No.3 運営達の苦難の始まり
「ちょちょっと、やばいですよ主任!」
「何が?あと3分で始まるんだぞ。彼女にフラれたとかまたぬかすなら……」
「違いますよ!?いや、その件はすんませんなんですけど、そうじゃないんです!」
「だから何が?この段階でバグなんか起きたりしないだろ?」
「いえ、もっとタチ悪いです。2名のプレイヤーが特殊エリアに入っちゃいました。イベントはじまっちゃってるんで開会式が…」
「はあ?特殊エリアだぁ?んなもんまだ入れる訳ねえだろ。バグか?」
意味がわからん、と主任と呼ばれた男は首を振るが、若い男
は主任に必死に説明する。
「バグだったらAIが対処するでしょうけど、バグじゃないから厄介なんです!ファーストシティの墓からいける特殊エリアに裏道的な手段で入っちゃいました!」
「ファーストシティの墓の特殊エリア……?ああ、あれか。いや、あんなの入れるわけねえだろあんなところ。第一あそこへ入るためにはランク5といいつつ実際はそれどころじゃない厄介なダンジョンを踏破する必要があるんだぞ?しかも、条件は性質悪人以下で実は強力な結界の役割を担ってる墓石を全部ぶっ壊すとかふざけたお遊び要素だったよな?」
「それが…………初期限定特典持ちなんです」
「いやいやいやいや、あんなの絶対選ばないようなデメリットてんこ盛りだぞ?取得したやつらだって当選者1万人いてたったの450人くらいだ。そのうちの半分だって30分内でGMコールで泣きついて結局アバター作り直しだぜ?いや、たとえそうだとしても、流石にあそこを突破できる訳ない。1人じゃ無理だ。他のプレイヤーがどんなに強くても今の段階じゃ…………ん?あれ?まさか」
ヘラヘラと笑っていた主任。だが自分で喋ってるうちに、あり得ないがこれしかないだろう方法が思い浮かぶ。思い浮かんでしまう。
「はい、どういう確率なのか初期限定特典持ちの2人がスタートして早々にパーティーを結成して攻略しました」
「うっそだろおい!?そんなアホな話あるか!?……オッケー、それはもう神さまの悪戯ってことにしておこう。だが墓石は!?」
息は荒く目を充血させ詰め寄る主任。部下は仰け反りながらもポツリと真実を告げる。
「それがですね……片方のプレイヤーがランク8相当のアンデッドをいきなり召喚しまして。ほら、隠し設定ですけど従魔とかの行動ってプレイヤーの性質に影響されるじゃないですか?それで、初期限定特典で極悪確定なので、アンデッドも極悪になってて破壊衝動が強化されてたので墓石を全部ぶっ壊しちゃったみたいです」
「クソっ!あんなところそう簡単に見つかりっこないっていうか、中盤まで行って漸く攻略のヒントをゲット出来るところって聞いてるぞ!それを幸運だけで突破しただと!?俺らの苦労はどうしてくれる!?」
「それはごもっともですけど、特殊エリアの強制イベントと開催式がこのままだとかち合っちゃうんです!」
「そういう時のQ&Aは用意してあるだろうが。『此方側の事情で強制的な転移やイベント妨害をしてしまった時はお詫びのアイテムを渡す』ってなってるだろ?」
「そうですけど、でも!そんなこと正式サービス前に起きるなんて考えてもないので、結構なランクのアイテムがお詫び用に設定されちゃってます!ゲームバランスがやばいです!?」
「あ、ああああ!?やべえ、言われてみりゃそれって不味いぞ!今すぐ開発に連絡しろ!」
だが2人の奮闘は無駄になり、ノートとユリンは開催式のために強制転移されるのだった。
◆
「ようこそALLFOの世界へ!!」
いきなり洞窟に転移して呆然としていたノートとユリン。2人は気づくと再び転移しており、同様に強制転移させられたと考えられるプレイヤーが周囲に数えきれないほどいた。
宇宙空間に作り出されたガラス張りのようなドーム状の空間はとてつもなく巨大で、足元には地球のようなものがみえる。見渡せばその宇宙空間には他のドームもあり、同様にぎっしり人が詰まっている。
そんな彼等を見下ろすのは、顔のない超巨大な天使と思しき存在。
その天使の話をザックリ説明すると世界観に合わせてファンタジー的な言い回しにはなっていたが『ALLFOの購入ありがとうございます』という内容だった。軽い謝辞の後は続けてグランドストーリーについて説明があった。
ぶっちゃけると『天使と悪魔が長い間戦ってます。どうか力を貸してください。貴方がこの地で活動するだけでも我々の力となるのです』ということだった。要するに『明確なラスボスはまだいないから、自由にプレイしてほしい。できれば沢山ログインしてね』という事だろう。
その後はALLFOの責任者を名乗る女性が現れてきちんと諸注意を述べた。例えば差別用語を使用するとペナルティだとか、粘着プレイとか、執拗な仇討ちもペナルティらしい。とにかくゲームの運営を妨害せず仲良くしてください、纏めればこの一文で終わる。
「うん、普通通りだな」
「他のゲームとスタートは変わらないね」
諸注意が終わると、天使から宣言があり全員が元の場所に戻る————————はずなのだが、何故かノートとユリンだけは取り残され、二人は今度はなんだ!?とあたふたし始める。
『ふふふふふ、慌てなくても大丈夫ですよ』
そんな2人の前にはスーツをビシッと着こなす美女が何の前触れもなく急に現れた。
『初めまして、ALLFOサポートAIのネフォリャタルトと申します。この度は此方側の不手際によりイベント進行を中断してしまったことを深くお詫び申し上げます。つまらない物ですが、謝罪の印としてお納めください』
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『ALLFO』よりアイテムの譲渡があります。
こちらの中から御一つ御選びください。
(※他PLには譲渡不可のアイテムです)
①金級割引チケット
使用可能回数1回。使用すると対象の商品が100%OFFに。
②ミニホーム
持ち運べるホーム。街中のホームより性能は落ちるが制圧した領域であれば使用可能。バージョンアップ可能
③黄金の卵
強力な従魔・召喚獣・召喚霊を得る。使役には該当する職業が必要
④転職チケット
1回だけ条件を満たさずとも自由に転職可能
⑤特殊武器強化
所有している武器を必要条件を満たさず即座に強化可能
⑥バックメモリーボックス
使用は3回まで。直前にロストしたアイテムを全て取り戻せます。
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「え、マジで?ドッキリ?」
「ノート兄!これ凄い!ボクはミニホームにしようかなぁ!」
「え、待て待て。いいのか?」
「だってボク達って街に入れないじゃん?他のプレイヤーにとってはあんまり旨味がない特典だけど、ボク達にとっては最高のアイテムだよ!しかも回数が書いてないからずっと使える!」
「た、確かに。けど他はいいのか?」
「うん、だからノート兄が⑤を選んでよ!」
「武器強化か?」
「ノート兄の武器は耐久値無限で何度も強化できるでしょ?他のプレイヤーはいつか強化限界とかが来て武器を変えるから旨味が低いアイテムだけど、ノート兄は別でしょう?」
「でも……いいのか?」
「いいってば、ボクと一緒に遊んでくれるなら全然問題ないよ!」
「そうか…………今度何か埋め合わせするよ」
しばらく迷ってはいたが、欲には勝てず、ノートは⑤を選択。ユリンは②を選択した。
『それではユリン様には『ミニホーム』を譲渡。ノート様はこの場で武器を強化させていただきます』
ネフォリャがパチンと指を鳴らすと、ズッとノートの胸の中から現れるネクロノミコン。そのネクロノミコンから大量の怨霊と黒い炎、黒い雷がバチバチと踊る仰々しくおどろおどろしい演出がなされた後、ネクロノミコンにかかった靄がサーっと晴れる。
靄の中から現れたネクロノミコンのサイズはより巨大になり、装丁には血を連想させる微かに胎動する不気味な紅い宝玉が埋め込まれていた。加えて金色の金具が付いてより豪華になったように見えた。
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死狂禁忌之秘宝書杖・ネクロノミコン
・強化限界無し
・耐久値無限
・自動MPドレイン・大
・自動MP超高速回復
・闇系・呪系魔法習得率超上昇
・闇系・呪系魔法消費魔力減少・大
・光系・聖系無効化
・闇系・呪系魔法威力極限上昇
・闇系・呪系魔法クールタイム無し
・召喚死霊強化・大
・召喚死霊ランダム技能付与
・敵対PL・NPCの闇系・呪系耐性1段階減少
・死霊召喚時のコスト減少・超絶
・全魔法(闇系・呪系以外)クールタイム20倍
・全魔法(闇系・呪系以外)消費魔力上昇・大
・全魔法(闇系・呪系以外)習得率減少
・全魔法(闇系・呪系以外)威力半減
・光系・聖系魔法使用不可
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「…………………………」
「…………………………」
「ナニコレ?」
「ピーキーとかそんなレベルじゃないねぇ」
ノートは魔改造されたネクロノミコンを持ってただただ呆然とするのだった。
解説
【お詫びの品】
基本的に松竹梅の三段階にランク分けがされていて、ランクの中でも提示されるお詫びアイテムは完全にランダムです。お詫びの品なので一応AIが自動で判断して比較的そのプレイヤーにあったアイテムが選択肢に表示されやすくなってはいますが、100%ではありません。
今回ノート達が対象になったのは梅ランク。これでも一番低いランクです。
緊急メンテの場合などはこの様な詫びアイテムの配布方法ではなく、全プレイヤー一律同様の物となります。なのでこのお詫びアイテムがもらえることは早々ありません。と、運営も思い込んでいました。