No.Ex 外伝/それ逝毛!主任マン~クソゲーみたいな会社に勤めている主任はどうすりゃいいですか?~O
これは予約投稿なので実質休み
ギガ・スピがちょうど一年前という事実に震える
行くぞ間章ラスト!
GM=運営。
オンゲに於いては、この図式が一般的だ。
実際に世界を創り、デザインし、電子の世界に実体を与えるのが『開発』の役割なら、その箱庭を円滑に統治するのが『運営』の役割である。時にイベントの告知をし、時にトラブル対応に走り、時にプレイヤーの疑問に答える知識者として。他の物に置き換えるのならば、電子世界を束ねる政府。そんな運営に求められる役割はかなり多岐にわたる。
だが、ことALLFOの運営は通常の『運営』とは異なる実体を持っていた。
本来、運営が行っていたアナウンスなどはAIが自動で行い、ゲーム内でのトラブル仲裁や、質問に対する解答まで、ゲーム内のNPCがある程度代行を可能とする。サポートAIがいるだけで大抵は事足りてしまう。
では、なぜ運営があるのか?
それはひとえに、AIに対する監視の意味合いが大きい。AIが発達し、人間の能力を遥かに超え始めた22世紀現在、AIの及んでいない分野を探す方が難しい。大規模農園、工場、水産から牧畜、養殖、建設、運送などから店の経営、経理まで、更には取り調べから裁判までをも行い、ハードの発達と同時にAIは常にアップデートを続け、人間よりも高い応用能力と精密性を身に着けた。絵画や音楽の方面でも、生産スピードではAIに勝てない。AIは漫画を描き、作曲をして、架空の人物を作り出して本当の意味でのバーチャルなアイドルとしても活動できる。過去の凡ゆる天才達が生み出した人類の叡智が、人間に対する最適解を弾き出す。その能力にもはや人間は敵わない。
創造性というアドバンテージですらも、AIは人間のほぼ全てを超えていた。
しかし、だからと言ってAIに全て任せきりにすると『管理者責任』の問題が付きまとう。
AIが、ロボットが、もしミスをしたとき、責任の所在はAIの開発者にいくのか、それともそのAIやロボットを運用にする者にあるのか。
自動運転という概念が一般化し始めた21世紀の時点から既にその論争は続いていた。
その論争に対する暫定的な対処法が『AI及びロボットを運用する場では、必ず申請を行い、業務に応じて一人以上人間による監視・管理を行う』という制度を設ける事であった。人間を主体として、そのサポートをするAIという立場から、AIを主体として、人間がそのサポートに回るということが当たり前の世界になったのだ。
ALLFOは、GoldenPear自社開発のAI【SOPHIA】による公平にして完璧な管理を売りにしているゲームだ。ただ、規模が規模なだけに、そのAIを支えるという“名目”で配置された人員、一般的なプレイヤーが所謂“運営”として見ている人員が数多く、サーバーごとに配置された。職業の選択肢が狭まり、無職数の増加が社会問題となっているこの世界に於いて、ALLFOを運営するGoldenPear社は非常に大きな雇用枠を創り、社会に貢献したというわけである。
と言っても、運営として採用された者達が、そこらへんに居るような大学生をただ拾ってきたような者達ではない。
GoldenPear本社に元々勤めているエリートたちをメインフレームとして、性格などの適性診断など色々なテストを乗り越えた者の中でも一部の人員だけが運営に選出された。
その“運営”はALLFOのテスターも兼ねており、基本的な業務はテスターとAIの監視、プレイヤーの実態調査とプレイヤーから集中した要望や疑問などに対する解答、となっている。部屋ごとに運営は割り振られ、24時間体制で常に世界の状態を見張る。時には他サーバーの運営とも会話する機会を設け、情報交換やプレイヤーの傾向を話し合ったりする。
要するに、ALLFOの運営は与えられたフォーマット通りに動いているだけで、実はゲームの開発などには一切かかわってないし、開発側が何を考えているのかもしらないのだ。
彼らに許されているのは、ALLFOの情報の閲覧だけ。その代わり、彼らの持つ固有のアカウントは常にGoldenPear社に監視され、余計な事を口外したり、勝手な興味で情報を漁ろうとすればその時点で放逐される。彼らの動きは契約でガチガチに縛られており、その契約を破ることは許されない。その代わり高給が約束されてもいるのだが、一応権限としてAIが反応しなかったトラブルなどに干渉する能力はある程度持っている。
例えば、公式チート能力持ちのプレイヤーが初心者だらけの街でプレイヤーを八つ当たりで狩りまくったりするのを止めたり、なんていうのも、権限として一応許されてはいるわけだ。
だが、とある一件で、その権利などあってない様な物だと運営達は知ることとなった。
反船。あの一件で運営が動こうとした時、今まで基本的に静観を保っていた開発が急に動いた。脅迫までして運営の動きを封じた。
所詮、お前らなんて私達の手のひらの上にいる、お情けでの人数合わせで用意しただけで、監視以上の役割なんて求めていない、と。本気でAIに管理させれば全ての業務に於いて人間なんていらないけど、社会貢献として雇用枠を与えるために、名目上運営という名前を与えているだけなんだと。
勘違いするなよゴミ共が、と上層は運営達の意識に刻み込んだ。
そのお達しは、日本サーバーの運営だけではなく、全ての運営に行われた。
人によっては余程怖いことがあったのか、暫く青白い顔で勤務していた。あまりにも堂々とした脅迫。しかしそれに単なる人間が太刀打ちできるわけがない。GoldenPear社というのは、それだけの力を持った企業なのだ。SNSにもその手は及んでおり、不都合な情報は幾らでも消すことができる、と言われている。弁護士だってGoldenPear社を敵に回したくない。最高峰の弁護士達の知恵も併せ持つSOPHIAとタッグを組んだ最強の弁護団と誰が競り合いたいなどと思うか。ドラマとは違うのだ。圧倒的な不利をひっくり返す事ができる個人などほぼ存在しない。
例え万万が一、訴訟して勝てたとしても、その後に人生はまともな物にはならない。
はてさて、このようにしておいて、モチベーションなど湧くだろうか?いや、湧くはずがない。
ALLFOの運営チームには、暫く通夜のような雰囲気が漂っていた。
◆
「(ALLFOの開発チームってなんなんだ…………?)」
モニターの前で、T君はとある名簿に目を通していた。運営チームに渡されている連絡網の様な物だが、そこには開発チームの名簿も載っている。運営チームとしてT君も開発チームとは話したことはある。けれど、思っていたよりも自分たちの接する開発チームの面々は開発に深く関わっていないような気がした。どちらかと言えば、開発チームのマネージャー、対外的な窓口の様な雰囲気を感じたのだ。
「(ALLFO開発最上級本部。恐らくこれが表にも出てこない様なALLFOの本当の中核、なのだろうか)」
GoldenPear社は色んな分野で幅を利かせている。
ALLFO、GBHWを始めたとしたゲーム部門。
SOPHIAを始めとしたAI開発。
第七世代機器など何世代にもわたり時代そのものを創ってきたVR技術。
配信サイトやSNSなどのプラットフォーム。
「VAEL」を始めとした、ARを用いたアミューズメントパーク。
月面基地や火星基地の管理を行う研究機関。
翻訳技術や遺伝子分野、機械開発、宇宙開発などにも膨大な投資をしており、22世紀に用いられる殆どの技術に於いて最高レベルの機関を持っているのがGoldenPear社という組織なのだ。
だが、T君は少し不思議に思うことがあった。
『主任、GoldenPear社の【SOPHIA】の開発って、いつからおこなわれていたんすかね?ALLFOにガッツリ組み込まれてるってことは、ALLFOの開発がされる前には既にSOPHIAができていたってことが既に実用段階にあったって事っすよね?』
『やめろやめろ。難しい事をこれ以上考えさせるな。いいか?脳にストレスをかけることは頭皮に対してあまりいい影響を齎さないというのが——————』
ニワトリが先か、卵が先か。
SOPHIAは今の所、ALLFOの運営のみに活用している、とされている。本当は既に世界的組織に技術提供しているとかなどという噂は聞くが、実体を知る者は殆ど存在していない。プレイヤー達にとっては既に当たり前の様に馴染んでいるSOPHIAの統治だが、実際にゲームを管理する上で、運営達の方がSOPHIAの凄さを実感することの方が多い。
人間には決して太刀打ちできない思考速度と知識量。トラブル対応までどのように学習させたのか人間よりもスムーズで的確な判断を下して鎮圧させることができる。ただ場当たり的に全て対処するだけでなく、時にプレイヤーだけの単独の問題解決ができるように見極め、プレイヤーに主体性と自由度を与える。
SOPHIAの凄さを知れば知るほど、自分たちは制度上仕方なく雇われているだけで、本当は人間無しでも円滑に運営できるだろうなと運営は知らしめられる。
運営がひーひー言いながら解答しているプレイヤー達からの質問や要望も、SOPHIAが選別して、人間にもすぐに答えられそうなものをピックアップして任しているだけなのだ。SOPHIAがリアルタイムで捌いている質問量や業務量に比べたら、銀河系と月の大きさを比べるよう規模感の違いがある。自分たちが必死になって捌いている仕事でも、その仕事量はSOPHIAが体面を保つためにお情けで斡旋した仕事でしかないという事実を、運営達は徐々に実感していくのだ。
「これが、本日の観察記録です」
「…………ご、ごくろうさん」
本日も、またこの時間がやってきた。3日に1回、T君を始めとした『祭り拍子』監視チームは、『祭り拍子』に関する情報をまとめた物を主任に提出する。主任が勝手に作ったチームだが、もはや日本サーバー運営チームの全会一致で正式なチームへと昇格しており、それだけで如何に『祭り拍子』が日本サーバーで爆弾案件になっているのか理解できるだろう。
それはそれとして、主任自身で提出する様に命じておきながら、いざ報告書を持ってくると嫌そうな顔をするのだけはどうにかならないかとT君も思ってしまう。
「最近は例の都周辺での活動が多かった様ですが、ひと段落して些か不穏な動きを見せ始めています。特に掲示板ではPKに対して入れ知恵をしており…………」
「それもそうなんだが、よりによってあそこがあの神寵故遺器を持ってったか………………」
「あんな強引に巣を突破された時点で、いずれ信じられない方法で取得しそうとはなんとなく予想してましたけどね」
「なんか………………随分と、逞しくなったな」
「何度も何度も心臓に悪い物見せられてますからね。だんだん嫌な意味で慣れてきます。それに、アレって特殊条件を満たさないと完全体にはならないタイプのファクトなんで、まだマシじゃないっすか?」
「いきなり完全体を手に入れでもしない限り、まだマシか………………ホントかぁ?その代わり汎用性が極めて高いファクトだぞ?」
不安から頭を掻きむしりそうになり、ハッとした様に手を止める主任。どうせVR空間なんだから掻きむしっても変わらないのに、普段から癖がつかない様にと最近は気をつけているらしい。代わりに、頭へ持っていった手をしわの寄った目頭へと持って皺を解きほぐす。
「何でこう、針の穴に糸を通す様な事が平気でできるんすかね?あの漆黒の狂戦士って相当な強さっすよね?戦力値評価では、戦う陣営の属性にもよりますが、ランク90オーバーくらいってなってましたけど」
「俺も調べたんだが、そもそもあのエリアは最低でも第6章以降でようやく到達出来ることを想定されてるエリアだ。1章で世界観に慣れ、2章で決闘などプレイヤー同士でも戦えるシステムに慣れてもらい、続いて3章で環境の脅威と、2章以降で解放された職業や魔法、スキルを研究し、3章が終わると海外サーバーとも開通が始まる。そんで4章では世界接続の混乱に慣れてもらって、5章で大規模戦闘に慣れてもらい、6章で徐々に世界観の追求がようやく始まる。例えば、正規ルートの逆のルートにいる裏ボス共とか、ファクトとか、禁足地、封印地の解放とか………………」
「そこをストレートに進み続けてるのが『祭り拍子』なんすけどね。既に封印2つ解いてますし、最低でも9章以降の大規模イベント起こしてますし、このままだと隠しダンジョンとか発見しちゃいそうっすよね。ほら、あの中立エリアのヤツとか」
「それは流石にないだろ〜?」
この時、主任も流石にそこまで裏ルート一直線で行くとは考えてなかった。が、後に『祭り拍子』は特定の条件を満たさない限りそもそも認識すらできない隠しダンジョン『禁忌菜園』を発見してしまう。
そこでノート達がボコボコにされた様子には多少、普段の鬱憤が晴れる事もあったのだが、次第にあの初見殺し環境でも一矢報いてくるノート達に恐怖した。
初めて運営陣がテストで挑んだ時は、チームを分断され、連絡も取れず、環境という魔物に飲み込まれ一切思う様に動けないまま死んだのだ。本来であれば、あのエリアはシナリオもかなり進み、エリア通話が当たり前の様にできる様になった後に挑む場所。ある種メタ的な要素を含んでおり、散々エリア通話に慣れしたんだプレイヤーだからこそ苦しむ。
よしんばテキストで会話できても、エリアごとに全く別のダンジョンの様な環境が用意されているため、何が正しいのか、何が起きているのか理解できない。理解できないまま、環境と物量の合わせ技でぶん殴られて死ぬ。そのはずなのに、適性ランクよりかなり下回っているのに、祭り拍子の面々は健闘した。テスターチームは適性ランクで挑んだにも拘わらず一体も倒せなかったチームもザラだったので、余計に『祭り拍子』の異常さが浮き彫りになった。
「(『祭り拍子』の面々が裏スレで色々画策してるのはいつもの事なんだけど、最近のPKスレへの書き込みはなんか狙いがありそうで怖いんだよなぁ。主任はファクトばっか気になってるみたいだけど、それ以上になにか嫌なことが起きそうな予感がする…………)」
報告書を眺めながら頭を抱えている主任を見つつ、妙な予感に震えるT君。
その予感は、すぐに間違いでないことに気づくことになる。
競馬スレはなかった。いいね?
今後の予定は活動報告にて




