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盤外編:鬼に金棒、悪魔に地雷 スピリタスのターン

帰ってきたGBHW

 

「2人きりってのも、本当に久しぶりだよな」


「ふぅーーーーーーーー、そうだなっ!」


「なんか緊張してる?」


「ん、そういうわけではないのですけど…………」


「口調がブレてるぞ」


「うるせぇっ!」


 2人して同じスーツに身を包み、その上にコートを羽織るノートとスピリタス。外で放映されている映像だとバリ島の仮面の様な映像補正をかけているので、極めて怪しい2人組に見えるだろう。

 ノートが銃火器を装備し、スピリタスがナックルを握りしめる一方で、待機場である隔離空間に表示されたカウントダウンが淡々と時を刻む。


 付き合う事が決まってからのスピリタスは、ノートに対しての口調や態度がかなり二転三転していた。皆でいる時はそれを一度も表には出さないように心がけてはいたが、2人きりになると途端に蓋をしていたものが出てきてしまう。

 いくらサバサバしていて肝の太いスピリタスと言えど、10年ものの大恋愛を拗らせていた女性には変わりなく、本人が思っているよりも、周りが思っているよりもスピリタスは浮かれていた。


 その浮かれ具合が一番顕著に出るのが口調。

 スピリタスも最初から男勝りな口調だったわけではない。むしろ小学生の段階からお嬢様ばかりが集まるような女子私立小学校から中学、高校、大学と基本的に荒事から隔離された空間に生きていたれっきとしたお嬢様である。家でも基本的に全てが敬語というわけではないが丁寧な口調である様に厳しく躾けられており、ノートと初めて出会った時のスピリタスはまごうことなき箱入りお嬢様だった。


 しかし、そんなお嬢様がアメリカ仕込みの罵倒が飛び交うGBHWで生きるのには適さなかった。

 当時対象年齢を遥かに下回る中学生というだけで粋がったガキとバカにされていたのだ。そんな状況で丁寧な口調で話したところで、セルフでラリッてるバカどもを黙らせるにはインパクトが足りなかった。


 ノートがGBHWで人と人との闘争の魅力を知ったように、スピリタスもまた「人は舐められたら負け」ということを身を以て学んだ。舐められないように格闘技に傾倒し、更に口調も変えた。できるだけガサツに、砕けた感じで、罵倒が当たり前に口から出せるように。スピリタスは意外と形から入るタイプだった。

 そうしてできあがったのが、今の常に語気が粗めなスピリタスの口調。常に声が大きめなのも彼女なりの演技で、それが自然と身についてしまったいた。


 けど、その身に着けたガサツさがノートの前では急にはがれてしまう。今までも姉や母など家族の前では口調が崩れがちだったが、スピリタスも虚勢を張る必要の相手ではないからこそ自分自身で敢えて崩していた。だが、ノート相手には指摘されるからか意識して口調を保とうしても何故か崩れてしまう。昔の素の口調に戻りそうになってしまう。



「どうでもいいことに気を回すより、この後の事を考えてろよっ!」


「はいはい。っても俺がスピリタスに全力で合わせるだけなんだけどな」



 GBHW【Doom Launcher Competition】


 GBHW運営が主催した公式の大会であり、初の公式大会でもある。

 シングル(1人参加)、ダブル(2人参加)、トリプル(3人参加)、そして本命のスワッド(4人)のコースがあり、基本的にどれか一つを選んでエントリーし、運営の出す課題をクリアして得られる得点を競い優勝を目指す。

 本来はユリンも入れてトリプルでエントリーしてみるつもりだったのだが、VRチャンバラの大会と学校のテスト、決闘の為の連日ログインなどが関係し泣く泣く参加を断念。ノートとスピリタスは仕方が無いのでダブル枠でエントリーを行った。



「第一課題はボスラッシュ。割と安直ではあるな。問題は大会用にチューニングされてるってことと、新ボスも出てくるってところだな」


「単純に素早く倒すだけじゃなく、コンビでの強さを見せる事でも加点なんだっけか?」


「だな。つまりだ、もしかすると待機場から既に採点は実質的に始まっているのかもしれない」


 必要な物は最低限装備すると、ツカツカとノートはスピリタスの元へ歩いていく。


「な、なんだよっ」


 また弄ってくるのかと少し身構えるスピリタス。そんなスピリタスをノートは強引に抱きしめた。


「なっ、にを!」


 動転したように身じろぎする京だが、体は正直。咄嗟に突き放すこともなく、ノートの抱擁を受け入れる。それどころか、体から力が抜けていく。暖かい泥にズブズブと沈んでいくように、心が絡めとられる。


「好きなだけ暴れろ。素もなんでもひっくるめて京は京だ。好きなように、強気に荒々しく、それでいて綺麗な京のスタイルに俺は惚れ込んでいるんだ」


「ば、ばか!待機場の映像も閲覧できるんだぞっ!もう始まるんだぞっ!」


「でも音は聞こえないだろう?いいじゃないか。存分に煽ってやろうぜ、俺達がベストコンビだって。好きなだけ暴れてやろうぜ」


 そういうと、ノートはスピリタスに軽くキスをする。途端に顔を真っ赤に染めるスピリタス。外部映像だとバリ島の仮面をかぶっている補整がかかっているが、顔が接触するほど近づけば映像補正も乱れる。単なるキス映像が放映さるよりもなまじ何が起きているか断定できない感じが余計に視聴者を煽り立てる。

 キスされて頭が真っ白になって、遂にその幸せな感触に身をゆだねそうになる。それでも本能のどこかが危険信号を発して理性を再起動するとノートを突き飛ばし腕で口を抑えた。


「ばか!ばーーーーーか!何やってんだお前っ!?」


「勝利の女神様からちょっくら力を分け与えてもらおうと思ってね」


「覚えてろよ!こんな恥かかせてっ!」


「ああ、覚えてる。今度はリアルでな」


「ッ~~~~~!!もう知らん!」


 人から見られてる場でキスされた恥ずかしさからか、それともキスしておいて昔みたいに悪ガキのように笑っているノートの余裕さが気に入らないのか、それとも10年越しに別れとなってしまったキスをした時の約束を果たしたノートに対して興奮しているのか。

 普段、試合前はテンションがノリノリに見えても奥底では冷静なスピリタスだが、その心は滅茶苦茶に荒れ狂っていた。


「やるぞ、ブラッディ」


 ノートに強く手を握られ、脈が跳ね上がる。繋いだ手の部分に心臓が移動したように強い拍動を感じる。仮初の電子の世界では全てが幻だと分かっていても、この感情は本物で、この拍動はリアルの体が感じているものだった。

 ブラッディメアリー。昔使っていた名前。捨てた名前。ノートが昔呼んでいた名前。2人ともそれを忘れはしない。


「ええ、やりましょう、ナンパさん」


「フッ、また懐かしい呼び方を」


 ―――――今一度ここで初心に立ち戻る。自分はスピリタスで、ブラッディメアリーで、幾ら虚勢を張っても京であることには変わりない。

 口調がなんだ。過去がなんだ。今がなんだ。周囲がなんだ。

 私は私で、“オレ”だ。


 テンションが強さに直結するスピリタスは、意外と最初からエンジンをフル回転させることができない。理性的に暴れているからこそ、幼いころから徹底的に躾けられているからこそ、空元気的の様に吼えてテンションを上げる事はできても、本能の獣を解き放つには強固な鎖を砕くだけの感情がなければならない。

 家のしがらみにとらわれ、品行方正な箱入りのお嬢様であることを求められ続けた彼女が本当の自分を完全に解き放つことが出来たのは、解き放ってくれたのは、隣に立つ男なのだ。

 軽薄そうな話し方で、最初は名前すら覚えず、ナンパ野郎だと突き放した。それでも身の振り方もわからない自分に根気よく、単純な好意から近寄ってきた不思議な存在にいつしか心惹かれていた。傍にいる小さな弟分に見せる優しい笑顔を見て、その笑顔を自分にも向けて欲しいと思った時には、心を捕らわれていた。


 スピリタスは強く手を握り返す。自分の気持ち全てがノートに伝わる様に。

 ありがとう。ずっとずっと、貴方が好きです。貴方の笑顔が何よりも好きです。口に出すには恥ずかし過ぎるそんな気持ちが。



 鼓動が更に高まる。全身の神経がこれ以上になく敏感になり、周囲から得られる情報が増えていき、臨界点を超えて収束していく。深く深く集中する。心は灼熱の様に熱く、頭は獣を追い詰める狩人の様に冷ややかに。


 カウントダウンが刻む数字が一桁を切る。


「「10、9、8」」


 どちらともなく息を揃えてカウントダウン。

 10年。それはとても長い月日。それでも隣に居て、好きなことに付きあってくれている人が10年前と変わらず側にいる。


「「7、6、5、4」」


 10年前とは色々と変わったこともあるけれど、弟分を大事にしているところは変わっていなくて、妙に大人びた暖かい笑顔も変わらなくて、自分の『好き』も変わらなかった。女が1人2人いても驚きはなかった。当時からナンパな所はあったのだ。この程度で怯んでいるなら、10年も拗らせたりしない。


「「3、2、1」」


 けど、それは筋を通すことを前提としている。もし約束を違えるなら、泣きながら殴ってでも引き戻す。その覚悟で隣にいる。隣に居続けることを決めた。好きでい続けることを決めた。そんな覚悟が少しでも伝わる様に強く手を握った。もう二度と離さないように。


「「0」」


 周囲の壁のホログラムが崩れる。同時に走りだす。10年の時を経て、一つの時代を作り上げたコンビが再びGBHWの世界に解き放たれた。




 ◆




 その公式視聴枠は荒れに荒れたが、多くの心が一致するという非常に奇妙な事態に陥っていた。 

「あのバカップルを誰かブッ殺せ」と。



 人間離れした動きで弾丸を弾き距離を詰めてくる武神、その武神の背後で数々の武器を同時に操り物量で攻めてくる性格の極めて悪い邪神。会話すらも、目を合わせる事も無く、心が重なっているようにそのコンビの連携能力は卓越していた。

 お互いにお互いがどう動くか完璧に理解していないとできていない様なコンビプレーを土壇場で平気でやってのける。肝が据わっているとか、練習した時間が桁違いとか、そんなレベルではなかった。エントリー名『比翼連理』を裏付けるように、1対の翼が羽ばたく。


 1ステージ目のボスラッシュをダントツの成績で駆け抜け、更にコンビプレイでの加点もぶっちぎり。不正とかチートを疑おうにも、同じ事をするには相方をAIにするしかないと言われるほど綺麗な連携を見せられては誰も何も言えない。

 最初は一部にしか注目されていなかった彼らも、ダントツの成績を出したことで一気に注目が集まる。それでも彼らはイチャイチャし続け、他のコンビエントリー勢を、視聴者を、大いに煽った。

 2ステージ目の大量のゾンビを殺し続けるサドンデスでも、最後まで2人で生き延びた。生き延びてはハグしたり、腕を絡めたりしてこれでもかと待機部屋からアピールする。我らこそベストカップルだと。

 3ステージ目は2vs2のトーナメント。強さと成績に対して彼らに賭けられた賭金は低く、その代わりに他の勝ち上がったコンビたちに多くの金が積まれた。それは安パイを避ける博打精神と言えば聞こえはいいが、ほとんどの者は負の夢をそこに託していた。どうかあのバカップルを殺してくれ。お前たちが俺達のヒーローになってくれ、と。


 トーナメントにまで到達すると参加者には運営から軽い取材が来るのだが、よりによってトップバッターだった『比翼連理』は優勝宣言&『ベストカップルになってやるぜクソ野郎ども。俺達の結婚資金として有り金全部俺達に賭けやがれ』と超強気の発言。爆笑していた運営以外のほぼ全てを完全に敵に回した。


 だが、蓋を開けてみれば彼らの勢いは止まらない。むしろ時間を経るごとに前衛の動きが更に研ぎ澄まされ、対人は今まで以上に化物の様な動きを見せた。相手が何をされたら嫌がるかを徹底して追求したような後衛の支援を受け、ミサイルの様に暴れ回る前衛。どんな作戦を取って迎え討とうにも彼らが戦術を変更する方が速く、既存の策が悉く通じない。後衛の奇抜な策に翻弄されていれば、単体でも二人同時に相手しても勝ちかねない前衛が詰めてきて分断される。


 誰か。誰か勝ってくれ。俺達のヒーローはどこだ。

 観戦者の悲痛な悲鳴が響く。

 愚か者に正義()の鉄槌を。

 ここは恋という劇薬を頭にキメた奴が来る場所じゃない。現実すら踏み砕いて狂気に染まった奴が生き残る場所だと誰か教えてやれ。


 だが現実は無慈悲で、比翼連理は破竹の勢いで勝ち進む。


 現実にヒーローはいなくて、努力で超えられない壁が幾らでもあって、自分が望むようにいかない事ばかりだ。負の夢を託して積んだ賭金が次々と吹き飛び、チケットが紙くずになる。彼らの態度にイラつけばイラつくほど、それこそ比翼連理の思う壺。畳みかけられて引き潰される。


 アイツら誰だ?もしかして。

 いやアイツらなら倒してくれるはず。


 希望の疑念の声が渦巻く中、遂に決勝。

 『比翼連理』vs『Orthros』


 プロゲーマーのコンビでリアルでも兄弟、ではなく“はとこ”という絶妙なコンビだが昔から同じゲームで遊んでいただけあって息はピッタリ。賭金も大量に積まれていた。



「テメェらみたいなゲームを舐めたバカどもをぶっ殺す時が一番キマるんだぜ、お前がお家で吸ってるママのオッパイよりもな」


「Holy shit!そうか。そいつは悲しい事を聞いちまった。美人で最高な彼女のオッパイの方がママのオッパイより万倍キマるってお前は知らないのか。お前、彼女は………いるわけないか。もしかして童貞?マス掻きにママの垂れたおっぱいがないとダメそうな顔してるな」


「F〇uuuuuuuuuuuuuck!frq2dwc[@2%&'r~e#rpwr3!!」


「アハハハ!何言ってんのかわかんねぇや!図星か?図星なのか?おお、おお、負け犬の遠吠えは気持ちえーなー!!」


 決勝前の軽い舌戦。『Orthros』は観戦者の代理人の様に『比翼連理』に喧嘩を吹っ掛けるが、返ってきたカウンターパンチはとんでもなく強烈だった。小学生に毛が生えた時の様な規制用語が挨拶代わりに飛び交う世界に居たのだ。喧嘩腰な態度など赤子が掴まり立ちしたレベルだ。差別用語以外ならほぼなんでもOKだったGBHWで相手をキレさせたいなら精神攻撃は基本である。


 完璧なまでにヒールに徹し高笑いをするスーツ姿の男。


 司会のサポートAIが軽くドン引きしているように見えるが、続いてマイクが相方に渡され、『Orthros』は「絶対に殺す、完勝してテメェらを地べたに這いつくばらせてやるぞクソ共が、そこの男を見る目が腐ってるビッチ諸共さらし首だ」と規制級スラングを思いつく限りぶつけ怒り心頭。

 対し、『比翼連理』のペアは簡潔だった。


「コイツは確かにクズだけど、私は世界で一番好きだし、信じてるし、100万回見比べてもお前らよりいい男だし、負ける気が微塵もしない。売られた喧嘩は買ってやる。どちらの目が腐っているか試してやるよインポ野郎共が。ビビッて漏らしてもいいようにママに替えのオムツでも用意してもらっておけよ」


 感情的にではなく、ただ淡々と。それが却って彼女の本気さを伝えていた。彼女もまた、貴重な青春をクソみたいな世界に費やした女で、リアルでの殴り合いで生計を立てている女性だ。肝の据わり方はそんじょそこらのゲーマー程度で敵うわけがない。

 獣の様に荒ぶるプレイスタイルから一転、氷よりも冷えた槍で突き刺すような舌鋒に『Orthros』は絶句した。


 前哨舌戦では完全に『比翼連理』の勝利。空気が完全に変わる。

 悪役(ヒール)から絶対的な魔王へ。我こそは最強だと全てを敵に回して気高く叫ぶ様は、単なる悪役では終わらない。


 突き抜けたヒールはいつしかカリスマを纏い、そのカリスマに惹かれて逆張り共が彼らを称える。賭け事が盛り上がるのは一方的な場ではない。競り合っている時が一番盛り上がるのだ。

 不人気だった『比翼連理』に最終ジャッジ前の投票で少なくない金額がベットされ、対抗するように『Orthros』に更に金が積まれる。

 いくら啖呵を切っても『Orthros』の現役プロゲーマーという担保は魅力的だ。共に全試合を一方的に勝ち上がったコンビ。結果は全く予想できない。

 加熱する空気。更にスピードを増すコメント。雪だるま式に増えていく同接と賭け金。


 爆発しそうなほど温まった空気が最高潮に達したところで遂に最後の試合が始まる。




 

1ヒロイン1話の制約も守れないアホ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] バルちゃんの誤字直さないのかな
[一言] さーされろ!さーされろ! さーされろ!さーされろ!
[一言] ネオンがよく乙女してるイメージが強いけどよくよく考えるとスピリタスも大概乙女してる
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