No.267 ゴア
シャンフロを読み貯めし始めてから早3年以上が経過しました
最後の記憶はオルケストラで「クソゲー!」って叫んでたところ
アニメ化楽しみ
「へー、アンタ生きてたか。あとはどこ行った?」
『( ◠‿◠ ) 少し死んだ。半分ウッキーに捕まった。ちょっと生き延びた』
「少しは生き延びたか。悪運が強いな」
霧の森から逸れて、ノートが腐った森と深霊禁山の間の中間エリア付近で待っていると、シロコウが1人のNPCの首根っこを掴みながらノート達の元にやってきた。
「猿共の攪乱ご苦労。よくやったシロコウ。お前の分身は自動ドレインと凄く相性がいいな」
シロコウは軽く頭を下げると、ゴミ袋を投げるように手に持っていた人間を足元に放り投げた。
シロコウは相当雑に扱ったのか、護衛役の最年長者は最早ボロ雑巾みたいになっており、辛そうに地面に蹲っていた。そんな男をノートは容赦なく蹴り上げて上を向かせ、シロコウに取り押さえるように命じた。
「どうも、お元気ですか?先ほどちょうどいいタイミングで言語スキルが中級になりましてね、前より会話はしやすくなったんじゃないですか?」
『オマエ、ドウシテ、コンナ』
「うん、片言みたいだけど大分わかりやすくなった。しかし…………なんかなぁ、片言でも空気は伝わるもんだが、お前たちは俺らを舐めてるのか?ちょっと状況をハッキリさせようか」
ノートはニコニコと人当たりのいい笑みを浮かべながら、いきなり取り出した槍で男の肩を捻りながら貫いて地面に縫い付けた。
『ウガアアアアアアアアアアアアア!?』
「あまり暴れないほうがいいですよ。その槍、棘が付いてて刺さるとなかなか取れないんですよ。しかも棘に各種耐性を貫通する刺激性の毒がタップリ仕込んであるんですよ。痛いですか?ですよね。実験で俺に突き刺したときもそこそこ痛かったので、貴方はその比ではないでしょうね。…………うるせぇなぁ、魔物寄ってくるだろ」
ノートは朗らかな声で諭すが、老父は痛みで喘ぐ様に叫ぶばかり。ノートが合図を出すと、ノートの肩でずっと姿を消していたヒィレイが姿を現し、即座に黒い手の幻影を編み出すと嬉々として男の顔と腹、喉を数度殴った。
「静かに、ね?次はこの白いのがやるぞ。この子ほど適度な手加減ができないから、顎が砕けて交渉できなくなるかもしれないですよ」
腹と喉を殴られた衝撃で叫ぶこともできなくなり、男は激しくせき込む。そこにノートは中立属性の回復薬をビシャビシャとかけた。
「なるほど、ALLFOってゴア表現がここまで許されるのか。痛いですか?痛いですよね?では静かにしましょうね。お前が下なんだよ。わかったか?」
ノートはニコニコしながら、各種恐慌を引き起こす魔法を発動する。既に暴力で追いつめて、恐怖を刻み付けた。ロールプレイは既に十分。激しい恐怖で喘ぎ始めた老父は直ぐにノートのオリジナルスキルに支配された。
「オリジナルスキルの強制率の実験って、実は魔物相手だともう何度かやってたんだけど、人間相手だとサンプルが少なくてね。どこまでやれるか少し試させてもらいますよ」
『ヒ、ヒィ』
「大丈夫ですよ。私は利用価値のある物は大事に使います。つきましては、まずは貴方方が何を考えていたのか全部吐いてもらいましょうか。ねぇ?子供を策謀に使う馬鹿どもが」
ノートは思いきり老父の顔を蹴り、能面の様な笑顔を被り、被っていた猫を捨てた。
◆
「ノート!」
「よしよし、無事だったか。大丈夫か?」
ノートが生き残ってた護衛役の数人を連れて地下帝国に戻ってくると、先に無事に地下帝国に向かうまでのスロープ前で待っていたヤーッキマが勢いよく走ってきてノートに抱き着いた。
「へいき!ぼく、だいじょうぶ!ノートは!?」
「なーに、この程度平気だ。頑張っておじさんたちを連れて来たぞ。まぁ、全員は、無理だったんだが」
ノートは少し苦しそうな表情で微笑むと、ヤーッキマは少し悲しそうな顔をして、よりギュッと強くノートを抱きしめた。
「ノートさん、だいじょうぶ、です?」
「ああ、テルットゥも心配してくれてありがとう。みんなケガはないか?」
「少し、人、ケガした。あと、具合、悪い」
「キサラギ馬車で酔ったか。手当は、悪いが街に戻ってからゆっくりやろう」
後ろで周囲を警戒していたヌコォと鎌鼬が、ノートを見て、その後にその後ろに居る生き残りの護衛役のNPCに目をやり、またノートに目配せする。対してノートはニコッと笑みを返した。
ね?という感じでノートが後ろの護衛役NPC達に笑いかけると、全員がビクッと震えた。
「さぁ、帰りましょう。護衛役の方が全員帰還できなかったことは非常に残念なことではありますが、全員が子供を、未来ある若者の命を守るために専念した結果です。仕事を斡旋してくれた首領には今回残念な報告をすることにはなりますが、少なくとも、若い子たちが無事なことに喜びましょう」
ヤーッキマとテルットゥの頭を優しく撫でながら、ノートはまだ少し不安そうな採取組を元気づけるように微笑む。その笑みを見て、採取組も少しばかりほっとしたような顔になり、幾人かは緊張の糸が切れたようにその場に座り込んだ。ノートはそんな子たちを優しい声で元気づけ、時には甘味を与えて懐柔する。
着々と子供たちを自分のフィールドに引きずり込んでいるノートの背中を、ノートが連れてきた護衛役たちが悪魔でも見るかのような目で見ているのが、ヌコォと鎌鼬の印象に強く残った。
◆
「で、どこまでやったのかしら?」
「ほぼ完全服従。俺達に関して余計なことは話せない。聞きだせることは大体引き出せたかな?ヒィレイがな、びっくりするぐらい適度な拷問が上手くてさ。予想より凄く簡単に会話できたよ」
スロープを抜けて、皆を連れて帰宅。ノートは事情を説明する前に、一旦皆も落ち着く時間を設けましょうといって、ヌコォと鎌鼬と打ち合わせる時間を強引に作り出した。
ノート達は宿泊用に与えられていた部屋に戻ると、ベッドに腰かけて何をしたのかを説明し始めた。
この部屋の中だと気が抜けるのか、ヒィレイは姿を表すと誇らしげに胸を張り、あまり役に立ててないナナツネもノートの隣に姿を表すと恨めし気にヒィレイを見ていた。
そう、この2人はノート達がドタバタやっている間も常に監視しているのだ。どこまで手を貸せて、どこからアウト判定なのかはノートもよくわかっていないが、拷問に関してはヒィレイからノリノリで提案してきていたのだ。
『もし、恐慌で愚民共を支配する際には是非』と。
スキルや魔法はダメらしいが、物理でやる系は意外とセーフっぽいようだ。
「それは置いといて、時間もないし本題に移ろうか。まず、首領たちが俺たちを試そうとしてたのは正解。猿と敵対してるのも正解。今回、俺たちを本格的に試そうとしてたのも正解。ただ、俺たちの見えてないこともやはりあった。あと、本命の―――――――――」
◆
「お待たせ致しました。首領殿は、もう護衛隊の皆さまから事情はお聞きしましたでしょうか」
ノートが初日に通された応接室に行くと、そこには首領と若頭、護衛役の生き残った人たちと、採取組の中でも年長の子が2人、それとヤーッキマとテルットゥが居た。
首領と若頭の表情は、どう見ても明るいとは言えない。物事が思うように進んでおらず、モヤモヤとしているような顔だ。
逃げてた時に比べたらかなりマシになった採取組の子たちに対し、壁に控える護衛役もかなり顔色が悪かった。
「…………ヒトツ、無事、ナニヨリ。若イ命、救った、感謝」
「我々も依頼を受けた以上は、とは言いません。人命というのは、何にしても優先されるべきことであります。私達の手から取りこぼしてしまった命があったのは事実ではありますが…………彼らも若き命を守るために自らを犠牲にしたのならば、英雄として称えるべきでしょう」
ノートは心底悔やんでいるような表情で、幽かにそうとは気づかれぬように嫌味を混ぜながら言葉を述べた。ノートの予想通り、ノートの言葉に反応して首領と若頭の眉間に皺が寄ったのをノートは見逃さなかった。
「今回の依頼は採取組の護衛ということではありましたが、此度は報酬の授与を辞退させていただきたく思います。同時に、随分長らくお世話になりましたので、私共もそろそろお暇させていただこうと思います」
ノート達からすれば5日間程度だが、ALLFOは現実の2.2倍速で時間が進んでいるので、笹の民からすればノート達はもう10日以上滞在していることになる。
もともと縁もゆかりもないしただただ居候していただけ。更に笹の民側に過剰な恩義があるわけでもない。旅人を名乗っていたノート達が街を出立するというのも、普通なら変な話ではない。
「え、ノー「スコシ!スコシ、マテ、マッテ、ホシイ」」
それでは、と急にノートが席を立つと、ヤーッキマが悲しそうな声で呼び止めようとする。だが、その健気な声も、慌てたように立ち上がった若頭の言葉で打ち消された。
「なにか?」
ノートは笑みを浮かべて若頭を見て、その後にヤーッキマ達や採取組に目線を微かに向ける。
「首領、イガイ、部屋、出てろ、なさい」
ノートの意向を汲んだのか、若頭は皆に部屋の外へ出るように命じる。急に雰囲気が不穏になったせいか皆戸惑ったようにノートと若頭を見ていたが、若頭がもう一度強い口調で命じると釈然としない顔をしながら全員応接室の外へ出ていった。
「さて、これで少しは腹を割って話せそうですね。なにからお話ししますか?ヤーッキマ達が私達の様な存在を見つける事ができる予言の子という事ですか?それとも、猿どもの侵攻が本格化し始めていよいよ皆さんも切羽詰まってるとか?ああ、若頭がヤーッキマ達を猿に攫わせて、私達か、それに類する存在に奪還を依頼し、猿どもをついでに退治してもらおうとしてた話とかもいいですよ。上等だよ。次はヤーッキマとテルットゥの首に幾らの報酬を用意してくれるんだ?あんた達の首か?さぁ、弁明をどうぞ」
ノートはソファにどっしりと腰掛け、脚を組む。気まずそうに俯く首領と若頭に対し、ニコニコと笑うノートの方が、最早地下帝国の支配者のようであった。
ノート氏は内なる外道を抑えきれなかったなどと供述しており…………(なにも成長していない)




