No.25 ユリン取り扱い検定一級所持者
ミニ「前話で『今日のゲリラ投稿はこれでおしまいといったな』」
ストック「そ、そうだミニ丸語、きょ、今日はもう――」
ミニ「あれは嘘だ」
ストック「うわあぁーーーっ!!!」
VR日刊一位記念にもう一話更新します。
「…………わりと暗い」
「ヌコォは初見だからな。でも今まで戦うのが面倒だった『人頭霊鹿』に対してヌコォが無双できるから助かるよ」
ヌコォの〔ライフクラッチ〕は媒介する物質が少ないほど効果を発揮する。そしてゴースト系は肉体がなく物理攻撃をほぼ無効化するものの、反面『生命エネルギーそのもの』が剥き出しになっている。それによりヌコォのスキルを食らうと瞬殺されるというなかなか愉快なことになっていた。
「どうだ、まだ鉱石のありそうなところはわからないか?」
「近い……けど…………」
「ノート兄、これ馬車じゃ無理だよね?」
ヌコォの盗賊系のスキルを頼りに行きと全く違うルートを通っていたノート達だが、ノート達の先には、樹の根がはり苔の深く生す70度近い傾斜の坂、もとい崖があった。覗き込んでみれば、そこは崖というより亀裂の様で、底はまっくらで見えない。滑落したら確実に死ぬレベルの深さだということがありありと伝わる光景だった。
「一度崖を調査してみるべき。こんなこともあろうかと、アテナの糸で作った強力なロープがある。ユリンならこれを命綱にして飛行しながら崖を探索できるはず」
「ボクの飛行はホバリングできないよ。やるなら飛んでいって足場を作るぐらいだよ」
「そんなこともあろうかと「またぁ?」ユリン黙ってて。そんなこともあろうかと、アテナの粘糸を加工したとりもちをくっつけたブロックのようなものを作っておいた。これで崖にブロックを貼り付けて簡易的な足場にすればいい。そしてゆっくりとしっかりした足場を組んでいけば大丈夫。
自販機で鉄の小剣とトンカチを買ってきてあるからこの小剣をアイテムとして具現化して、崖にトンカチを使って突き刺していけば足場は作れる、はず。鉄の強度が負けないことを祈って」
「またハードワークをボクに強いる気なの?」
「ノート兄さんのため、ガンバ」
ヌコォからの無茶振りに顔をひきつらせるユリン。殺し文句を言われた為に言い返せず少しむくれたが、ヌコォは御構い無しにせっせと命綱をユリンに巻きつけ、トンカチと小剣と粘糸トリモチブロックを問答無用で持たせる。
「命綱は馬車に固定しておいた。これで最悪の事態は起きないはず。もし作業中に敵が来てもこちらで全て対応するから気にせず頑張って」
ヌコォにサムズアップされ、ノートに「悪いけどお前だけが頼りだ、頼むな」と言われたユリンは、崖から飛行しながらゆっくり滑り落ちていく。不貞腐れてはいるが調査はきちんとする。
しばらくして壁をよくよく観察しているとなにかが見えた気がしてトリモチブロックをすかさず貼り付ける。
だがトリモチの強度に少し問題があるのか、体重を完全に乗せられず、一度手をかけて踏ん張っただけでトリモチブロックは剥がれて崖の下へ転がっていった。
だが、そのおかげで飛行制限時間をリセットしたユリンは、鉄の剣とトンカチを具現化して斜め上から勢いよく崖に打ち付ける。
バキバキと岩の砕ける音と突き刺さる鉄の剣。鉄の剣の耐久値が9割も吹き飛ぶが、小剣は微かにではあるがなんとか崖に刺さり、ユリンはホッと一息。最初の一本を飛行制限時間リセット用にぶら下がる場所として、似たような手順で間隔を開けつつ鉄の剣を崖に全て突き刺していく。
「はぁ……はぁ…………(結構面倒だなぁ、この作業)。ヌコォ!この後はどうするのぉ〜!?」
「『粘糸散玉』(野盗戦で使用したトラップ)を刺した剣の柄に投げつけて。そうするとしっかり固定できる。そうしたらこちらで木の足場を落下させるから、粘着剤まみれの柄同士に橋を架ける様に乗せて」
「無茶苦茶言うな〜!」
これだからヌコォの合流は嫌だったのに、とブツブツ文句を言うユリン。
だがヌコォは上からジーっと見下ろすばかりであり、自分がもたついているほど露払いをし続けているノートに負担がかかるので泣く泣く承諾。
合計1時間あまりの時間を使ってようやくまともな足場が完成する。
「はぁ……はぁ…………肉体より精神が疲れるなぁ。ヌコォ〜、次は〜!?」
そこで上を見上げるユリン。
ちょうどその時ヌコォが消防隊の様に命綱を体に巻きつけ崖から滑り降りてきて足場に着地する。
「ユリン、お疲れ。だけど休んでる暇はない」
「なんで!?というかノート兄の援護は!?」
「言い忘れてたと言うか、完全にうっかりミス。オブジェクト化(非装備状態のアイテムなど)したアイテムは、新しく所有者を定めないと一定時間でデスポーンして元の持ち主のインベントリに戻るか消滅する。
この鉄の剣は今オブジェクト化して使ってるからあと数十分で強制的にオブジェクト化が解除されて消える。バルちゃんには20分だけノート兄の援護をしてもらう約束を取り付けた。だから撤収まで含めてタイムリミットは15分。
それにこの距離なら私のスキルでより正確に採取ポイントがわかる。私が降りてくるのは合理的。これから採取ポイントを指示していくからピッケルで掘りまくってみて」
「上に戻ったら覚えてろよぉ!ボクばっかこき使うな!」
「できるから仕事を任せてる。適材適所、合理的な行動は大事」
そうしてユリンは半泣きになりながら足場を渡り歩き闇雲にピッケルを振るう。
「あっ、鉱石きた!えっと種類は「それは後で確認すればいい。早くして」年上だからって偉そうにするな!ちょっとは労ってよぉ!」
ユリンとヌコォは手分けして採取ポイントを採掘し、なんとか時間内に足場から届くエリア全ての採掘ポイントを潰すと、急いで崖の上へ帰還。
ユリンがヌコォを抱えて崖に着地した瞬間、剣が消滅。支えのなくなった板が落ちていき暗闇に呑まれて消える。
それを見てユリンもヌコォもゲームの世界とは分かっていても少しゾッとする。だが感傷に浸っている場合ではなく、バルバリッチャにいきなり『これは主人を鍛えるための試練だ!』と言われ援護してもらえなくなり(実際のところバルバリッチャが飽きただけ)、HPもMPもギリギリで露払いを続けているノートにすかさず加勢。15分ほどしてようやく全てを狩り一息つく。
「う゛〜〜、つ゛か゛れ゛だ〜」
「もうヌコォ嫌だ〜……」
「乙、ユリンもノート兄さんも頑張った。そして頑張った甲斐はあった」
ゴローンと地面に寝転がるノートとユリン。ただ1人疲労度がマシなヌコォがインベントリを確認して今回の戦利品を確認していた。
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ウェーフータングステン
奇野黄銅
霊縮鉄
ジードマンガン
霊透金
硫砒鉄鉱
磁硫鉄鉱
覆錫石
地眠蒼鉛
森精水鉛
霊浄水晶
シェンミートルマリン
深霊黒雲母
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「今回は大勝利。予想より遥かにいい成果」
ヌコォがリストアップしてユリン達に見せるが、ユリン達の反応は今ひとつだった。
「ごめん、鉄と金とマンガンとかそこら辺はいいけど、ビスマスとかモリブデンとかタングステンとかの実態が分からん」
「おなじくぅー」
「タングステンはレアメタル。弾頭やロケットに使われるほど優秀で、重い上に融点が高い。ビスマスは薬に使える金属。おそらく錬金術用。モリブデンは合金が優秀」
「へぇー、でもなんでこんな山に?」
「この鉱石の産出傾向、心当たりがある。これ、屋久島で過去に取れた鉱石類。おそらくここの担当者が筋金入りのジ◯リファンだと思われる。量自体はあまり確保できなかったけど、レアな鉱石類があると確認できただけでも成果はあった。それにスキルが崖の奥にビンビン反応してたから、もっと掘ってみれば量を確保できるかも」
「リポップまでの時間とかは流石にわからないか。でもこれだけ鉱石があると嬉しいな」
「だけど加工が難しいものばかり。ただの鍛治屋では加工すらできない」
「ミニホームに課金しまくるしかないな。あとは召喚する死霊にもよるが」
しばらく休憩した後、再出発したノート達。
そのあとは小規模ながら最初よりは取るのが楽な採取ポイントを見つけ、少しずつ鉱石を蓄えていく。
だが森の中盤に差し掛かったあたりで、探知をずっとしていたバルバリッチャが舌打ちをする。
「主人ら、石集めは終いだ。アレがいるぞ、近くに。森を吹き飛ばしていいなら主人ら3人を守りながら交戦可能だが、どうする?」
“アレ”の内容をすぐに理解したノートとユリン。御者に指示を出しできるだけ早くストーンサークルに向かう様に指示を出す。
「ん?どうしたの?顔色が悪い?」
ノートに抱えられ慌てて幽霊馬車に引き戻されたヌコォは事情がよく分からず無表情のままキョトンとする。
「言い忘れてたが、この森にはちょっと頭のおかしいレベルの敵性MOBが4体いる。エリアBOSSなんだと思うが人頭霊鹿のBOSS版に至ってはバルちゃんも嫌がってるからな。お察しだ。そして他のBOSSと違って、一定のエリアにどっしり構えずウロウロしてる」
「そんなに凄いMOBなの?でもバルちゃん含めて4人なら偵察ぐら」
そこまでヌコォが言ったところで、ヌコォがブルっと震えた振動が抱えていたノートにも伝わってきた。
「どしたん?」
「…………いる。ヤバい。確かにヤバい」
ここで遅ればせながら説明をしておくと、ALLFOでは『感知』と『探知』 は別物とされている。
『感知』は有るのか無いのか、を判別できる技能だ。例えばこの箱には罠が有る、だいたいこちら側に宝物が有る、と漠然としているが広範囲にスキルの効果がある。
対照的に『探知』は探って知る事象故に、精細に物事を捉えられる。何時の方角に何体敵性MOBがいるか、ここで産出する鉱石の種類と位置はどこかなど、種類と座標まで正確に捉えられる。
だが『感知』は常時発動の直感的なものに対し、『探知』は意図的に行使する技能故に発動は任意でMPも多く使い、範囲も限定的。
どちらが役に立つかはその時々で異なり、どちらが絶対的に優秀とは言えない。
ただバルバリッチャの総MPと探知範囲がおかしいだけで、『感知』も役に立つのだ。
そのヌコォのとある感知系スキルに引っかかる一体のMOB。
巨木を倒したことで取得した絶対的な強敵を見つけだす類の探知スキルに反応があったのだ。それも底知れない寒気を感じる強さであることが、警報のように反応するスキルからも伝わってきていた。
「ノート兄さん達、よく迎えに来てくれたね。エンカウント1発で死亡確定だと思う、これは」
「一応登場前にそのBOSSに対応するMOBの動きが変わる。最悪、姿を見たら目を合わせず全力で逃げれば交戦は避けられる。群れを率いて動いてるからMOBの動きに注意してればばったり遭遇はない」
「それでも慌てて逃げずに済んでるのはバルちゃんのお陰だよねぇ!バルちゃん万歳!」
「「ばんざーい」」
「や、やめんか馬鹿ども!」
そこからは幽霊馬車の性能を上げておいたのも功を奏し、2時間あまりで森を踏破。なんとか4時間内にストーンサークルまでノート達は帰還することが出来たのだった。
だいたいノートを関連付ければユリンはなんだかんだ言うこと聞くってヌコォはよく知っている。