No.229 変装指導
セッションが楽しすぎて…………
しかもオリシも書き始めてしまった…………多分クリアに12時間くらいかかるかもしれない
「あの………」
「これなら意表をつけそうじゃない?」
「木の板しか素材がないのが残念。塗料にも限界がある」
「吸血鬼になれそうな石仮面とかでもいいんだけどなぁ。まぁ、これならわかんないですよねぇ、リーダー?」
「確かにわからないですが、逆に目立つ気が…………」
「じゃあなにか案を」
「えーっと、ルリエフ島に昔から伝わる仮面はありますが、それをモチーフにしたら敵ではないことはすぐにわかるかもしれないです」
「なんですかソレ」
「お祭りの時に子供が付ける物です。未成年者の証でもありまして、大人として認められると仮面を取っていいんです。残念ながら、今年のお祭りは中止になりそうですが」
「それはなぜ」
「本当はあともう少ししたら祭りの日なんですが、今はこの状態ですし」
「あー、そういう事ですか。とりあえずお面のデザイン誰かかける人います?」
「俺、書けますけど」
「ではよろしく。細部は適当でいいんで」
「わかりました」
「あの!誰か止めてください!絶対もっと簡単な方法があるはずです!」
ノートの脅迫により青の民レジスタンス精鋭と船ルジェは怒気を吐いたが、ああ言えばこう言うといった感じで流し、ノートはなぁなぁにして上手く丸め込んだ。メリットデメリット、理論的な部分から感情論までをひっくるめてノートは全てを計算し船ルジェ達の首根っこを押さえた状態で味方に引きずり込んだのだ。
理屈と感情論は相容れないと考えられがちだが、心に深く関わる職業に就いてるノートはそれは違うことをよく知っている。感情論は一見乱数の様に規則性の無いものに見られがちだが、その実乱数ではない。その感情が導き出される背景があり、仮定があり、理由がある。対象の人物なりの理屈がある。とどのつまり、計算式を描くことができる。
それさえ理解できれば感情論は理論の内に組み込んで計算できる。感情論は非論理的だと突き放したらカウンセリングなどあったものではない。
その一連のやり取りは仲間であるヌコォと鎌鼬が見ていても少し異様な空気を感じるレベル。ノートに一方的な流れで、敵対的だったはずの空気はいつのまにかノートをリーダーとしてまとまっていた。
先ほどまでは命を賭けたやり取りが始まりかねない雰囲気だったのにも関わらず、今は船ルジェを集落内に潜入させるための衣装をあーでもないこーでもないとおふざけ多めでレジスタンス達と考えているのだ。
これができるからこそ、ノートはかつて巨大なPKクランを何度も率い、数々のゲームに危険極まりないと同時に面白いプレイヤーとして名を刻むことができた。自分の陣営の間に共通の敵を作り、本来敵であった陣営をいつの間にか自分のフィールドに引き込みつつも、実質的にはノートが上に立っている状態を築きながら次々と勢力を拡大していく。
それはノートに初めてオンラインゲームという世界を見せたGBHWというバカゲーという非常に特殊な環境が育て上げた代物ではあるのだが、ノートはそのバカゲーを通して確かに才能を開花させていた。
GBHWというゲームに於いて、敵や味方という概念は非常に曖昧だ。肩を組んで共に突撃していたと思った数秒後にはいきなり殴り合ってる世界である。皆等しくゴミクズで、死ぬ最後の一瞬迄超利己的な快楽を追い求める獣である。
同時に、命を奪い合う関係ではありつつも、時に共存することができる。それは共通の強大なボスと戦うためだったり、ドでかい祭りをやるためだったり、単純に愉快犯としてだったり。
ノートはそれを利用して、本来は敵である存在の間により破壊優先度の高い敵や目的を作り、敵を味方へと塗り替える。
中学生の段階でノートにはそれができた。誰に教えられたわけでもない。戦略の師匠である『でかした先生』と出会う以前から、先天的な才としてノートはそれができた。天才だなんだと周囲をもてはやすが、ユリンもヌコォもスピリタスもトン2も鎌鼬も、ノートのその才能の方が何より恐ろしいものだと感じていた。
ALLFOという人類史最高峰の人工頭脳SOPHIAによって管理される電子の箱庭は、ノートにとって非常に興味深いものだった。NPCが人間との違いを見分けられぬほどに人間らしく行動し、語り、考え、自己表現し、他者との関係を築く。それはノートにとって手札が今までのゲームよりも遥かに増えたということに他ならなかった。
人間関係の図というものは、ノートにとって遊びがいのある盤面でしかないのだ。
レジスタンスや船ルジェがノートに反抗したり噛みついたところで現状は打開できない。結局はジリ貧だ。更には武力という面でもたった数人で海賊船を占拠したことでそれは証明されている。
その状態でノートが笑顔()で手を差し伸べているのを闇雲に殴り返したところで大して意味はない。頭に銃口を突きつけながらもにこやかに共同戦線を要望するノートに対し、徐々に徐々にNPC達の態度も若干軟化する。
青の民レジスタンスの一人がノートの渡した紙に絵を描き、それを元に適当な木を削りアテナがバリ島あたりにありそうでありながら、どこかファンシーな空気が漂うお面を作り上げる。大人が付けたらちょっと間抜けか逆に怖い感じのデザインだ。その仮面を押し付けられた船ルジェは文句を言うが、やはりそれは何とも間抜けで、青の民レジスタンスと途中合流したスピリタスとケラケラと笑っていた。
長に対する態度としては気安すぎるかもしれないが、それを許しているあたり、船ルジェが青の民たちからどれだけ慕われ、心を寄せられているか分かるものである。
一方、ノートの導き方はククラー家姉妹とは違う。
君臨せずとも支配せず。不平等条約を結ばせながらもそれを不幸に思わせない。
頭を押さえつつもあくまで対等な立場として扱い、相手にも明確な利益を与える。
解毒薬を後程渡すことを契約したノートは、船ルジェを旗頭として青の民レジスタンスとノート達は正式に同盟を組んだ。
求めるのは集落の奪還、そして海賊の殲滅。
一番手っ取り早いのはアグちゃんブレスレットを貸与して完全に変装し海賊たちの中に紛れ込むことなのだが、アグちゃんブレスレットはバルバリッチャナイフと同じく使用者固定と自動ドロップセーブの機能が付いているため、(事前にロック解除をお願いして渡したカるタの様な例外はあるものの)原則他人に貸しても意味がない。
結局アナログな変装という手段が一番楽だろ言う結論に落ち着き、海賊がため込んでいたアイテムなどを好き勝手使いせっかくの眉目秀麗な船ルジェをおもしろ着せ替え人形にして遊んでいた。
「うーんどこからどうみても怪しさ百点満点だな!」
「でもこれぐらいしねーとお嬢様オーラがきえねーぞっ!」
「少しでも気を抜くとルジェ、さんは普通じゃない人の空気が消えない」
「これはなかなか難敵ね。どうにか怪しくせずにモブオーラを出せないものかしら」
レジスタンスなどは海賊から奪った(?)ズタ袋やシャツをかぶせておけば一瞬で精鋭らしいオーラが消滅するのだが、船ルジェは服を着替えてもなんとなーく只者では無いオーラが消えないのだ。
「こうなったら肩パット仕込んで、顔も少し汚そう。口に布を軽く含んで、お腹にも布を仕込んでもいいかもしれないな」
靴底を木の覆いで更に持ち上げ、肩に布と木で作ったパッドを仕込み骨格を男性に寄せ、その上から海賊のような服を着せる。炭を砕いた物を水で軽く溶かして染料とし、顔に塗って薄汚れた感じを醸し出す。
「ちょっ、やめろ!何やってんだ!」
「ウハハハハ!だっせーっ!」
「…………ふっ」
「ふっ、ふふっ」
「ふふふふふ」
「スピリタス、お前何書いた!?」
ノートが作業している間暇だったのか、スピリタスがノートに悪戯をし始め、ヌコォと鎌鼬はそれを見て笑いをこらえる。
見ればおもちゃにされていてちょっと不機嫌そうだった船ルジェまでクスクスと笑っており、ノートはゴシゴシと頬を拭う。
「まぁこんなもんだろ」
「おぉ!これなら男に見えるな!レジスタンスの仮面も似合ってるじゃねぇかっ!」
「だから私は最初からそれがいいと言おうとしていたのに…………」
ノートの変装術で整えられた船ルジェは、なんとか青の民の美男子助っ人Aくらいにはなった。特徴的な琥珀色の髪色も炭をベースとした染料で黒くガビガビに固めたためか、印象的には学級委員長といった感じである。
「相変わらず、こういうのは昔から得意よね」
「あいにく一緒に遊ぶには目立ちすぎるメンツが周りにいたからなぁ」
「貴方の変装指導は今も役に立っているわよ」
「それはなにより」
今や国民的アイドル枠のトン2や鎌鼬だが、それ以外にもプライベートで一緒に遊ぶには少し弊害がある人物がノートの知り合いには何人もいる。そんな人たちの変装に付き合ってるうちにノートも変装が上手くなってしまったのだ。
「さて、準備はいいな。腹ごしらえよし装備よしアイテムよし。武具の耐久力もゴヴニュ達のお陰で回復した。全体的な行動方針は事前に話し合った通り。では偽ルジェ討伐へ、行きますか」
『おー!』
「お、おー…………」
ノート達は遂に長らくスルーしていた集落へ、青の民レジスタンス達を率いて出陣を開始した。
本当に仲良くしたい思う一方で平然とナイフを首に突きつける男




