No.35 古源人
ゲリラはいきなりあるからゲリラなの~♪
3/7 称号:マゾヒストを変更
「結局入れたし……」
「うぅ……」
しばらくして泣き続けていたネオンがある程度落ち着くと、ノートはユリン達をネオンに引き合わせた。だがストーンサークルに帰還する間の馬車の中ではユリンがピリピリしており、気圧されたネオンが反射的に今現在最も安心できるエリア、ノートのそばにそそそっと寄って縮こまる。だがそれは最もユリンの怒りを的確に増加させる行動にほかならず、ユリンの圧は余計に高まるばかりだった。
「ユリン、やめろ。俺がアプローチして最終的にジャッジを下したのも俺だ。お前の気持ちは理解しているがネオンにあたるな。文句があるなら俺に言え」
そんなユリンに対してノートが抑えるように言うと、不服そうな顔をしつつもユリンは圧を控えめにした。
因みにノートがネオンを呼び捨てているのは、ノートがユリンとヌコォを呼び捨てにしているので私もその方がいいです、というネオンの要望を承諾したためである。
「………ネオン、先に言っておく。ノート兄さんは少しフェミニストの傾向があるから「お前はまだ懲りていないのか?再来月の分まで仕送りとお小遣い全部なくなってもいいんだな?」すみませんでした」
幽霊馬車内部はリムジンのようになっており、見た目より中身が明らかに大きいので詰めれば十数人のっても問題ない広さがあった。そして現在は右サイドにノートとネオン、左サイドにヌコォとユリンが真ん中に設置されている机を挟んで向かい合うように座っており、勢いよく身を乗り出したノートにアイアンクローをかけられたヌコォはすぐに謝罪する。
「でも言わせてほしい。私も人並みに嫉妬ぐらいはする。戦いにおいて牽制ジャブは基本」
だが続けて、非常に珍しく感情がこもった声でヌコォは即座に切り返し、ノートは毒気を抜かれたように手を離す。
「戦いって…………勝手に戦いを始めるんじゃない」
「芽はできるだけ早めに摘んでおく。除草剤は生えてからじゃなく生える前に撒く方がよい」
「言い方どうにかならないのか」
ネオンはノート達の応酬に呆気にとられるが、それも僅かの間。少し鈍臭く要領の悪いタイプだったりするネオンだが、特別人の機微や感情に対して鈍い訳ではない。ネオンはヌコォが言葉の裏で言わんとしていることを理解して慌てる。
「ちちちちが、そういうことじゃ……!」
「『ノートさん達のパーティーに入れてください』とかならわかるけど、『ノートさんについていきたい』と言った。あなたは明確な危険分子」
ヌコォが指差しながらビシッと指摘すると、ネオンも後から自分でおかしかったと自覚していた部分を指摘されたので両手で顔を覆い広い革張りの座席に突っ伏す。そして猛烈に膨れ上がる羞恥心でプルプル震えだした。
「ヌコォ、ユリン……お前らワザとやってるだろ」
「この程度で耐えられないようならこの先ついていけない。最初から変に偽るよりはちゃんと明かしておくのがフェア」
「同じく」
虚勢を張っている訳ではなく、堂々とした態度のユリンとヌコォにノートは肩を竦めるしかない。ノートとて、この現状の一因が自分にあることは理解しているので強く出れないのだ。
「ネオン、勘違いしないでほしい。私はあなたの参入自体はこう見えてもとても歓迎している。パーティーを積極的に追い出すことはしない。ただ、別件ではっきり宣戦布告するなら受けて立つ。ばっちこい」
「ボクはノート兄の周りに人が増えるの自体嫌だから。別にネオンに限った話じゃない。ノート兄がパーティーに入れたから敵対する気も危害を加える気もないけど、ノート兄が追い出すと決めたらボクは積極的に追い出すよ。それだけは忘れないでねぇ」
お互いのスタンスを先にはっきり言い切るヌコォとユリン。いっそ清々しいくらいその言葉は男らしかった。
「「よろしく、ネオン」 」
とても可愛らしい顔立ちなのに2人ともたまに男っぽいよな、と苦笑するノート。ネオンはプルプルと震えながらも自分の心に鞭打って頑張って体を起こす。
「こ、こここちらこそ、よろしく、お願い、します…………!」
ヨボヨボのお婆さんのようなぎこちなさで頭を下げるネオン。だが頭を下げたところで羞恥メーターが限界に達し、今度は机に突っ伏してプルプル震え始めるのだった。
◆
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
そのあとは特段問題も起きず、幽霊馬車でストーンサークルまで帰還したノート達。
ノートは早速ネオンをバルバリッチャ達に引き合わせていた。
幸いなことにネオンは異形種やアンデッド系などにあまり思うところはないらしく、タナトスには最初こそビビっていたが普通に話せることが分かり、しばらく会話すると『なんか亡くなっちゃったお祖父さんに似てます』とノートでも反応に困るコメント。
ゴヴニュやアテナともノートが間に入れば普通に会話することはできた。だが高圧的なバルバリッチャのオーラにあてられて、バルバリッチャの時だけはノートの後ろに隠れてしまった。
ノートが「まあまあまあまあ」となんとか諌めたからいいものの、バルバリッチャはちょっと拗ねていた。
予想外だったのは対メギドで、ネオンはメギドを見ての第一声が、「うわぁぁぁぁぁ、カッコいい〜…………」であった。
ノート達も思わず「え?」と反応してしまったが、ネオンが真面目に言ってるのはキラキラしている目を見れば一目瞭然。
聞けば小さい頃は祖父に連れられて山に昆虫を取りに行ったりしていたとかで、昆虫系はかなり得意らしい。ただ話の途中ででた「お祖父さんの持ってた山は広くて」というパワーワードから、ノートはもしやネオンって結構いいところのお嬢さんなのか?と別のことを考え始めていた。
因みに昆虫取りに孫娘を連れて行くというアグレッシブな祖父と中身がタナトスに似ている祖父は別々で、アグレッシブな方が母方、中身タナトスな方が父方の祖父だとネオンは補足していた。
「それで、ネオンのステータスだけど…………」
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名前:Neon
種族:古源人(固定)
ランク:1
性質:極悪(固定)
正職業
❶黒逆聖女:Ⅰ
❷災厄女皇:Ⅰ
❸付与術師:Ⅰ
副職業
❶禁忌合成生物学者:Ⅰ
HP:23/23
MP:10/10
筋力:Ⅰ
体力:B
敏捷:C
器用:Ⅰ
物耐:G
魔耐:Ⅰ
精神:Ⅰ
称号
・忌まわしき者
・災厄を齎す箱
・トレイントレイン・原初(トレイン回数連続10回:敵性MOB誘引率上昇 )
・ランナウェイトレイン・原初(長距離トレイン10回:敵性MOB誘引率上昇・スタミナブースト)
・ビッグトレイン・原初(最大トレイン敵性MOB数100以上:敵性MOB追跡延長時間上昇)
・グランドトレイン・原初(最大トレイン敵性MOB数500以上:敵性MOB追跡延長時間上昇・大)
・インボルメンタープロフェッショナル・原初(トレイン殺害回数50回:トレインする敵性MOB強化)
・慈悲に溢れし者・原初(敵性MOBと相当数遭遇し、一度も攻撃しなかった者:回復系技能効果上昇・極大+自動HP回復)
・逃亡者・原初(敵性MOBと相当数遭遇し、逃走し続けた者:逃亡時全ステータス強化・スタミナブースト大)
・エスケープランナー・原初(逃亡者取得後、遠距離の逃亡を繰り返す者:逃亡時全ステータス強化・スタミナブースト超極大)
・デッド&デッド・原初(極短時間に相当数死亡:デスペナ軽減・小)
・マラソン&マラソン・原初(走り続ける者の称号:スタミナブースト極大)
・称号マニア
・グッドレッグス・原初(健脚な者の称号:スタミナブースト極大・悪路踏破)
・先駆者
・忍耐力の修行者・原初(敵性MOBと遭遇し一度も反撃しなかった者:ダメージを受けた時全ステータス上昇・自動HP回復)
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初期限定特典【パンドラの箱】
・強化限界無し
・耐久値無限
・チェインテンパーメント(味方対象に性質連鎖)
・所持者、味方対象に幸運・極大
・味方対象(パーティー/クラン)全体強化・超絶
・味方対象に自動HPMP回復付与
・敵対対象に不運・極大
・敵対対象にランダムで『呪い』を発生
・光系聖系・無効化
・光系聖系魔法使用不可
・『災厄』状態範囲拡大・超絶
・悪魔系の召喚コスト超減少
・召喚悪魔強化
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「これ、『チェインテンパーメント』の能力がなかったらブラックでも引っ張りだこだよな。明らかにぶっ壊れ性能だぞ」
「『チェインテンパーメント』の性質連鎖で同じパーティーやクランメンバーまで性質が極悪になる。普通のプレイヤーなら拒絶する」
「称号欄は本人にとっては不名誉かもしれないけどかなり有用な称号が多いよねぇ。『忍耐力の修行者』とか、『デッド&デッド』とか」
ネオンのステータスを見てあれこれ評価を口にするノート達。まだ全ての用語がわかっているわけではないが、ノート達の好意的な雰囲気にネオンはひとまずホッとする。
「何より嬉しいのは……職業だよな。本来の回復魔法が作用しないアンデッド・ゴースト・悪魔系への回復魔法・支援魔法・悪魔召喚などを習得する『黒逆聖女』。
MP消費もアホだけど攻撃力・攻撃範囲・付属効果もアホ性能な魔法を覚え、悪性の強い者、アンデッド系・悪魔系を有利にする常時発動スキルを習得する呪いのプロフェッショナル『災厄女皇』。
純粋にいつか欲しいと思っていた『付与術師』。
副職業は錬金術で禁じられてるキメラなどまで作成可能とする『禁忌合成生物学者』ときてる」
「これはランク上げ急務。こっちでバックアップすれば絶対強くなる」
「どうするぅ?災厄女皇の魔砲ブッパでMPと精神力鍛えてから、ヌコォの戦った巨木とタイマンコース?」
「それができるかどうかは…………ネオンのスペック次第だな」
「え?」
そして唐突に地獄級の身体測定がネオンに課せられる。
『ユリンとチャンバラ5本』、『ヌコォの投げナイフ躱し5分5セット』、『アテナの地雷直感回避ランニング』、『ノートからの魔法攻撃回避』、『メギドの咆哮耐性調査』など…………この訓練だけでランク2に上がってしまうという鬼畜極まりない身体測定で、ネオンは終わった瞬間にぐったりとしてしまっていた。
◆
「結果発表…………
近接戦闘センス無し
後衛戦闘センス無し
投擲センス絶望的
反射神経普通
運動神経普通
直感回避センス無し
理論回避センス有り
根性回避センス有り
アドリブセンス無し
メンタル強度低め
咆哮ビビり耐性普通
長期集中力天才
継続回避センス有り
狭域戦闘センス無し
広域戦闘センス有り
指揮センス無し
発想力普通
戦闘継続能力天才
脚力天才
導き出される戦闘スタイルは『移動型砲台』。おそらくゲーム慣れしていないのも加味しても近距離戦闘は全く向いてない。要領の良さ、頭の回転と発想力も微妙。だけど根性と集中力に関しては隔絶した才能、目を見張るものがある。それに後衛職にしてはよく動ける。長距離走も短距離走も優秀。厳しい評価だけどこれが現状でのネオンの評価。有り無しの評価はきちんと公的なデータも参照した上で評価してる。
そして目安としていっておくと、ユリンは近接・投擲・運動神経・反射神経・直感回避などは天才のレベル。ノート兄さんは発想力と頭の回転だけが天才というよりは“狂ってる”レベルだけど、逆を返すと苦手分野が一切なく実は完璧なオールラウンダー。やろうと思えばほとんどの職業ができる。カカシの後衛職じゃない」
かなり辛辣だが、私情を含まないゲーマーとしての客観的な評価をヌコォはハッキリとネオンに告げる。
「ヌコォ、オブラートの概念はどこにいった?」
「ノート兄さん、これは私なりの優しさ。あとで自分が足を引っ張ってると凹まれるより、最初から現実を見せた方がいい。ゲームだからといって生半可なら私は切り捨てる。お荷物はいらない」
ノートはヌコォの言いっぷりに思うところはあるが、何時ものようにただ感想を淡々と言っているわけではなく考えた上での発言と理解して今は口を噤んだ。
そしてめった刺しにされ沈黙していたネオンは、ゆっくりとだが俯いていた顔を上げた。
「私は…………親からも、要領が悪い、鈍臭い……とよく言われて、きました。球技なども、得意だった例しもないです。だけど、根性は、ある、つもりです。中・高は陸上と、水泳に、打ち込みまし、たので、脚にも自信は……あります。
今でも毎朝5kmのランニングもしているぐらいです。…………初めて、自分の意思で決めたんです。足を引っ張ることは、最初から、わかっていました。それでも、私は……諦めたく、ありませんっ」
ぐったりとした身体を震える腕で起こしながら、つっかえつっかえながらも言葉を紡いでいく。最初のように闇雲におどおどするネオンではなく、真っ直ぐな瞳でネオンはヌコォを見つめ返した。
「よく言った、ネオン。厳しいことを言ったけど、運動神経や反射神経などの生まれつきの才能が関与する以外の物はある程度ゲームに慣れていけばかなり大きく改善される可能性がある。ゲームにしてはとてもきついノルマを訓練として課すことになるけど、それでもやる?」
「やらせて、ください」
「時間に自由はある方?」
「はい、大学の履修範囲は大方1年次に。
今はもうパブリック制度(上位国公立大学の特殊制度で1年次に優秀な成績を修め、特定単位を取得することで、2年次より国家公務員用の試験勉強やレクチャーがある。AIが高度に発達しているので、国家公務員枠も減少、故にパブリック制度はほぼ国家公務員確定でかつエリートコースの花形制度。警察のキャリア組と似ている)が適用されたので、私のコースだと時間的拘束はあまりありません」
「パブリック制度って……超優秀じゃん!ヌコォさんや、大学行かなすぎて俺にかなり色々と助けてもらってるヌコォさんや、爪の垢でも煎じて飲んだらどうだい?」
「いえ、そんな、他の人よりも、猛勉強してギリギリ、だったので……母には、時間効率が悪すぎると…………」
ショボーンと項垂れるネオン。娘がパブリック制度に通ったのにそのコメントとは、とノートは驚きを隠せない。
「ノート兄さん、私は既に内定取れてるから正直大学行く意味が「ドアホゥ、金払ってもらってるならちゃんと行け」」
「ヌコォさん、内定……?え、ヌコォさんって…………」
ノートとヌコォの会話に驚くネオンに、ノートは向き直って説明し始める。
「ネオン、マナー違反だけど聞いていいか?ネオンって会話を聞いてる限り大学2年生以上で浪人留年がなければ今年で20くらいだよな?」
「はい、今年で20歳です」
「そうか……ネオンよ、ヌコォはネオンより年上だぞ」
「え!?あ、ごめんなさい……その…………」
ネオンは身長160cm強とどちらかといえばアスリート体型。それに対してヌコォは140cm強でありながら胸が大きめなので超童顔でもJC程度には見られる…………が、その実年齢は二十歳超えである。
だが、過保護なヌコォの両親は娘に万が一がないようにと、幼少期から水泳・テニス・空手・ピアノと英才教育を施したために、小さいけどハイスペックな高機能エンジン搭載済み。空手も有段者なので舐めてかかると痛い目にあったりする。
全くの余談だが、ユリンの場合、父親がサッカーを、母親はバスケをやらせたくて結局両方やらせた結果の産物である。
身長が150cmをわずかに超える程度なのが非常に悔やまれる、というのはサッカーとバスケの両方のコーチの切実なコメントである。
ただユリン本人は実力差がありすぎてサッカーもバスケもチームメイトからかなり浮いており(美少女ぶりは昔から健在。加えて運動神経が隔絶していた。そしてスタンドプレーが非常に多かった)、1番好きだった、そして今も好きなのもチャンバラである。ノートに誘われて始めたとあるVRゲームでユリンはその才能を完全に開花させたのだ。
閑話休題。
「え、では、ユリンさんは?」
「ボクは高3だよ。でもVR・Eスポーツで推薦決まってるから学校はほぼ免除」
2つしか変わらないの!?と愕然とするネオン。ユリンも比較的童顔なので実年齢より低く見られがちなのだ。
因みに、22世紀現在EスポーツはEスポーツオリンピックやVRのみのVREスポーツがある程度市民権を得ている。そして高度なリサイクル技術などが発達した世界では社会福祉制度も非常に充実。21世紀の職業の85%をAIが代行しているので就職先の受け皿が激減している。
加えて、先進国では生産性の向上により極論生活保障だけで十分生活できてしまうので躍起になって働く必要もない。
資本主義、実力主義は極まっていき、能力ある者のみがさらに優遇されるのが22世紀で、さらには仕事というやるべきことが減っていく世界での娯楽のウェイトの重さは絶大なものがある。
娯楽は国家資産と見なされるほどに重要な社会的要素を持っているのだ。
100年前とは職の価値が色々と反転し、AIだからこそ対処できない問題を解決する“カウンセラー”、娯楽に携わる“Eスポーツプレイヤー”や“プロゲーマー”などの職種は破格の稼ぎがある。
故に、『VREスポーツの推薦が決まるような生徒はもう勉強しなくてよし!』と大昔ではちょっと考えづらいことがまかり通る。
ただこれにも理由があり、VREスポーツは普通のスポーツに比べてプレイヤーが怪我などで引退したりとか投資分を失って損する様なリスクがかなり低いので企業も投資がしやすく非常に大きな金が動く、つまり社会的影響が非常に大きいからという要因があるのだ。
閑話休題。
「ノ、ノートさんは…………」
「20半ば、と言っておこうかな?比較的見た目通りの年齢でホッとした?正直、ヌコォとユリンは例外中の例外だよ」
「最初は、大学生くらいかと…………」
「職業柄学校訪問が多くてね、俺のカウンセリング方針は大人の目線で諭すんじゃなくて、同じ立場に立って話す、だから若い子たちに結構引っ張られるんだよね、どうしても」
あははははは、と快活に笑うノート。
だがだんだん笑い声が小さくなっていき「うん、子供っぽいって時々言われるんだよね」と溜息をつくノートに今度はネオンが泣くほど慌てるのだった。




