No.Ex 外伝/それ逝毛!主任マン〜魔法少女きえた⭐︎マジカ〜②
し ゲ そ
よ リ う
う ラ だ
を
「うーん、一体何考えてるんだ…………?」
『祭り拍子』専属監視係のT君は、ノート達がいつもと違う行動をとっている疑問を解消できず、眉を顰めていた。
まずいつもと違うと感じたのが、最初に設置してから一度も動かさなかったミニホームを撤去した事。
ミニホームは彼等にとってのセーブポイント&リスポーン地点であり、撤去してしまうとリスポーン地点が初期地点に変更されてしまう。
この辺りの仕様を勘違いしてても大変な目に遭うミスはテストプレイの段階でも報告されていたが、それも醍醐味とあえてこの辺りは放置してある。
しかし、T君は彼等の行動をずっと監視しているだけあって、彼等がそんなうっかりミスを起こす様には思えなかった。
それは知らない彼らではない、何か意図があるのだろう、と。
もし本拠地を移すならまだ分からなくもないが、今のところ彼等が見つけた中立エリアは限られており、移ったところで彼等にメリットは一切ない。
だとすればなぜミニホームを撤去したのか。T君には理解できない。
更に理解できないのが、いつもはミニホームに常駐しているノートの本召喚の死霊が召喚されたまま同行しているという事だ。
非戦闘要員だし、この手の死霊は待機状態にしても特にデメリットはない。なのに召喚を維持したままで、皆でぎゅうぎゅう詰めになりながら幽霊馬車に乗り込んだ。
音声が聞こえれば和気藹々とした雰囲気が少しは感じられただろうが、映像だけだと地獄の底からやってきた魑魅魍魎の箱詰めにしか見えないのである。T君は歯がゆさを感じながらも何かを指示しているノートを観察するしかない。
はてさて一体こんな真似をして何を考えているのか。
物見遊山?引っ越し?いや、間違いなく理由は魂の補給のはず。
違和感は覚えつつも決定的なナニカはなく、T君はとりあえず主任に報告しておくに留まる。
もしここで彼が違和感の正体を見抜いたら、この後の悲劇は起きなかったかもしれない。しかし神でもない彼には分かるはずもなかった。
彼が決定的な光景を目にしたのは、もう彼等が街にたどり着くタイミングだった。
全員が仮面を装着し黒いローブに身を包んでいる。見た目はどう見ても邪教徒の集まりだ。
そんな邪教徒共擬きはペアになって街の外縁にバラバラで降りていく。
「………………集団行動をしない?しかもノートさんがソロ?マジで何考えてんだ?」
ノートはオールラウンダーとして振る舞うことができるが、その本質はやはり後衛だ。前衛がいた方が安定する。
しかし、ノート以外は前衛と後衛を想定してバラけたのにノートは単独で行動を開始した。
T君としては何故1人で動くのかその動向をチェックしたかったが、其方に目を向けてられない程に異常な出来事が同時に進行を開始した。
◆
まず1番最初に状況が動いたのはネオン&アグラットペアが降り立った墓地。
プレイヤーの中でも上位層が最近狩場としている場所であり、運営側からするとこの現状は想定通り。
この墓地は序盤の稼ぎエリアというか、布石というか、色々な役割を兼ねている場所だ。
MMORPGに於いて効率の良い『狩場』は取り合いになる。場合によっては大きなトラブルの呼び水になる。
その点、墓地は各シティに一つあるので人数を分散できるし、ALLFOは経験値制では無いので成長が止まりいずれは外に目を向ける事になる。
ALLFOにはMMORPGによくある、上位陣と新規層との過剰な格差を起こさないための『レベルキャップ(上限設定)』というシステムが存在しない。
その代わり、魔物を倒しただけで強くなる事は無いし新たな力も得られない。外へ出て強敵と挑まない限り新たな力は得られない。
これもランク制のメリットだ。
つまり上位陣の現状は、外へ出る為の下準備であり、運営が想定通り。
一度ノート達が引き起こした野盗討伐のトラブルで上位層がバラけるという困った事態になったが、それもようやく落ち着いて運営側も少しは安心したところだ。
その大切な上位層が、枯葉の様に吹き飛ばされた。
ネオンの魔法は単純なDPSでは現状のALLFO環境下に於いて最強である。ランク5に差し掛かっている程度のプレイヤーでは耐える事などできない。
どれくらい危険かと言えば、カスっただけでも死ぬ。
この『カスっただけで死ぬ』という事がどれほど恐ろしいのか認識しているプレイヤーはまだ殆どいない。
プレイヤー達にはまだ広く認知されていないが、ALLFOに於けるダメージの計算はかなり複雑だ。HPこそ実装されているが、従来のゲームと同様に考えていると痛い目に遭う。
例えばの話、防御力の殆どないHP1のプレイヤーがいたとする。
このプレイヤーに石ころを全力で投げつければ1以上のダメージは出せる。普通のゲームだとこの石ころに当たったらプレイヤーはHPが0になって死ぬ。
しかしALLFOだと必ずしも死ぬ訳ではない。
ALLFOに於いての死亡に必要なのは、HPが0になる事と『致命判定』が発生する事だ。
先程の投げた石がプレイヤーの足に当たったとしよう。
どんなに弱った人でも、足に攻撃されても即座に死ぬことはない。そう、死なないのだ、例え残りHPが1だとしても。
この現象はALLFOで言うところの『致命判定』が出ない被ダメージという事になる。HP 0にならない代わりに足の駆動に制限がかかったり厄介なバッドステータスが発生するが、HPは0.…で耐える。
故にトドメを刺す時は原則として相手の弱点を攻撃するしかない。人間で言えば、頭、首、心臓などが致命判定が発生しやすい場所である。
逆に、どんなにHPがあっても首を斬り落とされれば『特殊致命判定』が発生して死ぬ。
ざっくり言ってしまえば、ALLFOの死亡判定はゲーム的というよりリアルのそれに近い。
人形兵器はその中でも例外のパターンだ。あまりにも物理的な攻撃力が高い時、掠っただけで衝撃が全身に走り、それが致命判定を引き起こすのである。
実際、ALLFOのシステムでは物理攻撃の方が致命判定を出しやすいという隠し補正が存在している。
閑話休題。
だとするとHPとは何ぞやという話になるがここでは詳しく論じない。
さて、ではこのHPという数値に意味はあるのか。
実はこの数値が変則的に役立つ事例は割とある。
その一つが『呪い』だ。
先程も言った様に『致命判定』がないとプレイヤーは死なない。如何にネオンの魔法の威力が高くても、掠っただけで普通は死なない。
だがその魔法に呪いが付加されていると話が変わってくる。呪いは肉体に干渉する物も有ればより上位の物に干渉する物もある。
それがHPに干渉するタイプだった場合、触れただけでも命取りとなってしまう。
このタイプの呪いが全ての魔法にデフォルトで付加されているのがネオンという存在なのだ。敵に回すと如何に厄介な存在なのかは論じるまでもない。
威力と呪いの両方を含めて、ネオンはDPS最強のプレイヤーなのである。
それでも抗い、なんとかネオンの首を取りかけたプレイヤー達は運営から見ても拍手を送る事ができる。
訓練の為の縛りプレイ体制とネオンのメンタル的な問題で追い詰められたとは言え、即死級の魔法相手に臆さず大健闘しただろう。
数値やスペックだけ見比べればネオンはレイドボス扱いでもおかしくないのだから。
ただ、そんなプレイヤー達の大健闘も魔王の無慈悲な一撃で全て消え去ってしまったのだが。
「そりゃぁ理不尽過ぎるでしょ」
T君が思わずそう呟いたのも仕方がない。
問題は、これがまだマシな部類だったという事だ。
◆
ヌコォとゴヴニュのペアに当たったプレイヤーはご愁傷様としか言う言葉が見つからなかった。
そもそも、ゴヴニュは非戦闘用の死霊でありながら鍛冶仕事を延々としているだけあって筋力やタフネスが並外れている。そんなゴヴニュが今の一般的なプレイヤーでは到底得られないような鉱石を使い作り上げた鎧や武器を装備すれば、非戦闘用というハンデを覆すことができてしまう。
確かにゴヴニュは鈍重だが、一方でプレイヤーの攻撃はほとんど有効打になり得ない。では大技を仕掛けて倒そうと画策すると、そのプレイヤーからひっそりとヌコォに殺されていく。
不意打ちからの致命判定を確実にとる完璧な暗殺者ムーブ。ヌコォに翻弄されたプレイヤー達はゴヴニュの進撃を止められない。
ゴヴニュの一撃をくらえばプレイヤーは1発で沈む。その一撃を避けて遠巻きに処理しようとすると湧いたスケルトンなどがなぜかプレイヤー達に殺到し、気付けば自分の持っていたアイテムが抜かれ、そして首を斬り落とされる。
ヌコォと相対してしまったプレイヤーは、本来以上の大損害を被り全滅した。
死亡判定に関するお話
重要なのは『致命判定』が出ない限り死なないって事です。HP1の状態で転んでも致命判定でなきゃ生きてるよ、って事です。
敵を瀕死に追い込んでも手や足を攻撃してもあまり意味がありません。ただし武器に特殊な効果や魔法、呪いがエンチャントされている場合は別要因で致命判定になる場合があります。
逆にどんなに死にかけてもHP 0にならない限りは幾らでもリカバリーできます。自動HP回復の効果が敵にとってどれだけ面倒臭い効果かよく分かりますね。
因みにHPが低いほど致命判定は出やすいという仕様もあるので、自動HP回復は結構重要です




