No.Ex 第4章補完話/アグちゃんのパチコレ☆ファッションショー
「うーん、流石に疲れたなー…………」
「アイテムみるの、もうやだぁ~」
「今まで後回しにしてたツケが回ってきたんでしょうけれど、流石に多いわね」
「一回休憩しようぜノート、もう全員集中力ないぞ」
「え、ボクもう少しイケるけど」
「私も、大丈夫です」
「自分の分はもう少しで終わる」
黒騎士突破翌日、ノート達はせっかくフルメンバーが揃っているのにも関わらずミニホームのリビングでアイテム選別という地味な作業をずっとしていた。
各々色々な事情があるので、オンラインゲームでは人数が増えるほどメンバー全員が揃っている機会は少なくなってくる。
今回全員そろっているのは、もともと黒騎士戦の為の予備日として全員が予定を開けていたからだ。となれば作戦も成功したことだし探索に繰り出したいところなのだが、キサラギ馬車の【占星】による前衛組のダメージが非常に大きすぎて正直探索どころではなかった。
厳密には、深霊禁山程度であれば前衛組抜きでも探索出来ないことではない。ただ、深霊禁山の探索は既にかなり進んでいるし、本腰入れてやるにしても前衛抜きでは効率が悪い。結局動けるメンツだけでの探索は取りやめられ全員が溜まりに溜まっていたアイテムの選別作業をすることとなったが、まるで事務仕事でもしているようで集中力が切れた社会人組はソファーにダレる。一方、社会人組とは対照的に学生組はまだまだ元気だった。
「なんか気晴らしに別の事でもするかー」
「それが思いつかなかったからそもそもアイテム選別はじめたんじゃねぇのか?」
「なければ作ればいいのだ。人間の本質は創造性にある」
「いいこと言ってる風だけど、ノート兄がさぼりたいだけだよねぇ?」
「ユリン、時として真実は容易く口にしてはいけないのだよ」
社会人組が完全にソファに寄りかかり、疲れきった雰囲気を醸し出す。学生組はそれでも手を動かしてはいたものの、リーダーのノートが完全に休憩モードに入ったのを見て手を止めた。
「ふーんふふーんふふふーん」
駄弁りモードに移行したリビング。うだうだいいながらも結局特にやることも見つからず、なんとなくのんびりと皆で取り留めもなく雑談しつつ、誰が作っておいたのか分からないジェンガを皆で真剣にやっていると、上機嫌な鼻歌と共にリビングの開く音。
「お、アグちゃん」
リビングに入ってきたのは驚くほどデカ盛りのパフェを器用に持ってやってきたアグラット。よくスイーツをリビングで食べている姿が目撃されているアグラットだが、本人曰く広い場所でリラックスした状態で食べるのが好きらしく、結果的に高頻度でアグラットはノート達に目撃されている。
そんなアグラットの衣装は召喚当初の際どいビキニアーマーではなく、水色を基調としたロリータ系の制服っぽい衣装。下手するとイタい印象を与える服を完全に着こなしており、可愛らしさがアップしていた。
因みにアグラットはトン2&鎌鼬加入後くらいから普通の服を着るようになった。最初こそビキニアーマーのアグラットの格好はノート達もいかがなものかと思っていたのだが、他に色々とやることがあって後回しにしてる間になんとなく全員慣れてしまったのだ。
しかし反船時に普通に黒ローブを装備できる事が判明し、加入した鎌鼬がアグラットを見て開口一番、なぜ幼い子をこんな格好のまま放置しているのかと指摘されて急遽服を着せる事になった。
アグラットも特にビキニアーマーに思い入れがあるわけでも無かったらしく、ノート達が衣装を用意すれば普通に着た。今はトン2がデザイン案を次々とあげており、アグラットの服のレパートリーもかなり増えている。というより、トン2以外に全部の服を把握してる人物がいなかった。
「そういえば、共通衣装決めようぜ、って話にならなかったっけ?」
「たしか、反船の前だったよねぇ。あの時は間に合わなくて全員黒ローブで誤魔化したけどさぁ」
「そんな事も、ありましたね…………」
「プレイヤー達との立場の違いを表したり、模倣犯を減らすという目的でも共通衣装の作成は真剣に考えるべきだと思う」
「じゃあ今やればいいじゃねぇか?タイミング的にもちょうどいいだろっ」
「いい案ではあるけれど、今から一々デザイン案を出してから決定となると時間かかるわよ?」
「あ〜それなら大丈夫かなぁ〜、アグちゃんの衣装に戦闘にも使えそうな奴いっぱいあるしさぁ〜」
スピリタスの提案に対し冷静な指摘をする鎌鼬。しかし心配ないとトン2は言い、全員の視線が大口を開けてタップリの生クリームとフルーツを一度に口に運ぼうとしているアグラットに向いた。
「はぇ?」
いきなり注目されたアグラットは口を開けたまま目をパチクリする。
「よし、アグちゃんモデルのパチ(モン)コレ(クション)ファッションショーをやってみよう!」
斯くして、かなり軽いノリで『祭り拍子』の共通衣装を決める自主イベントが始まった。
◆
やるからには全力で。
そのモットーのもと、タナトスなど他の死霊まで巻き込んで急遽立ち上げられたパチコレ開催の為の準備が進められる。
大工技能持ちのアテナをリーダーに据えてゴヴニュを始めとした力仕事の出来る面々でわざわざモデルが歩く為のランウェイ、或いはキャットウォークを中庭にでっち上げる。
なおトン2だけは急に巻き込まれたアグラットと衣装選びを優先。スイーツタイムを妨害されたもののパチコレ自体には非常に好意的でアグラットはノリノリで承諾してくれた。
そしてノートは同時に旗のデザインも決めてしまおうという事でユリンとヌコォと適当にネットから画像を拾って良さそうな案を幾つか絞り、それを参考に画家技能持ちのグレゴリにオリジナルのデザインを描いてもらい、同時にバルバリッチャに決定後の衣装と旗の作製とパチコレ参加のお伺いをたてる。
バルバリッチャは自分からはあまり来ないくせにイベントで蚊帳の外に置くと確実に拗ねるのでこういう配慮は非常に大切なのだ。
因みに、今アグラットが着ているトン2原案の衣装は全てアテナが作っている。衣装関係の技能こそないが、アテナは糸関係に強く、特に器用値が並はずれていた。不眠不休で働ける死霊はスキルや魔法などの成長は緩やかなれど知識の蓄積は圧倒的な量を誇る。
トン2に少し教えられれば型無しで縫い上げるという、トン2も舌を巻くような技術を身に付けた。
と言ってもこれはあくまでプレイヤーで言うところのリアルプレイヤースキルが上達したような物。ゲーム的に何かスキルが生えたりしなかった。
つまり、アテナは衣装は縫えてもそれは単なるハリボテ。ゲーム的な能力の付与には必ず指定の技能が必要になる。
その技能を持っているのがバルバリッチャ。結局衣装が決まっても最終的にはバルバリッチャが作らないと戦闘には利用できないただのオシャレ着になってしまう。故にバルバリッチャの機嫌を損ねることは絶対にできなかった。
そんな余計な寄り道などを経て、イベント用意から2時間かけて漸くパチコレの準備が整った。
◆
「えー大変長らくお待たせいたしました。これから第一回パチモン・コレクションin『祭り拍子』を開催します。司会は主催者兼補佐のノートと」「副司会兼解説役のトン2でーす。はい拍手ーー!」
わざわざミニホームの中庭の空を夜に設定し、魔法で作った照明器具でランウェイをライトアップ。結構本格的に出来上がったランウェイ横のステージにてトン2がパチコレの開催を宣言し、パチパチと拍手がなる。
因みに『観客が足りない』という理由でアグラットが無駄に高度な技術を使って人型の悪魔を複製しており、その悪魔達がランウェイ沿いで中央を眺めていた。因みに戦闘能力はなく、ただの賑やかし要員として産み出されており、周囲に合わせて律儀に拍手をしている。
「はーい悪魔君たちも拍手ありがと〜」
「では時間も押してるしどんどんやるぞ。じゃあ進行頼んだ」
「オッケー。それではエントリーNo.1、近未来感レザージャケット風バトルクロス!」
「高級感はバッチリだぞ」
トン2の紹介を合図にランウェイの奥の幕から衣装チェンジしたアグラットが出てくる。今回はノート達が着る物を決めるという事もあり、アグラットは魔法でちょっと大きめのサイズに変身してくれた。
いつもは130cm程度のちんまいガールだが、今は170cmオーバーと完璧なモデル体型に。それに合わせて衣装のサイズが合わない問題が懸念されたが、原型さえ認識してれば魔法ででっち上げられるとのことでアグラットは魔法で編んだ服を着て登場する。
女子高生レベルまで成長したアグラットはタートルネックの様に首までガッチリ隠すタイプのレザーフードジャケットっぽい服を着ており、その下は特殊戦闘員のようなタイトな感じで機能を優先した服装に身を包んでいた。
「割とバシッと決まってるが、ファンタジーっぽくねぇな」
「ちょっと別ジャンル感のある装備ではあるよねぇ」
「個人的にはあの手の衣装の方がFPSだと着慣れてる」
「カッコいい、感じですね」
審査員、というより新衣装の投票権を持つ『祭り拍子』の面々は思い思いのコメントをする。因みに、投票権は巻き込まれたアテナ達などのノートの全死霊とバルバリッチャ、アグラットにも与えられており、全員が真剣に衣装を見ていた。
「No.2〜制服系バトルスーツ!」
「学園モノとかで見かけそうな衣装だな」
「そだね〜、それをガッツリモチーフにしてるよ〜」
JK味溢れる状態の今のアグラットには、制服っぽい衣装はバッチリにあっており、黒と白を基調とした制服モデルの戦闘衣装をしっかり着こなしていた。
「かなりかわいい感じ」
「そうです、ね。さっきより、可愛い感じです。…………ちょっと気後れ、しそうです、けど」
「私、制服って年齢でもないのよね」
「うーん……鎌鼬に同意だ」
「あー……たしかにぃ。スピリタスも鎌鼬ももういい歳だも、ってなんだよ!離せよスピリタス!鎌鼬も銃を無言で向けるな!オレごと撃っていい鎌鼬!、じゃないんだよ!今自分達で年齢のこと言ったじゃんかぁ!」
余計な事を言ったユリンがスピリタスに羽交締めにされオデコに頭の通気性を非常に良くしてくれるどころか吹き飛ばす事に定評がある化け物拳銃を鎌鼬に突きつけられるが、司会達は全く気にすることなく続ける。
「No.3!邪教徒スタ〜イル!」
「前回の黒ローブを豪華にした感じだな」
続いての衣装は全体的に身体を覆う要素の多いローブタイプの衣装。露出が少なく怪しげな見た目をしているが若干細やかな動きに難有りと言ったところか。
「個人的には、1番好き、です」
「フードもう少し小さくていいかなぁ」
「丈も引き摺らない方が良いわよね」
「機動性をもう少し上げたい」
「同感だ。動きにくそうだなアレ。後衛はいいかもしれねぇけどよ」
全員デザイン自体は否定的でないが機能面に関しては気になった点を指摘する。実際、近接が着る時は少しダボっとしており、僅かな差で勝負が決する可能性のある前衛が動きやすさを重視するのは当然だった。
「No.4〜ファンタジー仕様スーツタイプー!」
「マフィアっぽさがありつつもファンタジー感を損なわないバランスのいい衣装になっているぞ」
ツカツカと肩で風を切って歩くアグラット。今までは可愛らしさの比重がやや多めだったが、今回はエレガントさ全振りなのでかなりサマになっている。
「こっちの方が動きやすそうだな」
「上背のあるスピリタスさんとかはとても似合いそうね」
「そうですね、スピリタスさんは、すごい似合いそうです」
「機能性も悪くなさそう」
「ねぇ、ボクいつまでスピリタスに捕まえられてなきゃダメなの?」
一名自分の状態に関しての不満を述べていたが概ね好評。アグラットも興が乗ったのか何処からか取り出した漆黒の刀を使った軽い演舞をランウェイで披露し拍手が鳴り響く。
「モデルさーん、一応公平な審査なので過剰なアピールは控えてくださーい」
「アグちゃん刀使うの上手だね〜!あとで戦わな〜い?」
「副司会も進行やってくださーい」
「「はーい」」
割とグダグダな進行になってきたが皆の反応は上々。アグラットは小走りでランウェイ奥の幕の内に戻る。
その間に取り敢えず解放されたユリンもまた席に着いた。
「おっほん、では仕切り直してエントリーNo.5、ファンタジー仕様軍服スーツ!」
「スーツよりももう少しファンタジー適性は高めだな」
黒を基調とした軍服で、一見特殊部隊員のような格好にも見える衣装。動きやすさに重点が置かれており、ランウェイを歩くアグラットの動きにもキレがある。
「個人的には一番好き」
「射撃系のゲームだと、こういう衣装もあるわよね」
「私は、スーツと比べたら、まだこちらの方が…………」
「カッコいいね、これ。でもファンタジー感は薄めかな?」
「まあ、動きやすそうならオレはいいけどな。ポケット多くて色々仕込めそうだしよ」
ファッションという観点で見ると得点は高いが、衣装がかなり近代的で、FPS好き勢はかなり好評だが『祭り拍子』でも少し意見が分かれた。
「No.6、ブラックメイジスタイル~!!」
「俺のバルちゃんのギフトのコートに合わせたデザインだな」
かなりスタンダードなThe敵役といった感じの衣装で、見た目はノートの【カースドアンドカースブラッド/ギフト・バルバリッチャ】の色違い。ブレスレットなどのアクセサリーでアクセントを入れており、衣装を引き立てている。
アグラットはこの衣装が一番気に入っているようで、足取りが非常に軽く、現在お揃い状態のノートにパチンと綺麗なウィンクをしてアピール。女性陣からブーイングが飛ぶがアグラットはノリノリでバク転などアクロバットな動きも披露し、悪魔たちが拍手喝采する。
「アレ、ボク好きなんだよなぁ。バルちゃん良いセンスしてる」
「ユリンはノート兄さんとお揃いの衣装を着たいだけ」
「うるさいなぁ」
「……………………」
「ネオンちゃん?気持ちはわかるけれど、デザインで選ぶのよ?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「ノートの衣装の色違いはズルくねぇか?」
「アグちゃん再度注意でーす。モデルは勝手にアピール増やさないでくださーい」
ノートの色違い衣装という事で一気に票が流れそうな気配がしたが、ノートは改めてデザインなどでちゃんと選ぶように忠告したうえで次の衣装に移る。
「No.7~ラストのエントリーでーす。最後は、ファンタジー仕様軍服Ver2!」
「俺的にはこれが一番好きだな」
ラストバッターはかなりファンタジー色を強めにした軍服。近代的よりは某帝国的と言った方がいい感じのファッション要素も強い軍服だ。毛皮をあしらったフード付きのマントや、アクセサリーのアクセントも多く、今までの良い所をかなり詰め込んだような衣装となっていた。
「あー………」
「機能性を追求したらもう少しいい感じになりそう」
「ファー付きっていいよな~オレの服も冬服はファー付き多いし」
「カッコいい、感じですね」
「アニメでもこういう衣装は多いわよね。拳銃も使う予定だし、私はこっちの方が似合いそうだわ」
これで戦闘用共通衣装の選考分は全て終了。色々と指摘の多かった衣装もあったが、これはあくまで原案。決定というわけではなく、これを原型に全員で意見を出し合い最終版を決定するのだ。
投票権があるのはノート達を始めとした『祭り拍子』のメンバー7人。加えてノートの死霊達でも参加表明したタナトス、アテナ、ゴヴニュ、ネモ、グレゴリの5人。特別枠として、モデルを担当してくれたアグラットは2票分、実際に衣装を仕上げるバルバリッチャには3票分が与えられている。
続けて、ボロボロの旗の新デザイン案。『祭り拍子』のシンボルを決める投票でもあるがノートは淡々と進める。
というより、時間が押しているので、まるで相撲の懸賞旗見せタイムのように死霊達が旗の原案をそれぞれ掲げてランウェイを歩き、一気に5つのデザイン案を見せる。
「ぶっちゃけ旗に関しては機能性とか関係なく、完全にフィーリングで頼む。どれになっても恨みっこ無しだぞ!」
こうして、17票中、9票分を獲得し衣装は『ファンタジー仕様軍服仕様Ver2』に(なおノートの色違い衣装の『ブラックメイジ』と一回目の投票で6票で同一1位、2回目の決選投票で1票差という僅差で決定した)。旗のデザイン案はかなり割れて3回目の決選投票で髑髏の武器天使というかなり厨二デザインに決定し、ギガ・スタンピードにて痛烈なお披露目をすることとなる。
なお、厨二デザインにされたツッキーはノートに対して延々と愚痴を吐き続けたとかいないとか、デザイン原案を仕上げたグレゴリと更に仲が悪くなったとか、真相はノートのみぞ知る。
因みにバルバリッチャは軍服投票でした(ノート以外に自分がデザインした服を着て欲しくなかった。そして空気読みを強いられる以下死霊達)




