No.37 ちゃんとまっくろにそまったぞ
今日はこれを投稿するつもりはありませんでした。
しかし5000pt越え記念はスルー済み。
感想は100を超えました。
これは何か形としてお礼を申し上げねばならない。そう思いたった私に残されていたのはゲリラ投稿だけだったのです…………
皆様本当にありがとうございます。これからも拙作をよろしくお願いいたします(`・ω・´)ゞ
頑張る皆様の昼休憩のお役に立てば幸いです。
轟!と見学しているノート達の眼前を黒い2m強の火球が通過して目標に着弾。
巨大な火球が着弾した巨木が森に響き渡る声量で絶叫する。
「全ての魔法が必殺技に近い威力とMP消費だけあって、純粋に強えな」
「『災厄女皇』は常時発動スキルで全ての魔法に呪いが加算されている。被弾すればタダでは済まない。つまり動けないタイプの敵はカモネギ」
「うわぁ…………防御ダウンの呪いにスリップダメージありきの黒炎のコンボって……あ、死んじゃったぁ」
「正直、初期段階で覚えてる魔法でもオーバーキル。最低限に抑えてもMP消費効率が少し割に合わない」
5日間の地獄のトレーニングを乗り越えネオンがある程度戦えるようになったので第1の森のエリアボスにネオンをぶつけてみたノート達だが、ネオンは単独でありながら1人でボスを完全に圧倒していた。
「攻撃としては普段使いに向かないが、対決戦兵器には向いてるのか。『物理決戦兵器』のメギド、『魔法決戦兵器』のネオン…………なんか凄いな、うちのパーティー」
最早ただのイジメ。ランク差があるのに圧倒的に強いと言う事実。巨木は自分の攻撃可能範囲外からネオンの魔法で一方的にフルボッコにされ続けていた。
ネオンも、「あれ、この程度?」と内心では思っているが、ランク8のヌコォと本気の1on1で組手したり、メギドとタイマンしているのだから物足りないのは当然である。比較対象が悪すぎるのだ。
「もう深霊禁山で戦わせた方が早い気がするな。2の森でも正直ダメだろ」
「ボクも賛成…………でもボス狩りって悪魔召喚に必要な行為なんだよね?」
「悪魔召喚は死霊召喚より更に難しいらしい。簡易召喚みたいなことは面倒な条件を満たさないと出来ず、ほとんどは本召喚のみ。あとグランドストーリー上は敵扱いの存在だからか召喚した後も大変なんだよ。何が出てくるかもランダムで、召喚すれば必ず従えられるわけでもない。詳細を読んでも詩的表現過ぎてよくわからんかった」
「召喚はやるの?」
「ああ、物は試しにな。といっても今はまだできないが」
ネオンはその後なんの大番狂わせもなくあっさりとBOSSを撃破。その後ノート達に連れられて森のBOSS周回を開始し(エリアボスは複数いる)、第2の森のエリアボスたちにもやはり無双。深霊禁山でようやく戦闘らしい戦闘になった。
「ランクが……今は6まできたか。いいペースだな」
「ボクとしてはペースというより集中力が一切途切れる様子がないネオンにびっくりだねぇ」
称号と相まってネオンの敵性MOBの誘引率は凄まじく、ただ立っているだけでも魔物はどんどん集まってくる。
だがそれらの敵を紫色の雷で牽制し、地面を一気に氷結させてMOBの機動力を削ぎ、棘付きの土壁で押しとどめつつ爆炎の魔法でダメージを与えるなどして魔法をうまく活用し、ネオンは敵性MOBの大群相手に大立ち回りを見せていた。
そこには初心者丸出しの気弱な女性の姿はなく、今まで学んだ全てをフル活用する楽しさを覚え始めた一人の新たなゲーマーの卵がいた。
「ネオンはパターンに入ってしまえば、プレイスタイルがとても堅実だから余程のイレギュラーがない限りそうそう負けない」
ヌコォの言葉通り、ネオンは機械的なまでにMOBに安定して勝利していく。やがてランク7まで到達したところでネオンの自己回復が追いつかずノートは撤退を指示。ヘトヘトになっているがやりきった表情のネオンと共に深霊禁山と第2の森の間の非戦闘エリアに戻ってくる。
「かなり化けたな」
「化けたねぇ。もはや別物だよ」
自分のセンスの無さを自覚し、それをパターン学習と脚でカバーしきって見せるネオン。そのカバーする技量にも積み重ねられた堅実な努力があった。
もう問題はないだろうと、ネオンとヌコォでタッグを組み遂には腐沈森のMOBに挑戦。かなり危なげなく1時間に渡る大激戦だったが、2人は3回目のリトライで巨大半人半蠍に障壁ハメ技を一切使わず辛勝。ネオンとヌコォはランクを9に上げ全員の足並みが遂に揃った。
◆
「さて、今日のラストだ…………」
そして、その日最後に彼らが相対したのは、因縁の相手。
「KIKIKIKIKIKI!!」
『般若面蟷螂人』、しかもその希少種である。幾度となくノート達を撤退に追い込んだ強敵の、その希少種にノート達は再び対峙した。
「《イヴィルヒール》!」
「〔リディクルダンシング〕!」
前衛、メギド
中衛、ヌコォ・ユリン
後衛、ネオン・ノート
で構成した陣形で、誘い出した般若面蟷螂人に相対。相変わらず般若面蟷螂人は異常に素早いのに、ノート達の称号のせいで唯一の弱点だった耐久まで上がっているというより鬼仕様。ALLFOは相対人数が増えるほどMOBも補正がかかるシステムなので、その強化具合は筆舌にし難い強さだった。
しかしながらネオンが加わったノート達はめげない。
今まで撤退の一番の原因がポーション中毒による回復手段の消失によるものだった。
だがネオンが加わったことで、真っ当な魔法では回復できないノート達をネオンが回復してくれる。魔法とポーションを交互で使い回復することで、ポーション中毒の発生率が激減したのだ。
そうなるとHP管理に思考を割く必要性が大幅に下がり、ノートはデバフを使いながらメギドを運用する余裕が生まれ『付与術師』としての顔も持つネオンに強力なバフをもらったヌコォとユリン達も今まで以上の猛攻を見せていた。
「ここ」
焦らずジワジワと追い詰めていくノート達に般若面蟷螂人は次第に攻撃が荒くなっていく。
そしてヌコォはスキルを使いながら、メギドに振り下ろされたその鎌にギリギリでククリナイフを滑りこませる。
ククリナイフは耐久値を大きく削られるが、ククリナイフの全反射機能は確かに発動し、反射してなおククリナイフの耐久値を大きく削る一撃が般若面自身に牙を剥く。
「《クラックスタンプアップ》!」
同時にネオンのバフ魔法がメギドに発動。
『振り下ろし攻撃』のみ攻撃力を超上げるというニッチな魔法は、自らの攻撃を跳ね返され一瞬姿勢を崩した般若面蟷螂人に対してハルバードを振り下ろしたメギドに、ハルバードが般若面に触れるギリギリ、フレーム1斯くや、ネオンの反応が遅れたからこその奇跡的タイミングで発動し。
大幅に強化されたメギドの一撃は希少種を脳天からバッサリと切り裂き、赤いポリゴンが大量に舞い上がる。
「よっしゃダウン取ったァ!!メギドは下がって〔コレクトヘヴィガード〕だ!」
そしてノートが指示を出すより早くネオンは自分のすべきことを理解し、現状で使用できる1番攻撃力の高い魔法をぶちかます。
その魔法より生まれし暗雲から放たれた漆黒の稲妻が、其の悉くを回避してきた般若面蟷螂人を貫く。
圧倒的な威力にノート達までもよろめかせるが、これでもメギドが拡散余剰ダメージをスキルで肩代わりしているのでその魔法の素の威力がいかに高いかわかる。
数秒も続いた恐ろしき稲妻と暗雲が消える。消えゆく暗雲と共に、黒焦げになった何かが微かな赤いポリゴンを残しながら砕け散っていく。同時にMPを一気に使い切ってふらついたネオンをノートが優しく抱きとめる。
「おっと、大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます。ちょっと目眩が……ALLFOって、変なところ拘って、ますね」
「だから楽しいんだろ?それとランク10……遂に二桁、到達したぞ」
ノートはメニュー画面を操作して、ネオンにも見るように促す。
そこにはただ文字のデザインが変わるわけでもなく、『ランク10』と無感動なまでにただ表示されていた。
だが、ヌコォもユリンもネオンを見てサムズアップ。今回は間違いなくネオンがMVPと称賛した。
「私の、おかげ……?」
「今回の戦闘では、ネオンがいなければ勝てなかった。回復・付与・攻撃魔法をうまく回してくれたお陰で非常に安定した戦闘ができた」
「うん、悔しいけど、ボク達だけじゃここまで安定して戦えなかったと思う」
あまり人をほめるということがないユリンも今回は手放しの称賛。それが如何にすごい事なのかはノート達の反応でネオンも察した。
「だってさ、ネオン。そうだよ、ネオンのお陰だ。ありがとうな」
「いえ、足を引っ張らずに済んで、良かった、です…………」
「いや、引っ張るどころか必要不可欠だよ。これからもよろしくな」
「はい!」
今までどこか影があった顔から一瞬影が消え、本来の彼女が持っていたはずの明るいにこやかな笑顔。
あら超可愛い、と至近距離不意打ちの笑顔に一瞬クラっとくるノート。刹那、2つの影が瞬間移動ばりの速度で接近。息のあったローキックがノートのケツにクリティカルヒット。
痛さはVR故かなり軽減されているのだがそのダブルキックはスパーン!とノートの尻に綺麗に決まり、いってええ!と情けない声がノートの口から出るのだった。
◆
「ランク10…………取得したスキルと魔法の量が全然違うな」
「やっぱり10ボーダーはどんなゲームにもある。能力値の上がり幅も桁が違う」
「そだね〜。飛翔距離とか全然変わってたし、スピードも違うねぇ」
「速度補正処理は、ランク10になると変わって、いましたね」
VRの世界においてネックなのが、敏捷の扱いである。フルダイブゆえに最も実際の肉体の感覚と乖離していく感覚であり、早くなりすぎてはプレイヤーが制御できない、だが相対速度、プレイヤーの体感時間を早めてしまうと他のプレイヤーの声がスローモーションになって聞こえる、というMMOとしての大きな問題点が生まれてしまう。
この問題をクリアする為にALLFOの技術の粋の1/4が割かれたといっても過言ではない。
そして開発者たちが出した答えが『神経に干渉して制御できるだけの状態まで動体視力などを引き上げよう』というとんでもないものだった。
だがALLFOはそれを可能にした。『本人に違和感なく超速戦闘を可能にする』という無理難題をクリアしたのだ。そしてそれはゲーム内時間の経過を現実時間の二倍速にするという狂った技術の実現につながった。
しかしながら例外的にランク10へ上がる時に起きるステータスの上昇度合いはかなり露骨だった。
身体がそのステータス変化に慣れない、確かな違和感をノート達は初めて感じていた。
本来微弱すぎて感じない変化、それを感じさせないためのランク制にもかかわらずその違和感を感じるという異常性を感じていた。
より具体的に言えば、通常状態から俊敏ステ適応による感覚時間擬似延長状態に突入する時のラグのようなものが微かに感じ取れたのだ。
それは突貫工事でステータスをあげていたネオンが1番感じる違和感だった。
「それと…………転職できるようになってるし、般若面蟷螂人希少種とランク10のダブルトリガーで死霊の選択肢がアホみたいに増えたな。簡易召喚可能な死霊、何種類あるんだ?」
「私もスキル性能が上がった。常時発動スキルうまうま」
「私は大きな変化はあまり………MPが物凄い増えましたが…………ただ、この“ユニークマジック”という物が」
そこで充実感に満ち溢れたのどかな空気が消え。ノート達はガタっと音を立てて思わず立ち上がる。
「魔法ってユニークあるのぉ!?」
「ユニークマジック……でた?」
「嘘……だろ………」
◆
ど真面目、いやもうクソのつくほど真面目なネオンは、初めて自分に根気よく向き合い、理解し、手を差し伸べ、居場所を作ってくれた人物――――今までは首輪付きの鎖を嵌められ強引に引きずられていつしか抵抗する意思すら失った、ネオンという存在の背を支えて、歩幅を揃えて歩いてくれるとある人物に心酔しつつあった。
本来、ネオン、霜月朝音という人物は祖父に連れられて昆虫取りに山に出かけることも厭わぬ元気で明るいポジティブな人間だった。幼いころはかなりの田舎でのびのびと暮らし、明るい子供だったのだ。
しかし家の都合によりいきなり都会へ引っ越しをすることになる。
幼少期より習い事のラッシュ、喘息持ち(今は問題なし。陸上をやり始めたのも元はそれが理由)で学校を休みがちだったことも災いし、ネオンは幼少期に身につけるべき対人スキルが欠落した。
親愛なる祖父母達がたて続けに亡くなり、家を守ることに奔走した霜月家はネオンのSOSを見逃し、なぜ出来ないんだと頭ごなしに叱ってしまった。
それでもネオンが完全に折れなかったのは根性と元が明るかったからではあるが、そんな彼女は優秀なはずなのに慣れない都会の生活と激変する生活環境のなかで徐々に自信を失ってしまった。
そのチグハグさや、男子が遠巻きに可愛いと眺めるほどのユリン級の可愛さではなく素朴で親しみやすい綺麗さなので男子の人気がでて小・中・高と男女ともにまともに友人すらできなかった。
それによりさらに失っていく自信、退化していく会話スキル、そのくせ周りより優秀…………人間は自分の常識に当てはまらない物に遭遇すると排除に走る。同年代の子は無論、教師達すら相手しにくいネオンという存在に関わろうとしなかった。
そんな孤独を20歳まで引きずったネオンは、いろいろと表に見えない部分で拗らせていた。
友人関係とかそう言ったものに過剰な憧憬を抱いていた。ゲームを勧めてくれた友人は友人と言えど親戚であり、一から自分で関係を築いた相手ではない。
親戚やらなにやらという前提条件のない友達がいなかったのだ。
その拗らせメーター、必殺技ゲージがバグって10回分溜まった物が暴発した。
どんなに自分がかみかみで鈍臭くても、周りの意見に萎縮してしまいそうな時『まあまあ楽しくやろうぜ』と間に入ってくれるような、長らく無意識に求めていた人物がいた。
溜め込んでいた想いが、十数年間ずっと拗らせ溜め続けていた“ナニカ”が自らを救ってくれた人物に注ぎ込まれた。
親愛や希望、恋情というには緩い、まさしく狂信。「ああ此の人ならば、私の全てを捧げたい。たとえ裏切られても、私を見つけてくれた此の人のためなら…………」と異常なまでに重い感情を無自覚にネオンはノートに傾けつつあった。
ヌコォは『宗教に嵌る瞬間』と茶化したがあながち冗談で言ってはいなかった。ユリンがノートに向ける目と同じ目つきにネオンがなるのをヌコォは直感的に感じていた。
それは第三者だからこそよりわかる変化だった。
だからこそ、ヌコォは徹底的にネオンを試した。
今までもネオンの様な人物がゼロだったわけではない。ノートは昔からこの手の事が異様に得意だった。筆記ではまぐれレベルのギリギリもいい所でありながら面接ではパーフェクトを叩き出し国家資格持ちのカウンセラーになったと聞いた時もヌコォは全く驚かなかった。むしろ成るべくしてなったとすら思っていた。
だが、そんなノートの影響を受けて感情が暴走した者も、少し圧を加えれば自ずと目を覚ますのだ。
一過性的に拗らせているだけだから、正しさを教えてあげる。ヌコォの知り合いの検証仲間の女性達は、ノートの伝手のメンバーが殆どだ。
熱い鉄も水をかけてあげればやがて冷める。歪んだ形になる前に水をかけてあげる。釣るだけ釣って放置傾向の強い兄貴分の周りの処理をヌコォは目の届く範囲でひっそりと行ってきた。
そのような点では、常にノートの周りで目を光らせるユリンも取っている方針は違うが同じようなことをしている。
しかしながらネオンの熱量は、ヌコォが今まで見てきたものと少しレベルが違った。抑圧からの解放、感情の解放、元がクソ真面目で努力家故に、ネオンの想いは強かった。
『自分にできることを全部やってみる』と言うのは楽でも実際できることではない。だが、ネオンはやった。やってみせた。
ゲーム的知識と常識の蓄積、足りない応用力をパターン暗記で対応するというまるでビッグデータから学習を見せるAIの様な真似を実際にやってのけたのだ。
閑話休題。
大きく話が本質からズレたがとどのつまり、下手をするとALLFO内の情報はネオンが1番持っていてもおかしくはないほど逆転しているのだが、流石のネオンもあまりに未確定すぎてスレにすら上がってこない“ユニークマジック”と言うものがわからない。
そのレアリティがゲーマーにとって如何に心くすぐるワードなのかをまだ実感できていなかった。
「ま、魔法、その魔法の効果ってなに!?」
「言って、早く。説明プリーズ、ハリーハリーハリー」
ユニークスキルはしょうがないと諦めていた。システム外の行動が云々なら実際に体を動かす前衛職が有利なことはノートも重々承知だった。
だが、ゲーム自体を本格的に始めてほぼ5日の人物に“ユニークマジック”などという新たな要素を習得されるのは衝撃が大きすぎたのか、流石のノートも某死神代行の様に呆然。
対して既にユニークスキルを持ちその狂った性能を知っているユリン達は知的好奇心からネオンに喰いつく。
「ひゃぁ、ちかっ、……!?」
いつもならネオンのテンパり具合を察してノートがすかさずフォローを入れるが、今の彼は虚ろな目で白い灰になっていた。
つまりノート再起動までネオンに助けはない。
なのでこの場はネオンが自力で乗り越えるしかなかった。
「わ、わわわわ私のユニークマジックは、《エンチャント・フルモメント》、ですっ!だから近いぃぃ!」
効果は!?と詰め寄るユリン達に更に悲鳴をあげるネオン。美少女顔2人に迫られるのは同性でも心臓に悪いのである。
「こ、効果は、エンチャントのディレイ発動、です。この魔法をかけた、相手に、次にかける付与のバフは、すぐに発動せず、待機状態になり、ます。そして、その…………待機状態の、付与魔法は、私の任意のタイ、ミングで、発動しますっ」
それだけを何とか絞り出すように述べると、灰になってるノートの背後に素早く避難するネオン。深呼吸するほど動転しているネオンをよそに、ユリンとヌコォはその壊れた性能に思わず顔を見合わせる。
「その魔法、待機状態にしてる時追加でバフを与えると上書きされたりする?」
「いえ、待機状態はそのまま、2回目以降は普通に、即座に魔法が発動します」
「待機状態の時間制限やMP消費、クールタイムとかは?」
「待機状態の時間制限は、その、特にありません。ですが、非戦闘エリアなどでリセットされます。MP消費に関しては……《エンチャント・フルモメント》自体はたったの1、クールタイムも、ありません。その代わり、待機状態に登録するエンチャントのMP消費と、クールタイムが、ともに2倍に………」
ノートの後ろにかくれることで大きく平静を取り戻し、急に比較的流暢に答えだすネオン。その回答にユリンとヌコォは考察を重ねる。
「確かに、“ユニーク”マジックの名に恥じない性能。でも習得条件は?」
「あれじゃないかなぁ?最後にメギドにかけたエンチャント。
エフェクトが出なかったから空撃ち(極稀に魔法が発動しない現象。隠しパラメータの幸運値が重要になってくる)でもしたのかと思ったけど、きっちりデカいダウン取れてたじゃん?もしかしてエフェクト表示が間に合わない様なレベルのギリギリでエンチャントに成功してたんじゃない?」
「………確かにそうかもしれない。でもマグレ当たりに近いのにユニーク?それだとユニークが産まれすぎる。でも掲示板でも今のところユニークスキルは1人しか出せていないと書いてあった。やはり初期限定特典組はユニーク系が習得しやすい裏設定が存在する可能性がある?」
「待てっ…………それならっ!何故っ!俺は習得できないんだっ!?」
急に再起動したノートにビクッとするネオン。そんなノートにヌコォは無情にも事実を告げる。
「死霊術師は召喚して指示出しが基本動作。ユニークスキルの習得条件に関わるシステム外の動きがしにくい。それとはっきり言っておく。ノート兄さんはユニークスキルとかユニークマジックとかそんなチャチなものではない戦力を保有している。
バルちゃんを仲間にする際の一連の流れを聞いたときにも思ったけど、死にイベにしか聞こえない物を交渉とただのロールプレイで回避して、ほぼ爆死する様なランダム要素で上級死霊を引き当てて、今の所どうすれば倒せるかさっぱりわからないバルちゃんを従えてるノート兄さんの方が余程ユニーク」
「そうは言ってもさ…………欲しい訳よ、ユニークマジックがさ!ヌコォならゲーマーとしてその感情が理解できるだろ!?」
「ユニークの死霊で周りを固めてるノート兄さんが言ってはいけない。たとえそれがチケットありきでも」
「おめえなあ、ユニークって言っても欲しい奴を引き当てるの難しいんだぞ?」
ユニークチケット―――――詫びアイテムの効能は確かに破格だが、ユニークとはつまりかなり偏った“特異”個体と言うだけであり、絶対的パワーがある訳ではない。
ステ振りを極端にして隠しパラメータの多いのがユニーク種という物であり、下手をすると望んでいたものとは真逆の性能を引き当てる可能性もあるのだ。
簡単な話、空を飛べる能力が売りのミニドラゴンを従魔にして喜んでいたが、ユニークチケットを使い進化させたら地龍型(翼なし。飛べない)になるなど、発狂ものの失敗を簡単に誘発しかねないのだ。
ユニークスキルやユニークマジックは、そのプレイヤーにあった“特異な技術”故に強い。だがユニーク個体と言うのは、その種から見た時は特異なだけで強いなどと言う保証はない。
ユニーク個体を噛み砕いて言うなら、「鼻で絵を描ける象」「三回転錐揉みジャンプできる犬」「スケートができるチンパンジー」みたいな、特異な技や根本的に構造が異なるような身体的特徴を持ってるよ〜、と言った感じである。
余談だが、では希少種と何が違うのかといえば、希少種はアルビノやメラニズム、オッドアイにあたる身体的特徴がある個体をここでは指す。ゲーム的に希少種はパラメータが強化されているが、使用してくる“技能” や身体の形事態に変化はない。ここがユニークと希少種の違いである。
ユニークはいわば突然変異した個体。素の個体とは別物なのである。
故にそのプレイヤーに絶対に有効なユニークスキルやユニークマジックとは違い、ユニーク個体が必ずしも自分に恩恵を与えるとは限らない。総合的に持つリソース量が大幅に変化しているわけではないので、ユニーク個体はなにかに突出する代わりに本来持ち得ていた何かを代償として失っているのだ。
ノートはその難しさを訴えたかったが、実際にやったことのないユリンとヌコォにはいまいち伝わっていないようだった。
「わ、私は、ノートさんがユニークマジックを取得できる様に全力で応援しますよ!」
「ありがとうネオン。そう言ってくれると助かるよ」
ふんすっと気合い十分に、しょぼくれたノートを応援するネオン。
自分が先に取得してしまったから慰めに言っている訳ではなく、本気で応援する気な彼女にノートは和み少しささくれ立ったメンタルも回復するのだった。
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ランク10到達Result
【ノート】
・召喚可能な死霊の種類激増
・MP大幅増加
・本召喚死霊が15枠まで拡張
・職業『魔法使い』がさらに闇系・呪系を強化する『黒魔導士』へ進化
【ユリン】
・多種多様な戦闘系スキル獲得
・飛翔時間の上昇
・飛翔精度の向上
【ヌコォ】
・多種多様なスキルを獲得
・盗みの技能の向上
【ネオン】
・悪魔召喚が可能に
・新たな魔法やスキルを獲得
・MPタンクといっていいほどの莫大なMPを獲得