No.252 一家に一台
スレ話は後で差し込むので暫しお待ちを
『続きまして、ぱわーあっぷいべんと&孵化会です!』
一通りの発表が終了したところで、ノートとキサラギ馬車、グレゴリがステージに登壇した。
「キサラギ馬車を最後に進化させたのって、ネオンがまだ加入する前だったよな?グレゴリを召喚したタイミングは流石に覚えてるぞ。水晶洞窟を探検する前だ」
『………………』
『( ̄▽ ̄)bですです』
キサラギ馬車は『祭り拍子』の中ではバルバリッチャに次ぐ古株である。あまり人との交流を望んだりしないので表に出ることはないが、それでも移動ではノート達をずっと支えてきたし、最近は占星というチート級の能力で多大な貢献をしてきた。
此度、このようなイベントごとに全く興味のないキサラギ馬車がパーティーにいたのも、この時の為だ。
舞台の中央に立つキサラギ馬車に対し、ササッと近寄ってきたアテナとけものっこサーバンツ達が砲台や試作ガトリング砲などを馬車に取りつけていく。ゴヴニュは何枚も金属板を持ち寄り、骨の馬体に特注の重厚な鎧を取り付け、馬車自体も装甲車の様に覆っていく。
「お前には、今まで色々と助けられたなぁ」
本来、あまり長距離の移動ができないはずのノート達に足を与えたのも、圧迫しがちなイベントリをフォローしたのも、廃村の地下扉をこじ開けたのも、キサラギ馬車の馬力があってこそだ。
反船ではキサラギ馬車がいなければ、ノートはバウンティハンターから逃げきれなかっただろう。
その後のアンデッドパレードでも、キサラギ馬車が全てを引き潰し道を切り開いた。
黒騎士から鍵を奪うことも、プレイヤーから全く見つからずにヒュディのキャンプ地へ全員で潜入するのも、イザナミを屈服させるのも、全てキサラギ馬車があってのことである。
できることは運搬と占星だけ。しかしそれだけに、キサラギ馬車は強かった。MONとリアルマネーを使った特殊な進化分岐を選んだ結果、キサラギ馬車は序盤にしてある種完成した機能を有していた。
そうであるが故に、なかなか次の進化へ至れなかった。
アンデッドは成長性が低けれど、全く成長しないわけではない。進化をさせるためには必要なだけの生贄を揃えるだけでなく、進化に値するだけのレベルに対象が育っている必要がある。
タナトス達の様に生産に勤しむこともできなければ、メギドの様に戦いに明け暮れることも、グレゴリの様に常にフル稼働というわけにもいかない。積極的に利用しようとしていても、キサラギ馬車の運用に限界があり、故になかなか進化できるレベルまでに到達しなかった。
加えて、特殊なルートを選択してしまっただけに次の進化に必要な生贄もそれ相応の難度の物が求められた。
莫大なMONは当然として、安くないリアルマネー、ヒュディの特殊ドロップ、プルハの特殊ドロップ、水晶洞窟で女王蟻がため込んでいた宝物の一部、更には余次元ボックスなどなど、たった一体のアンデッドを進化するのにはあまりにも要求値の高い生贄の数々。それがようやくそろった。
「はてさて、ここからどうなるか」
自由につぎ込める生贄の枠には、旧式の銃や銃弾、砲弾を、供養としてガチャで出たハズレ課金アイテムを、そして発展性を願ってアテナが完成まで漕ぎつけたモーターやなんちゃって有線ラジコンカーを突っ込む。新型の銃にも使われた合金もふんだんにつぎ込む。
「キサラギには不思議な特性があったよな。進化前に取りつけていた物が、進化後に融合していた。中のソファも、元々はバルバリッチャが腰かけるための物が進化後に取り込まれたんだよな」
それ以降、なぜその様な事が起きたのかはノート達もわからずじまいだった。もしかしたらデフォルトの機能なのかと思い、遥か昔に本召喚したラミアスケルトンを復活させ、適当に鎧や槍を装備させて進化させてみたが、進化しても装備していた物が取り込まれることはなかった。
「馬車に取りついた霊っていうか、付喪神的な存在だからこそ、周囲のアイテムを取り込む能力があるのか…………改めて試してみようじゃないか。さぁ、進化を始めよう」
用意した生贄がポリゴン片になって消えていく。同時に星の様な輝きがところどころに瞬く黒い塵が赤い雷光と共にキサラギ馬車を覆っていく。
その稲光が宙に消えたところで、塵が弾けた。
中からヌッと姿を現したのは、黒雲を纏うガチガチに固められた武装車両だった。
金属鎧は甲殻の様になって骨と癒着し、骨自体も金属素材でできたようにメタリック鈍く光る。頭にユニコーンの様に取り付けられた角は完全に合体しており、このまま突っ込まれたらただでは済まないだろう。
馬車から装甲車に姿を変えた車体には砲台などが取り付けられ、見た目からして攻撃性が大きく跳ね上がった。今まで剥き出しだった御者台も完全に車体の中に組み込まれており、そこから鉄の縄だけが馬に繋がれているのが少しシュールに感じるくらいだ。
「大轟殻戦霊機馬輌……………完全に戦闘用に分岐したか」
その運転席から、フランクと名付けられた御者が出てきた。今まではボロボロの中世庶民的な服装だったが、その服も大きく様変わりし軍服をボロボロにした様な見た目になっていた。
そのフランクが胸に手を当てて、ノートに深々と礼をする。すると、フランクの胸が黒く光り、そのままフランクは両手をノートに向けて掲げた。
「ギフト…………そっか、キサラギ馬車からもらったことなかったな」
ギフトとは、使い魔などの好感度が一定以上をマークしていた際に、進化した時に使い魔がプレイヤーに与えてくれる特殊なアイテムの事だ。
ノートが装備しているぶっ壊れ性能のローブも、バルバリッチャのギフト由来だ。そのローブ自体もバルバリッチャが進化したことに合わせて強化され、いよいよ手の付けられない強さになってきている。
今までは当たり前の様にもらっていたが、本来、ギフトを得るだけの好感度を稼ぐのはかなり難しい。キサラギ馬車が今まで進化してもギフトを出さなかったのは、単純に使用度の問題で好感度が稼げていなかったからだ。
しかし、ノートには味方の好感度が下がらなくなるというぶっ飛んだ効果のオリジナルスキルがある。これのお陰でキサラギ馬車の好感度は下がることなく、コツコツ積み上げられていき、そして遂にようやくギフトをくれるだけの領域に到達したのだ。
「穢彗の蹄鉄………………呪詛強化に幸運強化、ノックバック耐性に耐久強化、悪路耐性って………………いや普通に強いなコレ。(元ネタは普通に蹄鉄の呪いか?)」
西洋では、蹄鉄を魔よけとして扉にかける風習が存在していた。同時に、蹄鉄には幸運を呼び寄せてくれるという伝承もある。
呪除けが呪詛の強化になっているところはアンデッドらしさを感じるが、あとはおおむねキサラギ馬車の力に由来していると感じられる効果だった。これならアクセサリだろうがなんだろうが活用するアテがある。
「ありがとう。これからは戦闘でもガンガン使っていくからよろしくな」
ノートの激励に対し、キサラギ馬車は地響きのような嘶きを返した。
ただでさえ、1の森のエリアボスを引き潰せるタフネスを持つキサラギ馬車。それが戦闘用にカスタマイズされ、馬力も大幅に上がってしまった。
その様子を見ていた運営達がギャー――――ッと悲鳴をあげているのをよそに、続いてステージの真ん中に来たのはグレゴリだった。
『((o(▽ ̄*)oワクワクo(* ̄▽)o))』
グレゴリは正式な本召喚死霊としては末っ子に当たる。
そんなグレゴリの能力は多岐に渡る。
望まれていた索敵は当然として、タナトスのギフトに由来するミニホームの閲覧通信管理機能、アテナのギフトに由来する通信機能、ゴヴニュのギフトに由来するデスペナ軽減機能、メギドのギフトに由来する格下支配機能、ネモのギフトに由来する回復機能。これだけも十分なのに、それに上乗せして転移と芸術家を基本とする影絵と騙し絵の能力まで持ち合わせている。
最初は片言とスタンプでの会話から、ツッキーの叡智付与の実験台に名乗り出て言葉を使えるようになり、ヌコォから教えられたAAを積極的に活用するように。
見た目はラスボス邪神系だが人懐っこく、ノート達やタナトス達のみならず、アグラットやけものっこサーバンツ達にも取り合わけ気に入られており、ツッキーとも喧嘩はしつつも一緒に劇をするくらいには仲がいい。
ザガン勧誘のキーとなった枝を確保できたのも、黒騎士から一瞬でも隙を作りだしたのも、ギガスピで敵を大いに攪乱したのも、本来通信ができない場所でも綿密なやり取りがすぐにできるのも、全て全てグレゴリの活躍があってのことである。
一家に一台、一パーティーに一体欲しい全身ナーフ案件の塊が、世界でたった一つしかないギフトを複数つぎ込んで作り上げられた極めて希少な死霊だった。
そんな奇跡の様な存在であるが故に、グレゴリの進化も極めて難航した。
グレゴリが求めるのはとにかくレア度の高いアイテム。それも通常は殆ど手に入らない様なものばかりで、ノート達も手放すが惜しいと思うレアものばかり。鉱物から植物、道具からと必要なレア素材のレパートリーも決まりがない。元々がギフトのごった煮だけに必要な生贄の系統もごった煮状態だった。
だが、それも水晶洞窟で得た金属を錬金した結果偶然得られた希少な鉱石だったり、ネモが突然変異で生み出した植物だったり、プラハの素材や、海で出現した文字化け怪物の差し向けてきた眷属からのドロップ品やクイーンハーピー達を襲った寄生虫からのドロップなどで漸く必要なラインに到達した。
「その上にMONやリアルマネーまで使うって、完全にキサラギ馬車ルートだよな。次の進化がいよいよ怖いぞ」
『(ノ≧ڡ≦)てへぺろ』
「笑い事じゃないんだって」
しかし、それを鑑みて尚、グレゴリは『祭り拍子』にとって必要不可欠の存在だ。進化優先度は最優先に位置していた。
「これからも、よろしく頼むぞ」
『ヽ(`∀´)ゝラジャー!!』
いつも極めて軽いノリだが、グレゴリはいつだって祭り拍子に貢献してきた。ノートはその今までの成果かからグレゴリを強く信頼していた。
生贄を捧げると、グレゴリが黒を基調とし絵具をドロドロに混ぜ合わせたような油っぽい液体がその体を覆う。それがブヨブヨと蠢くと、徐々に流れ落ちて赤いポリゴン片となって消えていった。
「なんか、邪神っぽさは薄れたけど今度はスーパーファンキーな感じになったな」
元は大きな目玉を中心にたくさんの蛇が目玉を覆うようなおどろおどろしい見た目をしていたグレゴリ。
しかし今のグレゴリは、巨大な目玉の周りにカラフルなタンポポの綿毛を寄せ集めたような見た目をしていた。そのカラフルな触手が蛇の様にうねうねと動いて宙に浮いていた。
その触手の色がコロコロと変わり、スーッと周囲の色に溶け込んでいく。
「カメレオンかよ」
『( `・ω・´)えっへん』
「また面白い方に進化したな」
グレゴリが楽しそうにノートの周囲を跳ねまわると、パッと光り、ノートにとある物を差し出してきた。
「これは、黒い額縁か………しかも二つ………?」
ただ、額縁の中は真っ黒で、かと言って黒い絵が飾られているわけでもない。一つは簡素で、一つは額縁がちょっと豪奢な額縁だ。
試しにノートが手で触れてみようとすると、磁石が反発するようにノートの手は一定以上絵に近づくことはできなかった。
「なんじゃこりゃ。『虚鏡の双影門』………………グレゴリのギフトなのか、これが」
鑑定しても効果がいまいちわからない謎めいたギフト。一体どう使うのかとグレゴリに視線を向けてみると、徐にグレゴリが豪奢な方の額縁の中に飛び込んだ。
なにをするのかとみていると、ペタペタとグレゴリが絵の中で絵を描いていた。まるで美術室を思わせるような、アートの為の道具が揃った部屋で、なぜか奥に大きく『\(^o^)/』のAAが書かれていた。
「ん?こっちもか」
だが、変化が起きていたのは豪奢な額縁の中身だけではなかった。誰も触れてないはずの簡素な額縁の方にも同じような絵が描かれていた。
一通り望み通りの部屋を作れて満足したのか、グレゴリはピョンと“簡素な額縁の方から出てきた”。
「まさか、グレゴリ専用の転移ゲートなのか?」
『(。-`ω-)物もイケるZE』
「生物はダメと」
『(。◕ˇдˇ◕。)いぐざくとりー!』
「またナーフ案件だ……………」
ただ、転移ゲートと言ってもノートでさえ理解に苦しんだように、その機能は複雑怪奇だった。その中でも、豪奢な額縁の方はグレゴリの化身扱いなのでアイテムボックスに収納できず、尚且つミニホームから持ち出すこともできないことはノートもなんとなく理解できた。
「厳密には、ミニホームへの緊急脱出ゲートなのか」
『( ̄▽ ̄)そうともいう~』
「いや、待てよ。この絵の中の部屋って、実際に存在しているのか?」
『(´・ω・`)?』
「持ち込んだ物を置いておけるのかってこと」
絵の中のアトリエは小さい。感覚的には1畳ほどだ。トイレの様な小ささである。しかし、それでも空間的な容積を考えたら単なる衣装棚よりもよほど大きい。
『(´・ω・`)できるお』
グレゴリはフワフワととんでいきビュッフェにあったたい焼きを掴むと、そのまま絵の中に飛び込んだ。そしてそのたい焼きをアトリエに置くと、グレゴリだけが絵の中から戻ってきた。
「………………これ下手すりゃバルちゃんのギフトよりヤバいんじゃないの?」
他人が干渉できない不思議な空間。そこに置いたアイテムはグレゴリしか取り出すことしかできない。しかしこれはこうも言い換えられる。グレゴリを使えれば、この架空のアトリエの空間がある限り物を持ち込むことができるということだ。
まともな服さえもなかったノートに、バルバリッチャは服を与えた。
ミニホームの様子を気にしていたノートに、タナトスはその様子をいつでも見れる道具を与えた。
より強固な繋がりを求めたアテナは、アリアドネを。
死ぬたびアイテムの耐久値をすり減らすノート達の為に、ゴヴニュはデスペナを軽減するアイテムを。
自分がより戦えるように、メギドはより強固な連携を可能とするアイテムを。
薬をうまく作れなくとも、せめてノート達を癒すべくネモは回復用の生きた杖を与えた。
使い魔たちが生み出すギフトは、召喚主の願いと使い魔の願い双方を反映して紡がれる。ギフトは使い魔の現身であるのだから当然だ。
だからグレゴリは応えた。
ノート達は危険な冒険を繰り返し、幾度となく死ぬ。どれだけグレゴリがデスペナを減らせても、死んでしまえば装備品とインベントリに入れていた全てのアイテム全ての耐久値がすり減り劣化してしまう。それはペットのインベントリに入れていても同じことだった。
もし、その貴重品を避難させることができる場所があったら、デスペナは殊更大きく改善されるだろう。
グレゴリのギフトはそんなノート達の願いに対するある種のアンサーだった。
「………………リソースお化け過ぎてグレゴリがちょっと怖くなってきた」
グレゴリが生まれる前に都合よくギフトが集まった時点でも、なんとなくノートは違和感を感じていた。その違和感が、今回は無視できないレベルになっていた。
「(なにか、明確な意図をもって干渉されているのか?)」
自分にネクロノミコンが与えられ、その片割れたる存在に都合よく相性の良い堕天使が与えられた。単なる偶然にしてはあまりにできすぎた偶然。しかし、それが元々意図的な物だったとしたら――――――
「(いや、まさかな。そんな非効率なことをする理由がない)」
ノートの脳裏でニヤニヤとこちらを見ていたALLFOちゃんを、ノートはかぶりを振って追い出した。
装甲車&ナーフ案件の塊のエントリーDA




