盤外編:鬼に金棒、悪魔に地雷+ スピリタスのターン
能力再掲
1:【LoveMaker】
武器改造・爆弾 金
2:【PoppinPop】
空中跳躍・反射 橙
3:【Rizin Drive】
電撃操作・運動強化 真紅
4:【MistHell】
闇素操作 黒
5:【SilverKey】
召喚攻撃 銀
6:【SpaceGear】
空間支配・転移 青
7:【HollowTrick】
精神付与・眷属創造/念力 藍
8:【HeavyMoon】
重力・溜撃 紫
9:【AdamasBehemoth】
硬化・怪力 黒灰
10:【LeviathanBlood】
高速回復・血液操作 緋色
11:【HeavenlyLighthouse】
光・認識思考強化 白
12:【KamikazeSoul】
風・身体速度強化 緑
13:【CostumeScylla】
触手・肉体改造 桃
14:【SaturnCat】
トリックムーブ・暗視・聴覚強化・爪・落下ダメージ減少・跳躍 黄
15:【OldElements】
四元素干渉 虹
16:【GrayEmperor】
物質の性質変化・硬柔弾性摩擦変化 灰
3段階目の2vs2は、決勝戦を除いて戦場がランダムで選ばれ一試合ごとにセットする異能と装備する武器を変えることが出来る。
2作目のGBHW・Neoでは雑多だった異能が16種類に整理され、異能の強さがより強さに直結するスタイルになった。故にどの異能をセットして戦うか、戦闘前に各コンビが入念に吟味して挑む。
決勝カードの『比翼連理』と『Orthros』はその異能選びでは対照的だった。
『比翼連理』は硬派な異能固定スタイル。
男が選ぶのは三つ。
触れた物を武器に改造したり爆弾に変える金色のオーラが特徴的な【LoveMaker】。
自由度は異様に高いが扱いが極めて難しい闇の霧を操る黒のオーラが特徴の【MistHell】。
そして彼の代名詞とも言えるレベルで使いこなす高難度異能、物体に意思を与えて操る実質的なサイコキシネス【HollowTrick】。
自分では攻めず、操作系と搦手主体の後衛特化の編成だ。
一方で女が選ぶのは三つ。
硬化・怪力の力を与える【AdamasBehemoth】。
高速回復と血液操作を可能とする緋色の異能【LeviathanBlood】。
電撃操作と運動性能強化を齎す真紅の電撃【Rizin Drive】。
見事に近接超特化の編成だ。
対モンスターでは溜激と重力操作をする紫の【HeavyMoon】を選んでいたが、対人ではリヴァイアサンに変えて持久力を飛躍的に上げている。
対して『Orthros』は相手の戦略に合わせて異能を変える戦略。普通なら逆に熟練度不足で潰されるのだが、そこで潰れないからこそ彼らがプロたる所以と言えよう。自分と相手の相性を見定め最適解を導くことに彼らは長けていた。
といってもある程度はパターンがあり、転移や空間操作に長ける青の【SpaceGear】、思考力強化と光の操作を可能とする【HeavenlyLighthouse】など単純に強くて人気の異能を中心としたデッキで攻めてくることが多かった。
三つ以上も選べる異能だが、スタミナ消費的にも一番バランスの良い3つだけを崩さない事だけは双方共通していたが、それ以外は真反対だ。
戦略を固定することで相手に対策は取られるがそれを真っ向から打ち破ってきた『比翼連理』と相手に合わせて弱点を徹底的に突いて連携を壊してきた『Orthros』。決勝でぶつかるカードとしては面白い組み合わせ。
準備段階に入り、やはり『比翼連理』は速攻で異能を決定。一方で『Orthros』は未だ怒りが収まっていなかったが冷静に彼らを打ち破るための異能の組み合わせを考えていた。
決闘だけはフィールドも事前に判明している。一番単純な競り合いが求められるサバゲーステージだ。少数VS少数専門のフィールドでも一番スタンダードで盛り上がる。
円形のフィールドに障害物がいくつもあり、その障害物をいかに駆使し、相手に一撃を叩き込むか。高度な駆け引きが求められる。
暫く時間はかかったが『Orthros』も異能を決定。プレイヤー達には見えないが、観戦者にはプレイヤー達が何の異能を選んだかが表示される。途端、観戦席が大きくどよめきライブのコメントのスピードも一気に上がった。
その試合は、その後も長く語り継がれる鮮烈な試合となった。
◆
カウントダウンが0になる。
初期位置はお互い固定。スタートと同時に敵の位置を大体把握し、攻撃の準備を始める。
「(―――――――野郎は)」
この立ち上がりで一番警戒すべきは男の方。フィールドのオブジェクトを次々と武器にしてホロウトリックで操り物量で攻めてくる。時間を与えてはならない。だからこそ速攻で男の方を潰したいのだが、女のガードをなかなか崩せない。こうして今までの対戦者は持久戦に持ち込まれて比翼連理に敗れ去った。
金色のオーラ。更に藍色のオーラ。衝立の間を這いしり抜ける男が纏うオーラは今までと同じ。武器を増やして回っているのだ。しかし、一つ大きな違いもあった。金色のオーラに紛れて白のオーラが見えたのだ。【HeavenlyLighthouse】。ここにきて今までの編成を変えた。防御用の黒霧を捨てるというかなり強気な策だ。
チラチラと見える藍色の光。早期決着を目指しているのかスタミナ配分をまるで考えていない動きだ。相変わらず異能頼りなのか武器も装備しておらず、小物を次々と武器に変えているようだ。時たま牽制なのか光の矢を飛ばし来るが何も怖くない。
「(じゃあこういうのはどうだ?ジャップ)」
『Orthros』のコンビは影に隠れ、金色のオーラと藍色のオーラを立ち昇らせる。選択した武器も敢えて今までの傾向から大きく変えて小物ばかりだ。爆弾化や改造の対象は多い。
敵が物量で攻めてくるのなら。それ以上の物量で攻める。それが『Orthros』の出した結論。無論、口で言うのは簡単だが、今までそれを誰も選んでこなかったのは単純に【HollowTrick】という異能はかなり扱いが難しく不人気の異能で、付け焼刃では決して使えない代物だったからだ。
しかし、『Orthros』の二人は全ての異能を使いこなしていた。この戦略の幅が彼らの強さだった。
女の方は距離を詰められたら怖いが、最初は絶対に男から離れない。男が武器を揃えるまで離れられないのだ。近接特化は怖いが、無敵ではない。無理に倒しきらなくても男の方を落として、あとは女の方には適当にダメージを与えて逃げ回ってれば判定勝ちに持ち込める。
だが、それは比翼連理も織り込み済みなのか、いつもの定石を壊して一気に女が距離を詰めてきた。
「(それは悪手だぜビッチ)」
【Rizin Drive】による人間離れしたダッシュ。だが『Orthros』にはその対策として転移を可能としている【SpaceGear】を積んでいる。スタミナ消費は激しいが、高速で移動する相手に対しての対処としては一番安パイ。
『Orthros』は転移を交互に繰り返して女を翻弄しながら、同時にコッソリと異能で武器をふやしていく。
そろそろヤルか?
潰すか?
コンビの視線が交差する。武器はそれなりに集まった。あとは量産した爆弾を【HollowTrick】で操ってぶつければ勝てる。
2人は息を合わせて一気に爆弾化したオブジェクトを浮かせると、敵陣営の方へ一斉に送り付けた。慌てたようにたたらを踏む女。衝立の向かうでコソコソ隠れていても上から爆撃すれば防御は抜ける。
そして【HollowTrick】の性質的に、速度が一定の為に先手を取った方が確実に有利になる以上『Orthros』の方が圧倒的に有利。
女は少し迷った挙句、男を守るために自陣へ下がった。完全に判断ミス。男が防御用の異能を捨てたことがここで判断ミスを誘発してしまう。ここは刺し違える覚悟で距離を詰めてコンビのどちらかを攻撃すべきだった。【HollowTrick】を発動しながら【SpaceGear】の転移は発動できないだから。
だが、それも『Orthros』の二人には読み筋。もし詰めてきたら自分の元に残していた爆弾を起動して女諸共吹っ飛ばせばいい。彼らは転移して逃げながら着実に自陣に爆弾の罠を増やしていたのだ。
「「くたばれジャップ!」」
相手の自陣まで届いたオブジェクトを落下させて爆弾の雨を降らせる。女は僅かに間に合わない。連鎖した爆弾が相手の自陣を丸ごと吹き飛ばすほどの威力を発揮し、衝撃で思わず『Orthros』のコンビも体を強張らせる。しかしこれで厄介な男の方は完全に葬り
「ハロー」
突如として背後から聞こえた声に、人間は咄嗟に振り向いてしまう。爆撃後の僅かに気が緩んだ瞬間ならなおの事。
次の瞬間、至近距離で大砲にでも撃たれたようにコンビの片割れが吹き飛ぶ。
「は!?」
いつの間にここに来た。どうやって生き延びた。どう考えても、どんな手品を使ってもあのペースで異能を使い続けたらスタミナなんて足りてないはずなのに。
コンビが急に無残に吹き飛ばされた一部始終を見てしまい、片割れは大きく混乱する。
現れたのだ。男が青色のオーラと共に背後に。それはまさしく【SpaceGear】の転移。しかし転移はスタミナ消費が激しく慎重な使用が求められる。例え切り札として4つ目の異能に【SpaceGear】を入れておいたとしても、異能は4つ以上を積んだ途端にスタミナ消費が跳ね上がる。【HollowTrick】を使い続けていては絶対に発動などできない。そもそもどんな手品を使えば一撃で上半身を吹き飛ばせる威力の攻撃ができるというのか。
チートでもしなけば不可能なことだらけの状況。片割れに強い怒りが沸き上がる。まだ馬鹿にされても我慢できる。だが、ゲームを冒とくされるのは自分を貶められる事以上にプロゲーマーには許せない事だった。
「クソがぁ!!」
身の回りに残していたオブジェクトを浮かして怒りに任せて男の方へ飛ばす片割れ。しかし男に爆撃が届くより先に視界の端で真紅の雷光が弾けた。
死角から顎にクリーンヒットする硬化して尚且つ加速した拳。それはもはや野球ボールくらいの金属の球体が顔面にヒットしたのと同じ。片割れの視界がガクンと揺れ、膝を付くよりも先に男が放った光の矢が体を貫き機動力を奪う。更に電撃で一時的なスタンまで発生する。絶対絶命だ。
しかしまだ終わってない。発動するのは【SpaceGear】の転移。どんな状況からも脱出する一手。このままでは終わってたまるかと魂が叫ぶ。
叫ぶが、転移は発動しない。
片割れの周りに浮かぶ青色の壁のエフェクト。【SpaceGear】のもう一つの能力、空間操作。指定域の空間固定。【SpaceGear】の一番の天敵は同じ【SpaceGear】。転移を唯一封じるのは同じ【SpaceGear】の能力なのだ。そしてこの空間固定は転移より遥かにコストが安い。例え転移を使った後でも十分発動なくらいには。
「歯ぁ食いしばれよ!」
黒灰色、真紅のオーラを纏い女が軽く助走を付ける。更にオレンジのパネルを足元に置く。【PoppinPop】の反射障壁だ。
腰を入れて振りかぶられる拳。反射パネルを強く踏むことでただでさえ人間離れしていたスピードを出していた女は弾丸へと変わり、スタンの上で空間まで固定されて身動きできない片割れの顔面ど真ん中に女の拳が深々と突き刺さる。
派手に景気よく吹っ飛ぶ首。
血飛沫がファンファーレの様に飛び散り、勝利を確定する祝砲が鳴らされた。
気づいたら400話を超えてる恐怖
良いお年を




