No.4 初手エンドコンテンツ
(´・ω・`)22世紀には通販番組って存在しているのかな?某社長をAI化した売り子さんとかいたら売り上げ伸びるだろうなぁ
「っと、戻ってきたか」
其処は開催式前にいた洞窟。非常に薄暗くジメジメしていて如何にも怪しい場所だ。
「そうだねぇ、それでさ、早速やってみない!?」
「何を?」
「死霊召喚だよぉ!気になるでしょう?」
まるで大昔の通販番組のようにニヤニヤしながら詰め寄るユリン。だがノートは首を横に振る。
「無理だ。さっきは気づいてなかったけどイベント中だから出来ない。さっさと進めってことだろ」
「む、じゃあ仕方ないねぇ。サクッとイベント終わらせちゃおう!」
ノートの手をとると再び突っ走るユリン。ノートはいつになくハイテンションなユリンに対して苦笑しながら追走する。やがて道はぐんぐん傾斜を描きその道は一気に下っていく。その坂の先には半径50mもの広大なドーム状の空間が広がっていた。真っ暗ではなく、神秘的な白い光を放つ石が辺りを照らしていたが一か所だけ局所的に暗い。
近づいてみれば何か奇妙な記号がびっしりと刻まれた金属製のプレートに、手錠で両手両脚を拘束された“何か”が待ち構えていた。
「鑑定不能…………種族も分からん」
「え、うそ、これは死にイベント?」
気づいた時にはすでに遅く。引き返そうにも見えない壁でその異形の怪物の前まで強制的に運ばれる。
『ハハハハハハハハハハ、ようこそ我が牢へ!我を解き放つ者がいるとは如何様なる者かと思ったが、秘忌人に堕天使とは、これは愉快!カカカカカカカッ!傾聴せよ、我が名は獄吏バルバリッチャだ!』
その異形はよく見れば一応人型だった。だが右腕には拷問器具を数多持つ無数の蛸足、左手は黒い鞭のような触手、でっぷりと太った身体は薄汚い黄土色で茶色の産毛が生えていた。その脚は大きくまるで犀のようで、首はない。その代わりか心臓の部分ににやけた面があり、濁った瞳がノートとユリンをジットリと見つめていた。
「…………ネームドなのか?」
『ハハハハハハハハハハ!然り、我は名ありの悪魔よ!貴様等の名はなんだ?』
「えっと、ユリンです。こっちが……」
「ノートです」
『ユリンとノートだな?悪の極み、我と同じ香りがするぞ!素晴らしきことである!』
「は、はあ。ありがとうございます?」
困惑しっぱなしのノートとユリンは御構い無し、バルバリッチャと名乗る悪魔は高笑いをする。
『嗚呼、素晴らしきかな。呪いは解かれたが、封印された時間が長すぎたようだ。あともう一度暴れ、ここに迎えた者の悪意に苦しむ表情を見て消え失すつもりであったが、よもや同じ匂いの者が、それも2人もいるとは!我は今満ち足りている!故に、貴様等が我を滅ぼすが良い!我が至高の悪意を継ぐのは貴様等が相応しい!』
バルバリッチャがそう叫ぶと、ノートとユリンの目の前には巨大な剣がいきなり現れた。
『一度しか使えぬが、我が全てが込められた剣故に、矮小な貴様等でも我を滅ぼすことができるだろう!さあ、やるのだ!』
なんだこの急展開は…………と呆然として顔を見合わせるノートとユリン。
しかし未だに見えない壁があり逃げられない。やるしか無いのか……と2人は迷うが、其処でノートはあることを考える。そして剣に手を伸ばしたユリンの手をつかんで止める。
『なんだ貴様、よもや我の好意を断る気か?』
怪訝そうな表情のユリン、一方でバルバリッチャは不機嫌そうな顔になるが、ノートは任せてくれ、とユリンにアイコンタクト。ユリンが頷くのを確認すると、ノートはバルバリッチャに向き直り一礼する。
「いえいえ、多大なる好意、まさに恐悦至極。故に、だからこそ勿体のうございます。バルバリッチャ様は我等を至高の悪意を継ぐのにふさわしき者とおっしゃいました。ですが、どうでしょう?我等は未だバルバリッチャ様の足元に及びませんが、共に極悪。3つの極悪で更なる悪意を求めることができるやもしれませぬ!まだ見ぬ悪意を生み出しましょうぞ!バルバリッチャ様、どうか御再考を」
ALLFOは事前告知でこう述べていた。
ALLFOのAIの自由度は今までの一線を画すと。プレイヤー達が如何に会話をしたかでNPC達の反応も人間と同様に大きく変化するのだと。
その変化は、シナリオの結末さえも変えることが可能なのだと。
故にノートはその売り文句を信じて賭けに出た。
バルバリッチャにつられて演技チックに返答するノート。
それを見てバルバリッチャは今までになく大きな声で高笑いした。
『クハハハハハハハハハハ!まさか我にそのような進言をするとは!剣を持てば消えぬ呪いがかかる遊びを講じておったが、これは更に愉快!更なる悪意だと!?素晴らしい!素晴らしいぞ!主は真なる悪意を持つ者よ!だが我の肉体が滅びに近しいのは真実、主はどうして見せるのだ?』
愉しそうなバルバリッチャ。ノートはゴクリと生唾を飲み込み、更に賭け金をレイズした。
「私は死霊術士でございます。御満足いただけ無いのは百も承知。ですが私めの召喚せし死霊を乗っ取る事が可能であれば、またもう一度生を得ることが可能ではありませんか?勿論、元の力を取り戻すことにはできうる限り尽力させて頂きます」
『…………ほぅ。主、虚言を述べてはいないようだな。その身に何かを秘めておるようだ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!万死に値する無礼ではあるが、その心意気に免じて赦そう。だがチンケな死霊では我に耐えることなど不可能。矮小な貴様にそれが可能であると?』
「一度、この場で機会を頂けぬでしょうか?」
『…………出まかせではないようだ。良かろう、見せてみよ!』
「有難き幸せ」
ALLFOを管理するAIは非常に高度でNPCも人と遜色無い会話ができる。それは事前にも告知されていた通りだ。
ノートはバルバリッチャにつられて演技チックな口調になってしまっていたが、もしタメ口で話しかけようものなら既にノートもユリンもポリゴン片になっている。バルバリッチャという悪魔はそういうNPCなのだ。
図らずもこれはノートのファインプレーだったりする。
ノートは呼吸を整えると、脳内で死霊術のリストを引っ張り出す。
ランク3に到達したことによりノートは多くの死霊術用の魔法を会得していたのだ。そのリストをつらつらと眺め、其処で興味深い魔法を探し当てた。
「…………まずは〈召喚霊再召喚・シールドファングスケルトン〉」
地面に浮かび上がる巨大な魔法陣。先程は転移し損ねたシールドファングスケルトンがドーム内に現れる。このシールドファングスケルトンは使い切りの簡易召喚ではなく、何度でも召喚できるようにしてある本召喚の死霊の為にこうして再召喚が可能だ。
『ほぅ、面白いアンデッドだ。しかしこれでは到底足りぬぞ?』
「ええ、重々承知の上でございます」
ノートはユリンに声をかけると、先程の戦闘でドロップした全てのアイテムを譲渡してもらう。
「(えっと…………必要な物は、ノーマルスカル×100、希少種スケルトンのドロップであるクリスタルスカル×1・呪腐肉×50・上質呪腐肉×1・屍鬼人の表皮×5・怒屍鬼人の牙×1…………え、レア度の高いアイテムを生贄にしろ?これは不味いぞ…………)」
出し惜しみして失敗すればこの悪魔が何をするかわからない。だが現状手放せるアイテムなど…………。
ノートは激しい葛藤を抑え、課金アイテムで再購入できない『呪われた深緑のローブ・古』と『呪いのロケット』 を半泣きで生贄に。
「(…………これで失敗したら絶対バルバリッチャなんかぶっ殺してやる。さあ、虎の子のシールドファングスケルトンそのものも生贄にするぞ)」
指定された物を全て生贄に設定するとシールドファングスケルトンの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「(そして触媒のアイテムを選ぶのか。消滅しないが耐久値はほぼ0になるな。しかも出来るだけレア度が高い方がいいって…………もうネクロノミコン一択だろ)」
耐久値が減らないオンリーワンのぶっ壊れアイテムを具現化し、ノートはそれを祈るように魔法陣の上に置く。
「(使用魂魄枠はスケルトンの魂×100・ゾンビ×50・屍鬼人×5・アンデッド系希少種×2か。知らないうちにスケルトンとゾンビの希少種を倒してたのは超ラッキーだな。だがこれだと…………ええい、寝袋とテントも生贄に捧げよう!ミニホームがあれば多分大丈夫!さらば合計4000円強!)」
もう膝から崩れ落ちたくなるほどの虚しさだが、ノートは必死に耐える。
「(よし、もう迷いはない。これだけやって失敗したらマジでゲームやめちゃるぞー!)〈特殊変級死霊召喚・modeランダム〉!!!!」
かなり痛い出費を用いた魔法〈特殊変級死霊召喚・modeランダム〉。級指定も死霊指定もない故に何が誕生するかは一切不明。一歩間違えれば何も得られずに全部を失い兼ねない危険な賭けの魔法だ。成功しても失敗しても使用したアイテムや死霊全てがロストする。もう一度貯めなおすのはこの現状では無理に違いない。
最初はシールドファングスケルトンを中級の死霊に進化させようと思っていたノート。だが失敗すれば変な呪いをかけられそうなのは確か。故にここで一世一代の大博打に打って出たのだ。
「頼む、頼む、頼む…………!」
黒や紫、赤と点滅する魔法陣。弾けるスパークと雷。魔法陣自体もグネグネと変動する中、ノートの全MPを掻っ攫ったところで魔法陣が金色に光った。
「お、マジ!?こい!こい!」
魔法陣が目が焼けるほどの金色の光を爆発させる。
しばらく急な明暗の変化で何も見えなかったが、徐々に視力が戻り。
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上級召喚死霊・レッサーヴァンパイア特
ランダム付加技能・裁縫
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現れたのはちょっと目がイってる感じの浮浪者。ただし目が真っ赤で犬歯が異常に鋭く長い。
よっしゃ上級!と心の中で叫び、ノートはバルバリッチャの反応を伺う。
『ふん、矮小な主の能力にしてはよくぞ喚び出した。妥協できるレベルとしては最低ラインではあるが主の努力と献身に免じて合格としてやろう』
次の瞬間、バルバリッチャがスライム状になってレッサーヴァンパイアの口にズルンと飛び込んだ。
レッサーヴァンパイアはもがき苦しむがもはやどうしようもない。ノートとユリンがハラハラしながらジッと見守っていると、レッサーヴァンパイアが唐突に発光して再びノートとユリンの目をつぶしてくる。
そしてその強烈な光が収まるとそこには…………
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特上級召喚死霊・ノーブルデヴィルヴァンパイア特強・ユニーク
ネームド:バルバリッチャ
所有技能
・自動高速HPMP回復
・HPMPドレイン
・物耐/魔耐上昇極大
・高貴なる威圧
・変幻
・闇魔法
・呪怨魔法
・拷鞭打
・広範囲探知
・看破
・裁縫特
・拒否権
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「…………え?は?え?超強いじゃん。てか俺より絶対強い」
「カカカカカッ!我、復活ッ!予想よりこの身体は悪くないようだな。主、主よ、惚けておるでない。仮にも我の主人なのだ。惚けた真似は許さぬ。改めて名乗ろう、我は新生バルバリッチャ!主よ、感謝するぞ。今は全盛期の1/100にも満たぬが、後々力を取り戻せば良かろう」
まさに尊大が服を着ているのではないかと言いたくなる立ち振る舞い。ノーブルデヴィルヴァンパイアに新生したバルバリッチャは完全に見違えた。
真紅の腰まで届く長髪をツインテールに。眼も燃え盛るように紅い。漆黒を基調とし深紅をアクセントに使ったド派手なゴスロリドレスの下は、まさしくボンキュッボンと素晴らしい黄金比のプロポーション。真っ黒なオペラグローブ、そこには赤く細長い盾が付属している。もしかしたらそれはシールドファングスケルトンの名残かもしれない。なんだか自然と膝をつきたくなる美貌とオーラを兼ね備えたまさしく女王だった。
「そ、そうですか」
「待て主人よ。一応貴様は主人だ。特別に敬語を使わずとも許してやろう。それに、主人と心を同じくするユリンとやらも特例中の特例として赦そうではないか」
「ん、そうか、ありがとう。で、一つ聞きたいんだが、この『拒否権』ってなに?」
「ハハハハハハハ!主人よ、拒否権は拒否権だ。我は強大故に主人の命令であろうと拒否できるのだ!能無しのそこいらの死霊とは格が違うのだぞ!カカカカカカカカカカカカカカ!まぁ、悪意に満ち満ちた物であれば喜んで我は手を貸そう!例えば、我が領地の上の忌まわしき墓を彷徨く痴れ者を皆殺しにしろと言うなら、今すぐにでもしてやろう!」
――――――へちゃむくれのクリーチャーの時はただただ不気味だったが、なんか美女だと許してしまう俺が心の何処かにいる。下心じゃなく、女王オーラのせいだろう。だからユリン、俺を抓らないで。VRの痛覚制限があるはずなのに結構痛いです。
ノートは心の中で訴えるが、ユリンはジト目でノートを見つめ続けていた。
どうやら機嫌が直ることはなさそうなので、ノートはユリンのことを後回しにしてバルバリッチャと会話を続ける。
「その痴れ者ってスケルトンか?」
「違うな。主らと似た気配、だが主らに比べ蚤未満の魅力よ。ただただ不快である。主人ら以外で我が頭上を歩くなど万死に値する」
今の状況を鑑みて推測するにそれは“プレイヤー”のようだ。とりあえずは命令を下す前に自分たちで確認すべく、急かすバルバリッチャを宥めながらユリンと3人でノートは今まで来た道を引き返していく。そうすると再び魔法陣が出現し墓地のど真ん中に急に転移した。
ノートとユリンはちょっとビックリ。それ以上に破壊され尽くした墓地を前に慄きながら調査をしていただろうプレイヤー達は更にビックリ。急に現れた謎のトリオに唖然としていた。
ざっと見て10人以上はいるだろう。誰もかれもが安っぽい装備をつけているから、まだゲームを始めて間もないPLの集団であることまでノートには予想ができた。急に現れたノート達はそんなプレイヤーたちとは姿形が一切違う。何か特殊なイベントなのか?とにわかに色めき立ちざわつくプレイヤーたちにバルバリッチャが一歩前に出る。
「喚くな下郎ども。その口を閉じ、そして跪け」
バルバリッチャが強く尊大な口調で命じると、バルバリッチャから金色のオーラが膨れ上がった。それは効果不明な〔高貴なる威圧〕の効果なのかもしれない。驚くことにプレイヤー達はまるで誰かに強引に抑え込まれたように不格好ながら跪いた。
「その不快な眼を向けるな」
だが、皆が跪いた瞬間、バルバリッチャが1人のプレイヤーを睨みつけた。
「我の中を断りもなく覗き込もうとした無礼、とくと後悔せよ」
チラッとコチラに目を向けるバルバリッチャ。アレは攻撃の許可を取っているのだろう。正直理不尽なイベントに巻き込まれたプレイヤーは可哀想だがバルバリッチャへの好奇心が圧倒的に優ったのでノートは許可を促すように頷いてみる。
「《クラスドバイン》!」
バルバリッチャが指差すと、その人差し指から紅い蛇が飛び出してそのプレイヤーに噛み付いてすぐさま霧散する。するとそのプレイヤーの手の甲に紅い蛇の刺青が刻まれ、そのプレイヤーは何かに気づいたように目を丸くする。何かとんでもない魔法をかけたようだ。単なるステータス変化ではなく本気で錯乱している。
「貴様らは非常に不愉快だ。だが新生して気分は良し。主人らの手前だ、我の能力の的になるといい。〔ダークサブード〕!」
バルバリッチャがそう宣言すれば、バルバリッチャの指が黒ずむと太い注射器のような物に変化。目の前のプレイヤーの首にその針を容赦なく突き刺すとHPとMPがガンガン減っていき、そのプレイヤーは何も抵抗ができずポリゴン片になった。
HP・MPが補給されるのが思いの外嬉しかったのか、バルバリッチャはそのまま5本の指を全て注射器に変化させて5人をまとめて殺した。次々に殺されていくプレイヤーたちは必死に逃げようとしているが残念ながらバルバリッチャの前ではまともに行動すらできない。プレイヤーたちは首をプルプルと横にふっていたが、ノートにはどうしようもなく、南無三、と心の中でつぶやいていた。
「そろそろ別の攻撃も見せてほしいな」
「ふむ、たしかに補給は済んだから別のを見せても構わんな。さてコイツはどうなるか…………《イービルトレイル》」
バルバリッチャは眉をひそめながらその謎の魔法を繰り返すが、残り五人もその魔法でさっくりまとめて殺された。その結果はバルバリッチャにとって良い物だったのだろう。バルバリッチャの目が愉快そうに弓なりになる。
「成功した。だがしかし、やはり能力は格段に落ちているようだな。ほれ、受け取るがいい」
バルバリッチャはアイテムを具現化するとノートに放り、ノートは慌ててそれをキャッチする。
「これは…………初級錬金術セット?回復薬?魔物のドロップまであるじゃん。これはバルバリッチャが使うのか?」
「たわけ。我の《イービルトレイル》はその魔法で呪い殺した相手から、持ち物を抜き取る即死魔法だ。あまり成功率は高くなくなってしまっているがな、これこそ大いなる悪意に満ち満ちた素晴らしき魔法である」
「なるほど、凄え魔法だな」
ま、今は使えないけど一応持っておくかとアイテムをインベントリにしまおうとするノート。そこで入れた覚えのないアイテムがいくつも入ってることに気づく。加えて所持金もいきなり増えていた。
「ユリン、なんか身に覚えのないアイテムがいくつもあるが、ユリンはどうだ?」
「ん?……ボクはそんなことないけど、内訳は?」
「えっとなぁ、初級ライフポーションが2つ、初級マジックポーションが1つ、研磨剤が1つ、蜂蜜が1つ、普通の矢の1ダースセットが1つ、ブラックゴブリンの表皮が1つ、ゴブリンの牙が1つ、レザーコートが1つ、黒密のターバンが1つ…………規則性が殆どないな」
「あ、アレじゃない?PKのドロップだよ。バルバリッチャが殺したプレイヤーとアイテムの数が釣り合ってるしさ」
「ああ、成る程。《イービルトレイル》と重複してないのか。じゃあとりあえず初級のライフポーションとマジックポーションはほとんどユリンに渡すぞ。俺は後衛だから、ユリン優先で」
「うん、ありがとう。でも考えてみると困りものだよねぇ。うちはヒーラーが居ないからジリ貧になっちゃうかも。回復手段を何処かでゲットしなきゃねぇ」
どうしようか、とノートとユリンが額を付き合わせて考えていると、ふんっとバルバリッチャが鼻を鳴らす。
「戯けが、奪えばいいだけのことよ。ちょうど二時の方角より6人、九時の方角より12人反応がある。わざわざ此方へ向かってくるのだから手厚く迎えてやろうではないか」
「ノート兄、ボクはバルバリッチャの案でもいいよ!」
ユリンは双剣を既に抜刀し目をキラキラさせている。PKがしたいと全身で訴えていた。どうやらバルバリッチャにまかせっきりなのはユリンとしてもつまらなかったようだ。
「そうだな、これを選んだ時点で悪役一直線だからな。この世界でもやってやろうじゃないの。PK万歳だ」
そう言ってノートが盗品の黒いレザーコートを装備すると、バルバリッチャは愉快そうに高笑いする。
「それでこそ我が主人よ。だが、何でもかんでも手を貸していては主人らは成長せぬ。それでは我の完全復活も遠のくかもしれぬ。故にまず6人の方を主人らのみで倒すが良い。我は九時の方向より向かって来る者共がそちらに行かないようにしてやる。感謝せよ」
「おう、サンキューな。でも相手の強さとかがわかるなら教えてくれるとありがたいんだが」
「ふむ、残念ながら〔看破〕は〔鑑定〕より精細に相手を暴くが、如何せん有効範囲が狭いのだ。ただ存在のみを〔広範囲探知〕で読み取っているのみである。無論、本来の力を取り戻せば何ら問題は無いのだが、現状では不可能だ」
「そっか。でも不意打ちを喰らわずに済んだだけ助かったよ、じゃあ行ってくる」
「いってきまーす!」
◆
「本当にこっちなのか?」
「さあな、NPCが言うには『ファーストシティの東門から出たらまっすぐ進む。森にちょっと入ったらそのまま右へ進む』だったはず。かなりでっかい墓地だからよほど大きく逸れない限りすぐに見つかるって言ってたぜ」
森の中を進むのは6人組のプレイヤー。
彼らはまだALLFOも始まって間もなくだというのに意気投合しパーティーを組んでいた。まだモンスターも強くないのでちょっとしたピクニック気分で和気藹々と森の中を彼らは進んでいた。その先に待ち受ける理不尽などは微塵も予測できることもなく。
「しっかし俺たちも運が良かったよな。森の中の墓地を見て帰ってくるだけのクエストなのにそこそこ報酬がいい、なんて超割のいいクエストを受注できて。きっとチュートリアルのクエストなんだろうな」
「全くだ。ギルドの姉さんNPCがクエスト発行したちょうどその時にいるなんて、マジで運がよかったな!」
ガハハハハハハハハハハ!と笑い合う6人。現れるのはせいぜい最弱モンスターの一角であるゴブリン程度で危険も何もないのどかな森を彼らは楽し気に歩いていた。だがその中で1人だけ斥候役がピタッと立ち止まる。
「待て、何か近づいてる。感知に引っかかった」
「ん?ゴブリンか?でもあいつらぎゃあぎゃあうるさいからすぐにわか「〔墜空双絶〕!!!!」」
響いたのは可愛らしい声。だがやってのけたことは可愛らしくない。
上空からの完全な奇襲、そこから落下時に攻撃力に補正のかかるスキルを完全に油断しているプレイヤーの頭上から叩き込んだ。そのプレイヤーはタンク役で最も防御力が高く、またリーダー格でもあった。そんなプレイヤーが綺麗に一刀両断。たった一度の攻撃でポリゴン片になった。
残りの5人はあまりのことに即座に動けない。だがその隙を襲撃者は見逃すはずもない。
「〔転黒双天舞〕!」
グルンと回転しながら発動する範囲攻撃。堕天法双剣士はスキルによるMP効率はとてもいいが、その分足さばきが大切で非常に高度なプレイヤースキルを求められる。そんな中でも〔転黒双天舞〕のMP消費は10。高速で三回転し、5人のHPを半分以上一気に削る。
「PKかよ!?」
「てか強すぎだろ!?」
慌てて5人は体勢を立て直そうとするが、そこで追撃がくる。
「《エクスパンド・ダークブラインド》!」
全員が新しく響いた声に気をとられて振り向くと…………そこには真っ黒な目、病的に白い肌に浮き上がる黒い血管が目立つゾッとするような人型の何かが佇んでいてニタァと笑っていた。
だが見えたのはそこまで。すぐに彼らの視界は闇に閉ざされる。
「《ダークショットバレット》!」
目つぶしの魔法からクールタイムゼロで叩き込まれる闇属性の散弾。1つ1つの威力は低く本来牽制用の魔法なのだが、ネクロノミコンで闇属性の魔法は強化され、更に敵対PLは闇属性の耐性が1段階も効果がさがる。実質そのプレイヤーたちの闇属性耐性は三段階以上落ちていることになり、その牽制用の魔法ですらガリガリと目に見える形でHPを削ってくる。
手前にいた2人のプレイヤーはそれだけでポリゴン片に、3人目からはHPを後1割2割を残して耐えたが、それもその3人を盾にしていたもう1人の襲撃者の凶刃の元に首を斬り飛ばされる。
斯くして6人のプレイヤーはとてもあっけなく理不尽な暴力によって死亡したのだった。
◆
「うーん、思ったより呆気ないな」
「あははは!それもそうだよ。ボクの双剣だってこんな初期段階で装備できるような武器じゃないし、ボクの種族は人間では太刀打ち不可能なポテンシャルがあるからねぇ。同じランク1でも差が大きくあるのにこっちはランク3。それにノート兄のネクロノミコンで闇属性が効きやすいから闇属性が中心のボクのスキルには物凄く相性がいいんだよ」
「なるほど、だからやけにユリンの攻撃力が高いのか。ま、そこは要検証だな。んで、ドロップはどうだった?」
「んーっとね、『風鼠の耳』と『初級ライフポーション』、『寄餌肉』……うへぇ、『ゴブリンの脳味噌』だって。なにこれぇ?」
「え、脳味噌あんの?それ使えるから貰えるか?」
「えぇ、何に使うの!?」
兄貴分が急にテンションをあげてその気味の悪いアイテムを所望するので思わず目が点になるユリン。それでもちゃんと譲渡するとノートは嬉しそうに笑う。
「ありがとな。死霊術でより高知能な奴を召喚するときに必要みたいなんだよ。ゴブリンだと気休めだろうが、それでもレアドロップには違いない。あ、ちなみに俺は初級ライフポーションと研磨剤だった。どっちもユリンに渡しとくぞ」
「ありがと〜。じゃあ一旦バルバリッチャのところに戻ろっか」
「そうだな」
ノートとユリンが駆け足で墓地に帰還すると、腕組みしてバルバリッチャは既に待っていた。
「ただいま〜」
「戻ったぞ。6人全部片付けた」
ノートの報告を聞くとバルバリッチャは嬉しそうに頷く。
「良きことよ。さて、喜びもそこそこに、次は12人だ」
「そうだな。バルバリッチャ、援護を頼めるか?」
「ふむ、吝かではない。だが1つ忠告しておこう。主らのような“異界の民”は、あらゆることにおいて成長の芽が出やすいようだ。しかして、我のような強大な者が手を貸しすぎては成長の芽が出にくいことをゆめゆめ忘れぬことだな。いいか、主人らが強くならなければ、結果的に我も成長はできぬ。援護はしてやろう、だが12人と直接戦闘するのは主人らだ。良いな?」
ジロリと厳しい目つきのバルバリッチャ。だが言っていることは本質的にはノートたちへの気遣いであり、ノートは僅かに苦笑しつつ頷く。
「わかった。援護だけでも助かるよ」
「ふん、弱者が嫌いなだけだ。主人らが弱者に身を落としたままなのは我の沽券に関わる。それだけだ、勘違いするでないぞ。…………なんだその顔は、だらしないぞ。ニヤニヤした顔をするな!さっさと殺しにいくぞ!」
22世紀では化石のような存在であるツンデレのような言動をするバルバリッチャ。ノートとユリンは顔を見合わせて思わず生温かい微笑みを浮かべてしまうのだった。
解説
【召喚された死霊の表記に関して】
例として『特上級召喚死霊・ノーブルデヴィルヴァンパイア特強・ユニーク ネームド:バルバリッチャ』を挙げて説明する。
まず『特上級』は単純に召喚する死霊の格。
格は、最下級→下級→中級→上級→丙上級→乙上級→甲上級→特上級→最上級→[削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み]―――――
(加えてネコロノミコンによる召喚されるアンデッドは『特殊』と格の前に表記されやすい)
となっている。隔離施設で説明したクリーチャー型・特殊型アンデッドは軒並み上級以上に該当する。ただし格の高さはそのまま強さに直結するわけではないことに留意されたし(当然格が高いほど強い傾向にはあるが例外もいる。まさにバルバリッチャがその最たる例。あくまで其の格は死霊としての格)。
その次の『ノーブルデヴィルヴァンパイア』は魔物の種族としての名前。特にノーブル種は支配系の能力を持っており極めて優秀。ただし絶対数が極めて少ないので遭遇自体がレア(というより本来ボスモンスターしか持たない名前)。
そこに付随した『特』と『強』について。
この『特』は早々お目にかかれない表記。なぜならそれは『本来存在していなかった魔物』を表しているから。つまり遍くフィールドを探し回ってもあまたの召喚を試そうとも『ノーブルデヴィルヴァンパイア』という存在には遭遇することはできない。つまり“新種”であることを示す。
この『特』付きの魔物に出会うには、従魔(テイマーがつかう魔物)や召喚獣の卵などに何らかの極めて特殊なアイテム(イベント報酬など)を使用すると極々稀に誕生する。或いはノートが召喚時に本召喚で召喚したシールドファングスケルトンを生贄にしたように何か特殊な物を生贄に捧げた場合の“事故”として誕生する。
ただしこちらも留意してほしいが、新種だからといって強い保証は一切ない。
『強』は魔物に解放されていないポテンシャルがあることを示す。ポテンシャルが解放されたとき、その表記は■■に変化する。『特』同様に『強』もまた早々お目にかかることはない表記。■■に至っては―――――
『ユニーク』
何度も繰り返すように、これもまた『ユニーク』だからといって絶対に強いわけではない。その魔物の中でもステ振りを極端にし豊富な隠しパラメータを持っている個体が『ユニーク』表記になる。なので育てれば育ててるほどその真価を発揮するという点では通常の魔物より優秀である。※詳しい説明は後程。
おまけ:ちょくちょくでてくる希少種は、アルビノやメラニズム、オッドアイなどの身体的特異性を持つ個体の事。ゲーム的に通常の魔物より強化されてはいるが、使用する技能自体はまったく変化しない。ただし、『変質を誘引しやすい』特性があるので召喚や使い魔の交配時に効果を示す場合もあったりなかったり…………
『ネームド』
今までと違い、ネームド個体はそれだけで絶対的強者であることを保証してくれる。ネームドはただ単に“名前のある存在”であるわけではない。その名が[削除済み]に刻まれており[削除済み]に干渉する、ある種の『概念的な存在』まで到達した存在、それが『ネームド』である。殺しても其の身を一変たりとも残さず消滅させようと決してその存在を滅ぼすことは不可能である。
特に『地獄の獄吏』とは[削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み][削除済み]―――――
裏話
Q:もしバルバリッチャの言うままに攻撃してたらどうなったの?
A:『14』+『バルバリッチャ討伐まで解けない強力な呪いをノートとユリンに付加』+『周囲のフィールド全域にヤバい異常が発生してワールドクエストクラスの強制イベント』が始まりかねなかった。運営がめちゃんこ焦ってたのはこれのせい