No.Ex 第六章補完話/A life lived in love will never be dull Side:G
200万文字超えたねぇ
『よぉ、もう分かってんな?まさか本当に気付かなかったとはな。お前だけは通報しないように手を打ってある。あとは追って知らせる』
最後に見たのは、彼が剣を振るう姿だった。かつての味方とか週一以上で話す相手だろうが、一切の容赦なく首を切り落とそうとするその容赦の無さに興奮している間にリスポンした。もう少しじっとり殺してくれても良かったのに…………。
「アハハハハハハハハハ」
「違う違う違う違う違う俺は違う!」
「BANは嫌だ。BANは嫌だ」
リスポンしてみると、万が一の時の為に作っておいた偽ロストモラル仮拠点は酷い有様だった。
運営からのBANを恐れて皆が頭を抱えている。幹部勢に至っては病んでいて、なんかブツブツ呟いたり、暴れたり、叫んだりしていた。精神病患者の隔離病棟かな?不思議だよね。自分より派手に混乱している人がいると自分が冷静になるの。頭キュアキュアよん。
あたしのフレンドリストに刻まれた『NOTO』の文字。殺す直前にノラくんはさり気なくフレンド申請をあたしにしてきた。散々利用したおして、妙に入れ知恵をしてきたのも、ALLFOの話を聞きたがったのも、今ならなぜかわかる。でもノラくんたちがロストモラルだったなんてなぁ。なーんで気づかないME!てか女増えてる気がすんだなぁ。これは裁判モノですよ奥さん。
1人、また1人と、悲鳴を上げながらBANされていく。
赤いポリゴン片すらなく、只々のこの世界から弾き出されるのだ。お前イラナイ、ポイ!ってねぇ。
あるいは、厳重警告の文書が運営から送信されている筈だ。『正気かお前?』みたいな文章を丁寧に、嫌に遠回しに伝えてくるメッセージだ。
あたしは参謀で、アイデアは提供しても直接ロストモラルは騙ってないし、暴言もしていない。それでも運営より厳重注意のメッセージが来ていたので、運営も今回の騒動には思うところがあるのかな。あるいは、あたしに唆されただけだと今頭を抱えているアホ達が通報しているのかもしれない。
現実ならなんとか教唆で捕まるのかもしれないけど、こいつらはゲームの世界でも全部自分のお尻を誰かに拭ってもらえるつもりなのかな?結局自分がやった事実は覆せないし、それであたしを通報しても、運営はあたしに警告はできてもBANできないんだよ?
あたしは警告文に対して『(^^)ごめーんね★』ってとだけ返信しておいた。BANが怖くてPKやってられっかってんだバ――――――カ!あははははははは!
あたしたちは、生まれた時から固有のアカウントを持っている。
そのアカウントはあたしたちが使うあらゆるものに紐づいている。たかが一つのゲームをBANされただけだと思ってはいけない。少なくとも、今回BANされた人たちはGoldenPear社のゲームをやる際には徹底してマークされるし、下手なことをしたらすぐにBANだ。
GoldenPear社はネット上のオンラインゲームのプラットフォーム?みたいなものでもあるから、大変だろうなぁ。更に更に、娯楽の一定領域を牛耳るGoldenPear社の系列会社も星の数ほどあるんだけど、それら関連会社に入りたくてもサイレント除去されるんだってね。にこにこえがおくん大学生ぽかったし、ヤバいんじゃないかな?知らんけど。
場合によっては警察にもマークされるらしいし、ホント嫌な社会だ。たかがゲーム内の暴言でも、度合いによっては危険人物リスト送りになんだって。たぶん、散々PKしてるあたしも潜在的なリストには入ってるだろうけど、おとなしくしてれば怖い思いをすることはないし。なんならノラくんの方がもっと酷いリスト入ってるはずなのにカウンセラーできてるんだから平気だと思う。
でもさ、ルールさえ守れば人殺しでも許される世界にいるんだから、ルールを守れない奴が悪いよね。あたしはアイデアを出しただけだし?やれなんて一回も言ってないし?アイデアを出すだけならルール違反にはならないんだよねぇ。それを実行したり、直接指示したり、或いは強制すればペナルティランクは大きく上がるけどさ。
あたしが自分考え付いてやったことと言えば、キャンプ地のPKプレイヤーを集めたエリアの境界に女性陣を集めることで、パンピー側のプレイヤーがあたしたちの方をこっそりのぞこうとすると即座にノゾキ扱いで通報できるようなシステムを組むみたいな可愛いことだけだよ?アレ結構なプレイヤーが引っかかったらしくて面白かったなぁ。
「なんでお前は平気な顔してんだ…………?」
おっと、不味った。飛び火した。ボーっとアホ達の絶叫を眺めてる場合じゃなかった。
ノラくんあたしを前を出したように見せかけて、前髪あげて顔も晒さなかったし、名前も地味に読み上げてなかった。最初から逃がすつもりでいてくれたのかな。
「そもそも、お前が、あんなこと言わなきゃ」
あーーーヤダヤダ。すぐに人のせいにする。バカだねぇ。何をほざいても結果なんて変わらないのに。PKってものが如何に危ない橋を渡る快楽なのかまるで理解していないんだ。
BANされそうになって慌てて、それを誰かにせいにするなんて一番憐れだねぇ。
幹部の一人がスラリとサーベルを抜いた。
もうBAN確定だからあたしに一矢報いようってこと?バカみたい。
この子はそこそこ強かったから取り立ててあげたのに、もう恩を忘れちゃったのかな?その力で暴れられて楽しかったでしょう?お山の大将はさぞかし気持ちよかったでしょう?
「お、お前がぁぁぁぁぁぁ!!」
サーベルが迫る。バカでも強いだけあって、もはや反射でスキルを発動している。非常に殺意の高い一撃だ。前衛職がひ弱なヒーラー相手にする攻撃じゃないよ?あたし、これでもピチピチの、女の子だぞ。
あーーーこの胸についたデカイ脂肪が邪魔くさいんじゃァ。物理演算さん仕事しすぎぃ。
右斜め上からの袈裟切り。踏み込み的に二撃目も視野に入れた一撃かな。振り下ろし強化のスキルでモーション補正も入ってるね。だから動きも読みやすい。
逃げるんじゃなくて、懐へ距離を詰める。速度はいらない。速さだけが全てだと思っているならキミはPvPの事をまるで理解していない。そう、ALLFOは無駄に物理演算が仕事してるから、上手く力の流れを利用すれば――――――
「よいしょぉ」
「ごはぁ!?」
男の振り下ろしの一撃の威力を利用し、男の肘を起点に一回転させて地面に叩きつけつつ肘鉄で眼球に追撃。こめかみにローキックしつつ回転の威力を利用して立ち上がる。同時に取り出したメイスで更に後頭部をズドン。スタン入ったらサーベルをメイスで掬い上げて心臓に突き刺す。
ばかだねぇ。そんな雑魚スキルを使い続けてさぁ、熟練値あげても派生しないとダメって教えたよね?なろう系読みすぎじゃない?雑魚スキルは普通に雑魚だからね?検証勢ってさぁ、ちゃんと調査して評価してるわけよ。お前の矮小な脳みそで思いつくことは大抵試してる。知恵と暇を持て余した狂人の集団が検証勢だよ?妙なこだわりなんて現実ではクソほど役に立たないから捨てた方がいいよ?逆張りが勝ち組なる事なんて現実じゃありえねぇんです。
ドン!カッ!ドドドンカッ!
スタンして動けなくなってるので、その頭を木魚の様に叩く。フルコンボだドン!因みに『カッ』はコメカミ叩いてる音ね。ここ叩かれると平衡感覚おかしくなるんだよね。ビンでコメカミをぶん殴られた時は、マジで一生起き上がれないかと思ったもんなぁ。実の娘をサンドバッグか何かと勘違いしてた豚箱のダディ、お元気ですか?貴方の娘は元気にPKしてますよ。カエルの子はカエルですね。あはははは。マミーに引き取られた妹ちゃんはお元気でしょうか?元気だといいなぁ。
「…………ああもう、よわっちぃなぁ。つまんね」
顔面を叩き潰してトドメを刺すと、同じようにあたしに襲いかかろうとしていた馬鹿どもが少し後ずさった。そうだよね。あたしはずっと非力なヒーラーのフリしてたもんねぇ。近接でゴリゴリに殴りあってるスタイルが本当のスタイルだって、知らないもんねぇ。
弱いふりしてれば、お前たちは勝手に優しくしてくる。どうせ心の中でマウント取ってあたしに優越感を持ってたんでしょう?お前たちはコンプレックスの塊で、自分より下の女を見て満足してるんだ。わかるよ。その胸に向けられる下卑た視線をみれば。もう少し隠せっての。女はお前らのキモイ欲求を満たす道具じゃない。
やっぱり、雑魚なんだよねぇ。目線のフェイクもないし、力の使い方も安直だ。スキルや魔法は強いけどさ、お前たちがPKプレイヤーとして磨く力はまずそこじゃないんだよねぇ。
血のにじむような努力してないでしょ?
近接じゃ絶対に勝てない世界最高クラスの化物に追いついて自分をどうにか想い人の視界にいれてやろうみたいな、絶望的な挑戦したことないでしょ?自分より遥かに小さな子に圧倒されて、あまつさえ嘲笑される屈辱を知らないでしょ?ぬるま湯につかってるから、PKがどれだけ厳しい世界で恐ろしい世界かアンタたちは気づかないんだ。
こんな芸当を当たり前のようにやる化物共と競り合う為に、あたしがどれだけ努力したと思ってるんだ。ナイトメアになるまで仮想敵として戦った経験ないでしょ。暴力によるトラウマすら霞むほど恐ろしい敵と戦ったことないでしょ?それだけ努力して、一切報われなかった時の絶望がどれほど怖いか知っているのかな?
「雑魚は這いつくばってなよぉ~、無様にさぁ~?」
叶わない恋なのはとっくにしってる。でも、好きなんだもん。いいんだよ、それ以上の人が現れて、あたしの脳を焼き尽くしてくれるなら。すぐに乗り換えるよ。別にこだわるつもりはないんだ。
ただ、ただ、絶望からどうでもいいことの様に掬い上げてくれて、楽しい世界へ手を引いて連れて行ってくれて、あの人以上にあたしのブレインとハートをバーニングしてくれる人が誰も現れないんだもん。
振られたからって、好きだったものが急に嫌いになったりどうでもよくなったりするほど器用なら、もっといい人生送ってますよーだ。
お前ら如きが彼の名を騙っていたと思うと虫唾がランランしちゃう。
まああたしが片棒どころか両棒ヨイショしてるし、なんなら本人が仕組んでたんですけどね!ノラくんマジで性格わる!マッチポンプももう少し慎ましいよ!
はぁ~~~、こいつらをバカにできないなぁ。踊らされたのはあたしもだし、これだけ利用されても大好きなんだもん。
唐突に飛んできた魔法に闇属性の回復魔法を当てて相殺する。なに驚いてんの?魔法同士の衝突相殺程度なんでできないと思った?
投げナイフ。これは盾でガード。飛び道具ならあたしに通じるとでも?
こっちだって、投げは散々練習してるんだよ。
盾に弾かれたナイフを拾い上げて投げ返す。あの人外に片足突っ込んでる人たちなら空中でそのままキャッチして投げ返すけど、そんなバカげた動体視力を持ってないので仕方がない。
なに?これあたしを責めて攻める流れですか?ほんとアホじゃない?完全にBANされるよ?リスク管理できないPKなんてすぐに死ぬよ?あっ、もう半分死んでましたね、ぷぷぷ。
けど怠いなぁ。やけっぱちになったバカほど手に負えないものはないよね。あたしを必死になって殺そうとしている。まるで全ての原因があたしにあるみたいに。
あ~、このままもう死んじゃってログアウトしよっかなぁ。ノラくんのメッセージ全然見れなしさぁ。むしろこっちから長文お気持ち表明してやりたいくらいなのにさぁ~?あたしたちの邪魔ぁすんならみんな死ねよ!
雑魚のお遊戯会を強くしてやったのは誰だと思ってんの?お前らの手の内を作ったのは誰だと思ってんの?遠距離からチクチクしやがってチキンどもがさぁ!
あ~萎えるなぁ。寄ってたかって攻撃されてさぁ。これもういじめで通報できる案件だよ?
こいつらまとめて一気に吹き飛ばんかな~、ゴミみたいに。
そう思ったら、本当に急にバカたちが吹き飛んだ。え?なに!?なにが起きてんの!?
「アレで終わりと思ったのか?リスキルは基本だろ?」
その声を聞いただけで、膝から力が抜けた。
なんかよくわかんないけど、忽然と現れた装甲車から、ゆっくりと青いピエロマスクを付けた人が降りてきた。
もう意味わかんない。しゅき。
外道からは にげられない!




