No.Ex 第五章余話/外伝/海外勢から見た日本鯖
『No.63ex アメリカさんたちの動向』 の人
「また日本だ……………………」
「また、なのね」
課金してグレードアップした大型テントの中に集まるのは10人に満たないプレイヤー達。しかし、このメンバーこそが“公式で“現状世界最強とされているパーティーだった。
アメリカの進撃を牽引するメンツは情報を何よりも重要視していた。それは自国のサーバーのみならず、世界全てを対象にしていた。
その集められた情報を検証勢などが精査し、このトップ層に伝えてくれる。この情報部の報告は今までも攻略を幾度となく助けてきた。
だが、その情報部を以てして“解析不能”と結論付けられた特秘案件があった。
「ロストモラル、だったか?しばらく静かにしてたと思ったら今度は海で戦艦を持ち出してきただと?」
「でも今回は表に出てきてないのにロストモラルって確定していいんです?」
「バウンティハンターの賞金額がまた大きく上がっていたから間違いないってよ」
「ついについに〜1位の賞金が500億MON超えちゃったのかぁ〜。これ討ち取れたらウハウハだなぁ〜。でもそんな大金ってそもそも払えるのかなぁ?」
「賞金首自体から金が支払われる訳ではないらしいんだ。ただ、討ち取れた人物は掛けられた金額に応じて差し押さえが起きるんだとよ」
「500億分ってなにを換金すれば足りるんだろうな?」
「そもそもなにをどうしたらそんな金額になるんでしょうね?仲間と予想される賞金首の平均もそろそろ250億に迫っているとかとも聞きましたが」
バウンティハンターが行なっている賞金首システムは少々難解だが、幾つかのポイントを押さえておけば混乱する事はない。
まず、基本的に正当防衛を除いて中立以上のプレイヤーを殺害した時点で賞金首リストに登録される。
PKをしてもリストに登録されないのは、対象のプレイヤーが中立未満の悪性よりのプレイヤーだった場合と、倒したプレイヤーの方が先に攻撃を仕掛けてきた場合と、倒した相手が賞金首だった場合だ。
AIはほぼ全てのプレイヤーの行動をリアルタイムで追っているため、どちらに正当性があるかの誤魔化しが効かない。余程の事がなければジャッジは覆らない。
賞金首になるのはPKをトリガーとしており、更にPKを重ねれば賞金額は上昇していく。ただ、この掛けられた賞金をリセットする方法が2つある。
一つはバウンティハンターギルドで贖罪系の特殊なクエストを受ける事。殆どがボランティアみたいな仕事だが、これを根気よく続ける事で性質が善性に向かい、尚且つ首に掛けられた賞金が減っていく。
もう一つは、他のプレイヤーに倒され、その賞金首を倒したプレイヤーがバウンティハンターで報告を行い賞金を受け取った時。この時討ち取られた賞金首側には差し押さえが発生し、所持していたMONやアイテムを根こそぎ持っていかれる。
ただし、受け取りには幾つか条件があり、まず賞金首が賞金首を狩ってもバウンティハンターは金を支払ってくれない。つまり仲間内で談合を行い、仲間に自分を一度倒してもらってその仲間が賞金を受け取り、討伐されたプレイヤーにMONを返すなどの行為はできない。
加えて、仲間内では無くても、この談合を仲介するような行為をすればバウンティハンターからマークされて出禁になったりする。要するに不正な賞金のリセットは原則不可能という事だ。
これは余談だが、賞金の受け取りは基本的に早いもの勝ちというルールもある。
例えばAという賞金首をBが倒した時点で、Bにはその討伐して登録されていた賞金を受け取り権利が発生する。しかし、受け取りを保留にし賞金がリセットされない状態でCがAを倒した場合、Cにはその時点で登録されているAの賞金を受け取る権利が発生する。この時Cが先にバウンティハンターギルドに討伐報告をすれば、CはBを無視してAの賞金を受け取る事ができる。
この様に賞金首に纏わるルールは色々と面倒なのだが、賞金が増える条件も色々と難解だ。例えば繰り返し犯罪行為(万引き、詐欺など)を繰り返したり、野盗などの反社的組織に味方したり、墓荒らしなどの倫理的に問題のある行動を取ったり、はたまた悪質な転売行為も引っかかるケースがある。なので検証勢やデばっかーさんの中にも案外妙に高い賞金がついていたりするのもあるあるだったりする。
それでも、500億という金額は現環境に於いてはあまりにも大き過ぎる額だった。この世界は魔物を狩ってもMONを直接得ることが出来ないために急激なインフレが起きてない。起きてないからこそ現環境のプレイヤーの平均総資産が約50万MONと考えられている状態で500億の賞金をかけるのはもはや現実味が感じられないレベルだった。
「気になるのは、この賞金システムって、大多数のプレイヤーに対する脅威度も計上されてる可能性が高いってところなんだな〜」
しかし、この賞金首システムによって付けられる金額は、単純な犯罪の数を数えている訳ではない。
それがアメリカの検証勢が出した答えだった。計算してもどうにも予測金額と異なる賞金が付けられる事象に関してはかなり前から確認されていた。それが特に悪名高いプレイヤーほど、余計に高い賞金をかけられていた。
例えば現在アメリカ勢のトップ層でも手を焼いている現状最大PKクランである『The Doomed Division』の賞金は、実際のPK数に対して名の知れてる幹部やトップ層を討ち取れる様な能力を持つプレイヤーほど高い賞金を付けられている。更にはこのクランに加入するだけでも賞金が掛けられたという事象まで確認された。
つまり、賞金にはそのプレイヤーや集団としても脅威度も計上されているのではないか、というのが検証勢の予測だった。
1人のプレイヤーを倒したところで増える賞金はせいぜい高くて1万MON程度。賞金首が倒したプレイヤーの所持していたMONの量も賞金上昇率に関わっているらしいとはいえ、銀行にMONの殆どを預けている事が多いプレイヤー達を倒しても然程大きな損害が出る訳でもない。
もしリセットされないまま賞金が上がり続けたのだとしても、1人討伐するに当たり多めに見積もって5000MON程度賞金が上がっていたと考えても、それだとたった1人で約1000万人近いプレイヤーを単独で狩った計算になってしまう。これはあまりにも道理に合わない数だった。
そうなると考えられるのは、その金額が付けられる至るまでの余罪と脅威度。
もし一般的なプレイヤーに対しての脅威度を測った時、それが500億相当なのだと言うのなら、その強さは現在世界最強とされているパーティーでさえも歯牙にかけないほど異常な力を持っているという事になってしまう。
「PRCでも、妙に賞金が高いのがいるらしいね。初期限定特典持ちが他の初期限定特典持ちを集めて大暴れして、従えたPK団体を束ねている。そのせいでPRCのトップは地盤をひっくり返されかけておかんむりだ。日本ではHANSENと呼ばれてるイベントを再現しようとしたって話だけどね。それに近いことをやってのけたPRCのPK集団の首魁でもようやく1億越えだ。一方で、最近何故か姿を眩ませてる、ウチらのサーバーのアホのトップであるDDのリーダーでも1億と少し、幹部でも1億は遠い」
「ロストモラルがプレイヤーだとして、或いは初期限定特典持ちが複数いるような所だと仮定しても…………500億なんて…………」
全員の視線がテント内でスムーズに情報共有するために外部ツールとリンクを繋いだスクリーンに集まる。そこに映るのは所々自動修正が入り見辛い部分があるが、戦艦がプレイヤー達の船を纏めて吹き飛ばしている実況映像の切り抜きだった。
「これとウチらなら勝てると思う?」
「無理。火力が違い過ぎる」
「攻略組全部集めても?」
「不可能です。技量では劣らないと考えても基礎パラメータが違い過ぎる。サマーキャンペーンのガチャの天使を呼び出す本がありましたよね。アレは自分より10以上ランクの高い天使を呼び出す能力があるのですが、数発の砲弾が直撃しただけで消し飛ばされました。日本は進行が緩やかだけどランクが低い訳でもない。むしろロスト・モラルで進行度以上の底上げがされている。それでも尚、全く手が届きそうな様子が無い」
「ALLFOにはランクキャップが無いが…………それでもある程度限界がある。ロスト・モラルはその壁をどうやってか超えている」
「プレイヤー同士をぶつけるやり方も万能では無いからな。不自然な上げ方をすればその分取り落としが増える」
「なんかすごい警戒してるけどさ〜?国同士が今後繋がるのってあくまで予測なんでしょ〜?」
「中心都市にナショナルシティと名付けておいて国を意識してませんなどあり得ないだろう。そんな名前をつけていて国で対抗するようなイベントを全く打ち出してこないのもむしろ怪しさが増すだけだ」
「そもそもナショナルシティは大きさに対して解放されているエリアがあまりに少ない。なにかしら計画的に大規模なイベントを企画していると見ても間違いじゃないかい?」
サーバーの中心となるナショナルシティはどの国のサーバーでも確認されていた。
ナンバーズシティよりは大きいが、NPC達が暮らしていない空っぽの街。教会や闘技場などの施設があるが、そこまで利用頻度の高い場所でもない。単にプレイヤーがホームを置くための土地だとしても、ホームを置けないエリアの割合も大きい。なにより中心である大聖堂が一般に開放されていないあたりも怪しく、多くのプレイヤーからすると今のナショナルシティは公式のイベント会場以上の意味合いを持っていなかった。
「大聖堂は本当に大きい。地下の存在も確認されている。規模で言えば、言いすぎかもしれないがグランド・セントラルレベルではないかとすら言われている。それだけのエリアを用意する意味があるはずだ」
「それが転移ゲートじゃないかって説?」
「シナリオボス討伐後には毎回街を作らされたが、街の中心に教会を置くやり方はステイツだけはなく、全ての国で共通して見られた現象であり、多くの建造物にプレイヤーを動員する仕組みを取っているにもかかわらず、教会だけは一部のNPCだけが関わっていた。移動関係の脆弱性をALLFOがこのまま放置しておくとは思えない。なにかしらの対策をしている筈だ。教会の情報をやたら伏せるのも、この仕掛けの仕込みを行っていると私は考えている」
「街とボスの跡地が繋がったら~移動は楽だね~」
「ボクから補足しよう。日本で生み出された写真から地図を作成する方法だが、アレを元に地図を起こしてみると………………」
メンバーの一人がメニュー画面を弄り、ダウンロードした写真を投影する。それはアメリカで出回っているアメリカサーバーの地図であり、要所に関しても大まかに書き込まれていた。
「ナショナルシティと、第一の跡地、第二の跡地、跡地と跡地の間にある『街』、そしてボクらが見つけた三章のボスの地点を直線距離で測ってみると、大体等間隔で配置されていることが分かる。偶然とは思えないよね」
「だからといって国同士が繋がりますか?もし街同士が繋がったとしても、ロストモラルの推定性質偏向度では街に入れないのでは?」
「………JKも、そうだったよね」
「初期限定特典持ちは問答無用で弾かれる。それは皆も確認しただろう?」
この場にいるのはアメリカでは有名なプロゲーマーばかりだ。星の数ほどあると言われるプロゲーマー事務所の中でも大手のリーダー格が揃っている。しかし、その中でも一人だけ参加を辞退した人物がいた。
JustKidding、JK、ゲーマー大国のアメリカでも有数のプレイヤーの一人だ。プレイヤースキルが人間離れしているタイプではないが、チームプレーという観点に於いて彼女以上にムードを高めてくれる存在はなかなかいない。
彼女がいるチームは不思議と勝率が高いことはゲーマーの中では有名で、事務所を超えて多くの人と交流することを好む彼女の事はこの場にいる全員が良く知っていた。
「でもさ、それってあまりに初期限定特典持ちが不利だよね?ゲームとしておかしいよ。絶対に何かしらのフォローがあると思うんだ」
「そうだね。だからこれはあくまで単なる推論というのもはばかれるんだけど………………」
地図を表示していた男は、地図の向きを上下逆さまにした。
「JKが彷徨っている正規ルートとは逆反対のこのエリアにも、何かしら仕込んでいるんじゃないかな、とボクは考えているけどね。性質によって悪質なプレイヤーに制限をかけるデザインなのはわかっているけど、完全に締めだしてしまうケースは極めてまれだ。何かしらの裏ルートがあってしかるべし、だと思うよ」
サーバーごとに様々な動きがみられるALLFOだが、どのサーバーでも攻略勢が正規ルートの開拓に集中しがちなのは共通していた。勿論、一部の物好きはいたが、正規ルートでは新規コンテンツがどんどん開拓されていくのにそこから取り残されてしまうことに耐えられるプレイヤーは少なく、ある程度探索しても何もないことを確認するだけで、更に奥まで進むことはなかったし、耐えられる変わり者が居たとしても、少数なのであまり攻略が進んでいないというのが現状だった。
「DDを中心にPKが下火になったのは裏ルートに進んだからって噂もあるけど、どうなんだろうね。メリーはなにか聞いてないかい?JKと一番仲がいいのは君だろう?」
「え、あ、あぁ、JKからは特には聞いてないかな」
活発に意見がやり取りされる中で、一人だけ妙に静かな人物に話が振られる。すると、ハッとしたように彼女は応えた。
「メリー、最近どうした?話し合いの時にボーっとしがちだけど、体調が悪いのかい?」
「だ、大丈夫。気にしないで」
プレイヤーMerryChristmas、通称MC。彼女はJKと同じ事務所に所属しており、JKともよく連絡を取り合っている。そして、その友人とも。
彼女はここ最近、メンバーに心配されるほど話し合いのたびに黙り込む時間が増えていた。狩りの時はいつも通りなので皆も強く追及することはなかったが、不思議には思っていた。しかし彼女は一向に大丈夫と答えるばかりだった。
なぜ彼女が議論にあまり乗ってこないのか。
それは、彼女が後ろめたい気持ちを押し殺すのでいっぱいだったからだ。
「(Puppyちゃんたち、なにしてんのよ………………)」
彼女はサバサバして明るい気質だが、同時に非常に義理堅く口も極めて堅い。
そんな彼女だからこそ、知っている。日本の友人から『自分がとあるイベントの発生に大きく関わっている』と聞いていたのだ。そう、彼女はロストモラルがプレイヤーの集団であることを知っていた。しかしそれは言えない。言わない約束なのだ。それはそれとして、ロストモラルがプレイヤーか否かで真面目にメンバーが話し合っている様子を見るのは何とも気まずいものだった。故に、彼女が議論に参加できるわけがなかった。
あまりの気まずさに最近は程よくボーっとする方法を習得し、議論を聞き流すことで罪悪感を減らしていた。それが最近彼女が妙にぼんやりしている理由だとは、流石にメンバー達も察することはできなかった。
「(詳しい話はしてくれないけど、絶対ロストモラルってPuppyちゃんたちだよね。でもなにをどうやったらあんなことを引き起こしているのか…………)」
ロストモラルがプレイヤーの集団と知っていても、それ以上の実態は知らない。それがまた更に彼女をモヤモヤとさせる。
さらに言えば、友人から情報を貰う対価としてアメリカサーバーの攻略勢の情報をコッソリ流しているという明確な裏切り行為も働いているので、議論に参加するたびに彼女のモヤモヤは膨らんでいく。JKからもらった情報も、意図的に絞って渡している。
現状、彼女こそが色々と謎扱いされているテーマの殆どの答えを知っている人物となっていた。
「(さっさと自分たちで暴露してPuppyちゃん!私の心臓がこのままだと持たない!後ろめたさで爆発しそう!)」
ロストモラルから第三章シナリオボスの攻略に話が移る中、MCだけは遠い日本の友人に悲痛な祈りをささげるのだった。
今週のチェンソーマンまじでチェンソーマンしてるなぁ!ゲリラ
みんなも無料で公開している間にジャンプ+で読むのです…………(ダイマ)




