No.266 鍵
設定厨隔離施設に『ALLFO/よくある質問集』を格納しておきました。感想返しではなく、ALLFOがプレイヤー達からよくされる質問に対するアンサーがまとめられた小話です
「深霊禁山で取れる素材は、彼らにとっても必要なんだろうが…………こんな割のいい採取ポイントがあったとはな」
「護衛系クエストも悪いことばかりではなさそう」
ノート達がテルットゥ達と共に地下迷路の先を進んでいくと、そこは霧の森と猿の巣のちょうど中間ぐらいの位置だった。
猿の巣も括りでは深霊禁山にはなるが、エリア的には明確に区別されているのか特に危険な雰囲気は感じない。
テルットゥ達は貴重な植物や鉱石、石材などを採取できるポイントに詳しいらしく、ノート達はテルットゥ達採取組を守る一方で一緒に採取にも参加させてもらっていた。
「テルットゥ達にとっては、あの腐敗した森はどのような扱いなのかしら?」
「どうなんだろな?聞いてみていいんじゃないか?」
「そうね。ねぇ、テルットゥ」
採取組に参加しているのは、比較的若い男女。若いと言っても、中学生から高校生程度だが、その年でも働いているようだ。その中でもテルットゥとヤーッキマだけは殊更若い、というよりは幼い。流石に一緒に歩かせるわけにはいかないので、前にそうしたように、テルットゥは鎌鼬のペットに、ヤーッキマはノートのペットに一緒に乗っていた。
鎌鼬は自分の腕の中でおとなしく座っているテルットゥに話しかけてみると、テルットゥは「どうしたの?」と首を傾げた。
「聞きたいことがあるの。ここから、おおよそ彼方の方面にあるのだけれど―――――――」
グレゴリに手伝ってもらいながら、鎌鼬はテルットゥや、グレゴリの映し出した絵に興味を惹かれた様子の採取組にも腐敗した森の事を知っているか聞いてみた。それに対する若い子たちの反応はあまりピンと来てない様な感じで、チラチラと大人の多い護衛組を見ていた。
すると、大人組の中でも一番年長と思われる護衛役が答えた。
「ティーダンパイカスタ。セオンヒヴィンヴァーラリアンパイッカ。メネタットヘンケンシヴァインメネマッラシンネ。セオンパイッカヨゥサクカァンエィエナァピュサイドゥ」
「…………存在は認識しているけれど、危ないからもう誰も立ち入らないのね」
「オーレンクゥルトゥエッタスウリパハピレホロロクケッサ。ヨタインオンタパフトゥントゥヒッタイン、エトゥカサコスカンメンナヘイダンァッヘンレン」
「そう」
思わずノートとヌコォを見る鎌鼬。ノートとヌコォは色々と心当たりがありすぎて、幽かに目線を逸らした。その言い伝えられている大いなる災いや、最近起きた“何か”に該当する記憶がチラホラと浮かび上がったのだ。
なんなら、立ち入り禁止と言われたその場所で連日アテナたちの要望に応えるべく素材集めに奮闘していたのだ。
護衛の責任者っぽい年長の護衛役が採取組にも言い聞かせるように腐った森について説明したが、護衛役の中でも一番若そうなのが口をはさむ。
「オーレンクゥルトゥ、エッタアヴェイントゥオンヌックイャンシネトイミッセノンパーリコンタロッサ。セオンヴァインフフ。オンコセトッタ?ネイティテルットゥ」
すると、年長の護衛役がバカなことを言うな、お前たちはお嬢様に気安く接しすぎだ、などとその若い護衛を叱りだしたが、ノートとヌコォの目が更に泳ぎだす。
その鍵とやらを無視して、扉を力技でこじ開けた記憶がノート達にはあるからだ。
「(なるほどぉ。見つからなかった扉の鍵って、笹の民に紐づいたクエストだったのか。発覚したら大騒ぎになりそうだから黙っておこう)」
一度、素材を集めるついでにノート達は例の文字化け怪物が居た廃村を見に行った。
そこにあったのは、もはや廃村ではなかった。廃村を飲み込むように胞子が全てを侵食し、例の化物が封じられていた建物周辺は大きく陥没。その大穴のより近くへ行くと、野菜妖精にノート達がボコボコにされた禁忌菜園の様に、ダンジョンに入るか否かのシステムメッセージが表示されたのだ。
その現象は、同じく素材を取りに行った水晶洞窟でも確認された。初めて入った時とは別の結晶上の糸で浸食された通路が各ポイントで開通し、そこを進むとダンジョンへ入るか否かシステムメッセージで問われるのだ。
推奨ランクは当然不明。名前すら完全に文字化けして解読不能。ノート達でもまだ入るのは早いと判断し、調査を見送った。
ノート達がノリでも突撃をしなかったのは、腐った森も、水晶洞窟も、文字通り大きく変貌していたからだ。今まで出現していた敵性MOBはより強くなり、それを上回るような新種の魔物も数多く出現。フィールド自体にも落とし穴などの天然のトラップが出現し、攻略難易度はノート達の体感だけでも倍に上がっていた。その分、エリアで採取できる素材のレベルも上がっていたので結果オーライともいえなくはなないが、その分採取難度自体も上がっている。
ダンジョン周辺の浅瀬でも死に物狂いで戦って採取をしないといけないのに、その奥へ無策で進んだら瞬殺されることは自明だった。
「(もしかすると、地下帝国は色々なフラグが絡んでいる非常に重要なポイントなのか?)」
そこで、ノートは続けてその詳しそうな年長の護衛役に、アラクネやラミアの巣について質問してみた。その奥にある赤月の都へ行く時も、ノート達はグレゴリの異常な空間認識能力で『感覚惑乱』のエリアを抜け、植物の悪霊であるネモの力を借りて強引に封印をこじ開けている。
本来、その進行度だと持っていないはずの能力でゲームのギミックを強引に突破してしまうということがバグ技を駆使したRTAなどでは見かけることがある。ノート達がやってしまったのはそれに近いのだが、ノート達もそれを正規の方法とは考えていない。つまり、もっとしっくりくる本来のルートがあったはずなのだ。
しかし、アラクネ・ラミアの巣について聞いてみても、笹の民たちは誰もが首を傾げていた。グレゴリが絵にしてアラクネとラミアを見せたが、誰も見たことがないらしい。そもそも、テルットゥ達に『森の中を歩いてたら猿や、狼、猪たちに襲われるので迂闊に出歩かない』と真顔で回答された。
ノート達からするとキサラギ馬車が居るので、万が一深霊禁山のボス級が接近したとしても、かなり早期の段階で感知し、キサラギ馬車が全力で逃避すれば逃げ切ることができる。
だが、これは非常に特異な条件が揃って成立している。
そもそも急斜面且つ薄暗い深霊禁山を高速で移動することは非常に難しい。移動に適したペットでも、深霊禁山の移動はかなりゆっくりになる。急がせると移動に特化しているノート達のペットでも転倒しかねないので、キサラギ馬車の様な変態機動はできない。
ノート達は数日間しか地下帝国に滞在していないが、騎乗動物を飼うという文化がないらしい。代わりに荷物を持たせるサイのような大柄の動物を少数飼っているが、それも深霊禁山では使えないらしく連れてきていない。
笹の民からすれば、脅威の追跡能力を持つ狼などに遭遇した時点でほぼ詰みなのだ。非常に身近でありながら、深霊禁山の探索が進んでいないというのもある程度納得できる話であった。
特に、笹の民はやはり猿とは敵対関係にあるらしく、猿の巣が彼らの進行を阻害する蓋として森に展開してしまっているのだ大きな問題となっていた。
『(。-`ω-)ムムッ、罠の気配』
「みんな、ちょっと待ってくれ!罠があるかもしれない!ヌコォ、頼む」
「わかった」
こうして笹の民と友好度を深めつつノート達が笹の民から色々な情報を抜いていると、急にグレゴリが警告を発した。
場所としては、猿の巣がそろそろ見えてくるポイント。ヌコォがスキルを使って罠を探知すると、グレゴリの警告通り縄で絡め取るような罠が仕掛けられているのを発見する。
「そろそろ、危険かも」
「どうでしょうか、ここで引き返しませんか?猿の巣が近いようです」
ヌコォの言葉を受けて、ノート達は同行する笹の民たちにルートの変更を提案する。単純に戦ったり、逃げるのは楽でも、誰かを守りながらと難易度は一気に跳ね上がる。同時に、それを守るノート達のリスクも跳ね上がるのだ。
護衛というのは、事が起きてから奮闘しては遅い。アクシデントが起きる前から、そうならないように手をうつ事こそが、お互いのリスクを減らす賢いやり方だ。
若い採取組はノート達の提案を受けて、確かにそうだと腰を上げて籠を背負う。罠があるということは猿がうろつくと分かっている場所なのだ。今は猿の気配が無いとはいえ、長時間留まるのはリスクでしかない。
しかし、ノートは護衛役たちの反応が鈍い気がした。そうだなと同意するわけでもなく、否定するわけでもなく、特に年長ほど何か目配せをしているように感じた。
ヌコォが護衛役からは見えない位置で指を動かす。
どうするの?というハンドサインだ。ノートの反応を見てヌコォも少し違和感を感じたらしい。
「私、先に移動するわね。テルットゥ、行くわよ」
「オケィ」
鎌鼬はテルットゥを呼ぶと抱き上げてペットに乗せる。ノートもヤーッキマをペットの背に乗せた。元々何か起きるとはノート達も予想していた。その中で今までと違う行動パターンをNPCが見せたので、ノート達も反応が早かった。
『(゜Д゜;)なんかゾワゾワするお。魔物の動きが変DA!』
「同意。何か森が騒めいている」
グレゴリが慌てるように震えだす。ヌコォもペットに素早く跨った。
ノート達の雰囲気が切り替わったことで採取組も何かを察したらしく、慌てるようにノート達の後ろに走り寄ってきた。
「(なにを考えてやがる。まさか俺たちを生贄にしようってか?)」
自分たちだけがアクシデントに巻き込まれる分には最悪問題ない。プレイヤーは死んでも蘇るし、装備品の耐久値はすり減るが、それもある程度修復はできる。一方、NPCの命は戻ってこない。エインは奇跡の産物だ。例外中の例外だ。人は死んだら、生き返らないのだ。
ノート達が地下帝国での身分が保証され、好意的に接してもらえているのも、首領からのお達しということもあるだろうが、ヤーッキマとテルットゥがノート達に強く懐いているからというのも大きいようにノートは思えた。
ヤーッキマとテルットゥがノート達に付いてくるのはその行動に縛りをかけていたが、同時にその身分を保証していたのだ。
そのテルットゥとヤーッキマがもしノート達と共に行動している最中に死ねば、ノート達の株は確実に下がる。ノート達は何があってもこの2人は守り抜く必要があった。
『(((;゜;Д;゜;)))猿共がうごいた!』
「クソっ!」
ノートは直ぐに判断を切り替え、キサラギ馬車を召喚する。キサラギ馬車にはテルットゥとヤーッキマを乗せることはできない。しかし、ノートが試してみた結果、車の上に乗せておく分にはキサラギ馬車も問題がないようなのでペットからおろしてノートはキサラギ馬車の車体の上にヤーッキマとテルットゥを放り投げ、同時に馬車の上に召喚したクロキュウに命がけで守れと命じた。
少々辛いのは、進化した自動HPMPドレイン効果が使えないということ。
このドレインは無差別ではなく、仲間には影響しない。しかし、その仲間に笹の民は含まれていない。今はノート達のHPやMPが満タンで、尚且つ減っても元々『パンドラの箱』にあった自動HPMP回復の効果が優先されるので笹の民たちが悪影響を受けていないが、本格戦闘となってくると自動回復が追い付かず、自動ドレインも起動することが予想された。
そう、ドレイン能力はゲームバランスを崩壊させるレベルで強力だが、同時に任意でON・OFFを切り替えられないというデメリットもあるのだ。故に、護衛系クエストとノート達の相性は殊更悪くなっていた。
「(妙に護衛役に動揺がない。この状況になるって察してやがったなこいつら)」
ノートはメギドを召喚し、猿の巣の方へ単身突撃させて時間を稼ぐ。ノート達の反応の変わりようにいよいよ採取組も不安そうにする一方で、ヌコォと鎌鼬は車体の上に乗ってスナイパーライフルを設置し始めた。
「ほら早く乗れ!縄で自分たちを縛って絶対に落ちないようにしろ!」
ノートはシロコウも召喚し、まだ状況に追いつけてない採取組を2人で担いでは馬車の上に投げ、クロキュウが上でキャッチする。人数としては10人もいない。荷物はノート達がインベントリにしまって全員馬車に乗せる。
「護衛役はどうする?」
「さてね、もう満員だ。どうするか見てみようぜ」
ノート達は聖人ではない。守れと依頼されたのはテルットゥとヤーッキマ、そして自衛手段をほとんど持たない採取組達だけだ。護衛役はそれに含まれていない。護衛役たちが状況に追いつけていない中、ノートはキサラギ馬車にゴーサインを出した。
おそらく、採取組が人生で一度も味わったことのないスピードだったのだろう。採取組達はキサラギ馬車が出発するや否や各々抱き合い、顔を真っ青にして悲鳴をあげた。
「猿の王は動いたか?」
『(´・ω・`)そこはだいじょうぶ』
笹の民たちに合わせて歩いていたのは何だったのだと思うほど、キサラギ馬車は一気に森を駆けあがっていく。無論、今までの移動でも笹の民を乗せてキサラギ馬車を動かすことはできたのだが、ノートはキサラギ馬車の機動力を切り札として隠していた。その慎重策が今役に立ったようだ。遥か後方で護衛役たちが慌てるように動き出したのをノートはグレゴリの視界を借りて見ていた。
「全員しっかり掴まってろ!手を離した瞬間落ちるぞ!」
ノートはメギドの召喚を解除する。グレゴリはタフネスにパラメータが寄っているので、猿共がボーラを投げようが槍を投げようがダメージらしいダメージを与えられず、むしろ有効打を与えないと自動HPMPドレインが猛威を振るう。猿共はキレたメギドが暴れだしたのを止めることができず、次々と木の上から落とされていく。
そのメギドの召喚を解除すれば、猿のヘイト方向も変わる。護衛役たちは必死になって逃げていたが、万が一メギドが死ぬリスクとNPCを天秤にかけたら、ノートはメギドを迷いなく取った。
「ヤタコミナォット?」
「テルットゥ達を守るためだ。許してくれ」
車体の後ろから銃を構えるヌコォと鎌鼬の後ろで仁王立ちし、もはや隊列などもなくバラバラに散っていく護衛役たち。そんなノートの腰にテルットゥとヤーッキマが抱き着いて叫ぶが、ノートも仕方がなかったんだ、という顔をしてみせる。
「ねぇ、かなり強そうな個体が見えるけれど、撃っていいかしら?」
「まだ我慢してくれ。ここで撃つメリットが無い。シロコウ、一人だけ確実に確保してこい。そうだな、生きてたら年を取っている奴がいい。ピンチを救ってやれ」
銃ジャンキーがレンズを覗き込んでそわそわし始めたが、ノートはステイ、ステイ、と必死に押しとどめる。代わりに召喚されたシロコウが勢いよく馬車から飛び立っていった。
ノート達が本気でやれば、護衛役NPCも全員生きて逃すことはできた。元々ヘイト集中率に関してノート達は異常なレベルにある。特に何かをしなくても猿共はノート達を追跡してきたはずだ。
だが、そこまでしてやる義理もなければ、今回の騒動の一端を担ったのは護衛役たち自身である可能性が非常に高い。護衛役たちが何かを仕掛けたようには見えないが、明らかに猿が動くことを承知していたようにノートには思えた。
目には目を、歯には歯を、不義理には、絶望を。
何かが起こると分かっていて試すなら、ノート達だけを試せばいい。そこにヤーッキマ達を巻き込んでいるところが質が悪い。そんな考えのアホは、NPCだろうが救ってやる気など起きない。
「ちょっとお話してくる。あとは頼んだぞ」
ノートも続いて馬車から飛び降りる。子供たちが悲鳴をあげるが、ノートは召喚した骨の馬に綺麗に着地し、グレゴリを連れて坂を駆け下りていった。
自分達にとって当たり前の事は、案外分かりにくい。
例えば、性質によって深霊禁山は異なる反応を見せるので、地下帝国のシナリオも大きく変わるし、
腐った森は入った瞬間非常に強力なデバフを喰らってまともに身動き取れなくなる事を
そこを変にスルー出来るせいで、話がしっちゃかめっちゃかになっている




