No.223 タイムリミット
神は言っている
あげちゃってもいいさと
クイーン寄生体はモグラ叩きの様に死霊inシャボン玉を潰していくが、めんどくさくなったのか何かのトリガーを引いたのか、急にゆっくりと翼を広げて天を仰いだ。
再び岩の柱に登ったトン2とスピリタスが次々と頭を槍で串刺しにしサボテンの様にしていくが動きが止まらない。
最早通常の生物の括りから解き放たれたクイーン寄生体にとって、部位という概念があるのかさえ怪しくなっている様だ。
「全員岩の後ろに隠れろ!」
パカリと顎が外れた様にクイーン寄生体の口が開くと、再び灰色の光が島を走る。シャボン玉に囚われていた死霊達はなす術もなく石化し、岩の彫像の様になっていた。その石の質は今隠れている岩の柱にもどこか似ている。
「まさか」
地形的な観点から見てアボリジャバロの様な火山活動などが作り出した奇跡の地形なのかとノートはフレーバーテキストを予想していたが、寄生体の見せた一連の光景がこの不思議な地形の出来方を示しているようにノートは感じた。
一方クイーン寄生体は続けてあげた翼をバサリと下ろした。石化光線からの連続攻撃だ。突如としてクイーン寄生体の周囲に闇の渦が幾つも出現すると、その渦は自動で動き回りシャボン玉諸共死霊の彫像を削り取って赤いポリゴン片へと変えてしまう。
もし石化光線で身動きが取れなくなっていたらと考えるとゾッとする攻撃だ。
更には推定頭部の寄生虫達がウネウネと動き出し、その口から漆黒の光線を放ち始める。こちらはスピードが速く、当たった彫像が砕けていく。
ノートはそれらの攻撃を見切ると、敢えてただ1人再びボスフィールドへ足を踏み入れた。即座に破壊の闇ビームがノートを襲うが、ノートはそれを回避し、盾で弾き、シャボン玉の間を縫うように駆け抜けシャボン玉を破壊させていく。
いつもならこんな無茶はしない。しかし今はどんな手を打っても覆せないタイムリミットが迫っているのだ。動かなければ何も始まらない。ここは攻めるしかないのだ。
「ノートッ!」
「のっくん!」
「行こう!2人程度なら回復回せるかもしれん!ただできるだけ個人単位での対処はしてくれよ!」
続けてスピリタスとトン2もクイーン寄生体に接近を開始。タイムリミットが迫る中、ノート達は危険な賭けに乗るしかないのだ。
「スピリタス、オリスキ使えるか!?」
「まだだっ!」
対赤子天使の時はトン2達のオリジナルスキルの効果が第二形態後にも引き継がれていたが、クイーン寄生体には通用していない様で、クイーン達とは別物カウントらしい。
飛び道具さえ奪ってしまえば楽そうなクイーン寄生体。ノートはスピリタスの強力なオリジナルスキルに頼りたい所だが、そう何度もうまくはいかないようだ。
「ネオン!」
「あ、あと少しです!」
ネオンの魔法は強力過ぎる分、発動に時間がかかるものも多い。より強力な魔法を使おうとすればそれは尚更である。
スキルを使って発動準備時間を縮めて尚連続での攻撃はできない。それはネオンが大技ばかりで小技系に魔法を派生させてないかったことにも原因がある。この様な時、ネオンは多少が時間をかけても大技に頼るしかないのだ。
「ここで負けはめんどくせーんだよなぁ!!」
迫るタイムリミット。足りない手札。ノートは吼えるとインベントリから一本の旗を取り出した。
「ツッキー!」
『わたくせを慰労会でいじめてたクソオーナーがなーんのってキモおおおおおお!?何アレ!?』
「手を貸してくれ!奴を消し炭にする!」
『最悪!クソみたいな場所から出されたと思ったらクソみたいな奴を見させられたでし!!』
作戦会議中あまりにゴネたせいで船で物干し竿の刑にあっていたツッキー。船ではバルバリッチャがいるお陰で非常に静かだったが、インベントリから飛び出しや否やノートに恨み節をぶつける。
しかしその恨みもクイーン寄生体のビジュアルのキモさには負けたらしく、ただでさえ変な口調がおかしな事になっていた。
「時間がない!巻きで行くぞ!」
『どーしてオーナーさんはこんなけったいな奴を引き寄せて…………まあそんなオーラ放ってれば妥当でしね!最悪でごぜぇますよもう!サッサと魂よこすでし!』
「持ってけドロボー!」
ノートの中からギガスピで大量に貯めた魂がまたゴッソリと持っていかれる。
旗が赤い光を帯びると、クイーン寄生体の頭上に赤い満月が降臨した。
「全体強化だ!石化は弾けるか!?あとあの邪魔な玉吹っ飛ばすからユリンの魔力強化!」
『余裕でごぜぇますよ!舐めんなでし!』
ノートが旗を掲げるとユリン達にキラキラと輝く赤い光が降り注ぐ。
『これでいけるでごぜぇます!』
「ユリン!」
「うん!」
特に強い赤の光に包まれたユリンが光属性の魔法を放つ。本来は単発のはずの魔法はビーム状になり、MPが供給され続けるユリンはそのままビームで地面を薙ぐとシャボン玉が全て破裂した。
「次近接組!《ルナストアウトレイジ》!《ルナストアウトレイジ》!いけ!トン2、スピリタス!」
『旗使い荒ぇんでし!』
続いてスピリタスとトン2が強い光を帯びる。赤いオーラが揺らめき、手が燃えるように光る。今、彼女達の目の前に障害物は無い。
「〔覇道阿修羅憑き〕!からの〔波濤威獅穿チ〕ッ!」
「〔不纏之幾望〕、〔一閃・天開キ・嚠喨祈鳴〕」
スピリタスの姿が三重にブレ、三面六臂の阿修羅のようなオーラが出現する。被ダメを3倍に上げる代わりに自らの攻撃力を3倍に引き上げるユニークスキルだ。そこから更に内部破壊スキル。大きく跳躍するスピリタス。ノートとツッキーのバフが乗った状態で繰り出された掌底はクイーン寄生体の心臓を穿ち、強烈な衝撃波が背中から抜けると赤いポリゴン片が大量に外皮の隙間から噴き出した。
そのスピリタスの背を蹴りあがり更に高く飛ぶのはトン2。妖刀強化のスキルを使い刀の威力に大幅補正。スピリタスの攻撃で少しクイーン寄生体の頭が下がったがベストポジションだ。狙いすました一閃は澄み切った音を奏で、天開きによって当たり判定が延長した妖刀がそのグラグラした首を下から一刀両断した。
「次ネオン!《ルナストアウトレイジ》!」
『にゃぁっ!』
同時にヌコォがスキルでクイーン寄生体から魔法攻撃力と魔法防御力とMPを奪いネオンに譲渡する。ヌコォの能力はツッキーのバフを得ることでボスの耐性でさえ貫通する。
ネオンの上がり切った魔法攻撃力は更に上昇し、ノートのバフが飛び更に威力が上昇する。ここでネオンは《エンチャント・フルモメント》でストックしておいた付与魔法も開放し、自分を更に強化する。
「行きます!」
「全員頭下げろ!」
もはや海賊バレとかを気にしている余裕はなく、首を落としてなお普通に動くこの化物をどうにかして倒さねばならないと皆の心は一つになっていた。首の断面からあふれ出る寄生虫共を焼き尽くさねばならぬと誰もが思っていた。
「《スピリアカーステラス》!」
チャージ時間3分という準備時間を持つその魔法は、いつぞやか野盗討伐戦でPL達を薙ぎ払う際にも使用されたクソ破壊ビーム魔法。効果は物質透過。外皮の奥に引きこもる寄生虫共を照準に捉え、ネオンの両手から直径20mオーバーのビームが放たれ、クイーン寄生体諸共海上を突き抜け射線上の全ての生物を破壊していく。
内部破壊や貫通系はよく効くのか、今までダメージを受けても殆どその素振りを見せなかったクイーン寄生体はビームが過ぎ去った後に全身を燻らせながらのたうち回っていた。
「やれ!」
攻め時と見たノートは一気に3バカ+メギドを召喚。メギドのハルバードがネオンの魔法で摩耗した外皮を叩き切り、アシュラの鎌が切り裂く。断面から漏れ出た寄生虫共にシロコウとクロキュウが憑りつき内部へと侵食させていく。
いよいよ追いつめられたのか、クイーン寄生体が非生物的な動きでビクビクと動き出すと、腹の部分から外皮を食い破り脱出しようとする。その寄生中の束は逃げながらお互いを吸収し合い大きくなると、今までのスピードからは考えられないスピードで脱出を図る。
いきなりの動きにノート達は虚を突かれ咄嗟に反応できない。寄生虫は飛び跳ねるようにして円形のフィールドから脱兎の如く逃げていく。
その時、鋭い発砲音が闇を切り裂くように鳴り響いた。ビクンと寄生体が大きく跳ね、3mほどになった体には大きな穴が開いていた。
「一つになったのが間違いだったわね」
ただ一人、岩の柱の上で銃を構え万が一の時に備えていた鎌鼬が、寄生虫の脱走を許さなかった。使った弾丸は今までの弾丸とはひと味違う。ネオンの魔法の中でもかなりパワフルで何度も何度も付与して漸く完成した強力な弾丸だ。弾丸は寄生体の体を穿つと、籠められた稲妻の魔法を解き放ちその体をズタボロにする。
「《冥黒封破輝》!」
すかさずノートが魔法を放ち、寄生体に追いうち。寄生体は弱弱しく動きながら再び分裂して逃げ出そうとするが、アシュラとクロキュウとシロコウが餌を前にした犬の様に飛び掛かり、分裂しようとした寄生虫を端から切り刻み、喰らって、侵食し、そして、最後に一匹だけソロリと脱走しようとした寄生虫をメギドが踏みつぶした。
斯くして、クイーン個体及び寄生虫殲滅戦はノート達の勝利で幕を閉じた。
師よ、ご覧あれ!私はやりました、やりましたぞ!(GWからの連投)
私はやったんだああああああああ!!!
 




