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No.256 ナチュラルボーン

なお人口説きの癖も、速攻で仮初の仲間を作る必要があったGBHWで培われた模様。大体の悪癖を辿るとGBHWに行き着く男、ノート



「これで大方必要な物は揃ったか?」

「アテナさん達から、もらった、要望リストは………大方納品できたかと」

「意外と時間がかかったな」

「洞窟も森も難易度上がってるし、トン2達もあんましログインできてねぇからなっ!」


 プルハ討伐イベントが終了し、第三章シナリオが解放されてから早2週間。多くのプレイヤー達がプルハ討伐の波に乗り、転移門を開通させるべく精力的に動いている一方で、ノート達はパーティーでアテナ達から求められたアイテムを集めるのに奔走していた。


 深霊禁山はともかく、難航したのは水晶洞窟。ノート達のせいで環境が変わったことはノート達も知っていたが、取れる素材のレベルが上がった一方でただでさえ厄介だった魔物達の凶悪性も大きく増していた。


 加えて秋シーズンになったことで、VREスポーツなどが活発化する。

 ユリンは順調にインターハイを勝ち上がると同時に、日本大会出場も控えているため練習時間が増加。

 ヌコォもインターンは継続しており、大会に向けて本格的にチームに参加し拘束時間が増加。

 トン2と鎌鼬は世界大会に向けてよりタイトな調整を開始しており、大会前になると流石に長時間ログインはできない。


 よって、今のところ活発に動けるのは、夏休み中に集中したカウンセリング予約を捌き切ったノートと、特に時期に左右されてないネオン、そして一番忙しい時期を乗り切り、全タイトルを防衛して伝説を更新したスピリタスの3人だった。

 この3人に加えて予定が空いたメンバーが入る形でコツコツやっていたため、素材集めは思ったよりも時間がかかった(なおどうしても集まりそうにない時はGBHWをやっていたからというのも原因の一つに挙げられる)。


「で、どこ行ってみる?」


 ノートは床にグレゴリが書き写してくれた地図を広げる。写真を使っての正確な地図とは異なり、手書きで適当に書いた物なので位置関係は少々怪しかったが、グレゴリが監修したので方角は概ね合っている。


「ナショナルシティを、中心に、以前ミニホームを置いていた中立地点を、北に取ると、更に北にある胞子の森は奥の崖まで、一度到達していますが…………」


「西や東はノータッチに近ぇなっ。東側にあの枝だか龍だかよくわからん奴がいた池があるってのはわかってるけどよ」


 正規ルートの反対側の裏ルート。日本サーバーの場合だとノート達がほぼ単独で攻略を進めているが、世界全体で見れば物好きが一応かなり奥まで調べてきたケースも報告されている。

 ただ、殆どが匿名での報告の為信憑性が薄く、ノート達が腐った森の奥で崖という物理的な境界を見た様に、非常に大きな亀裂や大瀑布などの物理的な境界の存在が噂話程度で確認されているだけだった。


「崖近くはあのクソビームクマムシがいるからなぁ」


「サイズもある分ありゃ黒騎士より面倒だぜっ。今のオレでもあの攻撃は対処できねぇな。………… GBHWのスペースラグナロクよりはマシだが」


 一度だけ、死んでもいいから行けるところまで強引に腐った森の奥までノート達は進んだ。結果、既に瀕死みたいな状態のところに超遠距離から一方的にビームを撃たれて全員仲良く消し飛ぶという苦い経験をしていた。

 しかもビームがデカすぎて回避するとかそんなレベルではない極めて理不尽な攻撃だったのだ。


「でも、クマムシの近くで、門の様な物が、見えましたよね」


「あれ気になったよな。と言ってもまさかアレが転移門とか言う訳じゃないと思う。というか思いたくないが…………」


 アメリカサーバーと中国サーバーの開通で、今のところ2つのサーバーはてんやわんやの事態らしく、その混乱ぶりは日本にも伝わっていた。その影響は大きく、日本サーバーでは3章を進めると同時に国外からプレイヤーが流れ込んできた時に備えての準備も進んでいるらしく、再び攻略スピードが緩やかになっていた。


「(生産関係は先生が中心になって対策してるみたいだから大丈夫だとは思うけど)」


 しかし、その開通に際して妙に浮いたのがPKプレイヤー勢だった。悪まで到達したプレイヤーは教会に入れないので、教会が大聖堂の中で転移門を管理している以上悪寄りのプレイヤーは締め出された形になる。不意打ちにしてはかなり厳しい制限にPKプレイヤーの抗議の声は大きかった。

 それに対する開発の解答は、『どのプレイヤーも海外のサーバーへ行く手段は既に用意してある』という物だった。


 具体的にどこから、どの様な手段で、などは一切答えなかったが、兎に角『方法はあるし、実装済みだ』と言い切ったのだ。


 さりとて、どこに転移に類する施設があるのか。

 この声明が出た時点で全世界の検証勢共が沸き立ちそれらしい候補を挙げてみたが、どれもしっくりこない。門の形状に絞ってもそれは同じ。何か遺跡の様な物か。それも未発見。


 と言うのは一般的なプレイヤーの視点。ノート達はクマムシが居座っていた場所に大きな門を見ているし、実はアメリカサーバーで頑張っているJKの方も門の様な物を見かけたとノート達に報告していたのだ。


「隠れながら、もう一度近づく、とか」


「悪くない案だが、JKが今凄い手こずっているユニーククエストの方が俺は怪しいと思ってる」


 実は、JKが報告した門の数は一つではない。

 一つは遺跡の奥の大瀑布より更に奥。初期限定特典の力で強引に水を掻き分けて渡った先で見つけたが、近づいたところでノート達のクマムシの様に滝の中から出てきたデカい蛇の放ったビームで消し飛んでいた。

 

 問題はもう一つの方。現在JKが住んでいる崖の中の集落の隠された通路の先で、非常に大きな門を見つけていたのだ。


「クマムシがゲーム的に言うところの強制スクロールみたいな物なら、門の解放には順番がある。で、わざわざユニーククエストが引っ付いている辺り、それが門の開通に関わってんじゃないか?」


「前の説明だと、エインの島に近いモンだから、なにかしら化け物が居るかもしれねぇって話じゃなかったかっ?」


「俺達の場合は第二章解放エリアだが、JKの場合は恐らく一章寄り。メタ的に考えても、一章の裏ルート方面に転移口を置くのはPKプレイヤーとかの棲み分けがし易くなるなどのメリットがある。第二章エリアに置くのは位置的にも微妙だろうし。その一大イベントの引金にユニーククエストを置いておくのも、ある意味分かりやすい」


「では、私達も」


「そうだな。探すか、ユニーククエスト。多分キーは霧だな。実際は霧じゃないらしいが、兎に角方向感覚失うレベルで視界がおかしくなったらビンゴだと思う」


「って事ぁ、ネオンの出番だなっ!」


「え!?」


 いきなりの指名に慌てるネオンを他所に、リビングのガラクタ入れからスピリタスはルーレット上の双六を持ってきた。


「1を北って事にして、適当に地図に番号割り振って、針の刺した番号へ向かえばいい」

「それをネオンに任せると」

「ん」

「なるほど、いいなそれ」


「えぇ!?」


 ノートなら没にすると思っていたネオンだが、ノートはなぜかそれを受諾。ネオンはいよいよ慌て出す。


「で、でも、わ、わたっ、わたし」


 そんなネオンの肩をノート達はポンと叩く。


「ネオンに委ねたのは俺達の判断だから、責任は俺たちにある。心配すんな」


「コイツのサイコロに任せたらエライ目に遭ったからな。それよかネオンの運の方が余程信じれるぜっ」


 ナチュラルボーンラッキーガール。

 ガチャでも当たりを引き当てた様に、妙な引きの強さを持つのがネオンという存在だ。どんなに努力しても決して覆せない『運』の領域。ごく稀にそれによく愛される人物がいる。

 ノートとスピリタスから見たネオンは、まさにその幸運の女神に愛された『強運』の持ち主だった。


「えぇ……………」


 ただ、ネオンは自身の事を然程幸運だと思ったことはない。物欲センサーの逆。自分がさほど幸運とは思わず、無欲で、自信のない人間だから、自己認識がズレていた。

 それも仕方がない。クラスで浮いている存在が、学校のビンゴで特賞を貰って悪目立ちしたり、目立ちたくないのにじゃんけんに勝ち続けてしまってステージの上に立たされたりと、運の良さとセットでそれ以上に気まずい思いをしてきた事にも大きな原因があった。


「そんな緊張すんなって。もしこれで大変な目にあったとして、俺とスピリタスがネオンを責めるわけないだろ?」


「………………そう、ですね」


 しかし、今は違う。周りにいるのは悪目立ち上等の荒くれ共。窮地に立たされればギャーギャー騒ぐが、その実1番楽しんでいるのがノートとスピリタスだ。

パーソナリティの深い部分に分単位で視界がひっくり返るハプニングが群れを成して押し寄せてくるGBHWが取り返すの付かないレベルで突き刺さっている人間だ。

 ハプニングこそゲームと無意識に考えているノートとスピリタスにとっては、むしろ平穏こそがもっとつまらないことだった。


「そうだな、わかった。確かにこれだとネオンにちょっと精神的な不安があるかもしれない。だから、俺たち全員で一回ずつ回そう。その三択の中で好きな奴をネオンの頭の上に居座ってるそのクソガキに選ばせよう」


『M゜?S゜yyyyyy!!』


 ノートが悪口を言うと、悪意を敏感に感じ取ったのかネオンの頭の上で微睡んでいたシルクはむくりと顔をあげてノートに向けて威嚇した。


 ヌコォのペットであるシルクだが、シルクは召喚獣ではないので待機モードがない。なので基本的にミニホームで放し飼いされているのだが、ヌコォに続いて妙にユリンとネオンには懐いていた。なのでヌコォがいないときは基本的にユリンかネオンの頭か肩の上にいるのがここ最近のシルクの様子だった。

 反面、未だにノートとは和解してなかった。


 ノートも大人なので、ここでバルバリッチャやアグラットなどの悪魔組を嗾けたりはしない。どうやら本能的に悪魔組は敵に回すとヤバいという認識はあるらしく、近寄られただけでブルブル震えだすのだ。

 悪魔組はノートの視点からだと無害だし話のわかる存在に見えるが、その実態は非常に残酷だ。シルクの可愛らしさなど毛ほども役に立たない。ムカついたら虫を踏みつぶす感覚でミンチにする。

 祭り拍子のメンバー達から可愛がられているアグラットでさえ、本質は非情に傲慢で自分以外の殆どを無価値だと思っている存在だ。召喚時のアグラットの態度こそが、本来のアグラットなのだ。


 なので、ノートは心の中で悪魔組を嗾ける想像だけをして満足しておく。ちょっとあほな子犬が吼えたところで一々ムキになる方がアホなのだと自分に言い聞かせる。


「Grrrrrrrrrrr」


『M゜!?mmm………………』 


 それはそれとして、ノート以外がそれを見逃すかどうかは別問題だ。目下、シルクはノートに噛みついているせいで死霊組の態度はとても冷たい。グレゴリだけは怖がられていても明るく構っていたが、3バカはシルクをガン詰めしようとしてノートに止められていた。

 なので死霊達は噛みついてこない。死霊達、は。


「それどうやってんの?」


「こう喉をな、ちょっと押して空間を作るイメージで喉を鳴らすんだ」


 冗談交じりではあるが、スピリタスが喉から獣の様な唸り声をあげると途端にビビッてシルクは縮こまった。


「一度ガツンと詰めてやりゃおとなしくなるだろっ。バカな犬には最初に上下関係を叩き込まねぇと面倒なことになるぞ。なんでほっといてんだ?」


「うーん、なんとなく?こういうのが一匹いてもいいかなって」


「変なところで器が大きい奴だな…………」


 本気で躾を行ったら一番怖いのはノートだとスピリタスは知っている。獣よりも面倒な人間を躾けることになれている男が虚勢を張るだけの獣一匹躾ける程度訳はないのだ。なのに一向に躾けようとしないのがスピリタスには不思議だった。


 すぐビビるくせに、ノートが指を近づけた途端にシルクは顔をあげて噛みつこうとしてくる。それを読んでいたノートはするっと躱してカウンターのデコピンをした。


『M゜!?S°yyy!!』

 

「な、可愛いだろ?」


 いまいちそこの感性は理解できないと首を横に振りつつ、スピリタスはシルクの首根っこを掴んでネオンの頭の上から回収すると、トンと背中を押した。


「トップバッターでいいぜっ」


「あっ、はい」


 ゲン担ぎに、実体化した『パンドラの箱』の上にネオンはルーレットを載せた。海で進路を決める時にノートがネクロノミコンの上でサイコロを振っていたのを真似したのだ。

 しかし、パンドラの箱は宝箱の様な形状の為に上に乗せてもうまく安定しないので、ちょうど暇していた狼娘のフゥロウがルーレットを支えてくれた。


 最初にネオン、続いてスピリタス、最後にノート。各々が引いた番号を紙に書く、はずだったのだが、羊娘のヨォヨウが棒線の先にそれぞれ餌を張り付けたあみだくじを差し出してきた。ご丁寧に餌とは反対側には既にノート達が引いた番号も記されていた。


「使えと」

『よろしければ』

「ありがとう」

『めっそうもない』


 そのあみだくじを床に置く。スピリタスがシルクを床に卸すと、同じ餌なのにシルクは迷いなく一番右側のエサに飛びついた。


「えーっと、これがこうきて、右来て、下、左……………」


 それを辿っていくと、結局ネオンが引いた番号になるのだった。




妙なところでクリティカルやファンブル出しがちでKP泣かせのラッキーガール・ネオン

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― 新着の感想 ―
[一言] >GBHWのスペースラグナロク 壮大すぎるw >ビームがデカすぎ ごん太ビームですね、わかりますw >サイコロ 運否天賦、女神と邪神の存在を甘く見てはいけないねw >クリティカルやファ…
[一言] KPは鳴かすモノですよ(固定値教徒 だからKPは絶対にやらない(下衆
[一言] ネオンは今までの不幸の分だけ今幸運が来てる 自分も友達とやっていたときにその友達がファンブルを出しまくって転んだりし続けた結果死にかけると言うことがありました
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