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No.209 悪魔生ゲーム

マイネェェーーーム!イズ!ゴルデン・ゲリラ―!



「大漁大漁、と喜びたいところだが、今どこら辺なんだ?」


「逃走に次ぐ逃走、戦闘に次ぐ戦闘。遭難フラグは立っていた」


 スピードを落としてゆったりと航海する木造クルーズ。電気ショック漁という悪魔の漁法で一気に魚を捕えようとした代償は大きく、大量の魚の死骸は他の大型の肉食魚を呼び、結局キャパオーバーを早々に向かえたノート達はネオンに爆発系の魔法をぶっ放すように指示。人工的な大津波を発生させ、強引に波の流れに船を乗せて逃げだす。

 そのノート達に向けて更なる大物が集い、爆発で吹っ飛ばして逃げ、レアっぽい敵を見つけて追っかけまわしてる内にまたまた大物に目を付けられ、多頭のサメや水の渦を操るサメ、ヒレが翼になって空飛ぶサメに半分タコみたいなものに寄生されたサメに、ハンマーヘッドから生えてる巨大フジツボから魔法を大量に放ってくる凶悪なサメと、アイデアの源泉がなんとなくわかる凶悪なサメ共に追いかけまわされた(厳密には共食いというか縄張り争いに巻き込まれた)。

 そんなZ級映画からコンニチハしたようなサメ共とキャーキャー言いながら殴り合って(船が無事だったのが奇跡)いると、いつの間にか周囲に霧が立ち込め、右往左往してるうちにノート達はZ級映画サメ軍団からは逃げきったものの現在地を完全にロストしていた(ノート達は忘れていたが、逃げていたことでユニークスキルの【無縄自縛】で封印しきれてないユリン達のトレイン系各種称号の効果が発揮されたせいで余計に大変なことになっていたのも大きな原因の一つ)。


「ノ、ノートさん。サメから貝がドロップしたのですが、これはサメの一部なんでしょうか?それとも、貝?料理に使えるでしょうか?」


「毒なきゃ煮ればそれなりにダシでもとれるんじゃないか?そこはネオンに任せるしかないな」


「ノートー!船少し焦げてんぞーっ!」


「修復材でも塗っといてくれー。それでいくらか耐久が回復するはずだ」


「のっくんみてみて~。サメのタコ足~。ちゃんと吸盤あるよ~」


「あとでたこ焼きにでもするか。味はどうかしらんけど。ダイオウイカとか美味しくないらしいしな」


「このあたり、敵の数が少ないわね。スキルで水深を測る限りより沖にきてるはずなのだけれど、どうしてかしら?」


「中立域に近いとそういう傾向がみられるから、どこか近くに陸地でもあるんじゃないか?」


「ねぇノート兄、空飛んで先の方見てきていい?」


「いいぞ」


「ノー「ちょっと待てやぁ!俺は幼稚園や小学校の先生じゃない!!全員ちょっとは自分で考えろ!俺にも考える時間をくれ!!遭難の危機!なう!船上ログアウトは確実に無駄死に!」」


 船という狭いスペース。半分レジャーというお気楽気分。Z級サメ映画軍団を退け暫しの休息タイム。遭難状態で手持無沙汰。途端に船上はノート幼稚園状態になるが、今はノートにも余裕が無いので速攻で幼稚園の先生の地位は自主返上された。

 彼もカウンセリングやめんどくさい友人の電凸対応に追われ連日睡眠不足なのである。これがナチュラルハイになれば話も変わってくるのだが、そのボーナスタイムはZ級サメ軍団とのドンパチで終わったので今は燻っているナニカだけがノートを動かしていた。


「グレゴリー、陸みつかったー?」


『ナィ(・д・ = ・д・)ナィ』


「うーん、グレゴリが位置情報ロストしたのが痛ぇ。太陽で方角はなんとかわかっているが。このまま南に進み続けるかー?」

 

 ちょっと眠りたいと思いつつも、ユリン達の為になんとか意識を保って打開策を考えるノート。船に寝ころび上空で陸地探しをしているグレゴリに声をかけるが、相変わらずノリが古のネット掲示板の顔文字が返ってくる。


「よし、ここは運に頼ろう」


 どう考えてもここからは運ゲー。そう結論付けたノートは船頭でヤンキー座りして久方ぶりにネクロノミコンを具現化する。

 見れば見るほど禍々しく豪華なデザインの装丁の書籍。中身を開いこうとしても鍵がかかっていて開けない。所有者が読めない本とは一体。と思いつつも読めないのものは読めないのだ。


「なにしてんのノート兄?」


 そんなノートの肩口からひょこっとユリンが顔を出す。


「俺たちの命運をネクロノミコンとダイスに託すんだよ。帰るか進むか」


 ノートはネクロノミコンを撫でて『頼むぞー俺のリアルラック』と念を送り、船頭にネクロノミコンを置くとインベントリから八面ダイスを取り出した。


「今太陽がいる位置を中心に八分方位で方向を決めよう」


「ネクロノミコンいらなくない?」


「ネクロノミコンの上でダイスを転がすことでなにか変わるかなって。如何にも呪われてそうだし」


 睡眠不足男の妄言だが、ノートの周りに集まってきた女性陣達も誰も「呪われてるならダメじゃないの?」とツッコむことなく運試しの為のセットが整えられていく。

 

「Ia!Ia!Necro!Ia!Ia!AImqd!xbhbufoo!Ia!Ia!zpebtjvx!ptjookjzp!」


「なんかはじまったぞっ?」


「のっくんの願掛け?」


「変な神様奉ってるのよ彼。ダイスの女神様とかなんとかって。前のゲームでもやってたわよ」


「ノートさん、寝不足ですか?」


「ネオンもだんだんノート兄さんのことがわかるようになってきた」


 街中で同じことをやってたら確実に警備ロボットか警察に声を掛けられる邪悪な雰囲気。小声でブツブツと詠唱すると、ノートはダイスを手のひらから落とした。


 子気味良くネクロノミコンの上を転がるダイス。ネクロノミコンに付けられた金属の装飾に当たりダイスは複雑に跳ねて転がり、ダイスの目は8、を出すかと思ったら船が揺れてネクロノミコンが僅かに動き、更に転がって2を出した。


「よし!更に沖へと全速前進!」


「そんな適当でいいのか?」


「なんか今不自然な転がり方しなかったぁ?」


「ダイスは絶対!」


「のっくんのTRPG脳がわきわき?」


「そういえば最近やってないわね」


「TRPG、ですか?」


「サイコロを使ってやるゲームなのだけれど、ネオンちゃんも興味あるかしら?あの人喜ぶわよ。人口足りないってずっと言ってるもの。知識の幅広いし結構向いているかもしれないわよ」


 何かに憑りつかれたように目が座ったノートは進行方向を指さして吼える。合図を受けたアシュラはよし来たと言わんばかりにハンドルを勢いよく回しだし、クロキュウとシロコウにもバタ足で船を押させる。


「ダイスはぜったーい!ダイスを信じろー-!ウハハハハハハ!」


 ズバババババッと水をかき分けて高速で進む木造クルーザー。狂信者の高笑いが青い空の下で響き渡った。






『( ̄▽ ̄)死霊捜索中………………………………』


「グレゴリー…………」


『ナィ(・д・ = ・д・)ナィ』


「陸ー…………」


『ナィ(・д・ = ・д・)ナィ』


「ダイス……の…………女神(クソビッチ)………………」


『(´・ω・`)元気出して―』


「う゛ぁぁ…………」


『( ˘•ω•˘ )ダイスむしむしするぅ?』


「ひとぉつ、ダイスは絶対、逆らうことは許されぬ…………」


 感知などから逃れるスキルをヌコォが船に使い、海をただただ彷徨うこと40分。交代で敵を倒したりログアウトしてトイレ休憩したり水分補給をしたり、定期的に話しかけてくる女性陣を脳死で捌きつつ、ウトウトとしながらダイスの女神信奉妄言BOTになったノートが甲板で大の字になり、空に浮かぶグレゴリに縋り続ける。


「サイコロの目は…………3!えーと、『赤の派閥から襲撃を受けるが、ダイス目5以上で撃退に成功する!その場合アイテムを一つゲットする!』で、ボクは仲間の数がこれだけいるからボーナスダイスが1つだから…………よし、じゃあもう一回…………3と8!やった!」


「リンちゃんさっきから絶好調だね~。わたしすっごいしゃっきんだー。わはははは」


「借金がある程度の単位を超えると、逆に感心するわね」


「魔物の襲撃、仲間の暴走に、部下の裏切り、別派閥との抗争。トンさんが止まってるの全部ひどいマスばかり」


「で、では、つぎ、私…………えっと2、なので、抗争マスですね。仲間がこれだけいるのでボーナスダイスが2つで…………最大の目が9なので、勝ちました!」


「ネオンは抗争に勝ったことで仲間が5増えて、仲間が一定数を超えたからまた昇進だなっ!うーん、この仲間ってシステム結構おもしれぇな!」


「仲間の数で色々とバフがかかるのは面白いわよね。その代わり離反や抗争の確率も上がってしまうけれど」


 しばらく進んでいると、なぜか全く敵が湧いてこないゾーンに突入していた。結果、あまりに暇なため、お眠なリーダーとグレゴリをよそに女性陣達はけものっこサーバンツのつくったすごろく『悪魔生ゲーム』(だいたい上司からの無茶ぶりにあったり別派閥の悪魔と抗争したりとアクシデントマスしかない)で遊びだしていた。


『( ˘•ω•˘ )んお?』

『(`・ω・´)お!?』

『三( ゜∀゜)あったどーーー!!』


「嘘!?マジ!?」


 いよいよ諦めるか、その考えがノートの頭によぎり、その口から遂に呪詛が漏れたところでグレゴリからいきなり陸地発見の急報が。

 ノートの閉じかけていた目が一気にカッと開き不気味な動きで飛び起きると、『悪魔生ゲーム』に白熱していた女性陣の方も途端にドタバタと騒がしくなる。


「どっち!?」


『(´・ω・`)つ あっちー』


「よーし舵を取るぞ野郎どもー!全速前進だー!!」


 ALLFOのログアウトは場所自体には縛りはない。まるで死体の様にうち捨てられたアバターが地面に転がってることに目を瞑れば、そこがどこであろうとログアウト自体は可能だ。ただしそのログアウト中に死ねば最終更新リスポーン地点に戻されるため、結局再度ログインするとデスペナ付きの上で見知った天井を見上げることになる。

 それらの問題を一時的に解決できるのがテントやミニホームなどの移動できる簡易拠点になる。これらのアイテムを設置し、そこでログアウトすることで最終リスポーン地点を一時的に更新できる。


 一時的というのは、このリスポーン地点が恒久的な物ではないという事だ。

 一般的なプレイヤーのメインとなるリスポーン地点はナンバーズシティなどの『街』である。街には色々な定義があるが、ALLFOの街というのは、主に教会やギルドなどが設置されているエリア、という定義となっている。

 しかし死ぬたびに一々街に戻っても探索が進まないので、フィールドにテントやミニホームを設置しリスポーン地点を変える。ただし、これらのアイテムで更新されたリスポーン地点はアイテム自体が破壊、或いは撤去されることで解除され、最後にリスポーン地点を更新した街にリスポーン地点が移る。

 一時的なのは、もしそのままリスポーン地点が固定化されると簡単に詰むからだ。例えば、もしノートが禁忌菜園でリスポーン地点を固定化してしまえば幾らもがいても一生ダンジョンから出られないという事態になりかねない。それを防止するために一時的な更新となっているのだ(因みに街に初期リスポーン地点がない初期限定特典組はリスポーン地点を更新できないと最終的に最初に街の周りにスポーンした場所にスポーンする)。

 なお、フィールドに設置したテントでログアウトし、ログアウトしてる間にテントが破壊された場合、リスポーン地点はリセットされる。それを防ぐ為のアイテムも当然存在しているが、軒並みお高めな値段なのは利便性を考えれば当たり前の事である。


 そんな便利な機能を持つミニホームやテントだが、一応設置できる場所にある程度制約がある。それは地面に接していること。対象のポイントが人工物だとしても、その人工物が地面に接している場合は問題ない。つまり、船の上にはテントを設置できないのだ。

 ここまで時間を費やしてまたミニホームに死に戻りも癪である。テントを設置してリスポーン地点を更新できれば、死んでもいきなりミニホームまで戻される心配はない。テントなどは課金すれば幾らでも手に入るので、金に糸目をつけないのであれば探索はいくらでも続行できる(因みに【不繋圏外】の状態異常になるポイントはテントなどが機能しないことが多い)。

 そのためにどうしてもノートは陸地の発見を急いでいたのだが、ようやく陸地が見つかった。たった六畳でも陸地として成立しているのならば、テントは設置できるのだ。


「グレゴリ、視界共有」


『(。-`ω-)よかろう』


 まさか見間違いじゃねぇだろうな、と一抹の不安が過りノートはグレゴリの視界を借りるが、確かに広大な海の果てに明らかに何かがあるのが見えた。


「…………おっと、これは?」


「人工物、ですか?」


「なーんかきなくせーなっ!ただの勘だがよっ」


「別の街の可能性はぁ?」


「今まで発見されているすべての『街』は壁で囲まれている。ヒュディ戦跡地にできた街も新しく壁を作り、教会が結界を張ったらしい。しかし、あの人工物に壁らしきものはない」


「街の跡地の線とかないかしら?海だから流石に縮尺が測りにくいわね。あの崖、どれくらいの高さかしら?腐った森の奥の崖よりは小さいわよね?」


「崖の上の人工物~、心が躍るね~」


「あの崖なら、まぁなんとか登れそうだな」


「絶対正規ルートじゃない」


「それはいつもじゃない?」


『(`・ω・´)わくわく』


 探索を始めること数時間、ノート達はようやく探索の成果になりそうな物を発見した。



…守れておらぬぞ

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― 新着の感想 ―
[一言] サメ、B 級……でも逆にハズレは無いって友達が言ってた 人生ならぬ悪魔生ゲーム!結婚と御祝賀マスとか存在しなさそう
[一言] サーァメッていいな
[気になる点] テント自体が動いたらどうなっちゃうんだろ 座標がずれてバグって爆発とかあるのかな
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