No.207 大変な被害
投稿する奴間違えたーーー!
ノート達の乗る船が移動を開始し、トン2の指示で般若阿修羅が網の巻きを開始する。アテナとゴヴニュから『これは船と違って一機しかないから、くれぐれも力任せに扱わないで』と耳に胼胝ができるほど頼まれたので、般若阿修羅もスロウペースでの巻きである。
「シロコウさん、クロキュウさんは追い込みを奥からに切り替えてちょうだい。くれぐれもネオンちゃんの魔法に被弾しないようにね。メギドさんはもう戻ってきていいわよ。メギドさん?メギドさん?ねぇ、あなた、メギドに直接指示出してちょうだい。あの子ちょっと暴走してるわ」
『はいはい。あ、ちょっと待って。ヒィレイなに?え、動かなくていい?』
船が離れていてもグレゴリの音声通話で会話はできる。それを利用して暴走しだしたメギドを鎌鼬はノートに止めてもらおうとしたが、その前にトン2の肩から徐にムゥラビが海へ飛び降りた。
そのままうさ耳のちっこい子供は海へボシャンと行くかと思ったが、ゾザザザザザザァっと波紋を広げるだけでピタリと水面の上に立った。その後はどうするの気なのかと見ているとテテテテテッと水面を走って暴走していたメギドの所までいくと、メギドの首や腕を始めとした関節部分に見えない縄をかけて問答無用で船まで引きずってきた。
「悪魔の力ってやはり凄いのね…………」
「メギドのパワーって単純計算だと【祭り拍子】トップのはずなんだけどな~」
「あの、メギドさんについてきた、魚の群れがそのまま凄いことに…………」
「結果オーライってことでいいんじゃないかしら?」
「だね~」
ノートが召喚を解除しないままメギドを船まで連れ来たので、メギドがトレインしていた魚群も一気に船に押し寄せる。魚口密度が限界突破し魚同士が共食いをはじめ水面が騒がしくなってきたが、トン2と鎌鼬は涼しい顔をしていた。
「うんじゃ、ネオンちゃん電撃系のドでかいヤツぶちかましちゃって~!」
「はい!」
電気ショック漁法。日本では一時期禁止漁法の一つとなっていたが、21世紀中期から本格化した外来種駆除活動に伴い国の認可した組織でのみ実行許諾を得られる悪魔の漁法で、22世紀には再度禁止枠に入るとも噂されている。そう、禁止される程度には危険と利率の良い漁なのである。そしてこのALLFOの海に、電気ショック漁を禁じる法はない。
「ビリビリするやつ?」
「え、そ、そうです」
「ちょっとだけ手伝ってあげる」
網で囲ったエリアのど真ん中に魔法の狙いを定めるネオン。片手を斜め上に掲げ魔法を打ち出すモーションを取るが、その手に何を思ったか急にアグラットが手を添え、ネオンの手に赤い稲妻が走る。
「こ、これ撃っちゃって大丈夫ですか!?」
「いいんじゃな~い?うっちゃえうっちゃえ!だいじょうぶ、なんとかなるさ~!」
「あなたはまたそう軽率に…………でも今更引き返せないし、できるだけ衝撃波の方は絞れば大丈夫だと思うわよ」
「で、では、撃ちます!【ブラックケラウノス】!」
空に黒の稲妻が走る。破壊が弾ける。
この魔法は発動までの時間が少し長い代わり、範囲内にターゲティングした対象へ空から黒い稲妻を降らせるという凶悪な範囲攻撃魔法となっている。問題は、この魔法はターゲティングという非常に使い勝手が良さそうな攻撃方法を持っているようで、魔法そのものの威力が高すぎていつもよりはマシかもしれないがやはりフレンドリーファイアーには気を遣う必要があるという点。特に水中戦想定で人工池で戦闘訓練をした時には、この魔法は大変な被害を齎した(虫を育ててる方にも被害がでてアグラットが泣いていた)。
今回はその性質を逆に利用し、ネオン自身にバフをかけ、網の外側から狭めていくようにターゲティングして電撃を降らせるというプランを取った。それでよかったはずなのだが、アグラットが手に纏わせた赤い電撃がネオンの腕から弾け、空の黒い稲妻に赤い稲妻が混じる。
「え、えい!」
齢二十歳とは思えないほどピュアな掛け声で放たれた魔法は青空の元で轟き、次の瞬間ズドン!と一波目の雷撃が降り注いだ。次の瞬間、海が勢いよく唸り波が立つ。
「きゃー!?」
「アグちゃんどんだけ強化したの~!?」
「あはははは!」
「お、おちる!おちます!」
「ネモさんしっかり!服が脱げそうよ!零れ落ちそうになってるわよ!」
この魔法は発動に時間がかかる分、一度発動すると後は自動で進行する。この性質は本来プラスに働くものなのだが、逆に止めることができないという事でもある。
ズドン!ズドン!ズドン!と立て続けに雷撃が海に降り注ぐ。波が更に高く吼える。魚が慌てたように自ら飛び出す。般若阿修羅だけがアミューズメントパークのアトラクションもびっくりの動きで上下する船の上で動じることなく事前の指示通り網を巻き始める。
そして最後に束ねられた黒雷霆が空を割って網の枠の中心に落ちて海の中で稲妻が弾けると、落ちた稲妻とは反対に、シンクロナイズドスイミングの様に一斉に海から魚がバッと飛び出した。
「クロキュウちゃん、シロコウちゃん、GO!」
てんやわんやの状況の中でトン2が大声で叫ぶ。同時に船から離れた場所、網の端を持っていた黒吸血鬼と白蝙蝠が網を持ったまま船の方に向かい更に魚を追い込んでいく。
「んじゃ俺も少し手を貸すかな。グレゴリ、影絵で船安定させられる?」
『( ˘•ω•˘ )んお?』
『(´・ω・`)できるかな~?』
「今日雲でてるし、魚も影があるし、波自体も影を作る。影使いたい放題だろ。シロコウ~分身出して手伝ってやって~」
『(´・ω・`)それならできるお』
「頼んだ。熟練度稼ぎガンバ」
『(`・ω・´)Year!!』
その様子を遠くから見ていたノートが死霊術師としてバフを飛ばして黒吸血鬼と白蝙蝠、般若阿修羅を強化。網を引き絞る速度を底上げする。更に白蝙蝠が分身を大量に生み出し、空を覆い海に影を作る。
影があれば後はグレゴリの独壇場だ。ギガスピでも大活躍だった【素闇芸創:魂写しの影絵】は周囲の影を支配し影から偽りの幻影を編み、それを用いて現実へと干渉する。雲の影、水の影、魚の影、蝙蝠の影、船の影に悪魔たちの影。それら全てを支配し水底からズズズッと大きな黒いアグラットが出てきた。
「キャー!でっかいあたしだー-!」
「アグちゃんが意外と喜んでいる!?」
『(*^▽^*)今週の~しゃっくりへっぽこメカ~!』
『(ΦωΦ)はっしーん!!』
『(≧ω≦)ビッグアグちゃーん!!』
「へっぽこって言った~!?グレゴリあとでおぼえてなさいよー!あんな不良旗と遊んでるから口が悪くなるんだー!」
『『へっぽこなのは間違ってないと思います。あの死霊なかなか物が分かってますね』』
「休暇中まで魔王同士で喧嘩してっとバルちゃん起すぞ」
『『それはどうかご容赦を』』
「起きとるし聞こえとるわ大バカども」
「『『ヒぇ!?』』」
遠くにいるノート達からでも聞こえるほど楽しそうなアグラットの声が遠くから聞こえる。悪魔勢たちが力を使えば船の揺れを鎮めることなど簡単なはずだが、なぜしないのかはアグラットのリアクションが大体その答えを示していた。
出てきた黒いビッグアグラットはガシッとトン2達の船を掴むと、波の揺れに負けないようにうまく船を押さえつける。船が安定したことで般若阿修羅の網を巻くスピードが増していく。
「これ便利すぎだよね~」
「この影って結局、実体なの?それとも幻なのかしら?」
「う、う、危うく酔うところでした…………」
「ネオンさま、もう大丈夫でっすよ~」
〘魚ビチビチばっちぃばっちぃ〙
〘死んでる魚を回収しますか?〙
「できるならよろちゃ~ん」
「あたしの分もあるんだからね!全部取んないでね!聞いてるムゥラビ!?ねぇ!全部異空間に持ってこうとしてるでしょ!点数稼ぎしようとしてる!」
「のっく~ん、結構生きてるのいるから倒すの手伝って~!」
『それはいいけどとりあえずネオンの熱系の魔法撃ってもう少し茹でちゃったら?』
「いいわねそれ。ネオンちゃんできる?」
「で、できます。お、おっきいヤツで大丈夫ですよね?」
「そこはネオンちゃんの匙加減~」
「じゃ、じゃぁ、えっと」
触媒を使い、10秒の準備時間を経る。波が徐々に静まり返るころ、再び魔法が放たれる。
「【煌皇奈綺弐火】!」
唐突に海上に小さな太陽が現れる。トン2達が思わず目を瞑るほどの熱気が顔を焼く。その小さな太陽はゆっくりと海に沈み、強烈な塩の匂いと蒸気が湧きたち、熱が海を飲み込む。
慌てて魚共は我先にと逃げようとするが、死を恐れない死霊達が網を引き逃走経路を狭め、ビッグアグラットが放った強烈なヘイト集中攻撃が魚たちに逃げを許さない。
「今のでだいぶヤッた~?」
「これ茹でてしまったら刺身はダメそうね」
「あ、ほんとだ~」
「ど、どうしましょう…………ユリンさんやスピリタスさん、お刺身を楽しみにしてたのに…………」
「釣った分あるでしょ!どんだけ食べる気なの!」
「そ、そうでしたね、アグちゃん」
普段強烈な食い意地を発揮するアグラットにツッコミされるという珍しい事態になっていたが、刺身に対して興味がないアグラット故の冷静さかもしれない。
紅いポリゴン片と共にプスプスと湯気をあげながらプカリと浮き上がる魚たちをムゥラビは透明な手で捕まえ、トドメを刺しては異空間に次々と放り込み、アグラットも負けじと黒い穴の様な物を水の上に走らせて次々と生きてる魚ごと吸い込んでいく。
「そういえばさ~、ポリゴン片になって死んでる魚となってない魚は何が違うんだろうね?」
「確かに、魔法で普通に殺した魚の、ドロップらしきものは、大量にインベントリに入っていますが…………というか、溢れてます」
「そうなの?」
「インベントリからあふれる、という事が何らかの影響を齎しているか、単純に浮いている魚は死ぬところまではいっていない、という可能性はないかしら?」
「そういえば、モンスターじゃない奴は丸ごと素材残るんだっけ?ほら、虫とかさ~」
「街の方で餌として養殖されてる、昆虫の多くは、死骸がそのままドロップ品に、なるそうですね」
あらかたムゥラビとアグラットが魚を回収したところで、ネオンの2発の高火力魔法を耐え抜いた非常に耐久力の高い魔物や賢い魚型の魔物たちの魚影が見える。それらの魔物たちが一斉に船をどつき始め、ビッグアグちゃんに抑えられてるはずの船が大きく揺れる。
「ヤバいヤバい!船沈む~!アテナがなく~!」
「おーい、大丈夫かー。グレゴリ、ヘイトをこっちに向けてくれ」
『(`・ω・´)OK丸~』
慌てて船を出そうとするトン2達。そのタイミングで漸くノート達が到着した。
許してゴールデンゲリラ




