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No.271 リセット

ゲリラだーーーーー!!



 戦端を開いたのは、朝日が昇ると同時に超遠距離から放たれた一発の弾丸だった。その弾丸は木と木の間を綺麗にすり抜けて、見張りの猿さえも知覚できない勢いで到達した弾丸。それが木の上に建てられた建物に着弾した瞬間、刻まれていた魔法が発動し大爆発を起こす。

 その爆発が周囲の木の上の建物にまで届くと、なぜか“爆弾でも仕掛けられていたように”、周囲の建物も爆発し、連鎖して、木の上に築かれた要塞が一気に粉砕されていく。


 火気厳禁なはずの森でのまさかの御法度。家も木も諸共、強烈な爆発が全てを燃やし、破壊する。


「《ギガンドアクア・タイタンフォール》!」


 てんやわんやする猿の要塞。そこに、自分の魔法の射程と規模を上げることに全力を注ぎ、5分という長い待機時間を終えた災厄の魔女が魔法を解き放つ。

 天候の状態を表す際に『バケツをひっくり返したような大雨』と表現することがある。あくまで比喩であり本当にバケツの水をひっくり返したように水が降り注ぐことはないが、この魔法はそんな比喩を現実とする恐ろしい魔法だ。


 木も巣も粉砕されて、爆炎のお陰で随分と明るくなった猿の巣の上に巨大な魔法陣が展開された。イザナミ戦艦すらも覆い尽くせるような、あまりにも大きな陣だった。

 その陣から、大量の水が解き放たれた。壊れた蛇口の様に、ドドドドドッと魔法陣から水が流れ落ちる。この魔法は魔法自体に対して攻撃力があるわけではない。魔法の攻撃性を捨てて、ただ、水の量を多く振らせることに特化した魔法だ。

 単なる水を恐れるか。魔法的にも大して怖くないダメージだ。

 だが、その水がある程度の量を超えると、それは凶悪な質量兵器になる。


 炎も、まだギリギリ形を保っていた要塞も、地上の施設も、まさしくバケツの水をひっくり返したように降り注いだ水の塊に飲み込まれ、押し流され、破壊される。

 パニックの最中、猿の要塞の一画から強烈な咆哮が響き渡る。ノートとユリン率いる死霊のみで構成された軍団が猿の巣を強襲したのだ。先駆けとなったメギドのヘイト集中誘引のスキルが、巣全体に広がる勢いで拡散される。


「さぁ、生き残りの死兵共!俺の下僕となり働け!猿を殺せ!!」


 猿達の意識が集中すると、続いてノートが恐慌を誘引する魔法を放ち、グレゴリが作り出した猿の王の幻影が天に吼えた。


 巣を破壊され、暴力的な量の水で全てを押し流され、そこに恐怖を叩き込まれる。ノリに乗った魔王の言葉は呪言となり、生き残った猿共を瞬く間に支配した。


 支配から逃れた猿達のヘイトが散る。ノート達死霊軍にヘイトを向けるべきか、それとも巣を破壊した奴らに向けるべきか。とにかく許すものかと最初の攻撃で生き残った猿達が一斉にノート達死霊軍と、キサラギ馬車で遠距離から攻撃をし続けるネオンたちの方に向いた。

 混乱を助長するように死にかけやダウン状態の猿にシロコウが憑りつき、シロコウがまた個体を増やす。事前に周囲で個体を増やしておいたシロコウが、白い悪夢の様に猿の巣へ広がって更にヘイトを散らす。

 猿共を混乱の渦に叩き落しながら、ノートは次々と指示を出して的確に猿が集団で反攻できないように手を打ち、ユリンは森を飛び回り大将級の猿を次々と蹴落としていく。無理に倒す必要はない。落ちれば落下ダメージを受け、ネオンの水によって作り出されたぬかるみで足を取られる。猿達が強いのは、木の上での戦闘になれているからだ。

 いわば、魚が水の中に居るのと同じ。その得意のフィールドから、水から魚を出すように、木から猿を落とせば、あとはシロコウとクロキュウが調理してくれる。シロコウとクロキュウの弱点は炎だが、どちらもこの森では御法度。猿はシロコウとクロキュウに対して相性が最悪だった。

 シロコウの分身が憑りつき、クロキュウの眷属たちが病を持つ牙で体に齧りつく。次々と敵の駒を自分の駒に変え、ノート達は時間を稼ぐ。


「グレゴリ!」


『(๑•̀ㅂ•́)و王は未だ確認デキズ!』


「ヨシ!このままやるぞ!!スピリタス、状況は!?」


 地下帝国に滞在していた間、ノート達はただ自軍の強化やゴマすりをしていただけではない。猿に挑む以上、猿に関するデータを徹底的に収集していた。

 一見無秩序に見える猿の王の動き。特に単独行動を取るという厄介な性質により、いつどのタイミングで動いているのかが分かりにくかったが、笹の民たちからの言い伝えなどの情報とも照らし合わせた結果、とある結論に至った。


 森の獣たちは新月に活発になる。それは王も同じ。普段は気ままに出歩くことが多い猿の王も、新月の時だけは確実に巣から離れる。特に夜から単独で巣から出発し、かなり遠方まで出歩くので、日の出のタイミングは猿の王が巣から最も離れるタイミングであると予測できる。故にノート達は日も上がらない時間から出発し、日の出と共に仕掛けた。


 猿の王の性質は、まさにノート達の読み通りだった。

 だが、調べたのは猿の王の生態だけではない。猿の巣に関しても入念な調査を行い、ヌコォがとある事実に気づいた。


 それは、戦闘フィールドにて行われる『フィールドリセット』の周期が、猿の巣だけ通常とは違う周期で起きている事。

 戦闘フィールドに置いておいたオブジェクトは、一定時間が経過するとロストするか、そのオブジェクトを置いた人物のインベントリに戻る。破壊したフィールドも、一定時間が経過すると徐々に修復されていく。だから、罠を張って放置しておくといった害悪戦法は基本的にできないようになっている。


 だが、そこでヌコォはふととある疑問を覚えた。もしフィールドに設置した罠が一定周期でリセットされるのなら、猿の巣に張り巡らされていたと聞く大量の罠はどういう扱いなんだろう、と。

 罠もフィールドの一部として組み込まれているのか?ノート達がキサラギ馬車で破壊した後も、忽然と復活するのか?それとも猿が罠を張り直すのか?ヌコォはグレゴリを使って実験と観察を行った結果、猿の巣だけはオブジェクトのリセットが原則起きないことに気づいた。

 つまり、罠を張っても、勝手に消えたりインベントリの中に戻ってこないのだ。


 その仕掛けに気づいた後のノート達は早かった。

 爆弾を量産させ、霧の森で取れる隠蔽効果のある素材を使ってカモフラージュする。やり方はギガスピの時に壁を吹っ飛ばした時と同じ。一々攻撃していては、相手に守る隙を与えてしまう。頭数で負けている時は、電撃特攻が相手に一番ダメージを与えるのだ。ならば、それを小分けにせず、一度で大ダメージを出せるように事前に手を打っておく。


 作戦決行前、ノートがまた頭を下げて許可を取り付け、ヌコォは姿も気配さえも完全に消す例のピエロマスクを付けてグレゴリと共に王がいない間の猿の巣に侵入した。

 そこでヌコォはネオンが作成してくれた地図を元に内部を自由に動き回り、猿の巣から色々な物を盗んだり、生態を観察したり、フィールドの内情を暴きながら、木の上に建てられた建物に威力と位置関係を計算しつつ、笹の民に量産してもらった爆弾を設置していった。


 対生物なら魔法に軍配があるが、オブジェクト破壊なら物理全振りの爆弾の方が遥かに怖い。猿に気づかれないように細工しながら爆弾を次々と仕掛け、シロコウが陽動をかけている間にまんまと猿の巣から逃げ出した。


 そこに爆発の呪文が刻まれた弾丸を鎌鼬が超遠距離で放ち、誘爆させる。一つのきっかけで、仕込まれていた爆弾が次々と爆発し、猿達が止める間もなく巣は破壊された。ギガスピでヌコォは【爆裂罠師】の称号を獲得したが、その効果が破壊力にしっかりと現れていた。


 ここまでは全て予定通り。続いて作戦の上で一番難しいフェーズに移るところで、ノートはグレゴリ経由でスピリタスに呼びかける。


『捕らわれていた奴らは解放したぜっ!予定通り殿になって先に逃がす!もうやっていいぞっ!!』


 そんな大胆な作戦を取ったノート達だが、一つだけ懸念点があった。それは猿共に捕えられていた笹の民たちの救出だ。グレゴリの調査で、どの時間帯にどういう行動で奴隷になった笹の民が動いているかはノート達も事前に知っていた。 

 数にして500人以上。そう簡単に逃せる数ではない。数千に届く猿の目を掻い潜り、500人の一般人をこの森の中から逃すために、どんなマジックを披露すればいいのか。


 グレゴリが編み出したヒュディの巨大な幻影が、ヘイト集中スキルを発動する。怒り狂った猿共がノート達に気を取られてるうちに、スピリタスとトン2、アシュラが檻を破壊し、次々と捕らわれていた人々を解放し、援軍の笹の民がここまで乗ってきた死霊狼に助けた者達を乗せて我先にと安全地帯へ駆けていく。


 だが、このままではジリ貧だ。いくら引きつけられても、それには限界がある。もっと脅威度の判定を上げないと、猿の全てを自分たちに引き寄せることは難しい。

 なにか、ズルでもしない限り。


「テルットゥ、ヤーッキマ、やってくれ!」


「うん!」


 ノートの指示に合わせて、テルットゥがヤーッキマを支えるように肩に手を添える。ヤーッキマは手を組んで、祈る様に目を瞑った。

 2人の体から白い光がユラユラと立ち上り始め、それが獣たちの幻影を微かに映し出す。非常に幻想的な光景にノートも目を奪われそうになる。


 首領の一族たちは嘗て、この地にあった国の王族の血を引いているのだと首領は語った。その一族には特殊な力が宿っており、周期的にその一族の中から、先祖が使っていた力を目覚めさせる者が居た。

 それは、精霊に、生物に、知恵ある者に語り掛ける力。周囲の力ある者を引き寄せ、世界に語り掛け、予言を齎す力。


 首領の説明ではその単語は出てこなかったのだが、ノートはテルットゥとヤーッキマが巫女、男巫の様な存在であることを理解した。

 ノート達は偶然ヤーッキマ達に出会ったように見えたが、それは間違い。ヤーッキマ達がノート達を探していたのだ。自分たちの救世主を、力ある者を、予言通りに、ヤーッキマとテルットゥは探していた。だから危険な森にも足を運んだ。そこでノート達を見事に引き当てた。

 

 だが、その血は魔物や力ある者にとって、強烈な魅力を持つのだとも首領は言った。ある意味、彼らは常に超広域の強烈なヘイト集中効果を周囲に発揮しているのと同じなのだ。ただ、生きているだけでもその力に捕らわれているのに、獣たちの前でその力を行使すれば、どうなるのか。


 周囲全ての生き物の意識が自分の方向へ叩きつけられたような錯覚をノートは覚えた。遠くで何かが呼応した気がした。猿達が、こちらを見ていた。数日間、砂漠の地を水なしで渡り歩ていた者の前に、清水の入った器を差し出したように、狂ったように猿共がヤーッキマ達の元へ向けて動き出した。


 しかし戸惑っている場合ではない。作り出したチャンスをものにしなければならない。


「さぁやろうか。全員引け――――!!」


 ノートが大声で叫ぶと、味方は全員打ち合わせ通りネオンが穴をあけた場所から避難する。


 開けた天にまた召喚陣が広がる。お構いなしに、目をぎらつかせ、涎を垂らしながら、地面を転がる様に走りながら猿共が一気に迫りくる。


 猿共がいよいよ開けた場所を抜けてノート達の元へ迫ろうとしたところで、ノートはそれを呼びだした。


 ドォン!と轟音を響かせながら地面に落下したイザナミ戦艦は壁の様にノート達の前に立ち塞がり、下にいた猿共を容赦なく圧殺する。同時に、イザナミ戦艦の砲門から大量の砲弾が飛び出した。


『さぁ見るがよい!そして畏怖するのだ!!』


 いくら猿共が引き寄せられようとも、イザナミ戦艦の力の攻撃範囲と速度は圧倒的だ。ノートはすかさずポーションを飲ませて自動ドレインの餌食になりかけたヤーッキマとテルットゥを回復させつつ、連絡を待つ。


『(((;゜;Д;゜;)))猿の王感知!すごいスピードでこっちきてるぅ!!』


「潮時だな!ユリンとイザナミ、グレゴリ以外、全員撤退だ!」


「ノート兄、あとは頼んだよ!!」


「ユリン、なんとか逃げ切ってくれ!」


 猿のみならず、多くの獣がヤーッキマとテルットゥに誘引されてこちらに接近を開始した。ならば、デコイが必要だ。そのデコイ役をユリン達が担う。


『のっくん、あらかた避難は完了したよ~。ヌコォちゃんたちも合流できた~。あとは漏れた奴らの露払いでのこるよ~』


「了解」


 そのタイミングでトン2から避難完了の報告が来る。ノートはすかさずキサラギ馬車を自分の元に再召喚すると、クロキュウ、シロコウにヤーッキマとテルットゥを担がせて車体の上に乗り込む。


「先に行って待ってるぞ!」


「うん!」


 最後にノートはユリンに声をかけ、キサラギ馬車にGOサインを出した。



初期限定特典図鑑❸

【バベル】

その名の通り、『塔』の初期限定特典。杖としてのモードと、簡易拠点としての2つのモードを持つ。職業ビルドは僧侶×生産。

杖としては強力な魔法強化性能を発揮し、呪・闇属性特化しているデバッファーヒーラー。拠点モードだと、ノート達のミニホームの上位互換と言える拠点を即座に築く事ができる。塔になっている間は味方を無条件に強化する。その強化性能はパンドラの箱を凌ぐ。最強の攻撃は拠点モード、つまり塔(拠点)の状態で振り下ろす大質量攻撃。イザナミ戦艦の質量攻撃が許されているのも、そもそも最初から質量攻撃を使える初期限定特典が存在しているからというのも大きい。

ネオンから大火力取って拠点能力と味方強化能力を引き上げた特典と理解すればOK。

このバベルを持つプレイヤーを旗頭にフランスサーバーではPKプレイヤーが猛威を振るっており、なんとかバベルを攻略しようとしているが武器扱いで耐久値実質無限なので破壊の仕方がないという事実をフランスサーバーの皆さんはまだ知らない



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― 新着の感想 ―
[一言] そもそも耐久値無限ってなんなんだヨォ!って話よな〜 形あるのにいつまでも壊れないとか摂理はどうした摂理は!
[一言] バベルの塔はあらゆる言語の完全翻訳とか付いてそう 神話に関連してる物と全く違う物、何か違いはあるんですかね?
[一言] バベルの塔が完成しちゃってるんだ。 バルちゃんナイフとかでぶっ壊せそう。 壊れた場合とか言語能力の喪失、言語理解不可とかそういうゲームプレイが不可になるレベルのデバフ貰いそうなのが怖いところ…
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