No.38 彼女のデレ
ここまではぜーんぶ前座未満。
ウォーミングアップは終了。漸くスタート地点に立ちました。(尚、20万文字経過済みの模様)
「さてさて、ランク10パーティーもそろそろ締めようか」
「みんなの成果発表大会になったけどねぇ〜」
ぶっ続けの戦闘、戦闘、戦闘とちょっとハードなスケジュールが続き、なおかつネオンが研修で参加できないという事情があったので、健康上の都合も併せてランク10に上がった翌日は完全にオフにしようと提案したノート。
久しぶりの1日間休止後、4人ともログインしたが少々燃え尽き症候群になっていたので、気分転換の為にランク10祝いとネオン歓迎会(ヌコォは身内なのでなあなあで済ませていた)を実施することに。
それを知らされ下位化錬金と料理の成果を発表できる機会だとタナトスは大張り切り。
アテナはパーティー用に新しい家具を作ったり、ゴヴニュと合作で色々と作成したりと大忙し。
メギドは…………まぁ、お外大好きわんぱく小僧なので不参加ではあったが、タナトスが作った虫料理(提供はヌコォとユリン。ネオン勧誘中に捕獲してきていた)などを楽しんでいたのでよしとした。
幽霊馬車は御者が離れないので不参加だったが、彼はそのような催しには無関心らしく不参加(知能レベルの差が如実に表れた形)。
バルバリッチャは我関せず、と準備には不参加だったがパーティー自体は大いに楽しみ、気分が良くなったのか『呪具作成』の能力でヘンテコなオブジェ(ギロチンや絞首台、アイアンメイデン、悪魔っぽい何かのミニチュア)を作り4人にプレゼントした。
好きに使え、とは言っていたが『呪具作成』で作ったのに特に目立った効果は殆どないのになぜかレアリティは極めて高いという本当にただの悪趣味な贈り物だった。
タナトスは多数の飲料やピザ、グラタン、パスタなどヌコォやユリンに教えてもらった洋物の料理を披露し、錬金術で酒も作ってお披露目したがこれは残念ながら全部バルちゃんに持っていかれた。その代わりも兼ねてのオブジェらしいが、リアル過ぎて置物にしにくい、という文句は言うまいとノートは流した。
何か色々と用意していたアテナとゴヴニュは、合作で絡繰を披露してくれた。
ゼンマイ仕掛けの幽霊馬車のミニチュア(ちゃんと走る)、ゼンマイ仕掛けの蜘蛛のミニチュア(これはピョンピョン跳ねながら移動する)、そして極め付けが全長50cm程のゼンマイ仕掛けのロボットである。
そう、ロボットである。脚はキャタピラだが上半身は21世紀初頭に開発されていた人型ロボットだ。背中のボタンを押すと、曲芸までしてくれたりする。
もう絡繰りの領域を超えている気がするが、ノート達は改めてノートの従える死霊の優秀さを再確認することとなった。
そして追加でアテナ達がくれたのは新しく開発に成功したトラップ。これを絡繰の背にセットすることで敵に突っ込ませ自爆攻撃ができると得意げに説明された時は、ALLFOのAIにノートは完全に感服していた。
結局、自爆攻撃に使うにはあまりに勿体無い完成度のロボットなので別の箱型キャタピラを作ってもらうことにしたのだが、アテナ達はノート達がかなり喜んでいたので満足していた。
そしてランク10祝いとネオン歓迎会の大締めは、ランク10になり漸くまともに使える様になったネオンの悪魔召喚となった。
死霊召喚と大きく異なり、悪魔召喚はまず指定された魔法陣(これも大量に種類がある)を地面に書かなければならない。
この時点で悪魔召喚の面倒さはお察しである。
そして要求される生贄の量も質も、死霊召喚より格段に厄介だった。
「ねえバルちゃん、あのオブジェさ、好きに使えって言ったよね?」
「まあな、有意義に使うなら好きにするといい」
「じゃあ、もしバルちゃんの作ってくれたオブジェを生け贄にすると、バルちゃんゆかりの悪魔とか喚べるかな?」
「ふむ………まず悪魔を人間が召喚すること自体が異例、我ですら詳細は知らぬ。だが、試してみるのは自由だ」
「お、いいの?」
と言う会話がバルバリッチャとノートの間であり、ネオンが困っていた生贄枠は悪趣味オブジェ4種をまずセット。
余った枠にノートがもう要らないだろうゴブリンなどの魂の在庫の吐き捨てに超適当にランダム召喚した結果召喚された
ハッスルゾンビオーク(何がハッスルかは明記しない)、
口触手ゾンビ(触手が元気)、
ゴブリンクイーンレイス(フレーバーテキストによれば、『繁殖力が凄い』らしい)。
それらをすべて生贄へGO。
ネオン勧誘前にPKでゲットした(してしまった)入手経路不明なビキニアーマーやゴスロリの服とか換金し忘れていたあれこれも適当にブッこむ。この時点でノート達のテンションは完全に悪ノリモードだった。
そこからまた色々と準備があり30分に渡る大掛かりな作業が終わる。
最後に『パンドラの箱』を実体化して、ネオンは魔法陣にその箱をそっと置く。
「それでは、召喚を、始めます。…………《我が願いに応えよ。我こそはという物、地獄の底より顕れよ―――》」
悪魔召喚は普通の魔法や召喚と違い小っ恥ずかしい詠唱も必要になる。これがまたAI側がちゃんと言葉を判断して呼び出されるものの確率を変動させるらしい、とは召喚の詩的すぎる解説を読み解いたネオン談。
アニメなどに使われていた詠唱を適当にヌコォが繋ぎ合わせた力作、知らない人がみればただの怪文書を少し恥ずかしげにネオンが読み上げていく。
「〈―――――ランダム悪魔召喚〉」
3分に渡る詠唱と言う名の羞恥プレイを乗り切り、ようやく魔法を発動するネオン。
どの魔法陣を使って召喚するかはノート達も意見が割れたのだが、ぶっちゃけ悪魔無しでもネオンは強いし、最悪ペット枠でもなんでもいいから召喚しようぜ、と言う話になったので召喚される悪魔は完全にランダムにしていた。
もっと準備をすればより強い悪魔を狙えるかもしれない、だがノートは『ネオン自身が必要なんだ』というスタンスをネオンに示す為にあえて博打にうってでた。
ビキニアーマーとか突っ込んでる時点でヌコォやユリンもやけっぱちである。
ネオンの膨大なMPは一瞬で全部召喚陣に吸収され、ネオンはMP切れによる眩暈でフラついたが今度はなんとか耐えた。
続けて膨大なMPを吸収した召喚陣はノートの死霊召喚の時に現れる魔法陣のように強く発光。地面に描かれた魔法陣と空中に新しく現れた魔法陣がグニャグニャ変化してピタリと一致すると、空中の魔法陣が地面の変化した魔法陣に重なり黒い煙が噴き出る。
その黒い煙がいきなり収束すると、地面に描かれた魔法陣の中には一人の少女が立っていた。
「アハハハハハハハッ!あたしを喚び出すなんて大した度胸じゃない!でも残念、あんた達にとってこのあたし、魔王アグラット・バット・マハラトを喚び出すなど幸運にして最大の不幸だったわね!この不敬は万死に値するわ!地獄で永遠に可愛がってあげるから有難く思うことね!
あんたらの様なうじ虫にも劣る存在、このあたしに使ってもらえるだけ光栄よね!さあ「久しい顔だのう、アグラット?」はぁ?このあたしに誰が気安く、話し、かけて…………!!!!?え、あれ?ええ?ナンデ?ゴクリナンデ!?」
それはワンマンライブ状態な、ゴスロリとビキニアーマーが合体した様な痴女装備のロリっ子。背中には小さな蝙蝠の翼。頭からはヤギの様な角が生えていて、先が三角形になったチューブ状の黒い尻尾が生えている。
身長は130cm程度なのにビキニアーマー(ゴスロリ風味)と言う事案発生な美幼女は滅茶苦茶上から目線で上機嫌に演説し始めて、ノート達も思わず口もはさめずにただただ呆気に取られていた。
だが、コツンと木に固い物がぶつかる音がして金縛りが解かれたようにそちらを見れば、部屋の脇でソファーに座りそれを眺めていたバルバリッチャがニタァと嗤う。
そのロリッ子も声をかけられてノート達と同じように反射的にそちらを向き…、フレーメン反応を起こした猫の様な顔でフリーズしていた。
「貴様こそ、誰に向かって口を利いている?ん?仕えし主人の存在をもう忘れたか?全盛期とは比べ物にならないぐらい弱りはしたが、身を顧みず本気を出せば、貴様程度、今すぐ存在ごと消滅させてやるが、誰が、なんだって?」
言葉を切るごとに、コンッ!コンッ!と手摺を徐々に鋭利な人差し指が穿つ。
其のたびにバルバリッチャから噴き出す圧は強まり、部屋全体が悲鳴を上げるように大きく軋み出す。まるでそれはバルバリッチャを中心に世界が歪みだしかと思うほどの重圧だった。
「ううううう、嘘よ!有り得ない!だって、だって!獄吏様達はクソ天使どもの大群と大天使共を相討ちに持ち込んで永久に封印されてしまったはず!あ、ああああ有り得ない!そんな、そんな……どうして………姿形も変わって………!?」
「はっ、貴様はその程度だから魔王止まりなのだ。物忘れの激しい痴れ者に、もう一度名乗ってやろう。我が真名は“䉌䅃䬛⑂╎㵅ㅪᬨ䈿䈹楌搴漶焛⡂”!
貴様がうじ虫未満とのたまった者の手を借り新生した、『第八圏・第五の嚢の獄吏、獄吏副長バルバリッチャ』だ!貴様がうじ虫と呼んだ者は、立場上我の主人とその仲間であるが、その者達をうじ虫呼ばわりか………………それは我と事を構えるということでいいのだな?アグラットよ」
コツコツコツと爪で手すりを叩くバルバリッチャ。既に手すりは大きな穴ができメキメキとひびが広がりつつあった。バルバリッチャの身体から黒い稲妻がバチバチと弾けており、部屋全体の重力が数倍にも引き上げられた様なプレッシャーが放たれ、壁が、床が、天井が、この部屋すべての物が悲鳴を上げるように大きく軋む。
瞋恚を湛えた瞳が真っ赤に光り、暴力的なまでの黄金のオーラが激しく揺らめく。
「あ、ああ、ああああ…………」
対してロリッ子は見ている側が可哀想に思うぐらいに、顔面蒼白で目尻から涙を流し尻餅をついて後ずさっていた。
「不敬はどちらだ?ん?“我の物”に手を出そうとは、大した度胸だな?我が不在の間の地獄はそんなにも楽しかったか?」
「も、ももも、申し訳、ございません、バ、バ、バルバリッチャ様。この度は、と、とんだご無礼を」
それはまるでヤンキーの総長がイキってたところに、ガチモンの暴力団の組長が出てきてしまった様な光景。ロリッ子はブルブル震えながら片膝をつき深々と頭を垂れた。
「んん?うじ虫の言葉はよくわからんな。だが、こんな大きなうじ虫、存在するのも不快極まりない。のう、主人よ。確か死霊術は魂魄を用いるのだったな?そこのうじ虫、一応なりとも“古き真なる魔王”の内の一柱。その魂を得ることができるなら、そこのうじ虫よりは格段に良いものを喚べる筈だろうよ」
そう言ってバルバリッチャが指をパチンッと鳴らすと、虚空に光を全て吸い込むような漆黒の炎が現れ、それが徐々に収縮し、ノートの手の中に漆黒の武骨なナイフが具現化する。
「それを使って滅多刺しにでもすれば相当長く苦しむだろうが死ぬだろう。勿論、下手な動きを見せたら我が即座に消滅させるから心置き無く殺すといい」
「ひっ、命だけは!命だけはお許しください!」
「構わん、やれ。道理も解らぬ塵芥に興味はない。この我に使ってもらえるだけ、糧になるだけ、光栄だろう?」
召喚された時のロリッ子のセリフを焼き直す様に言い切るバルバリッチャ。
ロリッ子の顔が更なる絶望に染まっていく。
「い、いや、死にたくない。死にたくない……死にたくない………」
「死者として地獄に戻った悪魔は、さて、どうなるのだろうな?今まで貴様はたいそう死者どもを甚振ってきただろう。だが死者になれば悪魔はその力を失い身分も剥奪される。今まで貴様がいたぶってきた死者ども同様、自分がいたぶられるのはさぞ愉快だろうな?」
ロリッ子は部屋から逃げ出そうとしたが、バルバリッチャがカッと目を見開くとロリッ子の身体に黒い縄の刺青が浮かび上がり、手足がビタっと体にくっつくと無様に倒れて動きを止めた。
「よもや、忘れたわけではあるまい?“地獄之獄吏”は馬鹿で品のない悪魔共にも最低限の規則を守らせるために、殆どの悪魔に対して“絶対的”であることを。たかが“魔王”、力を失おうとその性質は変わらぬ故に、貴様に抵抗権などない」
「いやっ、いやよっ!死ぬのは嫌だ、死ぬのは嫌だ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、なんでもします、だから命だけは、命だけは…………!お願いだから殺さないで…………死ぬのはいや………………!」
従来のVRMMOより色々な面が緩そうなALLFOでも規制ギリギリなんかじゃないかと思う光景。
これが捕まってる方が野盗みたいなNPCならまだしも、小学生程度にしか見えないロリッ子が号泣して震えている様は犯罪臭が凄まじかった。
「バルちゃん、これって殺すとなんか素材とかゲットできるの?」
「ピッッ!?」
唐突にノートが手から離し自由落下したナイフはロリッ子の鼻を掠めて床に刺さり、ロリッ子は変な悲鳴をあげる。
その様子にギョッとするのはプレイヤーのみ。むしろアテナやゴヴニュ達は主人を嘲笑ったロリッ子を睨みつけていた。
「知らんな、うじ虫から何を得られるかなどは。やってみた方が早い」
「へ〜〜、図らずも魔王殺しができるのか。そして何がでるかはお楽しみと」
しゃがむと床に刺さったナイフを抜き、ブルブル震えて譫言のように『ごめんなさい、ごめんなさい』と呟くロリッ子の頬をペチペチとナイフの腹でノートは叩く。
「ところでなんでビキニアーマー?ネオン、理由とか詳細とかわかる?」
急に話しかけられた動揺するが、ネオンはすぐに答える。
「え?あ、はい。えっと、その、強さに差がありすぎるので、テキストは殆ど読めないのですが、宣言通りネームドの悪魔、魔王アグラット・バット・マハラトは、地獄の淫魔たちを統べる4柱の女魔王のうちの一柱。4柱の中でも最も力がある存在であり…………すみません、ここまでしか今の私では閲覧できません」
「ふん、其奴は『悪魔之母リリス』より生まれた最初の悪魔の内の一柱、又は『魔女之女王』。奴が生み出した悪魔は多岐に渡る。『七大罪・色欲之魔王アスモデウス』もそれの子の1人だ」
申し訳無さげなネオンの半端な説明をバルバリッチャが補足した。
「ふーん、つまり取っ替え引っ替え?」
薄い本が厚くなる奴?などと心の中で思いつつ問うと、それを見透かしたようにバルバリッチャはバッサリ否定する。
「悪魔の繁殖は主人が考えているものとは恐らく違う。自分の悪性に対応する悪意を吸収し、株分けする様なものだ。その株を他の悪魔の生んだ株と合わせることで悪魔は産み出される。主人の考えているような物では無い」
なんか今グランドシナリオに関わる盛大なネタバレをされていないか、と思いながらもノートは言葉を重ねる。
「今ふと気になったんだけど、『悪魔之母リリス』が全ての悪魔の母でコイツが第一世代なら、バルバリッチャは?この子の姉さんなの?」
好奇心からの質問ではあったが、それに対する反応はノートの予想をはるかに超えて苛烈だった。
「戯けが!我は『大悪魔』だ。地獄が生まれし時より“神の対になる存在”、“立ちはだかり妨げる者”として我等は“自ずから生まれた”のだ!」
なんかもっと凄い情報が飛び出てきたぞ、とノートの頬が引き攣る。
検証厨かつ考察厨の気もあるヌコォの目が明らかにギラギラするぐらいには、表情こそ変わらないが目がギラついてるように見えるほど異様な空気を放つ程には、バルバリッチャが齎した情報はなかなか刺激的な情報だった。
「リリス自身は大悪魔ではないと?」
「あれは違う。あれは神々が自ら切り離した悪性が土塊の器に宿った存在だ。奴自体に力はないが、悪魔を産み出すのにあれほど適した存在もおらんだろう。その点、其れはリリスと似た性質を引き継ぎ、その繁殖性がその子らの淫魔に繋がっている」
「今のリリスは一体何してるんだ?」
「知らんな。我が地獄を離れ幽閉されてから時はそれなりに過ぎた。我が最後に見たときは、最下層に閉じ込めた姿だがな。…………話はここまでだ。大悪魔の我が最奥について容易には語れぬ。さあもう良いだろう。それを殺した所で問題はない」
「(いやいや、なんか思ったより大当たりじゃねえの?魔王より獄吏の方が圧倒的に強い設定なのは不思議だけど、魔王だぞ?絶対強いじゃん。しかも淫魔の女王で魔女の女王でもあるとか、こてこてに強そう。ゲームだとだいたい強い大罪系のアスモデウスの母とかとんでも設定まであるし、うーん…………)」
ノートは今まで様々なVR系のゲームをしてきたが、R 18G系の中でも極めてヤバい奴、だいたい海外規格になるが、その手のゲームは下手すると幼女首チョンパとかなくはないので殺すこと自体に実はあまり葛藤はない。
それは『所詮はゲーム』というドライな考えがノートにあるからだろう。
いくらリアリティをあげようと、きっちり現実と非現実の区別をつけられるのが、寧ろ人間としては少々ズレているレベルで割り切れてしまうのが、ノートという人物である。そうなると後はメリットデメリットの話になる。
ノートは頭を高速で回転させ、この状況における最適解を考えるのだった。
設定厨隔離収容施設が完成しました。やったぁ。
予告していたSSも投下済みです。