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No.215 弾丸縦断

いいですか、落ち着いて聞いてください

今日でGW最終日です


「誰もいないな」


「普通なら見張りを置いてもいいはずなのに」


「やはり、ルジェさんの知らない何かが起きているのでしょうか?」


 最初は一本道に見えた牢獄だが、進んでみると牢獄は予想以上に入り組んでおり、まるで迷宮の様だった。

 ノート達はその迷宮の中をグレゴリと鎌鼬の感覚を頼りに移動し、20分程度でようやく出口になりそうな場所を見つけた。だが、ルジェを捕えている場所にも関わらず、その出入り口を見張ってそうな人物の気配もないし、ヌコォなどの感知にも引っかからなかった。




――――――――私がなぜ、このような場所に捕らわれたのか。実を言いますと、お恥ずかしいことながらその明確な理由はわからないのです。ですが、誰が行ったかはわかっています。少し言いづらいですが…………私を捕えたのは、私の妹であり、同じく青の民を率いるエインでしょう。


 ルジェ曰く、ルジェ自身はこの牢獄に捕らわれる心当たりはないとのことだった。 

 ノートは青の民の中に青の民を代々率いてきたククラー家を悪く思う集団がおり、そいつらがルジェとエインを襲ったのではないか、と一応問いかけたが、ルジェはそれはないと言い切った。


 第一、青の民の中にこの島から出ようとする者はおらず、海の近くで細々と暮らしてきた穏やかな者たちなので武装蜂起する理由もないらしい。

 第二に、ククラー家は青の民の単純な指導者というだけでなく、回復魔法に通ずる医者であり、農耕や漁業などの識者であり、天候などを占なう司祭などの役割も兼ねており、青の民の生活とククラー家は切っても切り離せない関係にある。奴隷にしていいなりにするならまだしも、こんな場所に捕らえておく意味はないらしい。

 第三に、ルジェの最後の記憶はエインと会話し、エインが持ってきたワインを飲んだところで途絶えているらしい。加えて、10日ぐらい前までは普通に食事が運ばれていたようだ。そしてその食事を運んで来ていたのは、同じく青の民であり、エインの側近たちだったらしい。


 それを聞くと、確かにノートもエインがクロとしか思えない。しかし、だからと言ってエインがルジェを害す理由も特にないはずなのだ。

 なので、ノートは『なにかエインに恨まれるような心当たりはあるのか』とも問いかけたが、ルジェはそれもないと答えた。


――――――私達の代は双子だったため、例外的に私とエイン、2人を首領としていました。一応、姉として対外的に私が指示を出し、最終的な決定権こそ持っていましたが、なにかあれば2人で相談し合い、青の民たちを導いてきたのです。


――――――エインさんが、自分一人で青の民を導きたかったという可能性は?


 人はどこで恨みを買っているかわからないものである。誰からも好かれ尊敬される聖人君子であろうとも、その清廉潔白な人柄を妬むような救いのない人物が存在する。人間という生き物はそいう側面を持ち合わせた生き物だ。

 ルジェからすれば何の問題もない日常だとしても、エインからすればどう見えていたのかは定かではない。特に、双子の姉妹という関係性でありながら、一方が主権を持つような状態は危険信号の合図だ。


――――――エインは、むしろ青の民を導く立場にいることを時に辛そうにしていました。賢くて、それ故に責任感が人一倍強い自慢の妹なんです。あの子はいつだって青の民たちの事を第一に考えていました。民の導き方の考えに少しの違いはありましたが、それでもめたこともありません。


 だが、エインの人柄を聞くに、青の民を自分の思うがままにしたくて実の姉を監禁するほどねじ曲がった性格であるようには思えない。エインが監禁を行ったと確信しているルジェに対し、その言葉はどうにも実状とかけ離れていた。


 

「…………エインはなにがしたかったんだろうねぇ?」


「そもそも本当にエインがやったのかまだわからないしな。むしろ逆走してるはずなのにシナリオが普通に進行してるあたり違和感がある」


「確かに、言われてみればそうね。ルジェの話はあくまでルジェ視点の話だけれど、シナリオを逆走していると仮定するとルジェの話は真相と考えることもできそうよね」


「つまり、エインさんが本当に悪人、ということなのでしょうか?」


「それだとよっ、一つ引っかかる点があるぜっ。5日の間、10日ぐらい前までは普通に飯を持ってきてやってたんだろ?どうして急にもってこなくなっちまったんだ?」


 エインが最初からルジェを排除したいのなら、最悪殺したって問題なかったはずだ。監禁して皆の前から姿から完全に姿を消しているのならば、死んでいても問題ないはずなのである。

 ではなぜ生かしていたのか。考えられるのは、ルジェを生かしておく必要があったか、あるいは、殺すまではやりたくなかったか。エインが完全に黒幕と考えるのなら、ルジェに食事を与えなくなったのはルジェになんらかの利用価値があったからで、食料を与えていた5日間の間になんらかの用事が済み、用済みになったからと考えることができる。

 それでも、ノートが確認したところ、エインもルジェと同じく仮死状態になる魔法を会得しており、互いにそれを使えることを知っているようだ。故に完全にルジェを始末したいのならばトドメを刺すのが一番手っ取り早い。


 一方、エインがなんらかの諸事情でルジェを捕えておく必要があり、殺す気はなかった場合。非常に好意的に捉えたなら、エイン側がなんらかの事情でルジェに食料を届けられなくなったという可能性も考えられる。

 だが、この場合は逆に極めて面倒くさい事態になっているとも予測できる。なんせ島を実質支配している側のエインが動けなくなっているという事は、島全体が機能不全を起こしているという証なのだから。


「ひとまず、ルジェ以外の島民がいたらなんとしても話を聞きだす必要があるな。最悪は恐慌状態に堕としてオリスキで全部吐かせてもいい。ルジェの知らない15日間、この島で何が起きていたのか非常に興味がある」


「ルジェちゃんにごはんはこんでた~そっきん?が見つかると手っ取り早いんだけどね~」


「流石に写真とかないし、特徴を聞いても特に目立ちそうな物もなかったししょうがない。ってことで、グレゴリ、騙し絵で姿隠して上空限界高度から偵察頼む」


『(`・ω・´)うむ』


 人間が登るにはあまりにも大きな段差が続く坂。その片端だけが人間でも使えそうな石階段になっており、ノート達が階段を上っていくと、どこかで見たような地面に取り付けられた扉がある。それを強引に押して開くと、その隙間からグレゴリが飛び出していった。


「遺跡、だねぇ」


「縮尺が違いますが、マチュピチュの様に見えますね」


「あー、なんかみたことあるな~って思ったらそれか~」


「外で使われてる石材も皆大きいわね」


「でもよ、オレ達が腐った森で見た家は石では作られてなかったはずだぜ?」


「背の高い木が見えないから、単純に建材の問題かも。ここなら岩には事欠かなさそうだし」


 グレゴリと視界を共有し、ドローンから見るように島を上から眺める。

 ノート達は島にちゃんと上陸せず、いきなり崖途中の洞窟からこの島に入ったのだが、上から見た島は緑豊かで一見平和そうな島だった。ノート達のちょうど上には石で作られた建物の残骸が残っており、かなりの規模が遺跡となっている。ノート達が海から見た人工物も間違いなくこの遺跡だろう。

 グレゴリは高度を上げていくが、島はかなり広く、ノート達が上陸した方向とは真反対の方向になだらかに傾斜を描いており、かなり遠くの方に横に長い砂浜と海原が見える。その浜の手前に、遺跡よりも広い村落の様な物が見えた。非常に遠くからでも見えるのだ。プレイヤー達が拠点とする街より2周りくらい小さいが、島に唯一つの集落と考えるとそれなりの規模だろう。ルジェの話からもう少しこじんまりとした感じの集落をノート達は予想していたが、その考えは捨てた方が良さそうである。


「動物っていうか、魔物はチラホラいるねぇ。でもあんまでっかくないし、強そうな感じもないかな?」


「目測になるけれど、ここからあの集落まで約5㎞って感じね。集落の方向を正面と考えると、横の方にもう少し長そうだから島の全周は短くなさそうだけれど」


「浜の右のほうに停まってる船も気になる。ここからでも輪郭が見えるという事は、かなり大きい船と見ていいと思う」


「ルジェの話だと外への進出は積極的ではないらしいし、5隻以上も大型の船を用意する必要はないよな」


「他のプレイヤー達が、上陸しているとかは、その、ありえませんか?」


「まさか。だって海側に一番近い街のドラなんとかからでも結構離れてるはずだぞ。少なくともグレゴリが位置情報をロストするくらいには離れてるはずだ」


「少し待って…………スレを流し見したけど、今のところ新しい島に上陸したことを報告するような書き込みや板はなさそう。あの船の大きさで5隻以上も動いて、どこからも情報が漏れないとは少し考えづらい」


「とするとあの船はなんだっ?」


「さぁ?」


「というか、浜の左端の方になんかない?」


「あー、言われてみれば確かに」


 遠くからなのでハッキリとは見えないが、停泊している船は帆で動くタイプの木造船に見える。ヨット程度の大きさでもない。そんな船が5隻ほど。他の所との交流もなく、見た感じ森林など木材を多く得られそうもないこの島で立派な船を5隻も作り出せるとは思えない。


「なーんかいよいよめんどくさい香りがしてきたぞ」


「でも行くしかないよね?」


「どっから攻める?左?真ん中?右?」


「左かなぁ」

「左」

「いきなり集落や船は怖いので、左から…………」

「ネオンちゃんに同意ね」

「オレも左がいい気がするなっ」

「勘だけど左~」


「満場一致で左か。じゃあキサラギ馬車で飛ばすぞ」


『了解』


 斯くして、ノート達はキサラギ馬車に乗り込みルリエフ島の弾丸縦断ツアーを開始した。




この章は全員謎解きタイムです

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― 新着の感想 ―
[一言] 仮定巨人族が関わってるとしたらやっぱり内側からの封印とかじゃない? さすがに安直すぎかな
[一言] あれ?俺はなんでこんな時間に電車に乗ってるんだ? 休みは?
[一言] >(`・ω・´)うむ かわいいw >かなり大きい船 外部勢力の可能性ありか…… >キサラギ馬車 (外部が)事故る確率……そうですね、DEXで判定しては如何ですか?w
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