圧倒的に高かった。ランクの差はスタンの発生率や妨害系能力のレジスト、或いはノックバックの発生率など色んな部分で影響を及ぼしてくるので、集団相手だろうがアニメの様に無双できた。この差が無くなってくるという事は、単純に今までの様な無双が出来なくなる。人数が増えれば更に脅威度は増す。

 初期特もプレイヤースキルも絶対的な強さでは無い。人間であるが故に、ゲームであるが故に限界がある。ノート達が最前線で走り続けるには、やはり常にチャレンジしなければならないのだ。


「その為にも頑張ってくれよ白銀ちゃん」


 ヌコォがヘイト率などを調整し、ノートが舞台を整え、スピリタスとカるタが処理し、最後に白銀個体に喰わせる。この動きをパターン化する事はノート達にとって難しい事ではない。白銀個体はHeoritを喰わせれば喰わせるほど着々と強くなる。戦わせても強さ自体は殆ど変化しないアンデッド達に対して、白銀個体は育成する楽しさがあった。

 反面、ランキングの伸び率は下がったが今は我慢の時だ。焦ってはいけない。無論、本当に最終日に何か起きるかは単なるノート達の勝手な予想なのでこのまま何も起きないまま終わる可能性も十分ある。その場合、白銀個体にトドメを刺させる様に立ち回るのはランキング的に無駄な行動になる。つまりこの行動はある種の賭けとも言えた。

 賭けに勝つか、負けるか。1番ダメなのはどっち付かずの対応をする事。派手に負けてもそれはゲーム。人生と違って取り返しは付く。自分がより楽しめる方に動いた方がゲームは楽しいに決まっているのだ。


 ノート達の賭けは正解か、誤りか。その答えは最終日に持ち越された。

コラボイベント(難易度インフェルノ)

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[一言] 育成ゲーム「白銀ちゃんの育て方」 白銀ちゃんにたくさんのご飯を食べさせて白銀ちゃんをパワーアップさせ新たなご飯を見つけてあげましょう
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