No.214 ロンギヌス
久しぶりにセッション見学してきたけど楽しかったです。
「さて、どーすっかねぇ」
「タイムリミットが無いから無期限、って、感じでもないよねぇ」
「とりあえずキサラギ馬車に突っ込んどいた食えそうな物を渡しておいたが、最悪ルジェは仮死状態になれるからルジェ餓死Endってことはないと思うがな。それでもユリンに同意だ。示されてないだけでなんらかの期限が設けられていてもおかしくはない」
「でも~じっさいにユニーククエストやらされた身としてはさ~一日二日でおわるもんじゃないから焦る必要もないと思うんだよね~」
「そうね、ユニーククエストはおそらく、簡単にクリアできるように作られてるような代物ではないわよ」
「オレもトン2達の言いてぇことはわかるぞ。トン2達のとはちげぇがオレもやったしなっ」
ノート達は檻の中の少女、少女曰く『ルジェ』から身の上話というか檻に入れられた事情を聞きだすと、ルジェが捕らえられているこの牢獄の様な謎の建物の中を探索していた。
「しっかし、ルジェの言葉にはよくわからない部分が多いってのが困りものだな」
クエストを受けた後、ルジェは鈴の鳴るような高く、少しか細い声で語りだした。
―――――――この島を私達は『ルリエフ』と呼んでいます。古の災厄から逃げ延びた者たちの集まりを起源とする私達は、ルリエフを安住の地とし、海と心を交わしながら細々と暮らしてきました。そして自らを、私達はいつしか『青の民』と呼称するようになりました。青の民たちは穏やかに、諍いもなく、長い時をこの地で静かに過ごしてきていたのですが、そんな青の民たちの中にも、彼らを率いる立場にいる者もいました。
その青の民を率いていた一族で、現首領が、ルジェ・イェドラン・ククラーとエイン・ズースファーワン・ククラーの双子の姉妹。その片割れのルジェこそが自分なのだと、推定ルジェは語った。
そこまで聞いたとき、ノートはしかめっ面をしそうになった表情筋をなんとか制御した自分の脳を褒めたくなった。身なりや言葉遣いからそれなりの身分の者だろうとは予測をしていたのだが、まさかの島一つを治める集団のトップ。しかもほんの少しの語りの中にもトラブルの予兆を示す物だらけで冗談一つ言えなかった。
「この牢獄、やはり長いこと使われていなかったと見ていいと思う。非常に頑丈だし、ここに捕らわれたら脱出は難しいと思うから実用性もあるはずだけど、なぜ使わなかったのか」
「青の民は気性が穏やかだから~こんなとこに捕らえるほどのヤな奴が~いなかったとか~?」
「そんなことあるかぁ?人間どこでもアホばっかだぞっ?」
「あら?ここの牢は空いてるわね。入れそうよ」
「ナイス鎌鼬。中を直接調べるか」
「閉まってるのと、開いてる物の、違いはなんでしょう?」
「なんだろうねぇ?まあ開いてなくてもノート兄なら探索出来ちゃうんだけどさぁ」
牢の殆どは鍵がかかっていて、ルジェの入れられていた檻を含めノート達がとりあえず開けられないか試してみてもビクともしなかった。ルジェ曰く、この檻には強力な魔法がかけられていて、檻を破壊しようとしたりしても全て妨害されてしまうらしい。その割には普通に檻の隙間から物を差し入れられる辺り警備も緩いと感じたが、それらの檻の中は空っぽで砂埃だけが積もっていていた。砂埃の下には、時には何かのシミや、何かの残骸などが転がっており、過去には一応使われていた痕跡があった。
本来であればそれらのアイテムを指をくわえて眺めているしかないのだが、ノート達の場合は10フィート棒などを駆使してなんとかそれらの残骸を引き寄せることに成功していた。因みに、牢の中に直接死霊を召喚して持ってこさせる案もあったが、それは牢への攻撃と判定されたのか魔法が発動しなかった。
「ここにも何かあるね~」
「棒で取ろうとすると危うく壊しそうで怖かったからな。楽で助かる」
牢は広くないので、代表してノートとトン2が埃をたてないように慎重に中に入り、光苔ランタンで中をよく照らした。
「なんだこれ?」
「錆びた金属?絡繰り?う~ん…………」
牢の中に残されてる残骸は軒並み原型を留めておらず、棒で引き寄せればどうしても無事とはいかない。故にこうして落ち着いて棒に負荷を掛けられる前の残骸を見れる機会は貴重なのだが、外部からなにも影響を受けてない状態の残骸を見てもその原型はまるで見えてこず、ノートとトン2は思わず顔を見合わせる。
「とりあえずとっとく?」
「まあ後で詳しく調べればいいしな」
ノートが回収用の布の袋を取り出すと、トン2は手袋をしてそっと掬い上げるように残骸を回収。ノートが口を広げた袋の中に慎重に入れ、ノートはそれをインベントリにしまった。
「触った感触は?」
「やっぱりぼろっちぃ金属っぽいかな~。でもなんかちょっと柔らかいの。素手でもぐしゃっ!てやれそうだった」
「となるとちょっとやそっとの劣化具合じゃないな」
わざわざおいてあるという事は何の意味もないという事はなさそうなのだが、まるでその意図が見えてこない。とりあえず今の段階で手に入る情報として『柔らかな感触がした金属』についてトン2に問いかけたのだが、のっくんのアレぐらいかも、ととんでもないことをボソッと口走る。
「お前はっ、昼間からっ、なにをっ、言って、いるんだっ!このっ、あたまっ、ドピンクが!」
「やぁん!んぅ!ごめんって!ふふっ!くすぐったいよぉ」
予想外の返答に思わず咳き込むノート。反撃と言わんばかりにツンツンと指でトン2をつつくが、対して力も込められていないのでトン2はくすぐったそうに身を捩るだけだった。
「おい!こっちは待ってんだがっ?な゛ぁ?」
真面目に調査していたはずなのにナチュラルにイチャつき始めたノート達に対し、待機組を代表してイライラした様子で声をかけるスピリタス。トン2はノートだけに見えるようにペロッと舌を出すと、今気づいたと言わんばかりに壁を指さした。
「見てのっくん!なんか書いてある~!」
ノートが初めてトン2と出会った時、トン2はまともに意思疎通をすることも難しかった。それくらい浮世離れして、マイペースをロンギヌス張りに貫いており、普通の人間として過ごすということが苦手だった。小学校や中学校では影で宇宙人と呼ばれており、そのあだ名が端的にトン2が如何に人間に馴染めていなかったかを示していた。
しかしゲームを通して幾分か人と一緒に遊ぶという事を覚え、一人の男に好意を抱いたことで徐々に人間らしい感情を手に入れ、今はネオンの様な人付き合いが得意ではない人物と2人きりになっても行動できるようになった。
だが、その唯我独尊異星人ムーブを矯正するために色々な人間を演じ様々な人格をインプットしたせいか、コスプレ癖が開花したりするなどの副作用が出ており、ノートに対しては時々小悪魔の様な言動が増えてきた。
トン2が社会にも受け入れられるように手助けしたのはノートだが、性格ランダム入れ替えやコスプレ癖などの悪癖を芽生えさせたのもノートである。故にノートには生産者としてこの程度の悪ふざけは笑って流す甲斐性が求められるわけで、ノートも肩をすくめてとりあえずはスルーすることにした。
そんなトン2の唐突な悪ふざけも、案外無駄ではなかったらしい。ノートが咳き込んだことで埃が舞い上がり、汚れていた壁が微かに露になる。その壁に書かれていた線をトン2は目ざとく見つけていた。
ノートは革手袋を手に付けると壁の埃をゆっくりと手で払った。すると見えた線の先には別の線があり、それに沿うように再び別の線が続く。ノートとトン2は線を追うように埃を手で払っていくが、次々と線が出てきて床にも繋がる。
やがて全ての埃が払われると、檻の汚れが隠していた物がしっかりと見えるようになった。
「これは…………」
「なーんかぁ、見覚えがある気がする」
「そうかしら?」
牢の石壁には引っかき傷のような線があり、それらが独特の記号を、時には絵というより不可思議な絵を描く。それらの記号や絵にノートはどこか見覚えがあった。
「ノートさん、これ、この写真に似てませんか?」
一体どこで見たのかとノートが首を捻っていると、ノートの裾をクイクイっとひっぱり記憶力お化けのネオンがメニュー画面を操作し、ゲーム中のスクショを見せる。
「あー、それだ。よくわかったな」
「この記号が、とても似ていたので」
ネオンが見せたのはとある石碑を撮影したものだった。どの文化形態の物とも違う記号形態、そして原型がよくわからない抽象的な絵。そのスクショが撮られたのは腐った森の廃村の奥。一番大きな建物の地下の先に在った謎の空間であり、その石碑からは人形兵器が出てきてノート達は大変な目にあったのだ。
そしてその石碑に深く関わっていたと考えられる推定非人間種知的生命体は、洞窟に入った時もノート達の話題に上がったばかりだ。
「クソッ。ルジェだけでお腹いっぱいなのに更にわけわからん要素をぶっこみやがって!」
単なる地下牢獄にしてはやたら広かったり、牢への攻撃を無効化するなどALLFOの現地人類の技術力からは考えにくい要素があるとはノートも思っていたのだが、どうやらこの牢獄は人間の物ではない可能性がより一層高くなった。
「まあいいや。とりあえず今はルジェを優先だ」
ルジェ、遺跡、牢獄、島、青の民。
ノート達の思考をオーバーヒートさせる刺客の様に次々と情報が与えられ、息が詰まりそうになる。しかし今の第一優先はルジェの解放。ノートはとりあえず床や壁をスクショして謎の記号群を記録すると、煩雑化した思考をリセットする。
ノート達は少しモヤモヤしつつも、牢獄内の探索を再開した。
ヒロインが禿げなくてよかった




