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No.272 激震

初期限定特典図鑑➍

【グラン・グリモワール】

通常の魔法、ここで言えば異世界転生系や異能バトル系によく出てきがちなゲーム的な魔法ではなく、もっと古典的な儀式的“魔術”の行使を可能とする特典。儀式全てがネオンの悪魔召喚よりも3倍くらいめんどくさいが、召喚術から呪術、使い魔づくり、杖作成、陣地作成などまでを幅広く可能とする非常に面白い特典。この特典だけ全く別のゲームの様なシステムで動いている。後衛特化で、魔法から生産、呪術師までを幅広く兼ねる。




「ここからが、ボクの本番だね」


 ノート達がキサラギ馬車で地下帝国へ向けて撤退を開始するのを見送りながら、ユリンはイザナミ戦艦の上で深く息を吐きだす。


『(;へ:)ほんとににげれる?』


「そこはやってみなくちゃわからない。イザナミを撤退させるまでは、ボクができる限り引き寄せる。最悪死んでもグレゴリのデスペナ軽減があるし、グレゴリはヤバいと思ったら転移で逃げていいからね」


『(;_;)そうします』


 ユリンがパッと見まわした限りでは、巣の八割は完全に破壊できたとみてもよさそうだった。木の上での要塞の要所は粉砕され、王の寝どころだけが妙に形を保っている。相当頑丈だったらしい。

 ネオンが振らせた大量の水で地面に張り巡らせた大量の罠も一気に破壊され、真面目に修復したらどれほど時間がかかるのかユリンにはわからなかったが、相当な時間がかかる事だけは予想できた。


『ユリン殿、行くのですかな?』


「イザナミが撤退するまで、できるだけ時間を稼ぐよ。大丈夫、デカブツとのおいかっけっこは慣れてるんだ」


『さすがは~提督が一番信頼していると仰った人でアール。我々も、死して尚、死に物狂いで足掻くのでア~ル』


「それさぁ、ギャグでいってる?」


『ユリンさん、どうかお気をつけて。気休めかもしれませんが、結界術を使ったお守りです』


「サンキュー、エイン。じゃあ、いってくるね」


 ユリンの背に濡羽色の翼が広がる。

 ノート程イカサマじみたオールラウンド性能も、ヌコォ程対象のレジスト性能を貫通した略奪及び万能性も、ネオン程イカれた破壊力もない。

 あらゆる戦闘技能に適性を持つと言っても、それはユリンが性能を引き出しているからこそ。ユリンが今持つ最も強力な能力は、人間の中で果たして何人が使いこなせるのかと問いたくなる異常な機動能力だ。


 その異常な機動力が、顔に付けたピエロマスクで更に暴れ馬と化す。

 

 ヌコォの仮面使用を頼み込む際に、ノートがついでにユリンの仮面も使わしてほしいと頼んでおいたのだ。

 この仮面をつけた瞬間、世界全体がスローモーションになったように感じるほど体感スピードのギアが別次元に切り替わる。ユリンはそのスピードに対応できるように、金属性魔法で身体パラメータを引き上げた。


 翼をはためかせると、ユリンはイザナミ戦艦から飛び立つ。

 最初は自力であまり長距離飛ぶことは難しかったが、何度も何度も使ってきたことで翼の性能を昔より格段に上昇している。


 薬をキメた様に狂った様子の猿共が戦艦に押し寄せてくる。それをイザナミ戦艦から放たれた弾幕が押し返す。それでも、上位個体と思われる猿共は避けたり弾丸を押し返したりして距離を詰めてきていた。

 そんな猿の横に、漆黒の疾風が吹いた。次の瞬間、猿の首から赤いポリゴン片が噴水の様に噴き出し、体勢を崩したところに砲弾が集中し成すすべもなく猿が一体死ぬ。


「(…………1体目)」


 イザナミには、自分に構わず弾を撃つようにユリンは言った。砲弾に当たるほど、ボクは遅くないと。


 瞬時に砲弾の軌道を見切り、同じく砲弾を避けようとした猿の目に魔法を直撃させると、脚にスライディングするように切り込み、タタラを踏んだ猿に直撃した砲弾の爆風を利用して再加速。また1体、上位個体が吹き飛んだ。


「(2体目)」


 速さはユリンを裏切らなかった。小柄だから、いつもスピードを磨いていた。ユリンの頭の回転力と反射神経は、運動神経は、ユリンの絵空事じみた理想についてきた。

 厄介な上位個体が次々と撃破されていく。ユリンと一戦交えることもできず、魔法で翻弄されたところで急所を突かれて、トドメをイザナミ戦艦に刺される。


 ユリンはより巣の奥へ奥へと翼をはためかせる。奥へ行くほど、破壊と恐怖の支配、イザナミ戦艦の弾雨から逃れた猿共が居る。

 猿共は一斉に槍やボーラを投げるが、ユリンの機動力は猿さえも凌ぐ。ピンボールの様に木の間を跳ねて動くユリンは全ての攻撃を見切り猿の後ろに回り込み猿の脚を切り裂いて木から突き落とす。


「(トドメを刺す必要はない。木から落とせばいいんだ)」


 漆黒の疾風となったユリンは翼をはためかせて木と木の間を吹き抜ける。その風が吹くたびに一度に十数匹の猿が木から落とされて、大ダメージを負う。



『|゜Д゜))警告!猿の王接近中!』


「予定より早いなぁ…………ヌコォ、計算と違うじゃん」


 たった一人で数百匹相手取って尚、一つの攻撃すら掠りもしない速度の暴力。遂に奴隷となっていた笹の民が普段捕らわれていた場所、猿の巣の際まで見えてきたところで、グレゴリが警告を発する。

 予定ならここで引き返し、巣の中で攪乱しながら逃げかえるつもりだったが、その時間はないらしい。ガラガラと何かが大きく崩れる音がしたかと思うと、飛びのいたユリンのすぐ横を赤い暴風の大太刀が全てを切り裂いていった。


「破壊力ヤバッ!?」


 距離にして400m。そこからでも届く異常な一撃。赤いオーラを獅子の如く纏った猩鬼王が、破壊された我が家に怒髪冠を衝くが如く勢いで本当に毛を逆立ててユリンに向けて咆哮した。


「あぶな!?」


 それを避けたのはただの勘だった。幾度も初見殺しの攻撃を食らってきたゲーマーだからこそ察知できた攻撃。猩鬼王の口から解き放たれた紅の波動がユリンの横を掠めるように通過し、木も巣も問答無用で吹き飛ばした。


「よし、鬼ごっこしようか!」


 ユリンにとって、この木だらけのフィールドは休憩ポイントが多くて、飛ぶのに非常に適している。ユリンは途中で飛び掛かってくる猿を躱しながら、グレゴリの視界を借りて常に猩鬼王の状態を確認しながら逃げ回る。

 常人であれば、1分保てば奇跡のレベルの猛攻に、5分、10分と一人でユリンは耐え続ける。

 対して、猩鬼王の怒りは収まらない。斧を頭の腕で構え、竜巻の様に回転しだすと、本当に赤い竜巻が発生し樹木を吹き飛ばしながら高速でユリンを追いかけてきた。


「うわ~ばかばかばかばか!脳筋すぎ!!」


 ネモが作ってくれたドーピングをキメると、更に強くユリンは翼をはためかせる。竜巻は吸い込み判定もあるのか、周囲の木も大きく軋んでいる。アレに飲み込まれたら、紙装甲のユリンは一発アウトだ。それでも、ユリンに緊張はない。


「GBHWのヴァルナガンドの方が、お前より怖いもんね!」


 ヴァルナガンドは、オンラインモードで出現するボスの一体だ。

 4m程度の巨大な人狼で、ビルとビルの間を平気でジャンプして移動し、いきなり空中から襲撃してくる。かと思いきや、周囲の廃材を持って武器の様に振り回したり、イカれた精度で投擲してくるなどトリッキーな戦い方もできる。

 パラメータ自体が並外れて高いわけではないが、その機動力は並み居るボスのの中でもトップクラス。厄介なくせにすぐに移動するので、なかなか殺すチャンスも生まれない。


 偶然以外でどうやってアレを倒すのか。倒し方が確立されなかった頃、GBHW民にとってヴァルナガンドは悪夢の象徴だった。倒すこともできなければ、逃げることもできない。マグレで当たった攻撃でダウン判定を取ったところで、集団で一気に叩くしかない、そんな『倒し方』ともいえない定石しかなかった。


 そんなヴァルナガンドに、小さな天使がタイマンを仕掛けた。そしてまともに戦いにならないヴァルナガンドに“空中戦”をやってのけた。

 瞬間移動と空中ジャンプを駆使し、ヴァルナガンドを釘付けにし、自分の命を引き換えに左目さえ持っていった。

 

 その一戦を以てして、その小さな天使には『Lunatic Pixy』という異名が付いた。

 まだVRチャンバラを知る前、本当にただの才能だけで、大の大人ですら敵わない化物を当時たった7歳だった子供が1人で翻弄し、確かなダメージを与えたのだ。

 一人の男を破壊し、人生を狂わせるほど、魅入るほどの、鮮烈な才能を天使は世界に見せ付けたのだ。


 あの頃より、色んなものが見えるようになった。同時に、昔ほど純粋ではなく、色んな雑念も頭に過る様になった。体も、あの頃に比べたらずいぶん大きくなった。でも、隣には変わらず世界で一番好きな人がいて、自分の事をずっと信頼してくれている。

 ユリンならできる、と、背中を押してくれる。


 猿の王とも戦う必要があるかもしれないと聞いて、殿を任せたいと言われて、ユリンはGBHW・Neoのオンラインモードに潜って、新生ヴァルナガンドと殴り合ってきた。何度も、何度も、ヴァルナガンドを始めとした難易度調整ミスとしか思えない化物と正面からぶつかって、感覚を限界まで研ぎ澄ませてきた。異常に対する反射速度を体に沁み込むまで、危険に身を置き続けた。

 GBHW新入生たちに、これが生きる伝説だと、見せ付けてきた。


 ヴァルナガンドを一人で下し、開発を歓喜で発狂させていた。


「こいッ!」

 

 このまま逃げてもジリ貧と感じたユリンは、一転して猩鬼王に斬りかかった。

 それに対して凄まじいスピードで斧で切り返してくる猩鬼王。ユリンはそれをギリギリで見切り、身を捩って㎜単位で回避するとインベントリから毒仕込みのナイフを取り出してスキルを発動しながら顔目掛けて投げた。

 それを猩鬼王の王は口でキャッチし、逆にユリンに向けてプッと吐いて投げ返してきた。


「化物めぇ!〔ヘイズバービング〕!」


 スキルを使って飛んできたナイフをパリィするついでに、その勢いを使って体勢を調整し二撃目の猿の拳を回避すると、ユリンは逆手で回転しながら猩鬼王の腕を切り裂いた。


「〔戦舞・暗襲九斬双翼・赤陽〕!」


 回転しながらの怒涛の9連撃。腕から肩にかけて猿の王の腕が斬られる。


「〔飛天無双〕」


 王はユリンを掴もうとするが、ユリンは全てをギリギリで躱し、指を切り裂く。ただただす速くても、小さい生物は捕えにくい。人間が全速力で動けば羽虫よりはるかに速いのに、一撃でなかなか仕留められないのと同じく、技術で速さに対抗する。

 しかし、生まれついて逃げる事だけを繰り返した羽虫とは全く異なる生態をしている人間にそれができるかどうかは全くの別問題だ。

 

 ユリンは猿の王を化け物と言ったが、この光景をみたら、誰もが口を揃えて言っただろう。『お前の方が化物だ』と。


 遠くにいると、風を使った強烈な攻撃を誘発してしまう。故に、逆にその攻撃を使ってこないほど距離を詰める。速度負けしてないからこそ取れる策ではあるが、普通に考えたら無茶だ。

 猿の手に暴風が纏わりつく。風のミキサーがユリンに襲いかかり、ノックバックで吹っ飛ぶもユリンは即座にインベントリからアテナのくれた糸の絡繰りを木に引っ掛けると、それを起点にしてグルリと周り逆に猩鬼王を強襲する。


 初見攻撃のオンパレード。直撃すればその時点で終了のオワタ式。

 パリィすら完全にダメージと衝撃を殺しきれないから、体勢を限界まで整えて衝撃を殺す。かすり傷ならパンドラの箱の自動HP回復とドレイン能力が癒す。耐えて耐えて、ジリジリと削り、一秒でも長く引き留める。


 だが、そんな遊びに王はいつまでも興じてくれない。ユリンからいきなり大きく距離を取ると、甲高い声で咆哮した。またボイスカノンかとユリンは警戒したが、どうも様子が違う。森が騒めく。ユリンの背筋を冷たい何かが撫でた。


『 (;゜Д゜)猿共の動きがオカスィ』


「そういうことか!」


 ユリンが咄嗟にその場を飛びのくと、木にボーラが直撃した。

 後ろを振り向けば、イザナミ戦艦の方へ流れたはずの猿共が此方へ一斉に向かってきていた。


「眷属使うとか狡くないかなぁ!?」


 王自らが相手にしなくても、部下はまだ沢山いる。

 部下共だけなら、王だけなら、まだなんとかなる。いや、体力も限界を迎え、体が徐々に重くなっていることをユリンは誤魔化せない。機動力重視のユリンにとって、それは致命的な事実。ボーラが体に絡まった瞬間にアウトだ。


 避けて逃げて、ユリンが体勢を崩したところで、味方ごと巻き込むように 猩鬼王が風の大太刀を放つ。躱しきれず、掠っただけでHPがゴッソリ減り、エインが持たせてくれた結界のお守りが1発で木端微塵に砕けた。逃げると言っていたグレゴリは限界まで残り、影の幻影で王を引きつけようとするが、同じ手は何度も通じない。危うく殺されそうになってグレゴリは転移で逃げた。

 もう、なにも手が残っていない。ポーションを飲んで回復する暇もない。天才でも、限界はある。でも、そんなときは―――――――――



 地響きが聞こえた。森が微かに揺れていた。ドォン!ドォン!と何か非常に重たい物が衝突する音が森に響く。

 王の勅命を受けて魅惑から解き放たれ、ユリンを殺すべく奮戦していた猿共も、命を下した王でさえも、異常を感知して動きが止まった。

 何かがおかしい。森のざわめきがかつてないほど高まっている。獣の咆哮の合唱がこちらに迫り、唐突に猩鬼王めがけてビームが飛んできた。

 それを避けようとした王の頭に、超遠距離から正確に放たれた強烈な威力を誇る弾丸が直撃した。完璧なヘッドショットだ。



「待たせたなぁユリン!よく耐えた!!」



 自分がピンチな時は、いつだって滅茶苦茶な手を使ってでも全力で助けに来てくれる人がいる。天使が羽を休めるための止まり木が、天使が一番求めてるタイミングで現れる。


 キサラギ馬車に乗って『祭り拍子』の面々がやってくる。

 数百に達する大量の獣共を、どこで引っ掛けて来たのか猪の王と狼の王まで引き連れて、ノート達は猿の巣の中へ雪崩れ込んできた。


 自分たちで有効打を与えられないのなら、同格の奴をぶつけて潰し合わせる。その原則に則って、ノートは化物を引き連れて戦況を混沌へと叩き落した。


「さぁ仕上げだ!潰し合おう!殺し合おう!4つ巴の殴り合いだ!化物には化物ぶつけんだよ!アハハハハハハハハハ!!」


 ノートの狂ったような哄笑に呼応して3体の王が咆哮し、禁忌の森が激震に悲鳴を上げた。





初期限定特典図鑑❺

【黒鳥籠】

“妖精”を使役する初期限定特典。鳥籠の中で妖精を育てることができるが、単体だと妖精は強くない。真価を発揮するのは、魔物を捕らえた時。魔物を生け捕りにした状態で鳥籠を使うと、魔物を籠の中に収納できる。つまり、実質的に魔物を生け捕りにして持ち歩きができる。

鳥籠の中に魔物を捕らえた後は、妖精に魔物を食わせるか、憑りつかせるかを選ぶことができる。憑りつくを選んだ場合、魔物が一気に進化して妖精の力を使う強力な魔物になる。その状態の妖精は非常に強い。

憑りつく魔物を変えたくなったら、別の魔物を鳥籠に捕えて憑りつき先を返させればいい。この時、一度憑りついた魔物の能力をランダムで1つ引き継げることがある。

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[一言] グリモワール……なんか新月だの満月だの朝露だの乳だの血液だのを要求してきそう。自力で魔法陣を探し出す必要があるのか、元々グリモワールに書いてあるのかで使い勝手が変わりそう 四巴……化物には…
[一言] 妖精か。FGO二部六章みたいなことにならないといいけど。後、魔物食わせると暴走か反逆してきそうで怖い
[一言] 地獄絵図
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