No.Ex 第五章補完話/SPY×Espion Side:F
女医マン好き
『初めまして~、あっしカるタっていうっす!。貴方は藤色胡蝶さんっすよね?いつもスレ見てます!』
彼女と出会ったのは、2ヵ月か、3ヵ月くらい前の事、だったかな。
初対面からかなり気さくで距離感の近い、悪く言えば慣れ慣れしささえ感じるほどの勢いで彼女は私に近づいてきた。
彼女はスレの管理人として、私に弟子入りをしたいのだといきなり頼んできた。
デマ情報などに対応するために、今どきのゲームは外部の掲示板に頼らずゲーム内で固有の掲示板を用意することが多い。特に第7世代は現実に対して体感時間が2倍になっているので掲示板の消費が早く、リアル側からの書き込みできるがだいたいはゲーム内から書き込むことが多く、ALLFOは今まで掲示板を使ってこなかった層も積極的に利用しているのが特徴だ。
私は人の話を聞くのが好きだ。特に同じ趣味ついての話を共有できる空間はとても楽しい。だから、その話を聞くための環境を作るためにスレの管理に精を出したのは私からすると当然のことだった。おかげで、掲示板によくいる人からは良きスレの管理人としての信頼を得ることができ、私の建てたスレッドには多くの人が集まってくれるようになった。
圧倒的な同接数を常に誇る公式で管理されているスレに並んで、私の建てたスレッドが同接ユーザーランキングに乗ったのは私のちょっとした自慢でもある。
ただ、そこそこ名が知れたり、そのお陰で面白い称号を得たりしても、そんな私に弟子入り志願をしてくるような人がいるとは思わなかった。
彼女について、私は既にちょっと知っていた。
反船後にできた僧侶一派の中でも、彼女は非常に人気が集中した女性僧侶を守るために先頭に立ったプレイヤーとして一部では有名だったのだ。情報屋で彼女の名を知らない人はいないレベルだろう。
すごく人当たりが良くて、きゃぴきゃぴししてて、口さがない人は頭が空っぽそうなんていう。けれどその立ち振る舞いに対して非常に頭のキレる女性の様で、人との距離の取り方も上手な女性であっという間にトップ層のプレイヤーに取り入り、古巣の検証組やデばっかーも巻き込んで女性僧侶たちを守ったのだ。
確かに話しかけてきた当初はあまりに明るくて掲示板の運営には向かなそうな人間に感じたけど、彼女と接するうちにその懸念はすぐに勘違いだと気づいた。
彼女はかなり要領がいい。1を聞いて10とまではいかないけど5までは察することができる。それにヒーラーとしても凄い優秀なそうだ。ヒーラーというのはかなり難しい立場だ。マゾ職業なんて言われることも多い。全体を見る必要があり、どんくさい人にはできない。加えて頑張っても直接モンスターにダメージを与えられることが無いのであまり目立たない。蘇生魔法がないALLFOではより顕著だ。
ヒーラーとして頭角を現すというのはそれだけ視野が広く、頭もキレる彼女がヒーラーとして優秀ということ。会話しているだけでもその片鱗はなんとなく見ることできた。たぶん、彼女は他のゲームや職業でもきっと活躍できるポテンシャルがある。だからこそ強いのだろう。
彼女が私のノウハウを次々と吸収し、イベントに際しては優秀なスレ管理人として頭角を現すのも早かった。商売敵にも思えるが、私は気にしたことはなかった。スレ管理はあくまで趣味で、うまく運営しても特に報酬が入ってくるというわけでもないのだ。むしろいいスレ管理人が増えるのは色々な人の話を聞きたい私にとって嬉しいことだった。
だからこそ、彼女がスパイかもしれないと聞いたときは耳を疑った。
「どうも初めまして。貴方相手には私の事をわざわざ話す必要もないだろう。藤色胡蝶さん、で間違いないかな?」
彼の接触は私にとっても驚きだった。スレ管理人としては有名だけど、単なるプレイヤーとしては私はそこまで突出した能力を持つわけでもないし、有名ではない。対して私に接触してきたのは私とは比べ物にならないくらいの知名度を持つプレイヤー。生産関係の首領にして反船の英雄の1人であるプレイヤーだ。あまりの驚きに言葉すら出てこなかった。
彼は非常に冷静沈着で、大人としての威厳を兼ね備えており、紳士的だった。人の上に立つことに慣れており、周囲から先生や師匠と慕われるのもわかる人物だった。そんな彼は、一人のPKプレイヤーを追っているのだと語った。
「彼は非常にユニークな人物だ。実は私の一番弟子でね、あれ以上の傑物には残念だが未だ会えていない」
あまり感情を表す感じの人物ではなかったが、その弟子について話す時は明らかに楽しそうだった。彼にとってその弟子とは、本当に良き弟子だったのだろう。まるで自分の自慢の息子について語る父親のような雰囲気すらあった。
「彼はオンラインゲームが生んだ怪物だ。時代が時代なら扇動家として名を残したかもしれない。彼はオンラインゲームを政治的な盤面で捉え、普通のプレイヤーとは違った目線で動いている。妥協がない。予想もしないアプローチで有利に立とうとしてくる」
そんなお弟子さんは、PKプレイヤーだがきっと一般のプレイヤー側にもスパイを紛れ込ませていると彼は予想していた。それも予想もできない人物をスパイに仕立て上げているという。
「私の予想では、彼は街に立ち寄れていない。避けているのかできないのか、すくなくとも善性の強いプレイヤーとのパイプがない。彼は掲示板の使い方を心得ている。さて本題だ。ここ数か月で、貴方がスレの管理人として頭角を現してから貴方に接近してきたプレイヤースキルの高いプレイヤーはいなかっただろうか?」
それを聞いて、私の脳裏にパッと過ったのはカるタさんの顔だった。
私の名が売れてから、スレの管理人として私に接触してきたプレイヤーはカるタさん以外にも当然いたし、その何人かはスレの共同管理人にもなってくれた。それでも、その中で一番近づけば近づくほどカるタさんは得体の知れない人物だった。
しかしそんなまさか。冷静に考えたらあり得ない。けれど直感が出した答えはカるタさんだった。
「警戒はする必要はない。恐らく貴方に直接牙を剥く確率は限りなく低い。その人物は単なる情報提供者以上の役割しか与えられていないだろう。私の張った網にひっかかってないということは私の知らない伝手を頼っている。できることなら思い当たる人物の言動に関して私に教えてほしい。もしかしたらその人物は彼から直接指示を受けているかもしれない。彼は本命とダミーを使い分けて時に無自覚なスパイすら作るからね。その人物が大きく動いたときは私に必ず知らせてほしい。報酬は当然用意しよう。如何だろうか?」
彼は重ねて、あくまで予測の範疇で、自分の考えすぎかもしれないと強調していた。確かに、やはり冷静に考えてもカるタさんは不思議なところはあるけど、気が利くし、女性僧侶を守るために色々と身を削って動いているし、とてもいい子だ。
「彼はね、特異な才能を持つ人を引き寄せる奇妙な能力がある。もはやあれは才能という次元ではない。彼の紡ぎだした人の輪が更なる傑物を呼び寄せる。そして彼はその傑物を的確に拾い上げ、味方に引き込む。ふむ、カるタさんか。女性僧侶組のリーダーだったね。“彼”か………………」
彼?とは思ったけど、他の事が気になったので私はそれをスルーしてしまった。聞き違いかと思ったのだ。当時の私はまさか彼女が、まさか女性を守るために奔走する女性のリーダーが、男だなんて思いもしなかった。あまりに予想外すぎて、だからこそ考えも及ばないことだった。
のちになぜわかったのか聞いてみると、勘だと返された。あの人はリアルでも人に深く携わる仕事をしているのだという。今は後進を育てる方に時間を割かなければならないため昔ほどゲームに参加はできていないとのことだが、それでも彼の持つ情報の多さは情報屋の私から見ても圧倒的で、生産関係の重鎮として君臨したことがよくわかるだけの才覚があった。
「ども~こんちゃーすーパインセン!」
明るく魅力的な笑顔。つい心を許してしまいそうな可愛らしい立ち振る舞い。しかしひとたび皮を剥がせばその下には得体の知れない化物がいるのだろう。
「ん、ああ、こんばんはカるタさん」
それでも構わない。騙されたのは悔しいけど、私もタダでやられるつもりはない。私はできる穏やかな笑顔で、いつも通り彼を出迎えた。
師弟はやる事も似ている




