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No.188 縁

ドロヘドロ大好き(休暇中に本だけで既に5諭吉が旅立ちました。オソマツッ!)




花粉はユルサナイ



 ガラガラガラガラ——————


 昔、よく病院で人を乗せていた医療用ストレッチャーのタイヤが回る音が聞こえる。旧現代(21世紀近辺)の医療現場が舞台の映画やゲームでよく見る道具だ。


 目を開けると自分以外の7人も同じくストレッチャーに運ばれてる様子が小さなホログラムで視界の隅に映っていた。といってもその比重は顔の部分に大きく偏っている。

 どうやらイベントムービーは全員別々で見るらしいがそれぞれの反応は見られる様だ。謎の気遣いである。


 辺りを見回すと血まみれの防護服に身を包んだやつが数人でストレッチャーを無言で押しており、辺りを見渡そうとして身体が拘束されてる事にノートは気づく。


「あの、これどうなってるんですか?」


 試しに問いかけても解答なし。

 ただ、この暗く古びた病院の中で響く人々の悲鳴と扉を叩く様な音だけがノートの声に答えてくれた。これでは完全にジャンルがホラーである。


 ホラグラム越しに見る皆の反応も様々だ。

 ユリンとスピリタスは今までのテイストと違うせいかノートのようにキョロキョロとあたりを見渡している。ヌコォと鎌鼬はキョロキョロと言うよりは周囲を冷静に観察している。トン2はなぜかとてもいい笑顔ではしゃいでいた。口パクで何かを言っているがよくわからない。一方でネオンと言えば周囲の悲鳴や血痕を見てビビり散らかしていた。メギドやグレゴリ相手でも全く平気そうなのでホラーは大丈夫かと思ったがこれは別問題らしい。カるタは平気かと思いきや顔を顰めていた。ホラーが得意というわけでないのか、それとも拘束されてる状態が嫌なのか。それは後で聞いてみないとわからない。


「俺のバカゲーを返してくれぇ」


 最初の滅茶苦茶なシナリオチュートリアルに対して思ったよりは10倍以上ガチなストーリームービーに思わずノートは呻く。

 違うじゃん、君そんないい子ちゃんじゃなかったじゃん、と。昔は一緒に悪戯ばかりしてた友達と10年ぶりに再会したら新興宗教じみた変な健康オタクになってしまっていたような悲しさと困惑の交じりの感情がノートの中で浮かぶ。


 そんなことは知ったことかと言わんばかりに運ばれていくと急にストレッチャーが止まり、方向を変えて更に薄暗い部屋へと運ばれていく。周囲をうまく見渡せないせいではっきりしないが手術室の様だ。しかもよく嗅がなくても明らかに鉄さびの香りが部屋中に漂っていた。


 ――――――奥の方に見える血で書かれた落書きは何だ?魔法陣にしか見えないんだが。てかあんな感じのどっかで、あ、ALLFOだ。クソッ、どこまでも付きまとうなALLFO!やめろ!俺の脳から今ばかりは出ていってくれ!そんな恨めしそうな目で見てもダメ!


「ふへへへへ、ようこそぉ我が楽園へぇ!」


 ノートが擬人化したALLFOと脳内で戦っていると、生臭い香りを漂わせながら酷い斜視で瞳孔が開いちゃってる感じの髭もじゃの男が音もなく現れて急に顔を覗き込んできた。

 右目は充血し、左目は何枚ものレンズを重ねたようなゴーグルをしていて斜視の目がより大きく見える。白髪の頭は頭頂部付近は薄く、反面汚れや何かに肉片みたいなものがくっ付いた髭はゴワゴワながら豊かだ。その髭の分を少しでも薄くなった頭に分けてやればいいのにとノートはふと思ったが口にはしない。

 一瞬見えた口も酷い物だった。歯は黄ばみ、歯茎付近は黒ずみ、がたがたな上に何本か抜けている。そしてその悍ましい口からはドブのような香りがした。


 見るからに何かをキメちゃってる系の人だ。その人間性は着ている血まみれの手術着からしか感じることができなかった。


「どうも、ところでここどこです?」


 そんな見た目に怯むことなくノートがおどけた調子で問いかけても、イカレ親父はフラフラと千鳥足で壁の方向へ向かっていくと震える手に注射を持ってやってきた。

 ALLFOではこちらの問いかけにすぐに返してくれるNPCばかりだったのでこのような無視は久しぶりの体験だった。

 しかしそれは仕方がない。ALLFOが異常なだけで、本来はシナリオが余計な分岐をしないようにゲーム側も色々と工夫するのが普通だ。話しかけても無駄なときはNPCは本当に反応しないこともザラなのである。こういう時は清く諦めた方がいい。


 それはそれとして、その汚い注射器をまさか刺すつもりかと思っていると逃げる間もなく注射器を腕に刺してきて一気に中の液体を体内に流し込んできた。無視されてるのをいい事に何すんだこんちくしょうと暴れてお茶の間では全部規制がかかりそうな罵詈雑言を叫ぼうとすると、イカれ親父は口に人差し指を当てて、シーシーと騒がしい子供をあやすような真似をする。

 そして再びその小汚い顔をグイと近づけて話しかけてきた。近くで見れば見るほど顔は汚く、デザインには開発側の無駄なこだわりを感じる妙にリアリティのある小汚さだった。


 やがて体が不自然にビクリと動くと、みるみるうちに水中にいるような感じで視界が曇り始め、体に力が入らなくなる。ALLFOで死ぬ時はだいたいこんな感じだったな、とノートの脳裏にどうでもいい事が過ぎる。

 そんな事を考えると、呼んだ?と言わんばかりにノートの脳内に擬人化したALLFOが顔を覗かせた。外面はやたら優等生然としているが瞳の奥にクソガキを秘めてる感じの小賢しそうな少女が『ALLFO』という名札を付けて此方を見ている。ちょうどツッキーとアグラットを足して2で割った感じの少女だ。


「わたしはね、モルモットが大好きなんだ。なぜか、それは静かだからさ」


 ――――――わかるだろ?

 

 しかしイカれ親父によって哀れ駄々っ子ALLFOちゃんは脳内からまた押しやられる。

 ALLFOを霞ませるほどのディープインパクトヒューマンであるイカレ親父はあまり深く意味を考えたくない事を悍ましいニヤケづらで言うと再び千鳥足で歩きだした。しかし今度は先ほどとは逆。変な魔法陣が描かれた方だ。

 今までの調子のおかしいラジオのような声とは違い、知性を感じる低い声で何かをブツブツ呟きながら歩いている。

 

「おお、16の▇▇▇▇▇▇よッ!我が魂の最奥にありし(ヨスガ)に誓い願い奉る!」


 ノイズの走る言葉。イカれ親父はそのまま縋り付く様に魔法陣に触れると何かを引き抜くような動きをし始める。


「(映像スキップ機能ないのか……?)」


 誰が好き好んで壁にへばりつくオッサンの姿を血生臭い部屋で身動きできずに見てなきゃいけないのか。他のゲームだと後でまとめて見れたり、ダイジェスト紙芝居化して見せたりしてくれるのだが一向にスキップさせてくれそうな雰囲気がない。

 暇なのでそれぞれ十人十色の反応を見せるユリン達の顔を横目にオッサンの背中を眺めると、なぜか背中側が激しく破けていて、意外と筋肉質な背中の上に刻まれた魔法陣の様な陣がチラチラ見える。


「(ルーンでもないし、サンスクリットとかでもないな。適当なオリジナル記号か?視界がボヤけてよく見えん)」


 難しい事を考えたくなくてバカゲーに舞い戻ったはずなのだが、ここ最近フレバーテキストがフレバーテキストしてない神ゲー()をやり続けていたせいでどうしても思考が考察方面に向く。この様な(しがらみ)から一時的に離れるべくGBHWに来たのにそこでも考察要素をぶつけられるとそろそろ頭が痛くなってくる。

 その上、なぜかどうでもいいはずのオッサンの背中に謎の新鮮さと違和感を感じる。何故なんだと現実逃避気味に頭を捻ってるとその原因に思い至る。


「(そういえば、ALLFOってやたら露出に厳しかったな)」


 逃げても逃げてもALLFO。もはや呪いの領域である。ALLFOちゃんがスク水姿で颯爽と脳内に現れてイカれ親父をデフォルメした人形をスイカ割りの棒でフルスイング、サヨナラホームラン、オソマツ!移住権を取り返したALLFOちゃんは御満悦である。


 ALLFOではそもそも装備の段階でほぼインナーが必須となっており、それを無視して過剰な露出を行おうとすると白い謎の光に包まれ他人からはよく見えなくなる。

 他のゲームだと初期のアグラットの様なビキニアーマーとかも見かけない事はなかったのだが、ALLFOではなさそうだった。そもそもノート達がまともにプレイヤー達と接触していないというのもあるが、反船やギガスピを思い返してもやはり露出の多いプレイヤーは見当たらなかった。


 その点などに関して、実はノート達、実際にはノート、トン2、鎌鼬の3人で既に実験をしていた。

 元々はトン2と鎌鼬の種族が邪仙なので、折角だから仙人の技を習得できるのではないかとリアル方面で仙人の技を調べた結果、ノートが房中術という技を見つけてしまったのが事の発端だった。


 邪仙というなら習得出来るかもしれない。

 トン2と鎌鼬はそれを知るや否や実験にかこつけてノート相手に色々と試した結果、房中術に類するスキルを習得すると同時にALLFOの衣装と接触のアウト判定もなんとなく見えてきた。


 因みにこの判定はノート達のみならず多くのムッツリスケベなプレイヤーも気になっていた点だったが、検証するには色々とかなりハードルが高く殆ど情報がなかった。

 取り敢えず着衣に関しては腕と背中の部分がバックリと開き半ば前掛けみたいになっている『童貞を殺すニット』と名高い奴は普通に着ることができたが、素肌にエプロンはアウト。下着はダメだが水着は一定以上の面積が有れば視界補正がかからない事がノート達の実験で判明しており、匿名で検証スレに一応情報提供も行ってスレは二重の意味で沸いていた。


 因みに、改めて考えるとやはりアグラットのビキニアーマースタイルは極めて特殊だったのかもしれないのだが、流石にノートも『何故あんな格好だったのか』とはアグラットに聞きづらいのでアグラットビキニアーマー問題は一時的に闇に葬られている。


 やたらALLFOは視界補正がキツいのでノートはプレイヤーの背中には実はイカれ親父の様に何かを表す魔法陣でも刻まれているのかと思っていたが、結局トン2と鎌鼬の物を見てもそれらしい物はなかった。なかったか、あるいはプレイヤーには見えないのか。

 ノートの背中はトン2達が見たが、ノートの場合は逆にネクロミコンによるビジュアルの変化なのか背中にまで亡者が嘆く様な刺青が刻まれていてよく分からなかったらしい。


 GBHWに来てもツラツラとALLFOについて考えてしまっていると、イカれ親父が壁から何かを引き抜くと同時に壁から部屋の中に虹色の泡が漏れ出し、元々霞んでいた視界が更に歪んでいく。

 グニャグニャになり水彩画で作った現代アートみたいになってるイカれ親父がまたやってきて顔を覗き込む。その振り上げた手には赤く光る何かが握りしめられていた。

 

「祈れ、自分の縁にな」


 何故かその声だけがハッキリと聞こえた次の瞬間、避ける暇もなく振り下ろされた何かがノートの心臓とメスガキALLFOちゃんを深々と貫き、視界が完全に暗転した。


 16は恐らく異能と対応した数。ノートはずっと異能の事を突然変異による物と考えていたが、イカれ親父の言動から考えるに異能は何らかの存在から授けられた力のようだ。

 そうなると前作の異能はどういう扱いになるんだとまた思考が考察に入り込みかけたところでふと思う。


 GBHWは7世代対応の機器で、ALLFOの配給元であるGoldenPearが配給しているゲーム。世界の管理にはALLFOも管理している22世紀最高の発明と名高い人工知能SOPHIAが流用されているらしい。

 よってGBHWの技術はALLFOの物を多く利用しているらしいのだが、そう考えると一つの可能性が浮かび上がる。


 GBHWがALLFOの技術を流用してるなら逆もまた然りなのではないかと。

 GBHWの異能も武器に関する技術も他に並び立つものない高度な技術が使われた物だ。

 転移にジャンプ、視覚強化に時間感覚の延長、プレイヤーの思考を参考にした武器のカスタマイズ、異能で出来ることは非常に多い。中には今まで技術的に実装不可能と言われたものまでサラッと混じっている。

 つまりALLFOでもこれらの技能を何れ使える可能性が高いのでは。


 ALLFOができないと言い張っている物も実はできるんじゃないか、GBHWのムービーを見ながらノートはふとそんな事を思った。

 


 

 


o( l ∀ l )f 新キャラ(?)ALLFOちゃん

ALLFOからは逃げられない!


+GBHWを始めとしてノートのゲーム過去話とかALLFO以外のゲーム話は別で管理しようかと画策しています。つまりGBHWはこのデモムービーだけ終わりじゃ!(またしても増える作業)

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― 新着の感想 ―
房中術ってなんじゃラホイって調べてみたら、、 知らず知らずのうちに公開プレイを強制されてたノート達が可哀想なのか、見せつけられたTくん達が可哀想なのか、、、
[一言] >メスガキALLFOちゃん なんだろう、最近ようつべで見かける煽りキャラが目に浮かぶんだけどw
[良い点] ALLFOから離れられなくなったノートの図 つい考え込んでしまったら、何故か重要なところだけ聞き取れないことが多いから気をつけないとなぁ [気になる点] 多分ドラグラム神繋文字かオッサンの…
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