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No.183 王道のラブコメ



「大体要領は掴んだ」


 殺して殺されて。

 割と有利に戦いを進められる屋上で籠城しつつ異能や武器の感覚を掴んだヌコォ達。

 

 長い事籠城していたが徒党を組んで襲ってきたGBHW経験者(オールドギャング)共に攻め込まれ、屋上諸共吹っ飛びリスポンしたヌコォ達もGBHWに少しづつ慣れ始めていた。


「どうも他鯖に流れてた経験者共が流れてきたっぽいのな。ドンぱち具合が盛り上がってきたぞ」


 他のゲームだと最初の段階で既に秩序もクソもない大混乱状態なのだが、GBHW最盛期を知るノートはこんなもんじゃ無いぞとヌコォ達に釘を刺す。


「そもそもまだ半分テスト段階らしくてレイドボス殆ど湧いてないしねぇ」


 因みに、GBHW経験者が他鯖、というか別フィールドに流れたのは、とりあえず新フィールドで殴り合いしたいという非常にシンプルな理由だ。

 そんな彼等が流れてきたのは1つの情報を耳にしたからだ。


 ――――――――アイツらが帰ってきた。3匹の推定ジャップ産終身名誉レジェンドクソガキ共が戻ってきた。


 数の暴力で押し切られたが、ショッピングモールの屋上を陣取っていた連中の中には生粋のGBHW経験者が混じっていた。10年前の最盛期を知るロストモラル狂いだ。

 むしろ彼等はノートと同じ立場。周囲のゲーム友達を巻き込んでさっさと有利なショッピングモール屋上を抑えたのだ。


 その中には昔とある3匹のジャップ産クソガキに何度も辛酸を舐めさせられたプレイヤーもいた。

 ただのプレイヤーだったらいつかは忘れ去られただろう。だが子供ながら大人達と対等以上に渡り合い、約10年経った今でも使われてる幾つもの技の考案者となれば早々忘れ去られることは無い。


 姿は変わろうとも、3人ではなかったとしても、生粋のオールドギャング共はその正体を見抜き、すぐに他のサーバーに喧伝したのだ、リベンジマッチだと。

 上位プレイヤーとして君臨しながらもいつの間にか姿を消したクソガキ共にやり返すチャンスがようやくやってきたのだと。



「どうする?そろそろストーリーモードに行ってもいいんだが、あの子は今は何処にいるんだ?」


「あ、連絡来てた。今どこですか、だって」

 

「なんだもう来てたのか。じゃあショッピングモール前集合って言っといてくれ」

 

「了解」


 実のところ、ノートも自分のやりたい事だけを優先してヌコォ達をいきなりオープンワールドモードに連れ込んだ訳では無い。元々オンライン状態でとある人物との合流を予定していたのだが、先方の事情で遅れる事になったのだ。


 戦闘が激化するフィールドを駆け抜けてリスポン地点から再びショッピングモールへと集合する『祭り拍子(仮)』。

 新しい仕様になった異能や武器に慣れ、加えて手練れも集まってきた事でノート達も序盤のようにアッサリとショッピングモールへ攻め込めない。ノートの考えつくことは他のロストモラル共も当然思いつく。


 即席で作られた爆弾がそこら中で爆発し、しかもその爆弾自体が空中を自走する。


 それを銃で撃つか異能で迎撃するか。

 【Poppin(ポッピン)Pop(ポップ)】の反射壁。

 闇の粒子を自在に操り武器や防具、足場へと自在に変える【MistHell(ミストヘル)】による闇衣の自動防御。

 シンプルに耐久値を上げて耐える【Adamas(アダマス)Behemoth(ベヒモス)】。

 緋色のエフェクトが特徴的な血液操作と高速回復で異常なしぶとさを発揮する【Leviathan(リヴァイアサン)Blood(ブラッド)】による運ゲー耐久。

 虹色のエフェクト、世界観ガン無視、火・水・土・空の四元素を操る魔法使い【OldE(オールド)lements(エレメンツ)】。

 空間を支配し転移なども可能とする青色の歯車【SpaceGear(スペースギア)】。


 異能単体でもこれだけの迎撃方法があり、組み合わせれば更に選択肢は増える。

 異能のリソースと武器、知恵と意地、全てを賭けての全力の殺し合いは一時だろうと気が抜けない。

 しかもその状態の中でプレイヤー以外にも普通に武器を持ちパルクールで追いかけてくるゾンビがワラワラいるので、油断してると予想外の方向から攻撃されてアッサリ殺される。


 ノートもまだ異能同士の組み合わせを手探りで検証している最中なのでいつもより慎重に動いており、ノート達といえども激戦区と化したショッピングモールを若干攻めあぐねていた。

 そんな中、遠くの方で悲鳴と怒号と共に何かが壊れるような音が鳴り響き、それがどんどん近づいてきた。


「ちこくちこく〜〜〜!!」


 急に聞こえてきたのは甲高く甘いアニメ声と呼べそうな少女の声。声だけ聞けばパンを咥えたまま曲がり角でぶつかり、ありふれたながらも王道のラブコメが始まりそうな感じである。

 だが、ショッピングモールに面した大通りへ角を曲がってやってきたのは、凄まじいドリフトをかましながらカーブする大型トラック。

 その肉片と血に塗れたバンパーと相まって酷くボロボロの車体は呪われてるかのようで、その上限界まで酷使したせいか現在進行形で大炎上している。

 こんなデカブツと曲がり角でぶつかれば次の瞬間には平均約7.5万グラムの挽肉の出来上がりだ。


 そのままどうする気かと思い見ていれば、運転手とノートの目が合い、運転手の少女はニッコリと笑って手を振った。

 同時にエンジンを更に踏み込んだ大型トラックはそのままドンドン加速し、ポーンッと少女が勢いよく運転席から飛び出すとトラックはそのままショッピングモール入り口へ。誰も止められないまま突っ込み大爆発を起こす。


「うはーー!すっご!!」


 その大惨事を起こした張本人と言えば、ノート達の元まで転がってくるとケラケラ笑っていた。


「遅い」


「あ〜〜〜ごめんなさいっす!ただいま到着致しました、どうも初めまして、あっしの名前はカるタっす!」


 咄嗟に殺そうとしたユリン達をノートが押しとどめ、ヌコォが声を掛ければ、少女はスチャッと立ち上がり敬礼する。


「というわけで、この人がプレイヤー側のスパイやってくれてる協力者であり、今回顔合わせも兼ねて一緒にGBHWをやってくれる事になったカるタ君だ」

 

「よろしっくす〜!」


 髪の右半分は黒で、そこに赤色のメッシュ。左半分は白で黄色のメッシュ。異常に派手な髪をツインテールにし一周回って特徴的な何の変哲もない黒マスクに色素の薄い赤い瞳をした華奢な少女。

 チョーカーやピアスなど初期で装備できるアクセを多く付けており、その滲み出るギャルっぽさ、童顔な顔に対し、身長はモデルの様にスラリと高く、非常にスレンダーな体型をしている。

 世界観に真っ向から逆らうように学生っぽいYシャツの胸元をガッツリと開け、黒いミニスカに黒いストッキング。ぱっと見で脳裏によぎる印象は、言葉を選ばないならばまさしくビッチである。

 ノートから聞いていたイメージとは少し、いや、かなりズレた感じの陽キャオーラ全開ながらどこか油断ならない雰囲気を纏う少女の挨拶に、ユリン達は目が点になるのだった。




「いやぁようやく直接、ってわけでもないっすけど、こうして会えて嬉しいっすよノートパイセン!ヌコォっちもこんちゃっす!」


 周囲の空気を無視し人当たり良さそうな人懐っこい笑みを浮かべる少女、もといカるタ。

 少女はノートの手をギュッと握ると嬉しそうに握手。溢れ出る活力が抑えきれないのか手をぶんぶん振る。


「そうだな。ビデオ通話では顔合わせしたが、ほとんどそれだけだったもんな。ギガスピの時もあくまで他人として接してたしな」


「いやぁあの時は完璧に変装してて見た目全然違っててビビったすけどね!あ、アグちゃんブレスレット、あっしも愛用させてもらってますよ!」


 フレンドリーという概念が服を着て歩いているかのような和気藹々とした雰囲気で話すカるタ。

 ユリン達の目線(ヌコォは白けたような、トン2は面白そうな物を見る感じだったが)にだんだん剣呑な闇が宿り出したのを見てノートは咳払いする。


「ストップストップ。えー、もうカるタ君本人から許可を得てるのでバラすが、カるタ君は男です。以上」

 

「どうも〜生物学上人間種のオスで〜す」


 ノートにあらためて紹介され、自らもネタバラしするカるタ。先程の甘い声とは打って変わって男っぽさを感じるテノールボイスに声がガラリと変わる。


「まあ、ここで話してるのも危ないし、移動するか」

 

「そっすね〜。あ、フレンド申請許諾おねしゃーっす!」


「はいよ。てか今思ったんだがVR機器の固有コードでできたんじゃないか?そうすればこんな面倒なことしなくても……」


「あ、そうっすね!あんまし使わない機能なんで完全に忘れてましたっす!」


「まあ合流できたし結果オーライだな」


「「アハハハハハハハ!」」


 異常にノリが軽い自称男カるタ。彼女もとい彼はあまりに濃い『祭り拍子』の面々を前にしても全く霞まないほどの強烈な人物だった。







 オープンワールドモードから一時撤退し、フレンドコードでマルチのストーリーモードへ。ストーリーが始まる前のチュートリアル空間にてようやく安全で落ち着いて会話できるようになったことで、カるタは改めて自己紹介をする。


「数度目になりますが、あらためて自己紹介するっす!あっしはALLFOでプレイヤー側のスパイ兼検証厨グループ兼僧侶グループ一派のリーダー兼情報屋兼スレ管理人兼ノートパイセンの使いっ走りを務めてるCalrhuyta(カるタ)っす!掲示板では弁天使(ペテンシ)てコテハンでよくスレ立ててるっす!前々から存在は知ってましたが、『祭り拍子』の皆さんに会えてとても嬉しいっす!リアバレは避けたいっすけど、一応言っておくとヌコォっちの内定してるゲーム会社の先輩やってます!てことでよろしくお願いしますっす!」


 全く年齢も性別も感じさせない完璧な立ち振る舞いで頭をペコリと下げるカるタ。男と言われてもユリン達は未だにカるタが男には見えなかった。


「あ、一応言っとくっすけど、ツールめちゃくちゃ駆使して顔限界までいじってますし、声も加工しまくりっすからね。リアルだとこんな声と顔してないっすよ。まあ声高めだし筋肉付きづらいし童顔なのは元々なんすけど、今はそれ逆手にとってネカマやってるっす!」


 第7世代VR機器は感覚の共有度が非常に高い為、VR内のアバターも現実の其れとほぼ同じにしかできない。これは技術的な問題なのでどうしようもなく、22世紀AIによる監視社会でプライバシーが半分死んでることに最早慣れてる22世紀の人々は普通にこの事実を受け入れていた。


 しかし、全く弄れないかというとそうでもない。

 骨格自体は変えられないが、特に顔まわりは特殊メイクで加工できる範囲内でいじる事はできるし、化粧もできる。素人が手を出すと大体うまくいかないというのが定説だが、色々なツールを使って地道に修正をかければ機能の制限に抵触しない程度に顔の造形を変えることは可能だ。

 化粧とは存外バカにできないもので、素体さえ良ければそこらの石ころでも宝石の様に見せる事ができてしまう現実で観測可能な一種の魔法なのである。


 声に関しては言うまでもない。こちらは幾らでも弄れるのでイケボからドブボまで自由自在だ。22世紀には昔では考えられないほどの高度な技術が用いられたボイスチャンジャーなどが無料でダウンロードでき、簡単に反映できる。


 カるタというプレイヤーはその機能を全力で駆使して皆に可愛がられるタイプの愛嬌のある美少女へと自分の顔と声を徹底的に加工した。

 横にリアルの顔写真を並べてもパッと見ではわからないぐらいにはガチガチに加工をかけたのだ。


 無論、骨格は変えられないので、なよっとした女性と見紛う撫で肩や細い脚は自前だ。あとは立ち振る舞いでより女性らしく見せている。


 そうカるタは皆に力説し、自分のこだわった部分についても説明するが、おそらくカるタのリアルの姿を知っているだろうヌコォにユリン達が思わず視線を向けてもヌコォは肩をすくめて首を横に振るだけだった。


「こう言ってるけど、実際はわからない。第一この人プロフィール欄の性別いつも空欄。年齢も空欄。大会でもこれに近い感じの声で喋ってるし顔も隠してるから一般だと完全に女だと思われてると思う」


「やだなぁ、マジで男っすよ〜?リアルでもロールプレイ重視タイプなだけっすよ〜。ゲームがリアルで、リアルがゲームなタイプなんすよ〜」


 再び疑惑の視線が向けられるが、カるタはまるで気にした様子もなく朗らかに笑う。こうして詰めよられるのは慣れっこなのか緊張した様子もない。

 

「オッホン、まあそちらの事情は一応聞いてるんで、ノートパイセンに言い寄るとかは絶対ないっすから安心してほしいっす。てかノートパイセンとヌコォっちに割とヤバい弱み握られてるんで、はい、マジで。嘘じゃないっす。だからそんな睨まなくていいよ〜てきな?

 てかそういう事情があってノートパイセンもあっしが裏切れないと判断してこき使ってくれてるんで、いやマジ楽しいしむしろ喜んでやってますけどね、スパイロールプレイ。まぁ、カるタちゃんの性別はカるタちゃんという事でここは一つ納得していただけないっすか?お願いします、どうかこのとーり!」


 ふざけた感じだが割としっかりとした土下座をするカるタ。その感じになんとなく毒気が抜かれ、ユリン達は思わず顔を見合わせる。


「とりあえず俺はカるタ君は男ってつもりで扱うからな。てかハラスメントアラートが出てるかで性別は簡単に判断できるとは思うけどな」


 倫理観がサヨナラバイバイしてる事に定評があるGBHWだが、Fワードや殺人は許してもセクハラには厳しい謎の一面があるので、女性の胸を狙って触ったりすれば当然厳重な警告の上、被害者側からの訴えが有ればその場でBANという厳しい沙汰が下される。

 それは胸でなくても同様で、戦闘における不慮の事故以外の故意の接触は警告対象になる。


 それは男性から女性だけでなく、女性から男性への接触も同じ。ノートの手をカるタが強引に握ってもノートには軽微なアラートしかなってない時点で、カるタの性別はおそらく男とゲーム側にも判断されていると考えて良さそうだった。


「もうっ!もうちょっと遊んでくれてもいいじゃないっすかノートパイセン!無粋っすよそういうのは!」


「いやいずれみんな気づく話だと思うけどな」


「だからALLFOだとめっちゃ気をつけてるっすよ~」


「今の環境でネカマやろうとすると大変そうだよな」


「そうなんっすよねぇ〜。6世代以前よりVRのセクハラ制限が異常に厳しいんすよ」


 客観的な事実をノートが指摘した事でとりあえずは納得したらしく、彼女達は取り敢えず矛を収める。だが彼女達の勘がまだ簡単に納得するなと主張していたので警戒レベルは高いままだった。


「とりあえず、みんな仲良くなっちゃえば性別なんて些細なもんっすよ!てことでよろしくお願いしますっす!」


 ビー!ビー!とけたたましい音がする警告のアラートを鳴らしながらもフレンドリーに、かつ手早くユリン達一人一人と握手をしてニコニコと笑うカるタ。

 性別不詳年齢不詳推定ネカマのゲーマーは、こうして一時的に『祭り拍子』GBHW版に参加することとなった。




弁天使はスレにでてます






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― 新着の感想 ―
[一言] いろいろ兼ねすぎw
[良い点] 新レギュがさらに増えただと・・・ 最低でも後二人は増えそうなのに管理は大丈夫かなぁ(休んでいるのに休めていなさそうだ) ・・・投稿される度に休めているのか心配している気がするな [気になる…
[一言] 良いキャラ出てきたな~w 俺もなー10年以上前に興味本位でネカマやったらついつい設定しっかり作ってそれ全部覚えて齟齬が出ないようにって上手くやりすぎちゃって・・・結果偉くメンドクセー事になっ…
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