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No.240 蜘蛛の糸

何かのバグで休日が倍にならないかな




 なんでこんな立て続けにアクシデントに遭い続けるか。ノートの冷静な部分は疑問を抱き、自問自答する。多分、無駄に取得したよくわからない称号が全力で悪さしているのだろう、と。

 遭難したらキナ臭い状況の島に流れ着いて、儀式の片棒をいつのまにか担がされたと思ったら意味もわからずヤバいヤツに追われて。結局ルジェとのちゃんとした決着もつかずじまい。這々の体で逃げてみれば今度はヤバそうなボスのお出ましだ。おまけに主戦力二名にはリアル方面のタイムリミットが課せられている。


 ここからは一手も差し違えができない。そうわかっているのに、状況が滅茶苦茶過ぎてノートはやけっぱちになりそうだった。しかし、依然として下を向く事なく頭は常に回転し続けていた。


 ノートの周りにいる女性陣達は、言葉を選ばずに言うなればノートにとって都合の良い人達だ。手を出してますが今はそれ以上は踏み込みませんなどという本来ならボコボコに殴られて市中引き回しの上磔火炙りにしていいくらい節操の無い事をしてるのだから、何時愛想を尽かされても文句など言えるはずがない。

 それでも女性陣はそんな状態に目を瞑り、無茶苦茶な事をオーダーするノートに着いていく。目を瞑る代わりに女性陣達はノートに際限なく期待し、ノートは律儀にそれに応えようとする。

 節操なしと怒りたいし普通に文句を言う時もあるけれど、普段は賢くて器用で利益優先の男が、自分の期待の為に利益をかなぐり捨てて身体を張って馬鹿になってくれる。もっと楽しい事をしようと手を引いてくれる。そんな様を見て女性陣は、バカで不器用だなぁと思うと同時に愛おしさを感じてその手を取るのだ。


 だからノートは限界まで抗う。愛想を尽かされない為に馬鹿にだってなる。スリルも何かもひっくるめてゲームだと身をもって示すのだ。

 理性が無理じゃないかと囁いても、彼女達が楽しめるように勝ちを目指すのだ。


「敵多すぎィ!!」


 それはそれとして、漫画やラノベ主人公じゃないのでピンチになってノートは急に覚醒したりしない。ゲームの世界は全てがパラメータで支配されて、手札は最初から配られた物以上の物が急に増えたりしない。

 そういう事を起こすとしたらノート以外の面々だ。


 中世よりは少し進んだ時代の武装に身を包むはスケルトンやゾンビがその多くを占める海兵アンデット軍。大まかな造形は人型だが、所々何かしら海洋系生物の特徴を備えている。


 見た目のバリエーションは豊富だが、戦闘方法のタイプを冷静に分離すると極端に多いということはない。


 1番多いのはカットラスなどの短めの湾曲した刀などを使う近接タイプ。その中でも槌を振り回すパワータイプや槍を使うトリッキータイプもいるが、その多くはスタンダードな近接型と言える。割と厳つい見た目をしているのが特徴だ。


 2番目に多いのは“銃”を装備した狙撃手タイプ。近接型の半分程度を占めるタイプだ。

 銃と言ってもフルメタル系ではなく、銃身の短いマスケット銃のようなピストルだ。この世界だと外傷によるプレイヤーの行動制限が低い為被弾しても致命的にはならないので現実ほど殺傷力の高い武器ではないが、回避が難しく安置からチクチクやられるのは単純にウザい。なよっとしたひ弱そうな見た目をしていることが多く、近接型より耐久が低いのはせめてもの救いだろう。


 その銃持ちの更に半分程度しかいないのが、魔法型。ローブを着ていたりゴースト型の敵のほとんどがこのタイプで、単純に魔法で攻撃をする者もいれば、バフやデバフ、回復をこなす個体もいて実力がかなり疎だ。優先的に撃破したい所だが、その多くは近接型に守られている。


 そして極端に少ないのが近接、銃、魔法と全てを使う中ボス個体。船団の隊長格らしく、モブ海兵共に指示を出している様子も見受けられ、その個体ごとに様々な特徴を有している。


 幸い、幽霊戦艦の甲板は障害物が多く、少数精鋭が斬り込むのには有利な場だ。おまけにこのゲームは敵同士のフレンドリーファイアがあるので上手く巻き込めば同士討ちを狙える。


 こういう敵側の多い戦場で効果を発揮するのがグレゴリのヘイトコントロールなのだが、そのグレゴリは現在戦艦そのもののヘイトを引きつけて船の進路を操作している。戦艦からはドカドカと大砲が撃たれグレゴリが影から編んだヒュディに穴が開くが、砲弾がほぼ物理属性らしくダメージらしいダメージはない。代わりにゴースト型の敵が殺到していたが、それらは次々とクロキュウの眷属が行う吸精攻撃の前に撃退されていく。


 本来であればかなり不利な船上だが、現在のフィールド属性はツッキーの性能を引き出すのに最高レベルの状態。いつもより低コストでバフが撃てており全体の動きが良い。加えてトン2、鎌鼬以外は反船で対アンデッド強化の称号【死者祓い】を獲得しており、ノートに至っては更に上位の【死者之死神】を有している。そしてノート自身がアンデットのプロフェッショナルである為、その強さも弱さも十分理解しているからこそ、ノート達は少数でもなんとか持ち堪えていた。


「よいっしょぉ〜」


「オラァ!!」


 近接役のスピリタスとトン2はグイグイと甲板の奥へと進み、鬼神の如き動きで無双し続ける。

 アンデット達の強さはプレイヤーのランクに換算して一般兵ならば15前後。ランク20ボーダーをノート達は超えているが、頭数が揃っていれば絶望的な開きでもない。中ボス個体に至ってはランク20ボーダーを超えてくる性能を持っている。

 それでもノート達が崩れないのは単純なバフの上乗せだけではない。個々の技量が突出し効率よく戦闘を進めているからこそ強いのだ。


 現実ならばどんな達人でも捌き切れるのは多くて3人。4人以上が連携し囲んで潰しにかかればそう簡単に反撃は出来なくなる。

 だが、そこにスキルや魔法が絡んでくる事で人間にもアニメの様なイカれた挙動から繰り出される無双状態を引き起こす事ができる。

 一度拳を当てれば周りを巻き込んで吹き飛び、一度刀を振るえば周囲を纏めて斬り裂いていく。その足は止まる事なく、次の敵が攻撃を繰り出すよりも先に先手を取る事で攻撃が来る方向を常に一定方向に限定しスピリタスとトン2は無茶な進撃を可能にしている。

 

 それを援護するのはシロコウとメギド、アシュラに護られたノート、鎌鼬、ヌコォ、ネオンの後衛部隊。彼らは優先的に遠くにいる強い個体や魔術師タイプを仕留め、スピリタスやトン2が走り続けられる様に援護する。


 そして最も重要な役を担うのは、距離を無視して詰められるユリンだ。


 対峙するは赤黄青緑と4等分に塗り分けられたルーレットの様な大きな盾を持つ大柄なクリーチャー。体長は3mほど。分類で言えばゾンビ型か。ただし頭部がウミシダになっておりウネウネとしているためちょっとファンキーな感じになっており、表情が読めない。


 ウミシダは一見海を漂う放射状に生えたシダ植物見える。似たような生物を上げるならヒトデか。そのボディをシダ系の植物に取り替えるとちょうどウミシダっぽくなる。それが上下に揺らめいて水中を泳いでおり、およそ宇宙船地球号の乗組員というよりは遠く離れた異星人の親戚に近い見た目をしている。それでも生物としては生きた化石とされるほど地球では人間よりも先輩なのだから不思議である。


 そんなウミシダを人間の頭をもいでブッ刺してしまったような見た目をしているのが現在ユリンの対峙する中ボスだ。おまけに盾と反対側の手ももぎ取られており、代わりに銀色に長くたなびく昆布みたいな物がブッ刺してあり、振るわれたその腕をユリンがしゃがんで避けるとその背後に居た海兵アンデット共がスパッと切断されて赤いポリゴン片を噴き出す。


 其れはさながら幅広の剣の性質を持ち合わせた鞭。仲間など使い捨てと言わんばかりにウミシダヘッドが腕を振るうたびに周囲で赤いポリゴン片が舞い散る。その隙をついてユリンが攻撃を仕掛けるが、頭部のウミシダが触手のように蠢いてユリンを突き刺そうとし、ユリンはカウンターで触手を斬り裂いた。


 すると盾からカチリと音がして取り付けられた針がグルグル回る。針が止まったのはピストルの紋が彫られた青。同時に揺らめく銀昆布の腕がひとりでに巻かれてサザエの様な形になり、其れをユリンに向けると本来本体のある貝の穴からドカンッと短い槍が射出され射線上にいた者達を貫いていく。


「(銃モードは一撃が怖いけど、攻撃方向がわかりやすいんだよねぇ)」


 スピード特化で紙装甲のユリンでは掠っただけでもダウン判定を取られかねない強力な一撃だが、ウミシダヘッドは頭部に似合わず戦闘方法が基本的にパワー特化なのでスピード自体は脅威ではない。サザエの穴の向きさえ注意すれば先読みで回避できる。

 あとはその方向を万が一にもノート達の方に向かないように注意し、狙えるなら他の中ボスにも射線が通るように動くだけだ。


 無論、戦記物みたいに大将格が一騎討ちしている時にモブ達が大人しく見守っているみたいなことはこの世界ではあり得ない。たまにAIが空気を読んでいるような気がする時もあるが、この海兵アンデットは容赦なく横槍を入れてくる。むしろ横槍が飽和している。

 パラメータ的には互角以上の敵と戦いつつ、さらには雑兵からの攻撃も躱しボス自身に討伐させる。かなり無茶な戦い方だが、それができるからこそユリンには中ボス討伐の任務が与えられた。


 再びユリンは攻撃すると見せかけてフェイクを入れ、バカの一つ覚えみたいに飛んできた頭部の触手をカウンターで切り裂く。ダメージが入った事で再びルーレットが回る。今度は杖の紋の緑。魔術師型だ。

 魔術師型は広範囲かつ高威力。1番近いのでネオンと同じ大砲型。しかしそれ相応に発動までが遅い。

 その時を待っていたユリンが魔法で目つぶししながらスキルを使い急加速。頭部の触手攻撃さえもすり抜けて付け根を強引に斬り裂くと、赤いポリゴン片がブシュッと噴き出し爆散した。


 



 スピリタスとトン2がクロスする様に走る。雑兵共を強引に蹴散らしてブッキングしないように調節し、全体のヘイトを自分達の方へ引きつけながら、更に通りがかりに中ボスを殴って撹乱する。


 スピリタスが目標を見定め加速する。その先にいるのは赤い和式甲冑兵、もとい蟹ベースの中ボス個体だ。両腕には二又に分かれた刺股にも見える赤い刃。引っ掛けられたらそう簡単には逃げられない。

 意外にも機敏に動く蟹甲冑は刺股の先端をスピリタスに向けると、刺股の真ん中から青いビームが放たれる。それをスピリタスはジャストパリィで受け流すと更に距離を詰め、刃の振り下ろしを避けて頭部に蹴りを入れて直ぐに逃げる。


 一方でトン2が狙いをつけたのはイソギンチャクとハリセンボンを混ぜたみたいな真ん丸な中ボス。魔法を纏って転がり、体に生えた触手と棘で周囲の存在を轢き殺していく。トン2が走っていくとイソギンチャクがうごめきビッ!と魔法を放つが、トン2は周囲の敵を盾にして上手く躱す。刀を低めにして抜刀術のような構えを取る。すれ違うのは一瞬、されどミスは許されず。

 ホーミング性能でもあるかのように突っ込んできたマンボウ野郎をトン2は紙一重で躱し、返す刀で紫電一閃。棘を切り裂き赤いポリゴン片が舞う。



 それに対抗するようにように前線へ大きく踏み込んだメギドが手にウツボを生やした中ボスと真っ向からぶつかる。メギドの戦い方はスピリタスやトン2からすれば非常に荒いが、肉を切らせて骨を断つようにその身に食らいつかれながらもハルバードをぶん回して強烈なカウンターを浴びせる。単純な近接火力ならメギドはスピリタスやトン2を軽く凌ぐ。食らいついたせいで回避ができない両腕ウツボはザンッと体を斜めに袈裟切りにされ赤いポリゴン片を噴水の様に噴き出す。


 アシュラは圧倒的な手数でモブを刈り取っていく。ユリンのスピードを減らし耐久を増やしたみたいな奴がアシュラだ。圧倒的なスピードで舞うように動き次々とモブの頭を刈り取っていく。


 ここでヌコォが前に出た。対するはエイのような頭を持つ中ボス。体が風船に膨らんでおり、毒液を弾丸の様に打ち出してくる。典型的な後衛主体型の中ボスだ。ヌコォはユニークスキルでエイ頭の弾道を読むと逆に銃を撃ちカウンターを入れていく。ボウガンでも強いが、やはりFPSを専門とするヌコォにとっては銃が非常に手に馴染む。反動が大きく遠距離射撃に向かないのが難点だが、甲板程度の近距離~中距離であれば馬鹿みたいな反動を持つ拳銃でも事足りるのだ。

 銃弾を頭部に連続して叩き込まれたエイ頭はダウン判定を取られ、それを確認したスピリタスがすぐさま向かい斬撃属性を持つ蹴りで首を刈り取りトドメを刺す。これでも船酔いデバフがかかっているのだから一般人からしたら化物みたいな強さだろう。


 鎌鼬はスナイプに専念し、遠距離攻撃や空を飛ぶ個体、大技を放とうとする個体を的確にヘッドショットして攻撃を妨害し、チャンスがあれば討伐まで持っていく。ギガスピで射撃スキルが大きく強化された鎌鼬にとってヘッドショットを連発すれば中ボスといえど狩れる範疇に入ってくる。


 しかし単純にキルレートで言えば、やはりネオンが圧倒的だ。


「撃ちます!」


 ネオンが宣言すると前に出ていた者達はすぐにネオンの方向へ戻る。それと同時に爆発が起きた射線上にいたモブと中ボス諸共吹き飛ばす。DPS自体は高くないが、一発の威力で言えば全プレイヤーで見てもトップに位置するネオンの火力は雑兵を丸ごとなぎ倒して更におまけが付く程度には高い。


「本体を探せ!おそらくキサラギ馬車の御者みたいに代理でこの船をコントロールしている個体が居てもおかしくはない。それを討てば戦況は有利になるぞ!!」


 ノート達は甲板から更に歩みを進め、遂に艦隊内部へと侵入を果たす。モブ共の抵抗は激しくなるが、それもノートの召喚した死霊達で強引に押し込んでいく。


 2章のエリアボスで、頭数が劣っていても、ノート達は圧倒的なこの強さで危機を乗り越えていく。しかし、順調に見えた幽霊戦艦攻略に暗雲が差す。



「なんだ!?」



 突如として船が大きく揺れる。ノートが慌てて外に出れば、幽霊戦艦に巨大なタコ足のような物が纏わりつき、それを登り半魚人みたいなクリーチャー共が船に乗り込んできていた。


「本体が手を下すまでもなく、眷属共で十分殺れるってか?」


 海兵アンデッドは弱くない。しかし船に乗り込んできた魚人共は更に強かった。ランクにして20程度。その多くが近接に寄っているが、まともに喰らえば近接組でも危うい威力の攻撃を平気で放ってくる。


 更には船に憑りついた巨大なタコみたいなのが触腕を振るえば敵が簡単にまとめて薙ぎ払われ、ノートは強制的に大縄跳びを強いられる。


 問題は立て続けに起きる。背後に目を向ければ、魚人の群れが海面を跳ね、巨大な魚影が此方に続々と向かっている。あれらが全て船に殺到したらいよいよヤバい。前門の文字化けクリーチャーに後門の幽霊戦艦。ここが限界かとノートが思った次の瞬間、急に海に赤い槍の豪雨が降り注ぎ海から来た敵を次々と串刺しにする。


「あ゛っ!?まさか!?」


 甲板を走り船の進行方向にノートが向かえば、霧深いだだっ広い海を高速で移動する小型クルーザーが見えた。

 こんなバカげた範囲攻撃を撃てるヤツなどそうそういない。しかし今現れるのか。


「バルちゃん!!」


 果たしてその見覚えのある小型クルーザーの先頭に立つのは赤いオーラを纏う赤髪の美女だった。その後ろにはアグラットとザガンが控え、その後ろにはけものっこサーバンツが控えている。


『見つけるのに手間取ったぞ。けったいな場所に迷い込みおって』


 バルバリッチャの声が脳に直接届く。不満こそ述べているが声色的に機嫌は悪くなさそうだ。

 これこそ地獄に垂らされた蜘蛛の糸。【祭り拍子】の引きこもり最高戦力が到着した。


 ノートはバルバリッチャの言葉を聞き、少しひっかかっていたことに合点がいく。

 転移すら可能なバルバリッチャにとって、本来ならば一向に帰ってこないノートを見つけるのはそう難しいことではなかっただろう。というより、そもそも待機モードにしていたはずがなぜ勝手に動きまわっているのか謎だが、バルバリッチャという規格外に自分の常識を当てはめる方が無駄だとノートは深く考えないことにした。

 そんなバルバリッチャがノート達の行方を見失う可能性があるとすれば、ノート達のいた場所が通常MAPではない隔離空間という可能性が浮上する。


 そもそもここに至るまでに変な霧に巻き込まれたせいで現在地を見失っていたのだ。その原因が特殊MAPに紛れ込んだからというなれば、グレゴリですら現在地をロストしたことにもある程度説明が付く。

 また、あの島は教会の保護を受けていないにも関わらず開拓が可能で、街として成立していた。ノートはそれが常々不思議だったのだが、教会の保護する『街』の様に、あのフィールドそのものが世界から隔離されていたのだとすれば、開拓ができた理由も、教会の影響を受けていなかったことにも説明が付く。


 それが変なトリガーを弾いたことで決壊し、隔離された空間と現実世界が融合しつつあるのだ。故にバルバリッチャ達もノート達の居場所を掴むことができたのだ。


 戦艦に憑りついていた巨大タコ足が本能的な危機を感じたのか、すぐさま高速で動いているクルーザーへと攻撃を仕掛ける。しかしアグラットが指をスイッと横に切るように動かすだけで深紅の雷光が空間を横に駆け、スパッと足を切り裂かれた。


 途端に怯えたように触腕はうねうねとクルーザーの周りを囲み始めるが、ザガンが取り出した薬品を投げつけると途端に触腕から水分が全て抜かれたようにシオシオと枯れていき、悲鳴を上げるように重低音が船の下から響き水面が軽く振動した。


「手伝ってくれるのか?」


「行き掛けの駄賃みたいな物だ。何度もあると思うな」


 超レイド級のダブルブッキングというクソゲー状態にテコ入れが入ったのか、それとも単純にバルバリッチャの意向だったのか。どのみちバルバリッチャ達が援護に入ってくれるのは確かなようだ。

 バルバリッチャ達魔王級はクルーザーから降りる気はなさそうだが、けものっこサーバンツ達はムゥラビが空間魔法で作った透明な階段を駆け上がりそのまま幽霊戦艦に乗り込んできた。


 と思いきやいつの間にかペストマスクをつけた虹色スライムのザガンの分身がノートの肩にちょこんと乗っていた。


『『どうでしょう?私の待遇向上と引き換えに、この強化薬はいかがですか?時間にして1時間程度貴方方のポテンシャルを最大限まで引き出しますが、その後数時間脱力状態になる刺激的なお薬ですよ』』


「買った。今すぐ全員に配れるか?」


『『お任せあれ』』


 シュバババッと分身したザガンのスライムボディが敵の間をすり抜けてユリン達の元に向かっていく。ノートはザガンが差し出したフラスコの中の金色の液体を飲んでみると、体がカッと熱くなり[過負荷(Over Lord)]という見え覚えのない状態異常になることをメニューが知らせてくる。


「なるほど、こりゃ凄い」


 体感にして数ランクは上がった感じだろうか。トン2達がオリジナルスキルを発動した時のようなレベルでノートのパラメータが一気にアップする。


 使用後数時間のデメリットは怖いが、どのみちリアルの都合であと1時間もノート達には残されていないのだ。ここでこの薬を躊躇いなく受け取るのは大胆ではあるが合理的ではあった。


 そんなノート達をよそに背後で紫の雷が船を照らした。ドドドドドドドドドッと突き刺すように紫電が海を貫いていき、怪物の放った尖兵たちを次々と屠っていく。

 更に奥には尖兵の親玉枠とみられる30m級の化物鯨が迫ってきていたが、バルバリッチャがパチンと指を鳴らした瞬間に射出された黒い大剣がレイドボス級の鯨を一撃で真っ二つにした。


「(えぇ………………怖っ)」


 恐らくゲームデザイン的に将来プレイヤー達はアグラットやバルバリッチャと事を構えるのだろうが、果たしてどうやって勝つのか。あまりにも強すぎる悪魔組にノートはドン引きしそうになるが、けものっこサーバンツも負けていない。


 まず鴉娘のヒィレイが全体バフと自動HP回復の魔法をノート達に発動させ、更には防御結界のようなものまで張り付けた。

 そんなヒィレイを殺そうと中ボスたちが殺到したのが、その前に割り込んだ狼娘のフゥロウが素早く掌底を放つと、胴にドでかい風穴を開けながら吹っ飛びポリゴン片になって弾けた。トン2やスピリタスでさえ多少慎重になる相手をワンパンで片づけたのに、フゥロウはまるで当然のような顔をしている。

 続いて乗り込んできた猫娘のミィマオがまるで軟体生物の様にぬるりと敵の間を駆け抜けていくと、次の瞬間には中ボスや魚人諸共スパッと敵の首が斬れて死んでいく。

 それを援護するように羊娘のヨォヨウが魔法を使うと、ジャラッと黒鎖のエフェクトが出現して大量の敵を縛り付けて動けなくする。

 そこに栗鼠娘のイツリスが手榴弾のような物を投げ込んで大きく数を減らし、兎娘のムゥラビが仕上げをするように手を振り下ろす動作をすると見えない天井に圧迫されたようにパァンッ!と敵が全部破裂して死んだ。

 仕上げにギリギリ生き残った個体に向けて狐娘のナナツネがふっと自分の毛を飛ばすと、その毛がナナツネのゴースト体になって憑りつき、憑りつかれた強力な個体たちは仲間であるアンデッドたちを襲い始めた。


 これだけの事をやっておきながら、けものっこサーバンツの顔は至って平静。むしろノート達の手柄を全て奪わないように手を抜いてすら感じた。本気を出せば単騎でも一瞬で幽霊戦艦を制圧できるのではないか。可愛い顔してその正体が魔王直下の強力な悪魔たちであることをけものっこサーバンツは実力で示した。



「(強すぎでは?)」



 改めて考えてみても、人間たちが悪魔と戦争をして勝てるのだろうか?バルバリッチャ達が味方でよかったとノートは心底思った。


そういえばオーバーロードがあとで2巻で完結ってマ?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 戦艦って言ってるけどイメージ的にはセントルイス級防護巡洋艦的な見た目かな?
[気になる点] 改めて“何しても時間が経てばフィールドが一定状態に戻る”この仕様意味わからんよ〜 何ゆえなのよさ… 世界ちゃんが呪いにかかってるのか、はたまた催眠術にでもかかってるのか。 もしかして過…
[一言] 残念ながらマ。。 魔王陣強すぎぃ!
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