No.Ex 第4章余話/三馬鹿の異常な狂愛、または、私がいかにして会話を諦めて頭を抱えるようになったか❷
今、私は冷静さを欠こうとしています(歯が痛いので腹いせのゲリラ)
ノートがスピリタスとイチャついていた間も身じろぎもせず跪き続ける3馬鹿。
その過剰な忠誠をどうした物かと思いつつノートは再度問う。
「結局、お前たちは何が願いなんだ?」
『(。-`ω-)翻訳中………………(`・ω・´)完了!!』
『翻訳結果:我々が要旨群衆と私のセンターである記憶で、私はサーブします。ホストのやり方を妨げるものを命じている間、私はすべてを破壊します』
「…………本当に?グレゴリくんそれはベストを尽くした結果の翻訳なんだよね?」
『(。・∀・。)ほんとだお』
『(´・ω・`)嘘じゃないお』
相変わらず要領を得ない翻訳結果に頭を掻きむしるノート。
絶対に後輩たちに対する私情を挟んだ翻訳内容のように感じるのだが、その目を見ても感情が微塵も読めない。顔つきもわからない。見れば見るほどただのミニチュア邪神である。しかし中身は某掲示板の民。最近、幻影で数千のプレイヤーを手玉に取ったような存在とは思えない。
なぜこうなってしまったのか。その答えはもはやノートにはわからない。
召喚した当初はもう少しミステリアスで曲者感を漂わせていたはずだったのだが、今は別の意味で曲者になってしまっている。
ノートは頭を捻り、なんとかグレゴリの翻訳怪文書を理解しようと頭を捻る。
結局色々考えを巡らせても前半の内容はわからない。だが、後半の部分はなんとなく理解できなくもない。
「つまり、俺の命令があれば、なんでも破壊すると」
『(´・ω・`)はーい、だって』
「いや絶対そんなノリ軽くないって。てか、お前らナチュラルに俺の指示を拡大解釈するからなぁ、それがネックすぎるんだよ」
そもそも戦闘型死霊とまともな意思疎通を図ろうとする自分がアホなのか。
それとも重用しすぎのグレゴリに遠慮し最近甘やかしすぎなのか。
いや、過剰な尊敬を嫌ったのは自分自身だ。グレゴリの在り方を頭越しに非難もできない。
逆にノートに重大な欠点を指摘された3馬鹿はがっくりと肩を落とし、オヨヨっと肩を寄せ合って嘆く真似をする。戦闘用の死霊とは思えないほど芸達者だ。
にっちもさっちもいかず頭を抱えて掻きむしると、ササっとお盆に乗せられたレッドアイ(トマトジュース割ビール)擬きが差し出された。差し出したのは黒っぽい大正ロマン風のメイド服を着た鴉娘、けものっこサーバンツのリーダー役のヒィレイ。幼女が酒を差し出す絵面はどうにかならない物かと思いつつ、同時に気を少しでも紛らわして下さいというヒィレイの心遣いという事も理解はできる。理解できるのだが――――――――。
「そういうとこ。そういうとこだよ。お前らそつがなさ過ぎて怖い。何考えてるか全然わからん。せめて年相応の格好にして?幼女じゃなくてよくない?普通に大人形態でいいじゃん。それザガンの趣味なの?」
『|∀・) 浮気?』
「ちがわい!!おっかないこと言うんじゃない!!いいかいグレゴリくん、その言葉は2度と使うなよ。特にユリンたちの前では無し。いいな?これ最上位命令だから」
『( `Д´)ゞイエッサー!』
「わかればよろしい」
3馬鹿とは違いあまりに優秀すぎるけものっこサーバンツ。しかし優秀すぎるというのも逆に不安になる物で、ノートは礼をそこそこにレッドアイを一息で飲み干してグラスをヒィレイに返す。するとヒィレイは主人の横暴な不満に対し何をいうまでもなく、ノートが恐ろしいことを言いだしたグレゴリにツッコんでる間にペコリと頭を下げてそそくさと引き下がった。
もしかして俺、身内に爆弾抱えすぎ?
そんな考えがノートの脳裏によぎるが、半分以上、厳密には8割がたノートに責任があるので逃げるわけにもいかない。
「しかし、どうしたもんかなぁ。結局お前たちを生み出したのは俺自身なんだよな…………」
おいおいとわざとらしい泣きまねをしているのをみるとげんなりしそうになるが、そもそも彼らに知恵を与えたのはノート自身だ。ある意味彼らにとっては親みたいなもの。その存在から生まれたことを否定されては酷だろう。家族を重んじ、そして親との関係に苦しんだ多くの人達と関わってきたノートだからこそこれではいけないと思い直す。
それはそれとして、ノートが3馬鹿の実態をつかみかねているのも事実ではあった。
そもそも戦闘用の死霊はその思考が戦闘極振りになっている。スピリタスとの話でもあがったが、思考能力が幼稚園児に近いのだ。目の前で泣きまねするよな芸達者な真似はしないし、命令の拡大解釈もしない。
拡大解釈は困るが、逆を返せばそれは彼らの思考能力の高さも表している。
現にメギドはノート達の指示に対して愚直に従う。自分で何かを考えてそれ以上の成果を求めない。ある意味究極の指示待ちラジコンなのだ。それが戦闘用死霊の普通。プレイヤーを敢えて殺さずに憑りついて結界を強引に超えて結界内部に強引に潜入したり、結界の僅かな歪みが起きる瞬間をピンポイントでついて攻撃し結界を破壊するなど正直ノートですら思い浮かばない手だった。戦闘を監視していたグレゴリから聞いて初めて彼らが何をしでかしたのか正確に理解できたほどなのだ。
そもそも、彼らのやり方はあのキャンプ地に張られていた結界の特性を理解していないとできない類の物のはず。しかしそれを誰が教えたというのか。破壊衝動に振り回される戦闘用の死霊にこのような作戦を立てることが可能なのか。
自分の死霊のはずなのに不明な点が多すぎるというのもノートが3馬鹿を受け入れるうえで大きな障害となっていた。
彼らは普通の死霊と違うのはわかっている。そもそも彼らは元々簡易召喚の死霊でしかない。
それがオリジナルスキルによって“自律権”という謎の権限を与えられて勝手に本召喚の死霊へ繰り上がり、知能を獲得した。この一連のプロセスはフレーバーテキスト的にはどう処理されているかちっとも見えてこない。
となれば普通の死霊と在り方が違うのも当然ではあった。
つまり、寛容になるべきなのはやはりノートの方。彼らを責めても仕方がない。無能な働き者ならまだノートもバッサリ切り捨てられたのだが、使い道があるだけに彼らの行為を完全に無下にもできない。
まず吸血鬼。コイツはオールラウンダーとして使える。分身を作り出し偵察もできるし、単体性能も高い。というか思考が強化されたことで欠点がなくなった。持て余し気味だったはずの強大な力を最大限活用できるのだ。その活用方法が派手すぎる問題はあったが強力なのは事実だった。しかも回復しなくてもドレイン攻撃各種が充実してるので簡単に落ちない。これも魅力的な能力だった。
次に白蝙蝠。吸血鬼からすると単体性能は落ちるが、分身個体含めて滅ぼさない限り完全に殺しきれない害悪すぎる性能のお陰で3馬鹿の中のみならず『祭り拍子』の中でもずば抜けた生存能力を誇る。また格下相手には滅法強く、露払い要因としては完璧な存在だった。
そして般若修羅。完全な近接特化で、メギドが剛なら般若阿修羅は流。巨躯に見合わない圧倒的なスピードと攻撃力で全てを殺し尽くす。3馬鹿の中では最も脆く、守護戦士などの能力を持つメギドと比べても耐久が低いという弱点こそあったが、オリジナルの般若面蟷螂人同様『当たらなければよかろうなのだ』と言わんばかりの回避性能がある。
よって搦手を使ってこないタイプの敵には滅法強く、メギドよりも柔軟性がある。
やはりカタログスペック自体は何度確認しても悪くない。
むしろ自分の身内って今までもそんな奴ばっかりだったなとノートは思いふとほほ笑む。
強くても癖がありすぎて“普通”に馴染めない者たちをかき集め、数々の難行を乗り越えてきた。爪弾き者には爪弾き者なりのやり方があるのだと見せつけてきた。
やることは依然変わりない。力の使い方のわからない者に手を差し伸べることこそ自分の役割だろう。活躍できる場を見出すのが自分の役割だろう。
はじめてを前に足踏みしてる場合じゃない。
人類最高峰のAI様が生み出した奴らがなんだ。むしろ試してやるつもりで使ってやる。使いつぶしてやる。
結局は自分の気の持ちようなのだ。
「わかった。お前たちの忠誠を受け入れよう。やり方は互いに模索していこう。だから、お前たちはそのままベストを尽くせ。いいな?」
『御意』
ノートの命令を受け、ピタリと泣きまねをやめた3馬鹿はすぐさま深々とノートに頭を下げ、グレゴリが彼らの思いを伝える。
「…………グレゴリくん、やはり普通に翻訳できるのではないかい?」
『(*゜∇゜)できないお』
見つめ合うこと暫し、目を、というか本体が目玉のグレゴリは、体ごと幽かに横にズラす。
『(-.-;)だってコイツらといるとゾワゾワするんだもん』
「ゾワゾワ?意識を接続する上で何か問題があるのか?」
最近おふざけの多いグレゴリだが、言語センスのレベルは大体小学生程度。リソース配分の問題なのかタナトス達ほど流暢なコミュニケーションはできない。
ツッキーの性能テストとして叡智付与の能力を施されたとはいえ、むしろ召喚当初のほぼ片言状態からよくここまで成長したモノだと本来は誉めるべきなのだ。
なので、グレゴリがフワッとした言い方をしてる時は注意する必要がある。
それはグレゴリの性能を実験していたノートとヌコォの共通見解だった。
特におふざけ抜きでネガティブな事を言った時は何かに悩んでる可能性が高いのだ。しかしそれをグレゴリはうまく言語化できない。故にノートがうまく聞き出し言語化する必要がある。いまこそお前の出番なのに京!と思っても、テレギレしたスピリタスは今日は戻ってこないことが予想された。
「ゾワゾワを言い換えられるか?なんでもいい」
『(´・ω・`)うーん』
『(˚ଳ˚ )おえーってなる』
「それは単純に奴らの思考回路がよくわからんって意味か?」
『 ( ‾᷄꒫‾᷅ ) それもある』
それ“も”ある、という事は、単純でない理由も存在するという事。冷静に考えて、他人の意識にダイレクトに接続するとどんなリスクがあるのか。ノートはそれを考えたことがなかったと反省する。
恐らく戦闘型の思考は理路整然としてるわけでは無いのだろう。言わばぐちゃぐちゃに荒らされたゴミ屋敷だ。そこに押し入って重要なものだけを取り出すとなればグレゴリ側にも当然普通以上の負荷が掛かることは予測できる。
——————あの塵玉、乱用しねぇ方がいいでごぜぇますよ
ノートは依然、ツッキーにもう少しうまくグレゴリと上手くやれないかと言ったことがある。その時ツッキーはベラベラと如何に自分のほうが使えるか捲し立てながらも最後にこう呟いていた。
その時はただの牽制かと思ったが、もしそれにシンプルな警告の意味合いがあったとしたら。
ノート以上に世界を知り観測できるというツッキーがそう忠告したならば、もしかすると最近のおふざけが多すぎるグレゴリの状態もなんらかの危険信号なのではないか。
使い勝手が良すぎるが故の乱用。
そしてALLFOには“単純に便利な物などない”という性質をノートは思い出す。
使い勝手が良すぎるという事は、裏でなんらかのリスクを抱えてるという可能性も非常に大きいという事なのだ。
「わかった。グレゴリは無理しなくていい。奴らとのコミュニケーションは俺自身でなんとか取れないか努力してみる」
『(´・ω・`)マジ?』
『( ˘ • ω • ˘ )脳がどカーンするよ?』
「お前のご主人様だ。任せとけ。もう周りの人間関係について考えるだけでドカーンしそうなんだ」
全く頼りにならないことを言いながら、ぽんぽんとグレゴリの頭部(と思われる部分)を撫でるノート。
斯くして、ノートはグレゴリが完全に暴走する直前でなんとか危機回避に成功する。
因みに、グレゴリのおふざけが酷くなったのは後にツッキーとけものっこサーバンツ側に大きな要因があると判明し、心配して損したとノートはガックリと肩を落とすことになるのだった。
( ^ω^ )他人の意思を読み取れる能力がなんの危険性も孕んでないわけがないのだよ(SAN値ゴリゴリ/急速に濁るソウルジェム/イアイア発狂)
※人間には体感しづらい感覚だと思うので、自分と相性の悪い存在に意識の接続を行った時に発生するダメージとできるだけ近しい精神をダメージを与えるとなると
❶ライブ会場の大熱狂と、戦争映画の戦闘シーンの音と遊園地の人ごみの騒音と黒板をひっかく音と高架橋の下の音を全部ミックスした音を音割れさせたうえで耳がぶっ壊れるほどの大音量にしてそれをヘッドホンで聞きながら
❷VRゴーグルでフラッシュ点滅しまくり色味も滅茶苦茶に変わる世界の中でげろ吐くほど二転三転するジェットコースターに乗ってるときの映像を強制的に見せられた状態で
❸シュールストレミング(世界一臭い缶詰)を至近距離で嗅がされながら
➍回転する椅子に固定され360度ぐるんぐるん回されてる(タイムショックのアレを更にヤバくした感じ)状態です。
くらいやられると思ってください。
この状態でリスニングテストをして、貴方は何点取る自信がありますか?(むしろグレゴリが人間の形態でなかったり精神構造が幼めだから耐えられてるという事実。ノートでなくとも人間がやったら頭ドカンします




