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No.200 仲良死

16万円入りand保険証マイナンバーキャッシュカード入り財布完全奪還記念



◆00:10◆




 ユリンの視線の先に唐突に降臨したセクシー大根女神、が畝の天辺より50㎝ほどの高さでフワフワと浮いている。

 そのセクシー大根女神がなにをするのかと見ていると、まるで女神はバレエの様にくるりと回転した。するとその足先から小さな大根がパラパラとばら撒かれる。水の付いた傘を回転した時に飛び散る水滴の様に大根がばら撒かれ、ポテポテと柔らかな土の上に落ちる。そして大根たちはドゥルルルッと土の中に勝手にもぐりこんでいった。


 それは豊穣の女神様の種まきの様で、今までALLFOで見たおどろおどろしい光景より禍々しさは感じられない。なのに、ユリンは背筋がゾッとした。数々のゲームを渡り歩いてきたが故のゲーム勘が危険だと警鐘を激しく鳴らしていた。

 同時にユリンの脳内は混乱でぐちゃぐちゃだった。


「(アイエエエ!?ナンデ!?ダイコンメガミナンデ!?あれGBHWでいた奴じゃん!?)」


 一週間前、GBHWのストーリーモードに潜っていた時、ノート達はストーリーモードだけでなくオンラインモードの方にも当然潜っていた。

 現状、第7世代VR機器対応のゲームはALLFOが独占しており、あとは第7世代に適応するために元からGoldenPearで配信しているミニゲームの詰め合わせの様な物ばかりだ。

 その中で第二弾と打ち出されたGBHW・Neoは倫理的問題をあまりに多く抱えているせいで本社から広告活動の殆どを禁じられている。実態としてはGoldenPearの組織と名を借りたALLFO製作チームの一部が勝手に開発した同人ゲームに近い代物(開発資金の出どころも製作チーム)なので、GoldenPearの態度も厳しい。

 倫理観系の団体と目下全面抗争中ガチンコ殴りあいの最中(禁じ手アリ)なので仕方ないのかもしれないが、むしろGoldenPearの名でオンライン面の整備と販売をさせてくれたことが最大の恩情ともいえる。


 様々な犠牲と闘争の元に販売されているこのGBHWは、初動こそゆっくりではあったが狂信者たちの自主的布教によりジワジワと世界へ伝播。禁止されているものほど首を突っ込みたい輩はどこにでもいるもので、ALLFOに落選した連中がイナゴの様にGBHWに流れ込み、ノート達の様に初期の初期から予約して枠を確保していた者たち以外は再び抽選という悪魔のシステムに振り回されることとなった。


 よって現状オンラインモードが激熱カオスモードとしている

のに合わせ、運営側のレスポンスも早かった。予定を一気に繰り上げて、新規も古参も一緒に仲良死してもらうべく実装予定だった新規のボスたちをガンガン放出したのだ。

 となればノート達も黙って指をくわえてお祭り騒ぎを見過ごしているほどいい子ちゃんではない。当然乗り込んで大騒ぎしたのだが、その新規ボスの中でも猛威を振るったボスの一体がこのセクシー大根女神なのだ。


 ビーストギャングたちがポカンと見つめる中、セクシー大根女神は光と共に空から降臨し、クルクル回ると分身のチビ大根小人を周囲にばら撒いた。

 体長20~30cmほどミニ大根はやたらどいつもこいつもセクシーで、その小さな2本足で途轍もない勢いで走り回るとプレイヤーの集まっている場所に突撃し白い煙幕と共に自爆する。セクシー大根女神が一度にばら撒くチビ大根の数は推定500~1000。小さな爆破テロ犯がフィールドを駆け回り、ビーストギャング共を爆殺していくのだ。

 

 小さいというのは弱みであるが時に武器となる。視認性の低下、的の小ささ、そこに俊敏性が加われば最悪だ。そうなれば迎撃や対策が困難で、ビーストギャング共は阿鼻叫喚の状態へと叩き落された。

 しかも一定時間生存したチビ大根は徐々に成長し、今度は強力な物理アタッカーに変身する。コンクリートの地面を強引に破壊しながら地中を移動し、いきなり地面の下から強烈なキックを繰り出すのだ。ユリンも横に立っていたカるタが勢いよく顎を蹴りぬかれ「ぶぎゃらっ!?」と凄まじい悲鳴を上げて空へぶっ飛んでいったのを見て思わずぽかんとしたものである。


 その悪夢の大根によく似た奴が目の前に降臨し、その悪魔の様な先兵を大量に生み出している。おまけにこのフィールドはコンクリートではなく柔らかな土。大根共がもし地中を移動してくるとしたら、最悪のステージである。


「(ヤバいヤバいヤバい!)」


 爆殺か、蹴り殺しか。しかもセクシー大根女神本体もまだまだ元気に踊っている。あのポールダンスみたいなセクシーな舞が終われば、GBHWではフィールド一個を吹き飛ばす大爆発を起こしていた。かといって迂闊に接近すると一斉にチビ大根に飛び掛かられ次の瞬間には黒焦げの何かが地面に転がっているという事態になりかねない。

 実際、取り合えず殴ってみようぜと周囲を巻き込んでバスで突撃したノートとスピリタスが上に乗せていた即席フレンズたちとバスごと吹き飛んだのをユリンはGBHWで目撃している。チビ大根の爆発一つ一つは大きくないが、寄り集まると一気に牙を剥くのだ。


 今このフィールドにいるのはユリン一人。となれば接近は愚策。ここはGBHWの様に別のフィールドに移動した方が先決。

 そう考えた次の瞬間、ボコボコボコッ!と散発的に地面が持ち上がり小さく爆発した。


「(く、くぅ~~~~!!もうお腹いっぱいなんだけどぉ!?)」


 地面から勢いよく飛び出してきたのは150㎝ほどまで成長したセクシー大根ども。シュタッと地面に着地してドジャァアアアン!とモデルの様なポーズを決めた。


 これでは迂闊にフィールド移動もできない。全方位八方ふさがり。

 どうする、どうする、どうすればいい。

 ユリンに一切の冷静さを許さないかのように畳みかけてくる怒涛の展開。乗り出していた身をかがめてひとまず冷静になろうとして、ユリンはピタリと動きを止めた。

 自分の僅か数十cm先に、チビ大根が一匹(?)ポツンと立っていたのだ。


 バッタリと唐突に、会いたくもない人と会いたくない場所で出会ってしまったような気まずさ。地面から飛び出したデカ大根共にばかり気を取られ、下への警戒をおろそかにしたが故の危機。

 一方、地面から飛び出してきたチビ大根も、まるで驚いたかのように動きを止めている。


 交差する視線(チビ大根に目は無いが)。

 張り詰める緊張(相手は大根だが)。

 強く握られる柄と屈むようなポーズをとるチビ大根。それはGBHWで何度も見た自爆前のモーションそのもので。


「(させるかぁ!)」


 カッと白く光るチビ大根。パチンコから放たれた弾丸のように飛び出すユリン。ユリンの振り下ろした剣は、チビ大根が自爆するよりも早くそのボディをザックリと刺していた。


「(せ、セーフ!!)」


 見れば見るほど大根そのもの。果たして開発陣は何を考えているのだろうかとユリンは思うが、ふと違和感を感じた。

 そう、チビ大根が消えないのである。光が消えた以上、自爆はない。動きも止まっている。ならば死んでいるはずで、死んだモブはポリゴン片になるはずだ。

 ではなぜ消えないのか。


 更に混乱を招く事態に動きが止まる。その混乱を覚ます様になぜか大根おろしの爽やかな香りを感じる。発生元は間違いなく手元の大根。慌てて手に取ってみるとチビ大根は完全にアイテム化しており、反射的にユリンはチビ大根の亡骸をインベントリに突っ込んだ。

 気分は貴重な検体を確保したマッドサイエンティストか、はたまた親に見られたら取り上げられそうな物をベッド下に隠す悪ガキか。

 

 “臭い”は生物に於いて馴染み深いものであり、自然界を語る上で重要なものだが、時としてフェロモンと混同される事も多いが、完全に別物と断じるのも軽率である。とかく、重要なのは臭いはメッセージとしても活用できるということである。


 サクリと大地を踏み締める音。セクシー大根女神の御光と畝が生み出す影とは他の影が地面にしゃがみ込むユリンを覆う。


「最悪だよもう……」


 ユリンが上を見上げると、畝の上からデカ大根がユリンを見下ろしていた。



 


今ヤンジャンでシングレ無料で読めるから是非読んで(ダイマ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 親の前で子殺し、そして遺体奪取、処刑BGMが流れるシーンですね(白目
[一言] ん~このユリンユリン可愛いw そしてかわいそうでかわいいw 二倍のかわいさですねw というかあの鬼畜性能のセクシー大根女神があのままALLFO入りかよw殺意高いなw
[一言] 16万円入りand保険証マイナンバーキャッシュカード入り財布完全奪還おめでとう記念!!
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