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No.26 匠




「よいしょ、よいしょぉ!」


「そこ、させない。〔ディレクトリファンブル〕」


「《ラストリンド》!《ダークショットバレット》!ユリン、チェンジだ!」


 ストーンサークルに帰還して様々な整理を終えたノート達は一時的にログアウト。2時間後に再びログインし、1回だけユリンとノートで成功させた腐沈森の障壁ギリギリでする卑怯な狩りをしていた。


 集めたMOBは以前と同様、口触手ゾンビ、巨大半人半蠍、ピエロ面キノコの3体だ。


 だが、2人から3人になったことで戦闘の安定感は抜群に向上。2人出て1人休むというローテーションでうまく戦っていた。


 既に3人で壁際狩りを16周しており戦果は上々。だが10周した辺りで調子に乗って般若面蟷螂人にちょっかい出して3人とも瀕死。慌てて帰還した情け無い出来事もあったが、概ね順調だった。

 討伐できたのは上記の3種に留まらない。今まで手の出せなかった巨大人面蛾や人面羽根芋虫も蜘蛛糸トラップで撃墜できるようになり、そちらもかなりの数討伐できている。

 ただ人面蜚蠊はトラップを素で回避する上に、あまりのキモさにヌコォが機能停止。1匹も仕留められなかった。

 そしてある程度狩りがパターン化して30周を終えたあたりで休憩することにした。



「うーん、ステータスは上がるけど、やっぱりランクは上がらない。新しくスキルや魔法も習得できてない。今のところ序盤にヌコォがランク1上がって少しスキルを増やしてから目覚ましいものはないよねぇ」


「ステータスもSまでいくと打ち止めだからな。使ってない技能は当然成長しないし、ALLFOもよく考えてるな。ただのパターン化された作業のようなプレイを封じてるわけだ」


「ランクシステムに関してはスレでも色々な意見が飛び交っていた。今のところランク2まで上がれてるプレイヤーは、日本サーバーでは全体の1%も満たない。少数精鋭で多数の敵と渡り合い撃破したり、希少種とソロで交戦し勝利したり、やはり対比的に強い相手を苦労して倒さないとランクは上がらない。だから後衛職は不利では無いか、という意見も出ているけど、実態はまだ分からない」


「スキルや魔法も、ランクアップしたら習得、ってわけじゃ無いしな。戦闘のスタイルや使用する魔法、スキル傾向で一定の基準を満たせば習得する。周回プレイだと単調になって習得に打ち止めが来るわけだ。面倒だけどやりがいのあるシステムだよな」


 レベル制ではないランク制故の変化はプレイヤー達に混乱とともに熱狂を与えており、ノート達も戦闘を通して考察を重ねていた。


「今のボクたちのランクアップに良さそうなのは、アラクネ・ラミア連合リベンジかなぁ?」


「だろうな。だが先にこっちの強化だ。狙ってた2つの死霊、なんとかいけそうだ」


「おおー!」


「私、強化と簡易召喚は見たけど本召喚は見たことないから楽しみ」






 ミニホームのログハウス(ユリンの課金ポイントでちょっと拡張した)に帰還した3人。だんだん恒例になってきてるメンバー全員集合で召喚を見ようと、作業をしていたタナトスとアテナも広くなったリビングに集合した。


「じゃあ、やるぞ…………(口触手ゾンビの各部位全部、森で狩ったオーガの部位を各部位全部、脳味噌系1つ、森で狩った犀のMOBの強皮…………口触手ゾンビの魂を10個、PLの魂100個、人型系の魂100個、ゴースト系10個…………生贄に、ユニーク化チケット、祝天鍛治鎚、ウェーフータングステン、地眠蒼鉛 (ビスマス)、森精水鉛(モリブデン)、霊浄水晶、初級錬金術セットと初級錬金術触媒……あと一枠か。では創意工夫に富むMOB願って“怒髪獄辛”を入れておくか。触媒はやっぱりネクロノミコンで)…………《特殊下級死霊召喚・マスタースミスゾンビ》!」


 金色に光る魔法陣。魔法陣が金の沼に満ち、その中からズズズッと巨体が現れる。


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特殊下級死霊・メタルアルケミストクラフトマンフランケン特・ユニーク

ランダム追加技能・工匠

 

所持技能

・鍛治

・彫金

・硝子細工

・金属精製・最上級

・金属合成・最上級

・錬金術

・金属鑑定・最上級

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


「お、おでは、メタルアルケミストクラフトマンフランケンだ。金属を使った物はなんでもどんと任せてほしいだ。それに、金属を使ってないのも作れるだ。主人さま、よろしくだ」


 身長2m越え。プロレスラーかラガーマンもビックリのガチガチの巨躯。肌は犀のようにザラザラで、薄緑色。腰のベルトには様々な道具を装備している。頭に釘こそないが、継ぎ接ぎした様な針の跡がところどころ身体にあり、フランケンシュタインといっても理解できなくはない姿だった。


「おう、よろしくな。では、早速お前に新しい名前をやろう。偉大な工芸の神の名に則り、今日からお前はゴヴニュと名乗れ。期待してるぞ」


「お、おで、ゴヴニュ。ゴヴニュ、おでの名前、ゴヴニュ。名前、嬉しいだ。ありがとうだ、主人さま」


 名前を噛みしめるように何度も呟き頷くゴヴニュ。ノートはゴヴニュの肩をポンポンと叩く。


「おう、よろしくな。それで早速ゴヴニュに「あノッ!」」


 ノートとゴヴニュの間にビュンっとカットインする影。アテナがこれ以上になく目をギラギラしながらゴヴニュに詰め寄り、ゴヴニュがうぉぉぉぉぉ、と情け無い声を漏らしながら仰け反る。


「い、今、金属を使った物はなんでもできるといいマシタカ!?」


「い、言っただ……。おではメタルアルケミストクラフトマンフランケンシュタイン、鍛治も彫金も大得意だ」


「ならバ!」


 更にゴヴニュに詰め寄るアテナ。ぬぉぉぉぉ、とゴヴニュが更にきつい体勢で仰け反る。


「mm単位の加工も可能デスカ!?螺子や歯車、バネも作れマスカ!?」


「ざ、材料と作業する場所があるなら、できるだ…………もちろん」


 1人大興奮のアテナに面食らうノート。だが、次の瞬間、今度はノートが詰め寄られていた。


「御主人様、救世主デス!私は罠と絡繰にかけては大いなる自信を持っていマス。ですが、罠や絡繰もパーツが無くては作れまセン。そして不甲斐ないことに私にはパーツを組み合わせて新たな物を作れても、パーツそのものを作るすべがなく…………宝の持ち腐れとなり不甲斐ない思いデシタ…………ですが、ゴヴニュさんが言葉通りの技術を持つなら、私は今まで以上に御主人様達に貢献することができマス!今まで断念していた、トラバサミも、あれこれも作れマス!」


「お、おぉおお、それは「アテナ、それは事実?」……また被せられた」


 熱狂するアテナ、それに更に食いつくものが。


「ネズミ捕りは?」


「できマス!」


「釘地雷」


「できマス!」


「絡繰式の時限爆弾などのトラップ」


「勿論デス!金属のパーツが無く断念していた数々のトラップ、作れマス!」


「おおーーー」


 いえーい!とハイタッチするヌコォとアテナ。アテナがテンション高めなのは言うまでもなく、ヌコォも表情や声のトーンも変わらないが、ノートには今のヌコォがテンションが高い状態だとわかっていた。


「ねえノート兄、あの2人あんな仲よかったっけ?」


「ユリンが来るまで2人でトラップ作ってる時に意気投合したらしい。ヌコォああいうトラップ好きだからな、驚きはない」


 やっほー!とお互い両手をつなぎくるくる回るヌコォとアテナ。だがアテナの瞳はギラギラと、ヌコォから妙なプレッシャーが湧き上がり、ゴヴニュがそそそそそっと近寄りノートの後ろで縮こまる。


「あ、あの2人ちょっと怖いだ。べっぴんさんだけどなんか怖いだ……」


「頑張れ、ゴヴニュ。負けるな。君の為の部屋も用意したから、あの2人はほっておいていいから」


 知り合いの腐女子たちもたまにああなる、とゴヴニュに呟きながら、ノートたちはまだ踊ってるヌコォたちを置いて新設した部屋に行くのだった。






「さあ、ゴヴニュ、ここがお前の城だ」


 ノートがゴヴニュを連れて向かった部屋は、とても武骨な部屋だ。

 機能性のみを突き詰めた部屋。ドアを開けてすぐに目に入るのは、馬鹿でかい『炉』。金床や様々な器具もアイテムボックスも完備されている。


「5万円分の課金ポイントを注ぎ込んだ鍛冶場だから、性能は折り紙つきだ。鍛治に必要な物はほぼ揃ってる。錬金術用の作業台も設置しておいた。全てゴヴニュのものだ。今日からこの部屋の主は、ゴヴニュ、お前だ」


「えっ、おで、おでの為に用意してくれただ?」


「そうだ。お前の才能を見込み先行投資させてもらったぞ」


「本当におでが使っていいんだ?この部屋、凄いだ!これがお、おでの部屋…………お゛ぉぉぉぉん!おで感動だぁ!ありがてぇ、ありがてぇだあ!」


「ははははは、泣くなって。それだけ期待してたんだ。だから見せて欲しい、お前の実力を。俺たちが必死に集めてきた鉱石が全てそのアイテムボックスに入ってる。ゴヴニュに依頼するのは、このユリンの双剣の修復、それとヌコォの為の湾刀だ。ヌコォの湾刀には継承玉を使用し、アイテムボックスにある反屈の湾刀の反射性能を継承してくれ。それと残りの鉱石全部つぎ込んでいいからハルバードと全身鎧と大盾を作ってくれよ。できるか、ゴヴニュ?」


「任せて欲しいだ!主人さまたちは、部屋があっつくなるから出て欲しいだ。できたら呼びにいくだ」


 ゴシゴシと顔を拭いドンと胸板を叩くゴヴニュ。今までのおどおどした様子のない、自信に満ち溢れた瞳だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] フランケンシュタインは死体を継ぎ接ぎして人造の人間を作った若き博士の名前であり、創られた怪物の方は「あの怪物」とかっていうふうに名前は登場してなかったり [一言] フランケンの名前長っ…
[気になる点] 所持技能 ・鍛治 ・彫金 ・硝子細工 ・金属精製・最上級 ・金属合成・最上級 ・錬金術 ・金属鑑定・最上級 ”最上級”多いですね 祝天鍛治鎚が良すぎたのかな?
[一言] ゴヴニュ、推しです
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