表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

279/880

No.213 つまらない命を幾分かマシで面白みのある物に

真のゲリラは二度刺す

話が進まな過ぎることによる詫びゲリラだ!


(、´・ω・)▄︻┻┳═一



「えーっと、とりあえずは大丈夫ですかね?」


「はい。ありがとうございます。腹に物を入れることができたので、少しは元気になりました。大変お待たせ致しました」


「いえ、お気になさらず。わずかでも回復なされたのなら幸いです。あ、気が付かなくて申し訳ございません。明かりを用意しますね」


 檻の少女が回復薬と菓子を食べること約10分。その間にノート達はこっそりハンドサインで意思疎通をし、檻に使われている金属の素材や周囲の詳しい状況などを確認して時間を潰していたが、檻の少女も急足で食べてくれたおかげでようやくまともに話せそうな状況が整った。

 

 ノートはインベントリから光苔ランタンを取り出すと、中を照らして改めて檻の中の少女を(つぶさ)に観察する。

 まず顔。見た目はおそらく10代。少なくとも20は超えてないと幾人もの患者と会ってきたノートの勘が囁く。目鼻立ちは整っており、快活な感じよりも少しおっとりとした箱入りお嬢様の様な気品も感じる顔だ。やつれていても綺麗に感じるのだから、万全になれば100%美少女だろう。だが、此方を見据えるアイスブルーの瞳は右目だけで、左は瞼の上から赤い線で不思議な記号が描かれており堅く閉じられていた。


 服は膝を抱えているので全容はわからないが、意外とボーイッシュな感じの衣装だった。首元までカッチリとした肌着の上から、袖元が緩く、首元が深くV字にカットされ、胸元には縦長のポケットがいくつもある薄いコートの様な物を羽織っていた。後にノートが彼女をスクショをネットの画像検索にかけてみたところ、昔中東で着られていた戦闘衣装か、グルジアの民族衣装チョハがかなり近いデザインだと感じた。

 そんな服の上から金色と青を基調とした飾りが付けられており、素人が見ても普通の町娘の格好には見えない。例え彼女が特別な人物でないにせよ、だいぶおめかししていると感じる衣装だ。

 一方、肩口まで伸びた、ダークブロンドというには少し明るい、琥珀色の髪には少しエジプトのテイストを感じる金色の髪飾りをしており、中央にある青色の宝石が光苔の明かりに照らされ煌いている。 


 服装や話し方から鑑みるに、やはりこの少女はただの町娘とは考えにくい。


「ふふふふふ、あなた方が誰なのかは存じ上げませんが、お優しい方々なのですね」


「人としてできることをしたまでですよ。もっと恐ろしかったり怖かったり苦手な集団に見えましたか?」


 普通の会話に見せかけてさりげなく檻の少女のNPCとしての性能を測るノート。対する少女の解答はノートの予想から少し逸れていた。


「怖い訳ではありませんでした。ただ、身を守る為に聴覚だけを残し仮死状態になっていたのですが、随分慎重に面白い場所からやって来たので、貴方方の正体が皆目見当もつかなかったものですから」


 ノートは檻の少女をジッと見つめ、耳を澄まし、一挙一動を精細に観察する。少女は起きた時に見せた動きの様に、ALLFOのNPCは限りなく現実の人間に近い動きを見せる。

 人の体は口以上に詳らかにその人の心を語る。目の動き、抑揚、些細な体の強張りや手癖に足の向き。これらの動きを目ざとく観察して相手の感情を暴き立てる。見栄を張りがちな子供相手にカウンセリングを重ねるノートはこうして相手が話せない、言語化できない本心を暴いていくのだ。

 そのノートのやり方は聖女アンビティオ相手だろうと普通に通用した。


 では檻の中の少女は。

 表情自体は悪くない。予想していたような嫌悪感は特に感じられない。それは彼女が特殊なNPCだからなのか、それとも普通にノート達に嫌悪感を感じないタイプなのか、それとも強い悪性を好む者もなのか。今はそこまで推し量ることはなできないが、兎に角話した感触は悪くない。

 一方で、彼女は膝を体の内に抱えたままで牢の奥から動こうとしない。見た感じいきなり立ちあがってスキップしだしそうなほどの元気な感じはないが、普通なら姿勢を崩したり、少しノート達側に寄ってきてもいはずだ。しかし彼女はノートが檻から何かを渡しても腕を伸ばすばかりで自分からは近寄らず、体の動きが腕だけで殆ど完結している。


 非常に単純に考えれば、彼女は単純に動きたくないと考えられる。腕を動かし話すのが精一杯で、腰に力を入れるほどの気力がないのかもしれない。

 穿った見方をすれば、動けないという線もある。なんらかの魔法で拘束されているのか、それとも後ろにある何かを隠したくて動きたくないのか。人は何かを隠そうとするとき、どうしても不自然な動きをする。その動きと捉えることもできそうだ。


 あるいはその両方という線もあり得るだろう。だが、ここに心情を加味すると、まだ彼女はノート達を潜在的に警戒しているとも解釈できる。身を縮めたり、距離を置こうとするのは対象に対する『恐怖』のサインだ。

 受け取った食べ物の香りをさりげなく確認していたのもノートは見逃していない。つまり、相手がたとえ信用しきれないくらいには肉体的には弱っていたが、その施しを無条件に受け入れられるほどこちらを信用していないと考えることもできる。暗がりなので臭いで食べられそうか確認した線はあるが、開いた右目は明かりをつける前でも確かにノート達の動きを目で追っていて、間違いなくこちらが見えているのでそうとは考えにくい。


「私達も、実はここに偶然に行き着いたものでして。ここがどこだかよくわかっていないのです。そんな時に妙に怪しげな洞窟があるものですから、やや、これは宝の匂いっと調べてみたところ、見つかったのはお宝の宝石よりも美しいお嬢さんという次第でして」


「ふふふふふふ、口がお上手。すでに見目麗しい女性たちを周囲に置いていらっしゃるというのに、あなたは悪い殿方なのかしら?」


 少々演技がかった口調で、冗談の色を含ませつつ少しノートは仕掛ける。一方、少女は口を軽く押さえてクスクスと笑っており、ユリン達は事前にそういうスタンスで攻めると打ち合わせをし了解している筈なのに、そうだそうだと少女の言葉に同意するように頷く。


「良い物はいくつあってもなお素晴らしいという心の持ち主な者でして、という冗談はともかく、彼女達は私が全幅の信頼を置いて命を預けられる大切な仲間であることには違いありませんよ」


 ユリン達からのプレッシャーこそあったが、それで揺らぐノートでもない。すぐに少々アドリブをかけてロールプレイを続行し、自分たちが信用できるという印象を少しずつ与えていく。

 だが、ノートの予想と違い、ノートが全幅の信頼を置ける仲間達といったあたりでほんの少し少女の顔が曇ったように感じた。それはわずかな変化だ。彼我の距離は4m。普通なら見間違いにすら感じない些細な変化だが、それをノートは敏感に感じ取った。


「(……………なるほど?)」


 牢にいるという事は明確に理由がある。彼女が何をしたにせよ、そこにはなんらかの事情があるはずなのだ。

 ノート達は事前の打ち合わせでそのあたりもザックリと予想していたが、色々な選択肢の内、今のリアクションだけでかなり候補を絞れそうだった。


 ここでもう少し踏み込もう。

 そう決心したノートはすぐに少女に仕掛けた。


「そんな事情なわけで、私達には貴方がなぜこんな状況に置かれているのかわからないのです。無論、いたいけな見目麗しい少女を助けるために無条件で動くというのもまた美徳ではありますが、まず私は貴方からここにいる理由を聞きたい。助けるに能う人なのか見定めたい。どうです?食べ物の代わりに一つ、語りをしてみては?」


「ここにいる、理由ですか」


 先ほどのノートの冗談にほほ笑んでいた時とは一転、表情に僅かに影が差す。牢に入れられるという事はやはりそこには浅はかならぬ理由があるのは当然。更には食事もなにも与えられず。一人誰も来ない様な場所に放置されたとなれば余程の事情があると推し量るべきである。

 廊下に薄く広がる砂埃が、長らく彼女の牢に誰も来ていないことを如実にノートに伝えているのだ。


「ただの勘ですが、私には貴方がどうしてもこのような仕打ちを受ける人には思えないのです。しかし安直に牢からだすのもそれは真の助けにはなりません。牢からただ出しても、貴方の境遇が変わらないのならばただの気休めになってしまいますからね。私達が正しく手を差し伸べるためにも、やはりあなたの口から貴方が知っている限りのことを伺いたいのです」


 あくまで、自分たちは貴方を助けるスタンスである。その上で、貴方から身の上事情を聴くことが重要なのだとノートは訴える。

 

 暫しの無言。彼女は残していた体力回復薬の残りを飲み干すと、コクリと頷いた。


「そうですね。では、食事のお礼に一つ語りをしましょう。ただ、一つだけ確認したいことがあります」


「なんでしょう?」


 とりあえず話を聞けそうという事で成果は一つ。しかし彼女も唯々諾々と従うタイプでもないようで、ノートは気を引き締める。この彼女の確認がどのようなもので、それにどうなるかで今後の動きが全く変わってしまう可能性もあるのだ。

 先ほどよりもたっぷりの沈黙。彼女は軽く深呼吸すると、真っすぐにノートの目を見据えて問いかけた。


「名も知らぬ、来る場所も知らぬ親切にして不思議な方達よ、私の語りを聞いて尚、私を、私“達”を助けると仰る勇気と力が貴方方にはありますか?」


 予想外の切り返しにノートもすぐには答えられない。明らかに聞き方の中に面倒な爆弾が見えるからだ。これこそ一度ユリン達とどう答えるか相談したい重要な議題だ。しかし歯車は既に回りだした。乗るか反るか。重要な分岐がノートに託される。ユリン達も敢えて口を挟まず、ノートに全てを任せる。それが最初に決めた方針であり、ユリン達がノートに示す信頼の証でもある。


「はい。そこに“正義があるのなら”、“私は”助けます」


 場も賭け金も不明な賭け。ノートはそんな危険な賭けに乗った。

 しかしある程度の保険はさりげなく掛けた。無条件ではなく、正義があるかどうか、つまりノート達の都合で助けるか助けないかを決められる逃げ道を作り、尚且つ、賭けの対象をノート自身の命だけに絞った。


 小狡いやり方でなんとかメリットとリスクを両立するノートに対し、少女はそんな小賢しさを真っ向から刺し貫くように青い瞳でノートを見つめた。


「誓えますか?」 


―――――――――――――――――――――――――――

【ユニーククエスト:青き海の真なる青】

依頼者:檻の中の少女(?)

達成条件:少女を助ける(?)

報酬:不明

推奨難度:不明


其処は海を渡り辿り着いた未開の地

絶壁の崖の洞窟を通り抜けた先には牢の様な場所

その檻の中の居た少女の長い語りを貴方たちは聞くこととなる


クエストを受注しますか?

Yes/No

―――――――――――――――――――――――――――


 想定外のカウンターパンチ。

 これには流石に動揺を隠せなかったか、背後でユリン達が身じろぎしたのが振りむかなくてもノートにはわかった。


 ユニーククエスト、それは非常に希少にして高難度であり苦戦必至のクエストの総称。しかしその報酬が破格の物であることは実際にユニーククエストを踏破したスピリタス、トン2、鎌鼬が身を持って示していた。


 ―――――――ホームから遠く離れた地。詳しい事情も何もしらない非常に不安な状況。その中でのユニーククエスト発生。危険な香りしかしない。だが、ゲームで安定ばかりを追いかけて何が楽しいのだろうか。わかりきった勝利を繰り返すことが自分の求めていたことだろうか?できるだけ負けないように努力するのは当たり前だからと言って危険から目を背け続けるのが正しい在り方だろうか?そうではないだろう。常に挑戦し、苦闘し、乗り越えるからこそそこには達成感があり大きな喜びがある。


「(ここで乗らないで、なにがゲーマーだ)」


 足りないなら知恵で補う。わからないなら徹底して調べる。不利なら有利な土壌へ引きずり込む。いつだってノートはそうして乗り越えてきたのだ。頼れる仲間がいて、PKなんて自分勝手な快楽とリスクばかりのスタイルに走るヤツが、今更何を躊躇うというのか。


「誓います」


 ベッドするのは自分のつまらない命。

 クエストが自動で『Yes』を選択した。

 そのつまらない命を幾分かマシで面白みのある物にすべく、ノートが見えてる地雷に足を踏み出した。


「なるほど。では、私も“貴方を”信用し、語りましょう」


 そうして、彼女の長い身の上話が始まった。




 

今までやったセッションで一番記憶に残ってるのは高難度12時間連続セッションで脳が溶けた時です


最近一番興味があるのはシノビガミ。みんなも日本語読めない卓見ようね(ダイマ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] TRPGの依頼人の内大体3割は騙して悪いが系なんだよな…… オススメなのは仲間との絆によって希望を残すTRPGウタカゼと、これはシリアスなTRPGです!と始める前に三回唱えるシリアス(笑)…
[一言] 今回の話の一部を昔読んだような・・・デジャブ?
[一言] 海ステージで言う聖女なのか、闇堕ち聖女なのか… なんかcocでありがちな展開ですね。 そういえばユリンってクトゥルフの世界線ならニャルなのでは? 日本語読めない卓…格言語…うっ頭が …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ