No.24 ヒャッハー!
ヌコォが一気にランク5まで駆け上がったので、予定を繰り上げて2つ目の森に入るノート達。だが行きよりも進路は更に滅茶苦茶だった。
「希少種狩りじゃー!」
「逃すなぁ〜!」
「ブーメラン……発射ー」
戦えるメンバーが3人になったお陰でユリンのスタミナ消費が低下。今までは遠くにいた希少種は見逃すこともあったが、ヌコォが加わってからは自重がさらに消えて大暴れ。手当たり次第に希少種を襲う。
途中からバルバリッチャは呆れ果て馬車の中でハーブティーを飲みながら彼らの暴走を観覧していた。
時間効率などそっちのけで、希少種MOB希少素材を奇妙な雄たけびを上げながら狩りまくる彼らの姿は少し狂気じみていた。これが普通のMMOなら飽きるかもしれないがVRは実際に森を駆け回りMOBを追っかけ回し希少素材を捜し求めて、と散策の楽しさと達成感が全くの別次元なのだ。
しかも今は完全に貸切で横殴り(他のプレイヤーが討伐中の敵を倒してしまうこと。オンラインゲームではマナー違反)の心配も無いし、ほぼほぼ無双できるし、メリットも大きいときた。
故に彼らのモチベーションは全く下がらず、ギラギラした目つきで次なる得物を探し求める。
特に、本来ストッパー役のノートが率先して2人を率いるものだから全く手に負えない。
「ヒャッハー!希少種の魂のストックが足りねえ!じゃんじゃんやっちまえー!」
そのうちノートはこのまま馬車を放置しておくのも無駄だと思ったので、そのまま真っ直ぐストーンサークルまで帰還し始めてくれ、と指示を出し、馬車を追いかける形で狩りを敢行。入れ替わり立ち替わりでたまに馬車のアイテムボックスにあぶれたアイテムを突っ込みながら彼らは馬車の周りでずっとお祭り騒ぎ状態だった。
そんなことをしているせいで2つ目の森を通過するだけで5時間もかけて、ようやく深霊禁山と第2の森の狭間の非戦闘区域に到着した。
「希少種狩り作戦、成功ぅ!」
「これでしばらくは希少種を探さなくていいな」
「称号に『希少種フェチ』『希少種フィリア』『密猟者』『悪質密猟者』が増えてる。希少種を意図的に狩りまくると性質が悪性に傾くっぽい。ゲームだけどメッセージ性がある」
某有名ゲーム、モンスター◯ンターが海外で受け入れられなかった理由に『必要な素材のためにモンスターを何度も狩ったりするのが良くないとバッシングを受けたから』という噂がまことしやかに囁かれたものだが、実際問題ALLFOも多国籍なゲームを目指す最中、そこら辺の配慮にはかなり苦しんだらしい、とヌコォは補足する。
「人間は地球で最も多くの種を絶滅させた、て言うのは有名な話だからな。海外への配慮もあるんだろうさ。だがゲーム内だしもう性質悪性カンストの俺らには関係のない話だよ」
「結局ぅ、何体狩れたんだっけ?」
「んとなぁ…………希少種の魂のストックは132……になってるな。行きの分もあるが、結構頑張ったな。脳味噌とかも18個ドロップしたし、かなり助かるよ」
「でもどうしてそんなに必要だったの?死霊召喚にはそんなにコストがかかる?」
ゴローンと非戦闘区域の野原に寝転がるノート。そのノートの腹を枕にヌコォが、胸にうつ伏せでユリンが寝転んでいて若干喋りづらいが、ノートは「私、気になります!」と目を輝かせているユリンと一見変わってないヌコォに説明する。
「いや、普通の召喚じゃここまでハードじゃないし、これ全部を一体の召喚に使う訳じゃない。ただ、死霊の進化条件がシビアでな、PLの魂とか希少種系の魂を要求してくる。あと今現在狙ってる死霊が2体いて、1つは鍛治系なんだが、もう1つが難しいんだ。昆虫系の希少種が大量に必要とか狭き門だよ、全く」
「一体何を狙ってるの?」
「んん〜……それは召喚するまでのお楽しみ、ってことにしておいてくれ。ま、順序的に鍛治系が先になるから気長にな。ただ鍛治系の召喚には鉱石が必要なんだ。それを何処でゲットすればいいかが現状ではさっぱりわからん」
どうしたもんかねぇ、と困ったようにノートは空を見上げる。しかしそこには青空が広がっているだけで特に何もなくアイデアも浮かばない。しかし妹分はそれを聞きピクリと反応する。
「…………ノート兄さん。朗報、この『深霊禁山』ってエリア?の方に鉱石の反応がある。冒涜者のスキルで、漠然と鉱石があることはわかる。方向はわからないけど」
「んな馬鹿な。採取ポイントなんて無かったはずだぞ」
ノートもユリンも一応ながら下山中にその手のポイントは探してはいた。しかし目に見える範囲では見つからなかったのは確かだった。
「条件を満たしていないと掘り出せない鉱石が存在することはゲームとしてはたまにある。もしかすると鍛治系の副職業持ちを連れてこないといけないかも」
「成る程ね…………ん〜、でもここまでそのプレイヤーを連れてくるのは骨が折れるぞ。単純に見つけ難い可能性はないか?」
「実際に探してみない限りはなんとも言えない。この急勾配だから、あえて人が通れない場所を捜索してみるといいのかもしれない」
「そうだな、木々が生えてんのが不思議なぐらいの急勾配だから、もしかしたら登りだと見えなかったものが見えてくるんじゃないか?」
「つまりぃ〜……探索にすごい時間かかるから、今日はここでログアウトしとく?」
「そうだな。明日の4:30再ログインとかでどうだ?」
「超ぉ早寝早起きだね。それで6:30までとかできるなら体感4時間は探索できるね。VRって時間の感覚狂いそう」
「体内時計がズレて、海外旅行にでも行った気分になってしまう、と言うのはテスターからも多く上がった意見で、ログアウトしてから少し空白の時間あるだろ?全身の感覚が戻ってくる前のちょっとした時間。彼処で高度な処理をして体内時計を調整してるらしいな。詳しい話はわからんが」
彼らはそこから10分ほど雑談を楽しみ、非戦闘区域にミニホームを設置してログアウトした。
◆
「ふあぁ、おはよう〜。て言ってもALLFO内だと朝じゃないけどねぇ」
「おはよう、ユリン」
「あれ?ヌコォは?」
「作業室でアテナと一緒に罠の開発してる」
リアルの時刻ではAM4:30。再ログインしたユリンが欠伸をしながらリビングに向かうと、リビングには既にノートがいて、お茶を飲みながらメニュー画面より(現実のほうの)ニュースを読んだり株価指数を確認したりしており(ゲーム内でも設定をいじっておくといくつかのアプリケーションは携帯端末と同期して使用できる)、タナトスは眠たげなユリンのためにスッと目がさめる組み合わせのハーブティーを淹れる。
ユリンはいつも以上に間延びした礼を言ってマグカップを受け取り、2、3口にしたところでようやく不思議な点に気づく。
「あれ、ノート兄、そのお茶…………」
「緑茶擬きだな。1つ目と2つ目の森の中で取ってきた薬草に下位錬金で茶葉になるやつがあったらしい。それをタナトスに淹れてもらった。普通にうまいぞ、少し苦味があるが。目が冴えてちょうどいい」
「ふーん、下位錬金って普通は見向きもしないだろうけどぉ、便利だねぇ」
「だな。いくつかスレ見てきたけど、みんな出来るだけ上位のアイテムを作ろうと躍起になっててだーれも下位化錬金なんざ触れてない。純粋にアイテムのレアリティの相対的な違いがあるとはいえ、少しもったいなく感じるよ。大昔にはやった地雷チート(そのゲームに於ける地雷職などをとり馬鹿にされつつも結果的に無双するジャンル)みたいな感じで誰かが有用性を発見しないかな?」
「うん、仕方ないよねぇ。確か明日あたりに公式イベントがついに開催されるとかで、みんな浮き足立ってるし少しでもリードしたいからねぇ。なんか各小サーバー……自分のナンバーズシティの周囲に出没する2体のボスの倒した数をシティ間で競うやつだったよね、今回のイベントって?」
「ま、俺たちには全く関係ない話だけどな。そろそろ出発するから準備を整えてくれ」
シティイベントで皆が盛り上がろうと、そもそもノート達は所属シティ“0シティ”扱いなのだからどうしようもないのだ。
「オッケー、ツルハシとかもアイテム自販機で買っておけばいいよね?」
「それに関しては既に大量に買って馬車のアイテムボックスに突っ込んどいた。いやぁ、いらないアイテムとか野盗の本拠地から奪った宝石細工とか換金したらエグい額のMONが手に入ったから、市販でも1番高いやつを大量に買うという金満プレイをしてしまった。金銭感覚麻痺するな、野盗狩りは」
「希少種にも配慮してるのに野盗からレアドロポンポン出たら野盗狩り始まっちゃうもんね。野盗は基本的にMON稼ぎなんだよ」
「そんな気がするな。お陰で今のところ懐事情はあったかい。ところでそろそろヌコォを…………」
呼びに行くか、とノートが席を立った瞬間、作業室の扉がバーン!と開いてヌコォが出てくる。
「ノート兄さん、新しい罠ができた」
「うん、扉を勢いよく開けるのやめような、バルちゃんもよくやるけど」
ノートに窘められても何処吹く風、ヌコォは危険物をノートに見せる。
「上部にうっかり触れると大惨事になるから絶対触らないで。まず薄い円形のこれが“蜘蛛の巣地雷”。踏んづけると蜘蛛の巣が放出されて身動きが取れなくなる。それとアテナの蜘蛛の糸をさらに加工して火炎耐性、物理攻撃耐性を『大』まで引き上げた。普通の動物系MOBでも簡単には抜け出せない」
「初っ端からとんでもないな。で、これは?」
ノートが恐る恐る持ち上げたのは草などが接着された脆そうな木箱だった。
「“斬幽微糸“を中に仕込んだ地雷。“斬糸地雷“と名付けた。地雷としての爆発の威力をこれ以上あげられないから脚の機動力を奪う程度しかないけど、ゆくゆくは防御力の低い敵なら切断できる程度にはなりそう。何方も隠蔽効果を高めるために薬草などを使って匂い消しなどの処理をしてある。
だけど不完全だから『付与師』が欲しいところ。ALLFOだとまだ転職条件が発見されてないけど、その職業なら隠蔽状態をつけられると思う」
「待て待て、捲し立てるな。要するに付与の使えるアンデッドも欲しいと言うわけか?」
「Exactly、そうなればより凶悪なトラップを作れる」
「うん、ヌコォこういうの得意だもんな。でも少し気になってたこと聞いていいか?火薬とか何もないのにどうやって中身を炸裂させてるんだ?」
「実はとても簡単な仕組み。空気を圧縮して詰め込んでるだけ。アテナは罠作成・最上級だから罠作りに関する色々な技能を持ってる。
少しゲームチックなところはあるけど、空気を圧縮して詰め込んでおくと衝撃を与えることで破裂する道具を作れる。圧縮には無属性無系統の特殊な魔法を使う。熟練度の問題で限界があるけれど」
「へぇ、そうなのか。知らんかった。あとでアテナに礼を言っとかなきゃな」
「ノート兄さんは律儀」
言外に『ゲームでしょ?』と問いかけるヌコォに、ノートは苦笑いする。
「それがさ、バルちゃんをはじめとして高い知能を持った相手にはそれ相応の態度と礼儀を持って接していないとパフォーマンスに差が出るんだ。あと人間相手にしてるのとほとんど変わらない気分だからなんとなくな」
「別に無駄ではないはず。隠しパラメータに好感度があるのはあるある。ノート兄さんがしたいなら止めない。実際ノート兄さんの勘はよく当たる」
「さよか。とりあえずもう出発だから、行こうぜ」
「ラジャー」
彼らは一日あけて、ようやくストーンサークルにしっかり帰路を定めるのだった。
称号一回纏めなきゃ収集つかなくなりそうで怖いってのはここだけの話




