No.246 着せ替えごっこ
今回の幽霊戦艦の言葉が分かった人はなかなか
『報告、上の巨体を撃破。まだ復活してきそうな雰囲気があるけど暫くは無事』
「サンキュー。こっちも決着つけるわ」
仮面をつけたことでパチンコで言うところの激熱状態に突入したノート。ノータイムで次々と闇魔法を放ち続け、殺しきらない程度にボイラー室を削っていく。
『憎敦ㄲ似㥡㝤憎㡡似扣愴憎㌷ㄸ似改ㄶ憎晤似捡㕡憎晢似ㄲ㔳憎〷憎似㝡㈵捤憎攷憎捡似㐰㉢憎户㉢憎似㍤㝢憎〲㔴似㈴ㄹ憎㥢似㌱戱㠲憎ㅥ㔶ㅡ似ㄲ憎㈷㉡憎昹户憎似』
いよいよ切羽詰まってきたのか、それとも最後の抵抗なのか、ノイズ交じりの声に似た何かが脳内に流れ込んでくる。声というよりは意思に近い情報。日本語ではないのになんとなく言いたいことが伝わってくるような、セミの鳴き声に混じって人のささやきが聞こえてくるような奇妙な感覚がノートの脳の本来動かない場所を刺激してくる。
「憎いのか?閉じ込められたって?じゃあ俺が出してやるよ。お前の魂は俺が引き継ぐ。こんなところから出してやる。なんならもっと力を追加して新生させてやるよ。恨み辛みも全部俺が引き受けてやる。閉じ込めた奴を一緒に殴りに行くぞ!さぁ来い!!」
『………………!』
最後は意地と意地のぶつかり合い。
状態異常に対してかなり高い耐性を持っている筈のノートに『発狂:精神浸蝕』の警告がメニューを通して通告される。ノートの視界にノイズが走る。
老若男女がいた。皆不安そうな顔で打ち寄せる荒波を見ている。ここは海の孤島。戦艦という大きくて小さな島。何かがはるか後方でふり注ぎ、全てが破壊されていく。苦しい、辛い、憎い、一体なぜ。答えは出ない。また一人、また一人と死んでいく。霧煙る海域が出ることができず船は彷徨い続ける。出せ、ここから出せ。人々の無念が、郷愁が、憎悪が、憤怒が、強い想いが折り重なり、そして世界に赤いノイズが走る。空に浮くのは謎の白と黒の球体。空に稲妻が走り星々が消えていく。
「だからなんだ?もう取り戻せないんだよ!過ぎ去ったものはよぉ!!俺も辛くて悲しくて時が戻らないかと泣きつくしたけど結局どうにもならないんだよ!!前を向け古の亡霊共!!苦難に吼えろ!!こんな程度で負けてやるかって!!さぁ俺についてこい!!楽しませてやるぞ!!好きなように暴れさせてやる!!最高の憂さ晴らしをさせてやる!!」
その幻覚にノートはジャ〇プ主人公ばりの怒りをぶつけて対抗する。
爽やかながら言っていることは邪悪で、人を人とも思ってない。そんな悪魔のような男が伸ばした手に、弱弱しくホラーマネキンが触れた。
「ビビッてんな!!いいから堕ちろ!!オラッ!墜ちるんだよッ!!」
自分の手が傷つくのも構わず、剣と化したホラーマネキンの指を掴みノートはマネキンを引き寄せると、ジャンピング頭突きをして吼える。すると、ノートの視界にうっすらと[SUCCESS]という通知が流れ、ザーーーーーとノイズの様に情報が視界に溢れだした。
「うぉっ、おっ、おぉ?おぉ!?」
【幽霊戦艦ルゥリジ・カルゲァメルティ】は単なるボスではなかったのか、よくわからない情報までも溢れかえる。
「(邪魔邪魔!どけっ!)」
顔に集る虫を払うようにノートが手を振ると、メニューがちょっちょズレて、更に振り払われると、最後に「本当にいいの?」と振り返るようにちょこっと戻ってきてフェードアウトしていった。
同時に、あれだけうるさかったボイラーが急に沈黙し、バキバキバキバキと船に大きな亀裂が入り始めた。
「なんで!?」
急いで状態を確認すると、スキル自体は成功していたのだが、単なるテイムと違ってボス個体は通所とは違う処理が為されるらしく、慌てたような鎌鼬の連絡が入る。
『ねぇ!失敗してしまったの!?船が壊れつつあるわよ!?』
「し、失敗したわけじゃない。ただ、ボスだから普通にそのままテイムできる感じじゃないらしくて、魂みたいなのをこっちに預けてきたんだ。多分今の船は抜け殻みたいなもんだ。単純なボロイ船と変わりなくなって崩壊し始めたんだ。だから先に逃げろ。俺はグレゴリたちを使って逃げるから」
『わかったわ。絶対に生きて帰ってくるのよ』
「どうして死亡フラグ建てた?」
『あっ。つい……………』
ノートは急いで脱出しながら完全に一瞬雰囲気に飲まれていた鎌鼬が面白くてクスッと笑うと、鎌鼬はモゴモゴと取り繕うように何かを言っているがそこまでキッチリグレゴリが通信が繋いでいた。
どんどん崩れていく戦艦。船艇に穴が開いていたのかノートの気のせいでなければ徐々に体が下がっているような気がする。廊下に飛び出せば亀裂が入っていく壁と共に赤いポリゴン片が蛍の群れの様に廊下に溢れかえていた。
多くの敵は倒すと同時にすぐにポリゴン片になってしまうのだが、この船はデカすぎるせいか元々の演出のせいかゆっくりとポリゴン片になっているようだ。
「やばいやばいここで死んだらマジでダサイって!」
ゲームの中では時たま全力ダッシュすることはあるが、今のノートにはかなりの必死さがあった。廊下を走り抜け、梯子をカンッカンッカンッと登っていく。
「長ぇ!!グレゴリ!!」
一々上る必要はないと気づいたノートはグレゴリを召喚し一気に上へと引き上げられていく。が、流石に狭いのでガンガン体をぶつける。
「いたっ!痛くないけど、痛い痛い!」
『(´・ω・`)ごめんちゃい★』
「いやいい!このまま急げ!減速しないで!!焦らず急いで!」
『(゜`・益・´゜)゜bが、がんばるど』
「いや顔」
梯子や通路に頭や体をぶつけながらもノート達は急いで通路を走っていく。
『のっくんはやく~なんか入っちゃいけないひびはいってきたよ~』
『の、ノートさん、バルバリッチャさん達も、避難を始めてますよ』
『がんばって。ポリゴン片で前が見えなくなるほどに崩壊が進み始めている』
「それもうヤバくないか?」
無駄に広い船内を駆け抜ける。敵も何もなくなりただの船となった幽霊戦艦はもはや浮いていることさえ不思議なレベルで劣化が進んでいた金属の塊だった。
「急げ急げ下から水がきてるって!」
『(┬┬ω┬┬)これいじょうすぴーどでない』
『(;ω; ))オロオロ (( ;ω;)オロオロ』
三十路が見えてきた男とギョロ目配下の全力逃避。最後の階段など蹴上がるたび足元からポリゴン片になって崩れていき、遂に最後の一段を踏み外しそうになったところでギリギリでグレゴリがノートを持ち上げる。
『(;´▽`A``セーフ』
遂に本格的に船が崩壊を始める。霧など気にならないくらいの大量の赤いポリゴン片が視界を埋め尽くす。
「おー--い!こっちこっちー--!!」
もうグレゴリの音声通話もいらないのか、遠くからうっすらとトン2の明るい声が聞こえてくる。目を凝らせばうっすらとバルバリッチャのクルーザーの上で手を振っているトン2達の姿が見えた。
「グレゴリがんばれ!!あともう少し!!もう少しだから!!」
『┤´д`├おもーい………………』
「あっ、あっ、落ちる!落ちる!!」
墜落する前の飛行機の様にフラフラと墜ちていくノート達。女性陣達がキャーキャー言いながら手を伸ばし、落ちてきたノートを受け取めてクルーザーの中をゴロゴロと転がり、クルーザーの先頭で霧が晴れていく海を見ていたバルバリッチャの元でちょうどぴったり止まる。
「ただいま」
「うむ」
「ちょっと予定外の事があったので一度ホームに戻りたいのですかよろしいですか?」
「契約は契約だ」
そのまま土下座をするように頭を下げるノート。元の話ではこのままプレイヤー達の方へ突っ込むはずだったが、流石にレイドボスを丸ごと手に入れることはできなかったので、もう一つ手続きを踏む必要になった。それならば一度ミニホームに戻りたいのだが、それを振り返ることもなくバルバリッチャは一蹴する。
「OK。じゃあ一つだけ確認したいんだけど、その契約の対象ってどこまで含まれてて、時間制限はどのくらいある?」
「………………契約の対象は仮面を貸し出した者全員だ。時間についてはあの時になにも言わんかったから特に今は何も言わん」
「なるほど、じゃあ俺は契約対象だけど、それは俺の使う力にまで適応される?」
完全に霧煙る海域から脱出する。それと同時に空が海となり海が星空となる異常な状態から、普通の青空と海に切り替わり、急に背後で何かが海からせり上がりひときわ大きな津波。同時にイベントクリアの通知が流れる。
「主人の使う力とは?」
それは法の穴を探るような詐欺師のようなやり口。しかしバルバリッチャは遮ることもなく淡々と返す。
「そうだな、仮面をつけた者に契約が適応されるなら、俺の死霊達は契約の対象なのかそうじゃないのか気になってな」
死霊とノートは切っても切り離せない関係にあるが、死霊達自身は仮面をしていない。では契約の適応外なのではないかとノートが問いかけると、バルバリッチャは何も言わなかった。
それはまるで、賭博で金を稼ぐと捕まるけど、パチンコの出玉に応じて店が謎の小さいケースをくれて、それをパチンコ店のすぐ近くにある古物買い取り店に持っていくとなぜかただのケースに市場とは異なる価値を見出して高値で買ってくれるという不思議なシステムみたいな、そんな法律の裏をかくようなやり方に、バルバリッチャもコメントを差し控えたのか。
結局、バルバリッチャがノートの言葉を否定することはなかった。
「タナトス。―――――と――――、――――と―――と―――――――、――――。あと―――――――――を持てるだけミニホームから持ってきてくれ。場所は貴重品管理の箱だ。クロキュウとシロコウはタナトスを運んで、グレゴリはクロキュウたちの先導。姿を見られそうになったら影で極力隠してくれ。グレゴリ、もう位置関係の座標は取り戻せたか?ホームまでの方向は?」
『Σb( `・ω・´)グッ』
「いい子だ」
グレゴリ曰くたぶんクロキュウ達が全力で行けば戻ってくるのに1時間程度(ALLFO時間。現実では30分未満)かかるとのこと。ノート達はその間にそのままクルーザーの上でログアウトしリアルの方のあれこれを片付ける。軽くストレッチをしたり、トイレに行ったり水分補給をしたり、あれこれやっていればあっという間に30分だ。
本来船の上でログアウトなど危険極まりないのだが、悪魔陣営が集結するクルーザーなど下手な拠点より安全な場所だ。とりあえずイベント自体はクリアできたことをスピリタスとユリンに連絡だけして、ノートは30分後きっかりに戻るとヌコォ達は既に戻っており、タナトス達も既に船に到着していて船上は持ってきた荷物で山積みだった。
「タナトス、クロキュウ、シロコウ、グレゴリ、ありがとう。本当に助かった。バルバリッチャも待っていてくれてありがとう」
「ここまで待たせたのだ。まさか興を削ぐような事はすまいな?」
「それは期待してくれていいぞ」
ノートが死霊召喚のリストを確認したところ、今までは違う形で表示された特殊な死霊が追加されていた。
まず捧げるのは戦艦から託された特殊な赤い結晶。結晶を捧げると同時に、特殊なリストが解放される。
続いて捧げるのは戦艦内で得た海兵アンデッド達の魂全部。中ボスから艦長アンデット、ホラーマネキンまで全ての魂を捧げ、戦艦からドロップした全ての素材も捧げる。
これでおよそ戦艦から得られたものの全てを捧げた形だ。そこに海の要素を強めるために青の民から譲られて廃棄しても問題ない物や海賊船からかっぱらった宝物も全てつぎ込む。釣竿とか網、ギガスピで大量に徴収したプレイヤーの魂も適当にぶっこんでおく。
続いて生贄に指定するのは反船で出没したボス個体の魂全部。本来なら属性が滅茶苦茶になるが元の器が大きいので単純なブーストになる。
更に廃村で得た謎の金属で作られた巨大な盾や剣、余次元ボックスに入れられた扉などをボックスそのまま。ヒュディから得たドロップ品も数点捧げる。
そして最後に核として廃村の地下で手に入れたラフレシア型の巨大照明と深霊禁山で得たたった一つだけのアイテム、直径10㎝の球体の中に猪、狼、鹿、猿の姿が封じられた深霊禁魂晶(仮名)、ユニーク化チケット、極めつけにユニーククエストの報酬である『瞳輝の羅針盤』と島長の証レプリカ/魂片:エイン・ズースファーワン・ククラーを捧げる。
島長の証のレプリカは特殊なアイテムで、本来はクエストのログを見たりするための観賞用の記念品に近いものだ。なにか特別な効果があるわけではなく、彼女の想いの残滓がほんの微かに残っているとテキストに書かれているのみ。派生したユニーククエストに使うアイテムの様にも思えるが、そういうアイテムでもないらしい。
ならば、ここで捧げてしまおうとノートは思った。振り返るよりは、きっとこのオンリーワンのアイテムは召喚でなによりも生かされると思ったのだ。
「始めるぞ――――――」
海の上に巨大な召喚陣が広がった。それは今までの召喚陣の規模とは訳が違う、あまりにも大きな陣だった。
「うは~すっご~い。グレゴリの視界借りてるとすごいよ」
「これは、費やしている物が大きいのもあって規模が凄いわね」
「これ誰か録画してる?撮ってないとスピさんとユリンが拗ねそう」
「わ、わたしが撮影してます」
推定直径100mオーバー。
戦艦の半分の大きさではあるが、それでも十分にデカい。
金色の複雑な召喚陣が海を照らし、陣から金の泥が溢れ出す。その泥からゆっくりと灰色味の強い濃い青色の熨斗目花色のボディが鈍く輝く船体がせり出してくる。
薄く青色の霧を纏っており、全体的に劣化しているように見えるが、近くで見ると古くないという絶妙なデザイン。さながらヴィンテージ加工を施した艦船と言ったところか。
単純な戦闘用の船にしては甲板の上がごちゃごちゃしていて、木造船でもないのに船体の横にも砲門がついていて接近戦も想定していることが分かる。耐久度的に首をかしげたくなるデザインだがロマンを重視したのか。
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特殊中級死霊:幽霊呪祷徨亡艦/特/ユニーク
ランダム追加技能:漁業
所持技能
・航海術
・死霊術
・結界術
・悪天候耐性
・剛力踏破
・格納庫
・潜水
・形態変形
・自己再生
・自動操縦
・砲撃
・魔砲撃
・指揮
・分体作成
・隠蔽状態・強呪
・仮拠点化
・海縛呪
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ノートの正式な本召喚死霊としては初めての中級クラスなのだが、中級とは名ばかりでスペックは費やした物が物だけに途轍もない性能を誇っていた。ランダム追加技能は妙な物を引き当てているが、ぶっちぎりの量の技能持ち。気になる技能が盛りだくさんだ。
ノートとしては特に気になるのが死霊術を技能として所有していること。
そもそも召喚術自体が今のところプレイヤーの中でも未発見の状態。なのでこれは元となった幽霊戦艦自体が有していた力なのだろう。やはり本体は戦艦で、それ以外の海兵アンデッドも艦長もホラーマネキンでさえも、全て戦艦が召喚した死霊達だったのだ。
召喚陣のサイズで予測はできていたが、いざ実物を見てしまうとヌコォ達もポカーンと船を見上げるばかりだ。完全にレイド級サイズのこの艦船が、自分たちの味方になっているという事実に理解が追い付かない。
ノートに至っては自分でやっておきながらALLFOのゲームバランスはおかしいのではないかと首をかしげている。
そんなノート達の元に船からギギギギギとひとりでに展開された折り畳み式の階段がクルーザーの元まで延ばされる。乗れということだろう。
ノート達はおんぼろに見えて意外としっかりしている階段を上っていくと、甲板の上には紫の霧が静かに揺蕩っていた。
あまりにも静かな船。そう、この船は待っているのだ。
「名付けよう。山海を生んだウチの国の黄泉の主神から取って、お前の名前はイザナミだ」
名づけに呼応するように船の上を風が吹き抜ける。
すると、船橋のドアがガチャリと開きゾロゾロと人影が出てきた。
先頭を歩くは大柄な人物。ヌコォ達を苦しめた艦長アンデット。その右斜め後ろには長身の副官アンデットが。ただ、左斜め後ろにいる半透明の女性に関しては、戦った記憶はないが心当たりが全員にあった。
そしてその後ろには見覚えのある海兵アンデッド達が続く。単なる海兵から工兵、ちょっと違う衣装を装備したものまでレパートリーは豊富だ。
そのまま近づいてきた艦長アンデット以下海兵アンデッド達はノートの前に来るとザッと一斉に傅いた。
『お初にお目にかかります提督殿。吾輩はイザナミ全権代理にしてイザナミ徨亡艦艦長である。以後お見知りおきを』
『私めは副艦長でア~ル。イザナミの事であれば何ナ~リとお申し付けを』
雰囲気としてはエネルギッシュな海の男と言った感じに少し渋さを足したような野太い声。戦闘型の死霊としてイザナミ自体は話さない。しかし、死霊術を使って代理人を置くという裏技的な方法でイザナミはノートにアプローチをしてきた。
「わかった。ではお前達にも名前を与えよう。艦長はダゴン、副艦長はヒュドラ。で、お前は…………」
とあるところから取ってきた海神の名をつけると、恭しく艦長たちは頭を下げて一歩下がる。代わりに静かにしていた幹部クラスと思われる人物(?)が一歩前に出た。
『私はイザナミの一等航海士です。よろしくお願いいたします、提督様』
幹部クラスでありながらノート達は誰一人として戦った記憶がない。記憶はないのに見覚えだけはある。半透明のゴーストになっているし、衣装はちょっとアレンジされているが、顔はどう見ても見たことがある人だった。
「いやエイン様じゃん。え、似てるの姿だけですか?」
だよね?とヌコォ達に視線を送れば、ヌコォ達もそうだと頷く。
そう、一等航海士を名乗る幹部クラスのアンデッドは、エインにそっくりだったのだ。
たっぷり見つめ合うこと10秒、先に根を上げたのはエイン擬きだった。は~っと小さく溜息をつくと、やれやれと首を振る。その苦労人っぽい仕草はやはりどことなく見覚えがあった。
『正直に申しますと記憶はかなり穴だらけなのですが、確かに覚えていることもあります。私は、貴方達の事を覚えています。でも、記憶の私と今の私は別物ですので、丁寧に接しなくても…………いえ、結構雑に扱われていたような………………?』
ノートの頭に過るのは奇妙な仮面をつけて着せ替えごっこしたりした記憶。なにか余計なことまで思い出しそうだったのでノートは急いで彼女の言葉を遮った。
「う゛うん、おっほん、いや、そういうことならわかった。一配下として接しよう。でも別の名前で呼ぶのもしっくりこないし、名前はエインでいい?」
『ええ。イザナミ艦一等航海士として、『エイン』の名を頂戴致します』
こうして更に、ノートの手札に強力すぎるカードが加わった。
エイン復活




