No.23 毒見
「まだ痛い気がする」
「効率厨の大誤算だな。大丈夫か?」
「うん、なんとか。不幸中の幸いはALLFOに排泄がなかったこと。もしアレを現実で飲めば胃から腸、肛門まで全部死ぬ。トイレで絶叫することになること間違いなし」
結局30分もかけて漸くヌコォはダメージから立ち直った。
ミニホームのリビングの安楽椅子に座るノートの上にチョコンと座るヌコォは、ノートの問いかけに少しズレた回答をする。
ちなみに現在はユリンはいない。大袈裟じゃないの?とヌコォを挑発した所、逆にヌコォから倍にして挑発され「これぐらい飲んでやる!この根性無し!」と遺言を残して瓶を呷り、意味不明な叫び声をあげて床に倒れこみながら流れるようにログアウトしたのだ。
「タナトス恐るべし…………これ、直接顔面にぶつけたりしたら目がえらいことに」
ノートがふとそんなことを口走ると、ヌコォがプルプルと震えた。
「ごめんごめん、ちょっと気になったから。催涙弾みたいにできる気がしてさ」
「間違いなく失明すると思う」
ヌコォは迷いなくキッパリ言い切った。
「そんなにか……、おい、なんだその目は。飲んで経験すればわかる、みたいな目をするんじゃない。飲んで欲しいなら、折衷案としてバルちゃんが飲むなら俺も飲むぞ」
「貴様!何故我を巻き込む!?」
同じくリビングでソファーに座り、何かを縫っているバルバリッチャは急なキラーパスにカッと目を見開き叫ぶ。
「えぇ〜、偉大な大悪魔バルバリッチャがたかが調味料に尻込みするなんて信じられない。俺、バルバリッチャのファンやめます」
「たわけ!アレが『調味料』な訳があるものか!」
「調味料だよ!俺も変だとは思うけど、タナトスが料理技能を使って作り出してる『調味料』なんだよ!カテゴリーは毒薬じゃなくて間違いなく『調味料』なの!」
意味のわからない言い争いをするバルバリッチャとノート。そこにお盆(アテナ作)を持ってタナトスが現れた。
『皆様、新しい御茶菓子ができました。召し上がっていただけませんかな?』
タナトスがノート達に配ったのは肉まんぐらいの大きさのピンクっぽい団子のような物。ノートとヌコォはタナトスの急な行動にキョトンとするが、バルバリッチャだけは何かに気づいたかのように即座に突っ返した。
これは何?とノートが聞いても、まずはお召し上がりくださいませ、とタナトスは優しくそして楽しげに促すばかり。
ノートとヌコォがパクっと齧ると、まず南瓜の甘い香りがふわっとして、次に肉汁、最後にビリっと辛みがくる。だが激辛ではなく、カレーの辛口程度のちょうどいい辛さだ。
南瓜を練りこんだ辛い肉饅を食べているようで、ノート達はうまいうまいと言いながらあっさり完食した。
「凄いうまいな、割と辛いけど」
「美味しかった。でもこれは一体なに?」
ノート達が問いかけると、クツクツと笑ったのちにタナトスは種明かしをする。
『実はですね、『固いパン』を一度水でふやけさせた物、甘白玉南瓜、グリーンヒールグラス、塩星の木から取れた塩と擬肉果、怒髪獄辛という、一切新たに素材を購入せずに蓄えてあるもののみを使って作ったヘルシー南瓜肉饅・辛口なんです』
「ちょっと待て!『怒髪獄辛』使ってるのか!?」
『かなり希釈した上でグリーンヒールグラスを加える事で漸く中和できました』
「いやいや、普通の香辛料使いなさいよ」
『ほっほっほっ、仰る通りです。しかしながら、御主人様、現在の御主人様には何か変化が起きていませんか?』
楽しそうな声のタナトス。ノートがステータスを確認すると、『物理攻撃力上昇5%:1h ・混乱・錯乱無効:1h ・ヒートアップ(基礎能力上昇)5%:1h』という見覚えのないバフが発動していた。
『薬も過ぎたれば毒ですが、逆もまた然り。『怒髪獄辛』の効果を“裏返す”ことが出来れば、この通りでございます』
タナトスさんマジすげ〜、てかAI凄すぎでしょ、と感心しながら盆の上に載ったもう一つのヘルシー肉饅に手を伸ばすノート。だが、その手を横からガシッと掴む者が。
「待て。これはもともと我の分だ」
「あれ〜?バルバリッチャさん、さっきいらないって言ったよね?」
「『怒髪獄辛』が入っていると看破したからだ。だが美味なら食べる、毒味も済んだなら安全だ」
「仮にも主人に毒味させるってどうなの?タナトスの善意を無下にしたのはそっちなんだから今回は反省して我慢しなさい」
「言うではないか主人よ。だが我は我慢などしない。他人の事情などどうでもいい!自由を求めるものこそ悪魔の本性!さあそこを退くのだ!」
「なーにが悪魔の本性だ!都合がいいだけじゃねえかこの野郎!」
互いの手を掴み合い睨み合うノートとバルバリッチャ。2人はいよいよ掴みあったまま立ち上がり睨み合いを続けるが、ケプっと可愛らしいゲップが聴こえて2人は我に帰る。
「美味しかった、また食べたい」
『ほっほっほっ、そうおっしゃっていただけて何よりです』
嬉しそうに頭を下げるタナトス。
唖然とするノートとバルバリッチャにブイっと決めポーズするヌコォ。タナトスの持ち盆の上にはすでに空で…………
「これぞ漁夫の利。美味しかった。ぶい」
無表情に平坦な声で、だがピースするポーズはやけに様になったヌコォが勝利宣言。腹いせに何故かノートがバルバリッチャにヘッドロックされるが、復帰してくるユリンの分も見越してタナトスが気を利かせていくつも作ったお陰でユリンとバルバリッチャもありつくことができ、バルバリッチャは機嫌を直すのだった。
◆
「だいぶ遠回りになったけど、いよいよヌコォのステータス発表〜」
ユリンが激辛ショックから立ち直りALLFOに帰還。
その流れでヌコォがいよいよ巨木を倒した結果を開示することとなった。
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名前:ヌコォ(ΦωΦ)
種族:マーキュリーペラスゴイ(固定)
ランク:5
性質:極悪(固定)
正職業
❶超盗略奪者(固定):G
❷冒涜者:Ⅰ
❸
副職業
❶曲芸師:G
HP:52/52
MP:82/82
筋力:G
体力:F
敏捷:G
器用:D
物耐:H
魔耐:H
精神:Ⅰ
称号:
・忌むべき者
・盗みの悪子
・罪人
・殺人マニア
・窃盗の罪人
・盗みの天才・原初(窃盗行為成功率75%以上・回数50回:窃盗成功率微上昇)
・超痛辛苦・原初(制限限界の痛みを味わった者の称号:痛みが軽減される)
・蛮勇
・ジャイアントキリング・原初(巨大かつ強力(対比評価)なMOBを単独で討伐:相手のサイズが大きいほどステータス補正大)
・ルナティックビギン・原初(初戦敵性MOBがBOSS級だった者の称号:BOSS級相対時ステータス補正大)
・アローンファイター・原初(単独BOSS級撃破:ソロ状態時ステータス微上昇)
・ドラマチックサプライズ・原初(1戦でランクを3以上あげた者の称号:職業『挑戦者』取得権獲得)
・唯一無二の戦技(ユニークスキル取得:ユニークスキル取得率微上昇)
・称号マニア
※原初:その称号を初めて獲得したプレイヤーが得る追加効果。称号による効果を強化する。
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「………………」
「………………」
「………………称号たくさん」
「「そっち!?」」
ヌコォのステータスを見て目が点になるノート達。ヌコォの呟きに思わずノートとユリンは突っ込んでしまう。
「実はバルちゃんの指輪が消えてた時点で予想はついてた」
「成る程ね…………」
ヌコォが手を見せると、そこにはいつのまにか指輪はなかった。
「今回ヌコォがゲットした称号、取得条件がシビアすぎるだろ。ジャイアントキリングとかルナティックビギンとか、知ってなきゃほぼ取り逃がしちゃうよな」
「だねぇ。かなりラッキーだよね」
そこでユリンはチラッとヌコォを見る。
「ねえ、サラッとユニークスキルとってるけど、何をゲットしたの?」
『唯一無二の戦技』という称号はユリンにとって見覚えのある称号であり、こいつもかよ、とノートが驚きを越して呆れる中、ヌコォは呟く。
「今回ゲットしたユニークスキルは2つ」
「「2つ!?」」
思わず叫んでしまうノートとユリン。だがヌコォの表情は変わらない。
「……1つは〔プレモーショナー〕。発動中、相手の攻撃範囲が薄く光って表示される。効果時間は3分、クールタイム10分。2つ目は〔エナジーイーター〕。HPとMPを同時に20秒間触れてる相手から吸い取る。20秒間ずっと発動し続けていると相手を強制的にダウン状態にできる。クールタイム5分」
「ぶっ壊れてるなぁ。流石ユニークスキル、自重しない。やっぱりユニークスキルは強敵撃破とか難業達成が条件なんかねぇ」
「その可能性は高いかなぁ。しかもどっちも該当しそうなことしてたし。ランク1では無理な攻撃の回避……あれはお得意の先読みでかわしてたと思うけど、それが〔プレモーショナー〕の取得条件。〔エナジーイーター〕はスリップダメージの劇薬を自らに投与することで相手のHPを削りきるというユニークそのものの攻撃方法だよねぇ」
「ノート兄さんからユリンのユニークスキル取得方法の考察を聞いてから自分でも色々と考察していた。結果的にはユリンの考察で暫定的には正解と思われる。システム系統外のアクションで強敵撃破や難業の突破。取得時の条件は似ている」
「出たな検証厨。そんなこと考えながら戦ってたのか?」
「ユニークは厨二心がワクワクぴょんぴょん。切り札は多い方がいい」
どう見ても心がワクワクぴょんぴょんしてるヌコォの表情と声音ではないが、バンザーイとジェスチャーをしているので辛うじて喜んでいるように見えるのだった。