盤外編:Pail Pilot ヌコォのターン
正月ゲリラ砲ーーー発射ーーーー!
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( つニ∩,---' ̄ ̄ /YY\
(__ノ"(__)
「う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
「ヌコォさん?大丈夫?」
「この機関銃、反動が、ぐっ、パワフル」
片翼から火を噴きながらも空を飛ぶ飛行機型の戦闘機。側面に備え付けられた超伝導機関砲を相手基地目掛けてぶっ放し、反動でぶるぶると震えるヌコォ。
かなり雑な飛行をしながらも2人は息ぴったりで、相手基地から出撃しようとした戦闘機がヌコォの放ったミサイルで落とされる。
「兄さん、敵基地より対空攻殻兵、飛行魔導兵、攪乱工兵の一小隊が出てきた。機関砲対策されてる。狙いは完全にこっち」
「武装切れで手の打ち用がないな。よし、堕とすぞ。俺達は紐なしバンジーだ。ジャミングできるか?」
「わかった。やってみる」
多くは語らずともプランを素早く立てて動き出すノート達。一方同乗者の数名はポカンとしていた。
「え、僕たちどーすればいいんですか!?」
「てか何する気!?操縦は!?」
「このまま撃ってていいの!?なんかワラワラ基地から出てきたよ!?」
「あー、この飛行機もう持たないから、このまま敵基地に突っ込ませる。俺達は飛行機の外に張り付いてこの質量兵器が空中で破壊されないように敵の攻撃を妨害する。以上だ。このまま乗ってても死んじまうなら、せめて派手に吹き飛ぼうぜ」
「さっきの会話だけでそうならないでしょ!?」
「いーからいーから」
緊急脱出口を開け、機内にフックをかけて躊躇いもな飛び出すノートとヌコォ。情工魔囁兵であるヌコォは飛行機の周りにジャミングを張り巡らせて敵の自動反撃系の兵器を妨害し、ノートはドローンを敵小隊に突っ込ませて嫌がらせをし始めた。
「どーすんの!?」
「どーしよーもないでしょ!僕たちも外にでなきゃ!」
フルフェイスで顔が隠れているため年齢は不明だが、話し方的におそらく高校生っぽい同乗者達はワーワー騒ぎながら一部はビビりつつ外へ出てノートの指示を受けながら敵対空部隊を妨害。一部は飛行機の中に残る事を選択して備え付けの銃でやけっぱちになりながら敵を撃ち始めた。
「これ本当にこのまま落とすのか!?」
「自動操縦へ行先は敵基地に設定してあるぞ。どんなミサイルよりも確実に破壊をお届けしようじゃないか」
「このまま俺たちも死ぬって事ぉ!?」
「アンタ頭おかしいよ!」
「お褒めに預かり光栄だ!」
落下していく飛行機。それをなんとか空中で破壊しようと試みる敵軍。飛行機にそこそこのダメージを与える事に成功するが、爆破までには至らない。
「さぁ逝くぞ!」
「「「「うあああああ!!!」」」」
飛行機と共にあるノート達は一蓮托生。同乗者達は落下の衝撃を恐れて目を瞑るが、ノートとヌコォは一か八かワイヤーを切り離して飛行機から離脱。紐なしバンジーへ移行して落下する飛行機を見送る。
大炎上し黒煙をたなびかせながら敵基地に堕ちていく飛行機。ミサイルへと早変わりした飛行機は見事敵基地に突き刺さり、敵基地の情報戦略棟が見事に吹き飛んで黒いキノコ雲が浮かんだ。
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長らく第七世代VR機器用のゲームの地位をALLFOが独占していたが、GBHWを皮切りにAIの情報が集まったのかチラホラと7世代用のVRゲームは増え始めていた。
その中でもこれまたGoldenPearブランド系列のFPSタイプゲームのテストモードが一般解放された。
それが【Pail Pilot 7Gear】。シリーズとしては7作目に当たる人気作だ。
下地は第二次世界大戦近辺の戦争系だが、そこに魔法の要素を組み合わせた世界観をしており、魔法が科学技術の一つとして兵器に用いられている。
基本的な流れはプレイヤー達は幾つかの陣営に分かれて、敵基地を破壊するか敵基地のフラッグを強奪し自陣まで持ち帰るか、一定数以上の死傷者を出すかと制限時間まで戦闘を続け、各戦功を評価し最終的により多くの成果を上げた陣営の勝利となる。また特徴として、敵味方にもNPCがおり、NPCだけの陣営もあるので過疎を一切気にする必要がないし人数調整も適切になっている。
テストモードなのでまだトロフィーやプレイヤーランクなどは導入されていないが、旧作を触った事がない人の方が多い為今のところ一方的にどちらかの陣営が勝つという事態には陥っていない。
そんな【Pail Pilot 7Gear】のテストでは、一般のテスターに対してGoldenPearからの依頼を受けてテスターを行っている者が少数存在している。
それは宣伝役を兼ねた配信者だったり、プロゲーマーだったり。特にプロゲーマーは事務所全体への依頼となるケースが多く、そのテストにヌコォが選ばれた。まだ正式にプロにはなってないが事実上既に活動を開始しているので、研修を兼ねての選出らしい。
そのヌコォに声をかけられてノートも一緒に【Pail Pilot 7Gear】のテスターをやっていたが、GBHWほど滅茶苦茶な自由さは無いが、戦略性やバランスという観点では古き良きFPSを今なお保ち続けながらもPail独特の面白さもある極めて良いゲームだと感じていた。
「これテストモードだから上限が低めだし持ち越し要素は未実装だけど、試合中にもステ振りしたりアイテム集めたり金を稼いだりと滅茶苦茶沼っぽい要素があるな。この個人ベースもフィールドで集めた武器やお金で強化できるだろう?少しRPG要素が混じってるって言えばいいのか?ハマったら一生抜け出せないタイプのFPSだ」
「凄い根強い人気があって、沼要素が多すぎて最初の一歩を踏み出すハードルが高かったから、今作は初心者でも何をしたらよいか分かる様にチュートリアルを徹底しているらしい。大昔にコアな人気を持っていたハードコアFPS系統のゲームを血を引いているとかなんとかって書いてあった」
「へぇ~」
装備などを整理したり、スキル取得をしたり個人基地で通信を繋いで作業しながらノートとヌコォは駄弁る。ノートとヌコォの個人的な感触としては極めて良好。抽選式から自由販売に漸く移行して更に所持数が爆発的に伸びている第七世代VRのユーザーの受け皿として機能するだけの力はあると感じた。
「しかし、テストってこんなもんでいいのか?」
「テスターとデバッグ担当は別っぽい。事務所から依頼された時に私もいろいろ聞いてみたけど、指定タスクは少ないし、生の意見をフィードバックする方が喜んでもらえるんだって。そもそもテストで挙げられる修正点は開発も理解してて、デバッグでだいたい挙げられるし、大体はアプデで直すつもりとからしいから、デバック的なテストは要らないって」
「なるほどねぇ」
「あと関係ないけどテストで少し面白い話を聞けた。ALLFOってどの事務所にもテスト依頼が出てないんだって」
「あ~。確かに言われてみればβとかもなかったし、本当に軽い動作テストみたいなのはあったけどそれぐらいだったような気がするな。七世代初で広告もバンバン撃ちまくって話題性だけで最初は勝負してたよな。そう考えると確かになんでテストやらなかったんだろうな?」
「噂では、社内でテストも全部完結してたとかなんとかって」
「あ~。まぁGoldenPearが本腰入れてやってる企画ならそれぐらい人を集められるのか」
ノートはフィールドで拾った変なアイテムを個人基地に並べていき、とあるフィギュアを見てなんとも言えない表情になる。
「俺もどーでもいい話していい?なんでALLFOにもGBHWにもPPGにもセクシー大根がいるの?」
ノートが飾ったのは銀色のセクシー大根のフィギュア。ふざけた見た目をしているが一応護符枠になっていて素早さと足音を下げる効果を持っており、換金してもそこそこいい金額になるという優秀なアイテムだった。
「私は虹色のセクシー大根を拾った。多分かなりレア。トリップモードになれるって」
「大丈夫かその大根。マジックマッシュルーム系の奴じゃないのか?」
FPSだけど一方で収集要素もあり、【Pail Pilot】では自分の個人基地を見せ合うのも一種の醍醐味だった。
「次はどうする?先に兵科を指定してくれると装備も決めやすいんだが」
「【暗霊特兵】、【機戯工兵】、【大宝輜重兵】、【統魎軍兵】…………兄さんが得意な兵科はこのあたりだと思うけど、どれがいい?」
「どいつもこいつもトリッキーな兵科だなぁ。王道バ火力の【覇砲躙兵】とか【対空攻殻兵】、【飛行魔導兵】、【軽麒歩兵】、【万獣装兵】とかじゃなくて、敢えて不人気兵科をね、勧めてくると?いやまぁ、だいたいその通りだとは思うけど」
「ノート兄さんこの手の兵科の運用方法を見つけるのが上手だから、いいフィードバックができると思って」
「は~ん、そんなおだてても何もできないよ?」
そう言いつつも、ノートは今のテストモードだと本当に一番人気の無い【大宝輜重兵】を選択した。原型は『輜重兵』。主に軍需品の輸送を担当する兵科だ。【大宝輜重兵】の特徴は二つ。耐久性の高さと並外れたアイテムストック量と個別保持ストック量。沢山のアイテムを持ち歩き、死んでもリスポンした時にロストせず引き継げるアイテムストック枠である個別保持ストックが多いが、本当にそれだけ。耐久性が高いと言っても耐久性全振りの【鎚護鱗兵】には劣るという何とも言えない性能。宝を守る竜の名を冠しておきながら雑魚という悲しい兵科だ。
アイテム容量が多いので戦闘終了時多くの荷物を個人基地に持ち帰ることが出来るという非常に自分勝手なメリットだけは絶対的なアドバンテージだが、しばらくしたら全リセットされるテストモードではこのアドバンテージも大して意味を持たない。
「このままだと【大宝輜重兵】は手っ取り早く強くなりたくて、その試合捨ててファームしたいだけの地雷プレイヤーだけが使う兵科になってしまいそう」
「まあテストの段階で既にそういう評価になってるってことは、開発ももちろんそれを理解している筈だ。その上で実装してるってことは別の運用方法がありそうだな」
ノートが注目したのは個別保持ストック量。
【Pail Pilot】はFPS系でありながらフィールドで得たアイテムを保持することができるが、死ぬと得たアイテムと装備品はその場にドロップしてしまい周りのプレイヤーに取られてしまう。
しかし死ぬたびに全てのアイテムがドロップしてしまうわけではなく、一部のアイテムは死んでも引き継げるので死ぬたびに裸一貫スタートということにはならない。そのドロップしないアイテム枠を個別保持ストック量と呼ぶ。本来は必要最低限のアイテムしか保持できない個別ストックだが、【大宝輜重兵】はその個別ストック枠も大きいので、本来持ち越しできないロケットランチャーやスナイパーライフルなど大型の武器も引き継ぎすることができる。
武器補整ナシ、魔法も普通、移動も普通、操縦も普通、アイテム多く持てるだけ。この条件で如何に周囲と競り合うか。ノートはアイテムをよく吟味し、ヌコォと色々と戦略を練り、2回目の戦闘に出撃の用意を整える。
一方、ヌコォはフィールドで得たとあるアイテムをジッと見つめていた。
それはとあるゲームのマスコット的なキャラクターのストラップで、元は【Pail Pilot】とは関係のないキャラだ。初代【Pail Pilot】の監督と、そのキャラクターが使われたゲームのキャラクターが一緒で、あまりにそのキャラクターがゲームから独り歩きするほど人気が出たのでセルフコラボしたのだ。
そこから【Pail Pilot】にはそのキャラのストラップが実装されることが恒例になり、最新作となる今なおその慣習は続いていた。
なんの変哲もないコミカルなストラップ。
しかしそれは、ヌコォにとっては思い出深い品だった。
私はヒロイン1人1話の制約を守れないアホです
去年の今頃はギガスピ。そこからだいぶ進みましたが、こうして脱線してると永遠に終わりが見えない




